固定資産の中でも償却資産に対しては、減価償却が適用される。減価償却の算出には「定率法」や「定額法」が用いられるが、償却率が一定の定額法に比べて、定率法を複雑だと感じる経営者もいるだろう。今回は、定率法の計算方法や定率法に関わる用語、減価償却の特例について解説する。
目次
減価償却の目的
減価償却費とは、英語の「Depreciation:価格の下落」を翻訳した用語であり、固定資産の価値の下落を反映させていくというのが本来の意味である。
基本は価値が下がるのが固定資産
固定資産は、土地や美術品などの償却しない資産を除けば、使用や時の経過によってその価値が下がっていく。しかも、その資産が使用できる期間に渡って徐々に減少していき、資産を使用することによって企業は収益をあげていく。
もしも、資産を購入した年に費用を計上してしまえば、投資を盛んに行った年は赤字に、投資を控えた年は黒字になり、損益が実態を反映しなくなってしまう。そういった事態を調整するための会計上の仮定が、減価償却である。
減価償却がもたらす効果
固定資産の使用や期間の経過に応じて、その費用を使用期間に渡って配分していくのが減価償却である。減価償却の期間や償却方法は、本来はその資産の使用状況や見積った使用期間によって決定すべきであるが、立証が極めて難しいため、税務上の耐用年数表に従って行われることが多い。
計上期には支出がなくなる
また、減価償却費は、既に支出されたものを費用として計上しているだけなので、計上された期には支出がない。そのため、キャッシュフロー上はプラスではあるものの、期間利益や課税所得を構成しない部分の代表例として、減価償却費相当額が挙げられることがある。
減価償却計算に必要な耐用年数と取得価額
減価償却計算には、「何を、いくらで」償却するかといった計算基礎が必要である。
税務上の指針に従う場合がほとんど
固定資産の取得価額には、その固定資産が稼働するまでに要した投下資本が計上され、耐用年数はその資産を使用する年数に渡って行うことになるが、税務においては通達等により詳細に形式的に決められているため、税務上の指針に従って計上する場合が多い。
もちろん、実態と大きく乖離する場合は、税務上は実態に合わせて別表調整を行う必要がある。
減価償却費の計算方法:定額法と定率法
減価償却費の算出にはさまざまな方法があるが、代表的なものは「定額法」と「定率法」である。減価償却は、支出したものを配分しているだけなので、最終的な費用計上額は同じになるが、それぞれ特徴やメリット・デメリットがあるため注意されたい。
定額法による償却費の算出
定額法は、償却期間に渡って毎年同じ金額の減価償却費を計上していく方法である。具体的には、「取得価額÷耐用年数」で計算される。例えば、100万円の5年償却の機械を購入した場合には、毎年の償却額は「100万円÷4=25万円」である。定額法は、このように非常にシンプルに計算を行う。
定額法のメリットは、以下のようなものがある。
・計算が単純なため初心者でも簡単に減価償却費を計算できる
・毎年同じ償却額が計上されるため、利益計画を立てやすい
・定率法に比べて資産の取得当初の償却額が小さいので、初期利益が高く計上される
逆に、定額法のデメリットは、以下のようなものがある。
・実際の資産の価値の減少に比べて帳簿価額の切り下げが遅いため、帳簿価額が時価に比べて過大になりやすい
・資産取得当初に利益が大きく計上されるため、節税効果が薄い
定率法による償却費の算出
一方、定率法は、毎年期首の帳簿価格に対して一定割合ずつ減価償却を行う方法である。
毎年の減価償却費は、原則として「期首帳簿価額×償却率」によって計算される。なお、償却率による償却を毎年計上していると、償却期間が経過しても帳簿価額が備忘価額にならないため、特例的な計算が容易されている。
例えば、100万円で4年償却の車両を購入した場合の定率法による償却費計算はどうなるだろうか。
軽自動車は償却率が0.5であるため、1年目は「100万円×0.5=50万円」を償却する。2年目期首の帳簿価額は50万円であり、「50万円×0.5=25万円」を償却する。3年目期首の帳簿価額は25万円であり、「25万円×0.5=12万5,000円」を償却する。
4年目は償却最終年度であるため、保証率による特例計算を行い、備忘価額1円まで12万4,999円の償却をすることになる。
定率法のメリットとデメリット
減価償却は基本的に機械的に行われるものであるが、定率法や定額法といった会計方針の採用には注意が必要である。ここでは、定率法のメリットやデメリットについて説明する。
定率法のメリット
定率法のメリットとしては、以下のようなことが挙げられる。
・定額法に比べて実際の資産の売却価値の下落に近似していることが多いため、資産の額が過大になりにくい
・資産の取得後すぐに多額の費用が計上されるため、大きな節税効果が見込める
定率法のデメリット
逆に、定率法のデメリットは以下である。
・計算が複雑なため手計算では誤りが生じやすく、固定資産管理システムや経理システムが必要である
・償却額が毎年異なるため、償却費の変動を利益計画に織り込む必要がある
・定額法に比べて、多額の経費が取得当初一時に計上されるため、企業の経営実態が悪くないにもかかわらず、赤字決算になってしまうことがある
定率法の「改定償却率」「償却保証額」とは何なのか?
