新型コロナウイルスの収束はいまだ見えず、経営難で倒産する企業が相次ぐ状況が続いている。このような厳しい時代に企業が生き残るためには、経営者はどのような視点を持つべきだろうか。生き残りのために考えておくべきこととは?
現在の企業の倒産状況
民間調査会社の東京商工リサーチの発表によると、9月14日時点での新型コロナウイルス関連の経営破綻件数は、負債額が1,000万円以上の企業においてすでに478件に上っている。1ヵ月ごとの件数の推移をみてみると、6月が過去最多の103件、7月が80件、8月が67件と減少傾向だったが、9月は14日時点ですでに37件確認されていることから、倒産の勢いが再び強まっている状況だ。
息切れ破綻が相次ぐ恐れ
内部留保などを運転資金に当てたり新たに資金調達をしたり、国の助成金や給付金などを活用したりして、何とかコロナ禍を乗り切ろうと悪戦苦闘している企業が多いものの、「息切れ破綻」する企業が増えていると東京商工リサーチは分析している。
ちなみに、東京商工リサーチがカウントしている経営破綻件数は、負債額が1,000万円以上の法的整理・私的整理を対象に集計されているため、実際にはさらに多くのコロナ倒産が起きていることは容易に予想がつく。
コロナ禍を企業はどう乗り切っていくべきか
では、このような状況を企業はどう乗り切っていくべきだろうか。企業によってそのための最適解が異なることは当然とも言えるが、「虎の巻」的に知っておきたい考え方はいくつかある。
業態変更という道:はとバスの例から考える
観光バスを使ったツアーを提供してきた「はとバス」が、最近注目を集めた。コロナ禍で稼働していないバスを使って「巨大迷路」を作り、その巨大迷路を体験コンテンツとして販売し始めたのだ。
バスの中は「密」になりやすいというイメージもあり、バスツアーの需要は激減している。そのような状況下で、保有しているバスを使ってツアーが開催できないのであれば、保有しているバスを別の用途で使おう、という発想で生まれた新コンテンツだと言えよう。
苦肉の策とも言えるはとバスの打ち手だが、この巨大迷路は大きな話題となった。同社の2~6月の東京観光利用者数は前年同期比で92.4%減となっているが、このような取り組みで業績へのダメージを少しでも和らげることができるか、注目を集めている。
はとバスのように、提供しているサービスの変更や業態変更は、コロナ禍を生き抜くための1つの方法論と言える。
余剰人員の活用:全日本空輸(ANA)の例から考える
新型コロナウイルスの感染拡大で「航空業界」も甚大なダメージを受けている。その航空業界の企業の取り組みの中で注目を集めた例を紹介しよう。
路線の減便を余儀なくされている全日本空輸(ANA)は、社内の余剰人員に農家の収穫支援をさせる取り組みを始めている。普段従事している業務内容とは全く別の仕事だが、担い手不足の農家にとっては非常に有り難いといった側面もあり、今後も継続していくという。
このように、余剰人員にこれまでの業務とは異なる仕事を任せていくという視点は、特にコロナ禍においては、企業経営者はぜひ持っておきたい。
別の企業から労働を請け負えばそれが売上になり、企業の経営状況の改善にもつながる。また、新たな仕事を請け負うことで、これまで見つけられなかったビジネスチャンスに気づくことができるかもしれない。
キャッシュフローの改善:大手企業も続々と資金調達
当然だが、キャッシュフローの改善も非常に重要だ。キャッシュフローの状況が悪化してしまうと、「倒産」という二文字が一気に現実味を帯び始める。キャッシュフローについては、ある認識だけは必ず持っておきたい。それは、経営状況が厳しくなっているときは、「書類上の売上」よりも「手元の現金」の方がはるかに重要だという点だ。
いくら新たな契約を獲得できたとしても、手元に現金が入るのが遅ければ、キャッシュが足りずに支払いが滞ってしまう可能性がある。小切手や手形が不渡りとなって銀行との取引が停止されると、事実上の倒産となる。このことだけは避けなければならない。
新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化してすぐ、大手企業は続々と資金調達に動いている。内部留保金などで当面の事業には問題がなくても、キャッシュフローの悪化を避けるために、すぐ資金調達に動いたわけだ。
中小企業の場合は内部留保が潤沢でないケースも多く、よりキャッシュフローを気にする必要がある。
経営者はコロナ禍が数年続くという前提で
製薬会社が新型コロナウイルス向けのワクチン開発を急ピッチで進めているが、広くワクチンの接種ができるようになる時期はまだ見通せていない。その状況を踏まえ、経営者はコロナ禍が数年続くという前提でできる備えを早めにしておくべきだ。
業態変更や余剰人員の活用、キャッシュフローの改善など、経営者が今からできる対応・対策は複数ある。この機会に検討をしてみてはいかがだろうか。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)