住民票とは、住民基本台帳法第六条の「市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。」という定めに基づき作成される書類のことである。住民基本台帳に記録された住民には、住民票の写しを請求する権利が与えられていて、その写しを一般的には「住民票」と呼んでいることが多い。今回は、この住民票の写しを「住民票」と呼び、「住民票」を取得した際の勘定科目など会計処理についてみていくことにしよう。
目次
住民票の発行手数料と勘定科目は?
事業に関連して、事業主や従業員の住民票を用いる場合がある。住民票の写し(世帯全員)は、住民登録をしている市区町村で取得できる。住民票の取得には数百円の費用がかかるが、この費用はどの勘定科目を用いて会計処理すればよいだろうか。
住民票に関する証明書の種類は複数ある
住民票と聞いて通常イメージするのは、氏名、生年月日、性別などが記載された書類ではないだろうか。これら記載事項は住民基本台帳法に定められている。しかし、実は住民票にはいくつか種類があり、自治体ごとに案内が異なるようである。おおむね以下のような種類を住民票として扱うこととする。
- 住民票の写し(世帯全員)
世帯全員の情報が記載されている住民票。住民票という際はこの形式となる場合が多い。 - 住民票の写し(世帯の一部)
世帯のうち証明の必要な構成員だけを記載した住民票。 - 除かれた住民票の写し(除票)
転出や死亡されて除かれたという記載がされている住民票。 - 住民票記載事項証明(世帯全員・一部)
住所、氏名、性別、生年月日等の事項を証明するもの。 - 不在住証明
発行自治体の住民基本台帳に記録がないことを証明するもの。
これらを用途や提出先の求めに応じて使い分けることとなる。
勘定科目は「租税公課」で処理するのがベスト
住民票の取得費用は「租税公課」という勘定科目を用いるケースが多い。「租税公課」とは、国税や地方税等から成る「租税」と、国や地方自治体等に払う手数料等の「公課」を組み合わせた勘定科目だ。住民票の取得費用は役所への手数料であり、「公課」と考えられるため、「租税公課」とすることが一般的である。
支払手数料や雑費でもよい
勘定科目は「租税公課」以外を使用することもできる。役所へ払う手数料であることから「支払手数料」としたり、重要性が低い費用として「雑費」としたりすることも可能だ。
これは、勘定科目の選択が企業の自由であることを前提としている。費用に計上できるものやタイミングは「発生主義」など考え方がある程度決まっているが、役所へ払う手数料をどの勘定科目で処理するか、法令や会計基準で決まっているわけではない。会計処理の細部の判断は企業に委ねられているのである。
ただし、他の費用においても同様であるが、会計処理をするごとに勘定科目を検討して選択していると、処理に時間がかかる上、同一の事象を異なる勘定科目で会計処理してしまう可能性が生じ、正しい費用の集計や損益計算書の比較可能性が失われてしまう。勘定科目は自由に選択してよいものの、「継続性の原則」を適用して、一度選択した処理を継続していくことが望ましいとされている。
消費税は非課税
住民票の取得費用に消費税はかからない。消費税が課される取引には要件があり、それを満たす場合は消費税課税取引、満たさないものは消費税「不課税」取引という。消費税の要件は以下である。
- 国内での取引
- 事業者が事業としておこなう取引
- 対価を得て行う取引
- 資産の譲渡等
消費税課税取引のうち、政策的に消費税を課さないものがあり、それを消費税「非課税」取引と呼んでいる。「不課税」と「非課税」は似て非なるものである。住民票、戸籍抄本等の行政手数料などは、消費税の特性や社会政策的に考慮され「非課税」となっている。
住民票の発行手数料は地方自治体への払いであり、住民票を取得するという対価性もあるため、一見すると消費税課税取引に見えるが、このような定めによって消費税が課されないのである。
住民票の発行手数料は経費計上できる?
