レストラン経営
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レストランの経営は、多くの起業家から人気のある分野である。しかし、知名度がある一方で難易度は高いため、起業を希望する場合は入念な計画や準備、戦略が必要だ。そこで今回は、レストラン経営を始めるにあたって知っておきたいノウハウや準備、経営指標を分かりやすく解説する。

目次

  1. レストラン経営の難易度はとても高い
    1. 廃業率が高い
    2. 初期費用と運転コスト共に高い
    3. 競合が多い
  2. レストラン経営の成功に近づくノウハウ
    1. ターゲットに合った立地選定やコンセプト・メニューの策定
    2. 「売れ筋商品」や「優良顧客」を重視した経営
    3. 「QSC」の徹底
    4. 状況次第ではフランチャイズでの開業も視野に入れる
  3. レストラン経営で重視すべき指標
    1. 売上高営業利益率
    2. FL比率
    3. 損益分岐点比率
  4. レストラン経営を始めるための準備
    1. 事業計画書の作成
    2. 運営資金の調達
    3. 各種の資格取得や届け出の実施
    4. 従業員の雇用・教育
    5. 集客や販売促進の実施
  5. レストラン経営は成功者共通のノウハウを着実に実践すべし

レストラン経営の難易度はとても高い

レストラン経営の難易度は、飲食業全体の例に漏れずとても高い。その理由としては、以下の3点が挙げられる。

廃業率が高い

まず、客観的な根拠として廃業率の高さが理由として挙げられる。中小企業庁が公表している「中小企業白書2019」によると、すべての業種の中で廃業率が高いのはレストランを含む「宿泊業・飲食サービス業」だ(2017年度)。また、開業率も建設業に次いで高い水準となっている。つまり開業する起業家が多い一方で、その大半が廃業に追い込まれると言い換えることができる。

このような客観的なデータが出ている以上、レストラン経営の難易度は高いと言わざるを得ない。

初期費用と運転コスト共に高い

レストランの経営では、始める際に多額のコストがかかる。レストラン経営を始めるには、物件の購入や保証料、内装や厨房器具、ホームページ作成など、あらゆる場面で費用が必要だ。これらの費用を合計すると、こぢんまりとしたレストランを開業するにも1,000万円前後の費用がかかってしまう。また、レストラン経営では、毎月多額の運転コストもかかる。

例えば、材料費と人件費だけでも大体売り上げの50~60%は必要だ。それ以外にも家賃や光熱費、販売促進費などもかかる。特に、人件費や家賃などは固定費となるため、十分な売り上げを確保しないと赤字経営に陥るだろう。

競合が多い

たくさんいる競合に打ち勝つ必要がある点も、レストラン経営を難しくする要因の一つである。競合が多い理由としては「生活にとって欠かせない業種」「比較的誰でも思いつきやすいビジネスモデル」などが考えられるだろう。競合となるレストランが多いため、平均的なお店では十分な売り上げを確保するのは困難となる。

また、競合他社の価格競争に巻き込まれることで。利益率が低下したり顧客を奪われたりするリスクも考えられるだろう。

レストラン経営の成功に近づくノウハウ

レストラン経営は難易度が高いものの、成功を遂げている経営者は少なからず存在する。この章では、成功している経営者の事例をもとに、成功に近づくうえで意識したい4つのノウハウを紹介していく。

ターゲットに合った立地選定やコンセプト・メニューの策定

レストラン経営を成功させるうえで最も重要なのは、「ターゲットに合った立地選定・コンセプト策定」だ。レストランに限らず、ビジネスでは顧客のニーズに合致した商品やサービスを提供しなければ、大きな収益は得られない。したがって、レストラン経営を繁盛させたいならば、ターゲットのニーズに寄り添って立地の選定やコンセプト・メニューの策定を行う必要がある。

ただし、表面的な調査やアンケートだけでは、ターゲットの持つ本当のニーズを認識できない可能性があるので注意が必要だ。例えば、レストランを例にすると、単純においしい味を求める人もいれば雰囲気を楽しみたい人もいる。人によってニーズは異なるだろう。これらのニーズは、年齢や性別などで明確に分かれているわけではない。

