M&A
(画像=Mongkolchon/stock.adobe.com)

事業や商品にもライフサイクルがあるように、企業にも成長サイクルがある。一般的には創業期、成長期、成熟期、衰退期に分けられるが、企業が成熟期を迎えると、成長期には見えなかったいろいろな問題が出てくるものだ。経営的な問題を解決する方法はいくつかあるが、場合によっては他社との連携も視野に入れた事業の取捨選択を考えなくてはならない。今回は、そのような場合に選択肢の一つとなるM&Aについて解説していこう。

目次

  1. M&Aとは?
  2. M&Aは関係づくりと手順が重要
  3. M&Aの必要性
    1. 会社の成長サイクルを理解する
  4. M&Aの手法
    1. 合併
    2. 買収
  5. M&Aの流れ
  6. M&Aにかかる経費や税金
  7. M&Aの成功事例・失敗事例
    1. シャープによる東芝パソコン事業の買収
    2. 世紀の合併と呼ばれたクライスラーとダイムラーの合併
  8. M&A成功のカギはWin-Winの関係とPMI
  9. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

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M&Aとは?

M&Aとは、Mergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイジションズ)の略で、企業の「合併と買収」という意味だ。「合併」とは複数の企業が1つに統合することをいい、「買収」とは後述するさまざまな手段で、対象とする会社の経営権を取得することをいう。

M&Aは大企業同士で行われていると思うかもしれないが、日本においては、M&Aの70%が中小企業間で行われているというデータがある。M&Aは、今や中小企業においても経営効率化のために積極的に検討すべき手段なのだ。

M&Aというと、どうしてもAcquisitions(買収)が悪く目立つ傾向があるので、あまりいいイメージを持たない人もいるだろう。前述のようにM&Aは企業活動として多く行われているのだが、時に世間を騒がせるようなニュースになることもあるからだ。

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M&Aは関係づくりと手順が重要

日本においてマスコミが多く取り上げ、世間を騒がせた買収案件といえば、2005年に起きたライブドアによるフジテレビ(ニッポン放送)への敵対的買収事件ではないだろうか。当時フジテレビの親会社であったニッポン放送の株式を、ライブドアの子会社「ライブドア・パートナーズ」が、東京証券取引所の時間外取引で取得、事実上の筆頭株主(35%)となったのだ。当時のフジテレビとニッポン放送の資本構造は、親子が逆転したようないびつな関係だった。

これだけなら通常の企業活動であり、事件にはならないのだが、ニッポン放送とフジテレビを含むフジサンケイグループは、買収については「寝耳に水」で、ニッポン放送の社員会も「リスナーに対する愛情が感じられない」「ニッポン放送の資本構造を利用したいだけとしか思えない」としてライブドアの経営参画に反対を表明するなど、その買収手法が大きな問題となった。

その後、フジテレビとライブドアグループの間で経営権の争奪戦となったが、結果的に買収は失敗、両者が業務提携することで落ち着いた。この買収案件が後に事件と呼ばれるようになったのは、(意図的であったとも言われているが)M&Aに必要とされる手順をまったく踏まなかったこと、そしていびつな資本構造を利用した敵対的買収であったことが理由だろう。

M&Aを成功させるためには、相手との関係づくりと手順を間違えないことが何より重要なのだ。

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M&Aの必要性

M&Aは、経営戦略の一つである。M&Aを「する側」は、「される側」から経営資源(技術・ノウハウ・人材)や新しい事業を手に入れることによって自らの事業を拡大することができ、「される側」には自社のスリム化や後継者問題の解決、従業員の雇用継続などのメリットがある。まずは、自社が現在どのような状況にあり、M&Aを検討する必要があるかどうかをジャッジする必要がある。

