清水祐孝会長兼CEO
(画像=ビジネスチャンスより)

鎌倉新書
(東京都中央区)
清水祐孝会長兼CEO

鎌倉新書(東京都中央区)は、全国の葬儀社や葬儀マナーなどに関する情報サイト「いい葬儀」をはじめとするエンディングビジネス関連のウェブサイトを運営し、2015年に東証マザーズ、2017年には東証一部に上場を果たした。清水祐孝会長兼CEOは、証券会社勤務から父親が創業した同社に27歳で入社、崖っぷちの会社を出版業から脱却させるとともに、「家族」経営から「企業」経営へと転換させた。(※2020年10月号「我が社の事業継承」より)

清水祐孝
清水祐孝
しみず・ひろたか
1963年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学を卒業後、証券会社勤務を経て1990年に父親の経営する鎌倉新書に入社。同社を仏教書から、葬儀や墓石、宗教用具等の業界へ向けた出版社へと転換。さらに「出版業」を「情報加工業」と定義付け、セミナーやコンサルティング、インターネットサービスへと業域を拡大させた。2020年4月より現職。

売上4000万円で借金1億円「葬儀」ビジネスに活路を開く

鎌倉新書は元々、仏教関連書籍を発行する出版社だった。「父が創業者として経営していまして、私は大学卒業後、証券会社に勤めていました。27歳ごろに父親から『事業を手伝ってくれ』といわれ、軽い気持ちで事業を引き継ぐために入社しました」(清水祐孝会長)。

あまり財務状況を把握していなかった清水会長だが、いざ入社してみると、売上4000万円のところ借入金は1億円。社員への給料も遅配する状態だったという。「実質、家族経営でしたが一人いた若い社員はやめてしまった」(清水会長)。

取引先の印刷会社からの買掛金を猶予してもらっている状態だった。このため、入社した当初は一方で食いぶちを稼ぎながら、一方で借金の返済をひたすら繰り返す日々だった。

しかし同社が手掛けていた出版物は、専門性が高く購読者があまりにも限られていた。「これだとさすがに売り上げを伸ばしていくのは厳しい」(清水会長)と感じ、常に突破口を考えていたという。

潮目が変わったのは出入りしていた寺院で、たまたま葬儀があったのを見た時だった。「お寺はどのように収益を得ているのか興味を持った」(清水会長)。調べてみると、当時の葬儀市場は死亡者が年間90万人弱だったが、それでも1兆円以上の個人消費の市場があった。加えて、日本人の多くは仏教徒ということで同時に仏壇と墓も購入する。これらを加えれば2兆円を超えるマーケットがあることに気づいた。「仏教本は中々購入してもらえないけれど、亡くなった後のお葬式という儀式には必ずお金をかけるので、そのようなマーケットに特化した書籍を作ろうと考えたのです」(清水会長)

そこで例えば、葬式時のマナー等を解説したマニュアル本などを葬儀社への販促品として販売した。

思った通りニーズもあり順調に売り上げも伸びたが、徐々に「客は本が欲しいのではなくて、その中身の情報が欲しいと気づいた」(清水会長)。

「情報加工会社」へ脱却 インターネット事業が大化け

▲葬儀ビジネスの情報サイト「いい葬儀」
▲葬儀ビジネスの情報サイト「いい葬儀」(画像=ビジネスチャンスより)

初めはあくまでも出版社と考えていた清水社長だったが、情報を伝えるのに出版でなくてもいいのではないかと思いめ、出版社から情報加工業社へと舵を切った。

「出版業という業態に縛られなければ、いろいろな可能性が広がる。セミナーというやり方もあればコンサルティングというビジネスもある。印刷物が欲しい人には今までのように出版社として印刷物を届ける。出版物よりもっと詳しく知りたいという人にはセミナーを開く。自分だけにノウハウを詳しく教えて欲しい、という人にはコンサルティングを行う。情報を価値あるものに加工して、その人に合った方法で届けるようにした」(清水会長)。同社は事業転換に成功したのだった。

インターネットが普及してきた1990年代後半、これをうまく利用すれば情報をもっと速く上手に伝える一つのツールになるのではないかと、情報伝達手段としてインターネット事業を考えた。「当時、知識はほとんどなかったためインターネット事業に関する様々なセミナーに参加していました。上場を意識したのはこの頃です。その同期がどんどん上場していったときは悔しい思いをしました」(清水会長)。しかも、シニア向けのサービスをインターネットでやり始めたのは良かったが、実際にはシニア層がほぼインターネットをしていない状態だった。ネットの売り上げがほとんどなく、出版で収益を得る日々が続いた。

「そんな状況だったので、社内では出版事業とネット事業でやり方に対しての意見衝突が何度も起きました。実際、退社した社員もいました」(清水会長)。

新しい事業をやろうとするには犠牲なしには決していかないということを痛感した。「強い組織になるためには、どこに向かって走っているのか、社長自ら方向性を明確にしないといけない」と清水会長は身を持ってわかったという。

祖業をベースにして時代に合わせた変革が奏功

2000年から全国の葬儀社や葬儀マナーなどに関する情報サイト「いい葬儀」をスタートさせた同社。2002年には晴れて社長に就任した。2003年にはお墓探しの総合サイト「いいお墓」など、立て続けにサイトを立ち上げた。

同社はこのネット紹介サービスで成長。2015年に東証マザーズ、2017年には東証一部に上場を果たした。株式上場以降も売り上げは年々伸長している。2021年1月期の売上高は40億円を見込んでいる。

現在の主な事業は、鎌倉新書は名ばかりに「いい葬儀」のほか、霊園・墓地・お墓探し総合サイトの「いいお墓」、仏壇と仏壇店に関するサイト「いい仏壇」などのネットマッチングサービスだ。サイトを見て連絡したユーザーに、現在の状況や希望エリア、予算に合わせて適した葬儀会社や霊園、仏具店を紹介するというビジネスだ。

同社は現在、新たなビジネスの開拓にも力を入れている。その一つが、税理士・司法書士の紹介サービスだ。これまでも葬儀後に「主人の資産を申告したほうがいいのか」といった相談を受けることがあり、「新たな事業の種になる」(清水会長)と期待している。

清水会長は、祖業をベースにしながら、時代に合わせて事業領域を広げることに成功したのである。「新しい領域に踏み込むためには、常に広い視野を持って情報収集する必要があります。これは社会人経験があったからだと思います」(清水会長)。