そのため、単純なアンケートやインターネットの調査などでは、ニーズを見極めることは困難だ。真のニーズを見極めるには「ジョブ理論」の考え方が有用となる。ジョブ理論とは簡単にいうと、顧客が商品やサービスを利用する前後や最中を観察し「なぜその商品・サービスを利用するのか」を明確にするアプローチのことだ。

レストラン経営で応用する場合、例えばライバル店や参考にしたいお店に出向き、食事中の様子を観察したり、食事後に感想や来店理由を尋ねたりするアプローチが方法の一つである。そうすれば顧客の持つ真のニーズを特定し、最適なコンセプトやメニューを策定しやすくなるだろう。

「売れ筋商品」や「優良顧客」を重視した経営

マーケティングの考え方の一つに「20%の主力商品や優良顧客が80%の売り上げを生み出している」というものがある。この考え方は「パレートの法則」と呼ばれ、あらゆる業種に当てはまる。例えば、レストランの場合、1回しか来店しない顧客やたまにしか売れない商品よりも、常連客や売れ筋メニューのほうが売り上げに大きく貢献しているケースが多い。

したがって、レストラン経営の収益性を高めたい場合は、売れ筋商品や優良顧客を重視するのがおすすめである。具体的には、レストラン経営を半年~1年ほど続けたタイミングで、売り上げ順に商品を整理したり常連客をリストアップしたりするなどの施策を行うと良いだろう。この施策を行えば売れ筋商品や優良顧客を明確にできる。

売れ筋商品や優良顧客を明確にできれば、あらゆる方法で売り上げを伸ばすことができるだろう。例えば、売れ行きの悪い商品をメニューから削除すれば、無駄な材料費をカットすることが可能だ。また常連客を優遇した施策(割引やニーズに合う新メニューの開発など)を行えば、より売り上げを伸ばせる可能性がある。

「QSC」の徹底

レストラン経営で成功するには「QSC」の徹底が不可欠である。QSCとは「Quality(品質)」「Service(サービス)」「Cleanliness(清潔感)」という飲食店経営で重視すべき3つの要素の頭文字からなる用語だ。3つの要素はレストランの経営で最低限意識すべき部分であり、一つでも欠けると顧客から見た価値は大きく減少する恐れがある。

例えば、味(品質)や接客(サービス)が良くても、店内がホコリだらけだと再び来店しようと思うお客様は少ないだろう。固定客を確保したいならば最低限QSCは徹底しなければならない。

状況次第ではフランチャイズでの開業も視野に入れる

レストラン経営に必要なノウハウや経験などがない場合、フランチャイズでの開業を視野に入れると良いだろう。フランチャイズとは、ブランド力や知名度のある本部の加盟店としてレストランを経営する方法である。本部のブランド力やノウハウを使えるため、未経験でもレストランを経営しやすい点がメリットだ。

ただし、定期的にロイヤリティという費用を支払う必要がある点や、自由にメニューや経営方針を決定できない点などいくつかデメリットもある。メリットとデメリットの双方を慎重に検討したうえで、フランチャイズへの加盟を決めるのがおすすめだ。

レストラン経営で重視すべき指標

レストラン経営を行うにあたっては「売上高営業利益率」「FL比率」「損益分岐点比率」の3つを意識することが重要だ。ここでは、それぞれの指標の意味や指標からどのような示唆を得られるかを解説する。

売上高営業利益率

売上高営業利益率とは、売上高に占める営業利益の割合のことだ。しばしば売上高は、レストラン経営で重要な指標として取り上げられる。しかし、売上高が多くても利益率が低ければ効率的に稼いでいるとはいえない。そこで重要となるのが、営業利益の割合だ。営業利益とは、売上高から売上原価と販管費(人件費や広告宣伝費など)を差し引いた金額であり「本業で稼いだ利益」とも呼ばれる。

つまり、売上高営業利益率を見れば「レストランの運営でどのくらいの利益を手元に残せるか」を判断できるわけだ。収益力を判断できる点で、売上高と同じかそれ以上に重視するのがおすすめである。