会社の成長サイクルを理解する

冒頭で述べたように、会社には成長サイクルがある。会社全体でなくとも、商品や事業にも同じように成長サイクル(ライフサイクル)があるはずだ。

M&A

現在、創業期(事業や商品なら導入期)、成長期、成熟期、衰退期のどこにいるのか、自社や事業の状況を俯瞰して見極める必要がある。多くの企業や事業は、成熟期に入ると売上や利益の伸びが一段落し、安定する。成熟期には、成長期には気がつかなかった問題が露呈することが多いが、ここで問題をしっかりと解決できた企業は、衰退期に進むことなく「第二成長期」に入ることができると言われている。露呈する問題の解決策は 、会社や事業の効率化だったり、新しい収益の柱だったりすることが多い。それを実現する方法の一つが、M&Aなのだ。

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M&Aの手法

ここからは、具体的なM&Aの手法を説明していこう。M&Aはその名のとおり、まず「合併」と「買収」に大別される。広い意味では「資本参加」や「合弁会社設立」などもM&Aに含まれるが、ここでは合併と買収を中心に説明していく。

合併

合併とは複数の企業が1つに統合することをいい、「吸収合併」と「新設合併」に分かれる。通常、合併では法的手続きのもとで存続する会社が1社になり、他の会社は消滅する。

  • 吸収合併は、買収する会社がされる側の権利や義務をすべて引き継ぐ形式の合併で、買収する側の会社を存続会社、吸収される会社を消滅会社という。
  • 新設合併は買収する側もされる側も消滅し、新しい会社(存続会社)が設立される形式の合併である。

吸収合併のメリットは、対価を株式で支払うことが多いので資金を用意する必要がないこと、会社ごと合併するので手続きが簡便なことなどが挙げられる。これに対して新設合併は、手続きが複雑なため実際はあまり行われない。

買収

買収の主な手法は、「会社分割」「事業譲渡」「株式取得」の3つだ。

  • 会社分割は会社組織を再編する方法で、「吸収分割」と「新設分割」に分かれる。他社の組織(もしくは事業)を買収する方法を吸収分割、分割時に新しい会社を設立し、分割される組織(事業)を統合する方法を新設分割という。
  • 事業譲渡とは、売り手側の事業を買い手側に売却(譲渡)することをいう。事業譲渡のメリットは、会社ごとの買収ではないため、売り手側に負債があっても引き継ぐ必要がないことだ。

株式取得は、さらに「株式譲渡」、「株式交換」「第三者割当増資」に分かれる。

  • 株式譲渡は、売り手の保有する株式を買い手が買い付け、経営権を取得する手法である。メリットは、手続きがとても簡単なことだ。
  • 株式交換は、買い手側の株式と売り手側の株式を交換することによって買収を成立させる手法だ。資金を準備する必要がないことなどがメリットである。
  • 第三者割当増資は、売り手側が特定の第三者(M&Aの場合は買い手側)に対して新株を引き受ける権利を割り当てることで買収を成立させる手法だ。

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M&Aの流れ

ライブドアによる敵対的買収の例は極端だが、M&Aでは相手とのトラブルに発展しないように綿密な準備が必要だ。どのような手法を使うとしても、法律と税金に関する知識とM&Aの経験を持ち合わせたアドバイザーとの契約が必須だ。ここで、M&Aの流れを整理しておこう。

  1. 事前準備
    まず、M&Aを行う目的を明確にしておこう。自社にとって今何が必要で、そのためにはどのような会社との連携(M&A)を行う必要があるのか。これがはっきりしなければ、M&Aの相手も手法も決まらない。

  2. アドバイザー選定
    M&Aを自社の知識だけで進めることは、不可能だ。M&Aの経験が豊富なアドバイザーとのアドバイザリー契約が必要になる。M&Aの仲介を専門とする会社に相談するのがいいだろう。

  3. アプローチ
    アドバイザーと相談しながら候補を決め、相手に対するアプローチを実施する。通常は名前を明かさず相手に条件を説明し、M&Aに応じる意思があるかどうかを確認する段階だ。