定率法は、期首の帳簿価額に償却率を変えるため、その計算だけではいつまでたっても償却が終わらない。そこで、税法上、ある程度償却が進んだ段階で、定額法と同じように均等に償却していくような処理をする。この計算の過程で、「改定償却率」や「償却保証額」といった聞きなれない言葉が出てくる。
償却補償額とは
償却保証額とは、毎年定率法で計算される減価償却費について、同じように計算していては限りなくゼロに近づいていくことから、最低限確保すべき償却額として定められたものである。償却保証額を定めることによって、定率法の償却率をひたすら掛けるよりも、償却年数を短くすることができる。
この償却保証額は、取得原価に対して保証率を掛けて計算する。保証率は耐用年数ごとに定められているが、償却保証額を定めたからといって、その額が償却額になるわけではない。そこで次に出てくるのが、改定償却率である。
改訂償却率とは
改定償却率とは、定率法で計算した減価償却費について、償却保証額を下回った場合に適用される償却率のことである。この計算をせずに償却保証額で償却してしまうと、償却開始年度の事業供与月によって、償却計算がおかしくなってしまう。
定率法で計算した償却額が、償却保証額を下回った場合の償却額は、償却保証額を下回った年度の期首の帳簿価額に改定償却率を掛け合わせて計算される。この計算によって、償却保証額を下回った年度以降の償却額が固定されて一定となるため、定額法的な償却計算がなされることになる。
減価償却の特例について
減価償却の算出の原則についてみてきたが、減価償却にはさまざまな特例が存在する。今回は、そのような特例の中でも重要な「増加償却」と「特別償却」を紹介する。
増加償却とは
増加償却は、固定資産はその企業によって利用度が異なることを想定して定められた制度である。
同じ機械を購入したとしても、1日8時間使用する企業もあれば、24時間酷使する企業もあり、機械の使用可能期間が同じでないことは容易に想像できる。増加償却は、機械などの利用頻度の高い固定資産について、通常の固定資産の償却計算で算出された償却額よりも減価償却費を増やし、償却期間を短くする制度である。
・増加償却の具体的な計算例
増加償却は、通常の償却費に「増加償却率」を掛けることによって計算する。
増加償却割合は、1日あたりの超過使用時間に100分の3.5を掛けることによって計算され、1日あたりの超過使用時間は、その機械が実際に稼働した時間から平均稼働時間を控除して計算される。
平均稼働時間は、「耐用年数の適用等に関する取扱通達の付表5」に明記されており、ほとんどの機械は1日8時間となっており、算定は週休2日制を前提として行われ、休日も稼働しているならば、その時間は全て超過使用時間に加算することになる。この増加償却割合が10%以上であれば、増加償却が適用可能である。
増加償却は、その資産の稼働時間を把握する必要があるため少し面倒であるが、以下のようなメリットもある。
・税務署の承認等は一切不要で届出書の提出だけで足りる
・圧縮記帳や特別償却など、他の優遇措置とも併用が可能である
・他の節税策と異なり、決算後でも間に合う場合がある
該当する可能性がある場合は、是非検討してみることをお勧めする。
特別償却とは
増加償却以外に、特別償却という制度もある。特別償却は、増加償却のような複雑な制度ではない。定められた要件に該当した場合には、取得価額に対して一定割合の償却が認められることになる。
・税額控除との使い分けがポイント
特別償却には、「税額控除」という特例が選択的に適用できる場合がある。
特別償却は、課税の繰り延べと言われることがあり、投資をした事業年度に多額の償却費の計上を認めることにより、企業にとっては大きな節税となり、資金繰りにも大きなプラスとなる。
しかし、特別償却は、その後の償却費が減少し、その資産を使い終わるまでの償却費の総計上額は変わらないため、トータルの納税額は変わらない。一方、税額控除は、特別償却よりも投資した年度における節税効果は限定的なものになるが、それ以降の年度における償却費の金額は減少しないため、トータルでも節税効果を見込むことができる。
資金が潤沢にあり、短期的に資金繰りを気にする必要のない企業では、税額控除の適用が推奨される。ただし、税額控除は欠損事業年度では適用できないこともあるため、その場合は特別償却のみが推奨される。
文・内山瑛(公認会計士)