FL比率

「ムダな費用の有無や程度」を確認したいならば、FL比率を見ると良いだろう。FL比率とは、売上高に占めるFLコスト(食材費と人件費の合計)の割合である。FL比率が低いほどムダな費用をかけずに効率的に収益を得ていると判断できる。一般的には50%未満が理想、50~59%だと利益を残せる水準、60%以上だと赤字になる可能性が高まるといわれている。

経営するレストランのFL比率を計算し、60%以上の場合は人件費や食材費に無駄が生じている可能性があるだろう。その場合は、死に筋商品を廃止して、材料費を削減したり忙しくない時期の人員を削減したりすることで人件費を減らすなどの施策を行い、FL比率を下げることが必要だ。

損益分岐点比率

損益分岐点比率とは、実際の売上高に占める損益分岐点売上高の割合である。損益分岐点売上高とは、利益がゼロになるときの売上高であり、これを下回ると赤字、上回ると黒字となる。損益分岐点比率は、下記の計算式で求められる。ちなみに変動費率とは、売上高に占める変動費の割合を意味する。

  • 損益分岐点比率(%)=(損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高)×100
  • 損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)

損益分岐点比率が100%を超えている場合、実際の売上高が損益分岐点売上高を下回っている(赤字の状態)。そのため固定費や変動費を減らして、損益分岐点売上高を下げたり実際の売上高を増やしたりするなどの対策が必要だ。

レストラン経営を始めるための準備

最後に、レストラン経営を始めるうえで行うべき準備について解説する。レストランの経営を始める際には、以下の5つの準備が最低限必要だ。

事業計画書の作成

レストランを開業する際には、多額の資金を外部から調達するケースが一般的だ。そこで融資を受ける際に必要となるのが、事業計画書である。事業計画書には、自社店舗の強みやターゲット、売上計画などを記載する。確実に必要な資金を調達するには、緻密な計画を立てたうえで、しっかりと借りた資金を返済できる旨を金融機関にアピールすることが重要である。

運営資金の調達

事業計画書を作成した後は、それをもとに運転資金の調達を行う。一般的には、銀行から資金調達するものの、これまでの実績がないと融資してもらえない可能性がある。万が一金融機関から調達できない場合は、国や自治体が行っている貸付制度や補助金を活用するのがおすすめだ。国や自治体では、新規事業や創業者向けの制度も設けているため、金融機関で調達できないようなケースでも活用できる可能性がある。

各種の資格取得や届け出の実施

レストランの経営を始めるには、いくつか届け出や資格の取得が必要となる。例えば、食品を提供するために保健所に「食品営業許可申請」を行わなくてはならない。また、「食品衛生責任者」と「防火管理者」の資格も基本的には必須だ。他にも従業員を雇う場合は、社会保険や労災保険、雇用保険などへの加入手続きが必要となる。

状況により必要な資格や届け出は異なるため、あらかじめ確認しておくことがおすすめだ。

従業員の雇用・教育

よほど小さな規模で始めるわけでない限り従業員を雇用する必要がある。一般的なレストランでは、調理を行うキッチンと配膳などを行うホール、それぞれで従業員が必要だ。人件費を無駄にしないためにもあらかじめどこにどの程度の人員が必要かを明確にしたうえで、最低限の人数を雇用するとよい。

また、QSCの一つであるサービスの質を確保するために、従業員に接客マナーを習得させるのも重要である。あらかじめマニュアルを作っておき、従業員教育の労力を少しでも削減することも大切だろう。

集客や販売促進の実施

ここまで実施したら、後はオープンに向けて集客や販売促進を実施するのみだ。集客や販売促進の施策には、チラシ配りや有名グルメサイトへの情報掲載、ホームページの開設などあらゆる方法がある。ターゲット顧客によってなじみのある施策は異なるため、ターゲットに応じた施策を行えば集客効果を高めることができるだろう。

レストラン経営は成功者共通のノウハウを着実に実践すべし

廃業率の高さや競合の多さから分かる通り、レストランの経営は決して簡単ではない。難しいレストラン経営を成功に導くには、ターゲットのニーズに合わせたメニューの策定やQSCの徹底など成功者に共通するノウハウを着実に実践することが不可欠である。今回紹介したノウハウを参考にしてレストランの経営の成功につなげてもらいたい。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)

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