  4. 秘密保持契約
    意思を確認したら、M&Aを検討している事実と双方の会社情報の保護を目的として、秘密保持契約を締結する。

  5. 情報開示(IM提示)
    秘密保持契約を締結したら、売り手側からIM(インフォメーションメモランダム)で情報開示(経営に関する詳細な情報)を受ける。

  6. トップ面談
    IMの情報をもとにM&Aの意思が固まった時点で、双方のトップ面談を行う。お互いの意思を確認する重要な機会であるとともに、その後に続くM&Aに関わる諸作業の始まりとなるセレモニーでもある。

  7. 基本合意書締結 M&Aの方法や買収価格など、基本的な内容が書かれた基本合意書を締結する。

  8. デューデリジェンス
    買収監査と呼ばれる作業だ。M&Aを行うにあたって大きなリスクはないか、例えば隠れた債務や他社との係争の有無などを精査する。買収価格が適正かどうかも、この監査で明らかになる。

  9. 条件交渉
    デューデリジェンスの結果、買収価格などに問題があれば条件交渉を行うことになる。M&Aに関わる細かい条件も、この段階で詰めていく。

  10. 最終譲渡契約書の締結
    すべての条件交渉が合意に至ったら、最終譲渡契約書を作成し締結する。これでM&Aに関する契約は、すべて終了だ。

  11. PMIの実施
    PMIとはポスト・マージャー・インテグレーションの略で、実際の統合プロセスを指す。経営統合(経営理念、経営戦略、マネジメントの統合)、業務統合(実際の業務、インフラ、人材、組織の統合)、意識統合(企業風土や社員の意識統合)の3段階で構成される。ここが、M&Aで最も大事なステップだ。

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M&Aにかかる経費や税金

M&Aには、株式譲渡などに必要な資金の他、M&A仲介会社やアドバイザーに払う料金、公認会計士や弁護士の費用、デューデリジェンス実施に関する費用など、多くの経費がかかる。また株式譲渡であれば、所得税等(譲渡所得)20.315%、合併であれば最大55.945%の所得税(配当所得)などが発生することもある。M&A仲介会社と相談して、資金計画も作成した上で進めよう。

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M&Aの成功事例・失敗事例

最後に、M&Aの成功事例と失敗事例を紹介しておこう。

シャープによる東芝パソコン事業の買収

2018年に、シャープが東芝の子会社であった東芝クライアントソリューション(以下、TCS)の株式を東芝本体から取得した。TCSの株式80.1%を保有することとなり、同社を子会社化した。シャープは以前、自社でパソコン事業を保有していたが2010年に撤退しており、近年はAIoTプラットフォーム強化のために、パソコン事業への再参入を検討していた。

AIoTとはシャープが提唱しているIoTとAIを組み合わせた技術で、IoTデバイスの制御や運用をAIによって最適化することを目的としている。シャープは一度撤退したパソコン事業を再び手に入れ、AIoT技術と組み合わせることで、デバイス制御や家電製品の世界市場におけるシェア獲得を狙っている。

世紀の合併と呼ばれたクライスラーとダイムラーの合併

1998年、米国のクライスラーとドイツのダイムラーが資本提携により合併し、ダイムラー・クライスラーが誕生した。当初は自動車製造の技術的な連携や車種の棲み分け、販売網の相互利用を計画し、双方の経営資源を有効活用できるはずだった。

ところが合併における両社の立場が対等であったことから、利害の対立を解消できず両社の経営陣は反目するようになってしまう。結局、合併の効果をほとんど発揮できないまま、2007年に合併は解消した。ダイムラーが合併時にクライスラーに投下した資金は、当時のレートで4.3兆円であったが、解消時に回収できた資金は6,520億円にとどまった。

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M&A成功のカギはWin-Winの関係とPMI

ライブドアの例を見れば、M&A成功のカギはWin-Winの関係であることがよくわかる。またダイムラー・クライスラーの例を見れば、M&Aは契約だけでなく、PMI(経営統合、業務統合、意識統合)も重要であることがわかるだろう。M&Aを成功させるためには、準備段階から完了後まで、経験に基づいた助言をしてくれるアドバイザー(もしくはM&A仲介会社)を見つけることが大切だ。

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文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)

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