事業に必要な経費であれば経費計上できる(ただし、個人事業主の保険や寄付金など一部の費用を除く)。住民票の発行手数料も同様である。
経費計上できる場合とできない場合
住民票で社員の本人確認をしたり、事業上の契約相手の求めに応じて提出したりするなど、事業に関係する場合であれば、住民票の発行手数料は経費として計上してよい。
一方、社長が個人で利用する住民票の取得費用を会社が払ったり、従業員が個人で利用する住民票の代金を会社が支給したりしている場合は、役員報酬や給与と同じ扱いをするか、立替金などとして本人から徴収すべきものである。
租税公課で経費となる税金や公共料金一覧
住民票の取得費用以外の租税公課も、事業上の理由で発生したものであれば経費計上すべきである。たとえば以下の租税公課は、経費計上されるものと考えてよい。
印紙税
自動車税環境性能割
自動車税環境種別割
軽自動車税
自動車重量税
固定資産税
不動産取得税
事業税
事業所税
消費税(税込処理の場合)
登録免許税
特許等の申請費用
印鑑証明取得費用
登記簿謄本取得費用
これらは一例であり、他にも租税や国・地方自治体等への支払いが発生する場合は、発生の背景に応じて経費計上を検討することになる。
租税公課として処理できる項目すべてが経費計上できるわけではない
関税など一部の租税公課については、仕入や固定資産の付随費用とみなされ、発生時に租税公課としては経費計上しないこともある。
たとえば、仕入に係る関税は計上のタイミングでは仕入や商品等の棚卸資産として計上し、売上に対応させて売上原価とする。関税が固定資産に係る場合は、建物や機会装置、建設仮勘定等として計上し、固定資産の使用に応じて減価償却費として経費計上していく。租税公課の発生時や支払時にすべて経費になるわけではないと認識しておきたい。
ただし、法令解釈通達で不動産取得税や自動車取得税が固定資産の付随費用としなくてもよいとされているように、個別に定めがある場合があるので、適切な処理ができるように発生時に確認することが望ましい。
また、会計上は勘定科目「租税公課」として経費計上するが、税金計算上の経費(「損金」という。)にできないものもある。たとえば、駐車違反などで警察に納付する交通違反金や、あるべき印紙税を納付していなかったことで通常の印紙税相当額の1.1倍または3倍を納付する過怠税など、ペナルティに関するものは損金とはならない。
罰金が損金と認められて法人税額が低くなると、ペナルティとしての効果が薄れてしまうことへの配慮から、このような扱いになっている。会計上は経費だが、罰金を払っても損金にはならないという、痛い思いをすることになる。ペナルティ関係の租税公課は、摘要に記載するなど、税務申告の際にすぐに捕捉できるような会計処理を推奨する。
租税公課でも経費計上できない税金等
おさらいすると、以下のような租税公課は、経費として計上できないと考えておくとよい。
- 個人的な書類取得や手続きについての役所手数料(会計上も税務上も経費にならない)
- 交通違反金(会計上は経費、税務上は経費にならない)
- 過怠税(会計上は経費、税務上は経費にならない)
- 延滞税(会計上は経費、税務上は経費にならない)
- 不納付加算税(会計上は経費、税務上は経費にならない)
- 関税など仕入や固定資産の付随意用となるもの(資産計上)
会計での論点と税務の論点を切り分けて把握すべきである。
住民票の発行手数料の具体的な仕訳例
住民票の発行手数料は、役所の窓口にて発行を依頼し、住民票を受領した際に現金で支払うことが一般的である。
具体的な仕分けは?
上述の場合の仕訳は以下のようになる。
例)ある事業上の取引について、取引先に提出するため、住民票を250円で取得した。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
租税公課 | 250 | 現金 | 250 |
役所窓口においては、銀行預金による払いや信用取引は出てこないはずだ。従業員による経費立替が発生している場合は、以下のようになることもある。
1.社員Aからの住民票取得費用の精算申し出に基づき、会計処理をした。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
租税公課 | 250 | 未払金 | 250 |
2.社員Aへ住民票取得費用の立替分を支払った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未払金 | 250 | 現金 | 250 |
なお、予備で多めに住民票をとっておいた場合の扱いにも少し触れておこう。たとえば、住民票1通はすぐに使用する目的で取得し、予備でもう1通取得した場合、1通目は経費計上するものと考えるが、2通目は実際に使用するまで経費にならないのであろうか。
結論から言うと、2通とも即時に経費計上して差し支えないと考える。切手や収入印紙の場合、金券としての性質から、予備で保有するものは経費ではなく「前払費用」「貯蔵品」などの資産で処理する場合がある。
一方、住民票については、換金性がなく、いつでも使用することができ、かつ提出時に「発行から3ヵ月以内」とされる場合があるなど陳腐化するのも早いと考えられることから、現金同等物のように厳密に管理しなくてもよいだろう。
事業に必要な住民票取得費用は租税公課で処理し、経費計上可能
住民票にはいくつか種類があるが、いずれにしても事業に関係するのであれば経費となる可能性が高い。取得費用の勘定科目は租税公課を用いるのが一般的であるが、企業の任意で決めてよい。消費税はかからないことも覚えておきたい。役所で取得する住民票以外の書類等についても同様の考え方ができることもあるので、今回のルールや背景を押さえておくと役立つ場面も多いだろう。
文・新井良平(バックオフィスLABO代表)