とくし丸
(徳島市南内町)
住友 達也 社長
──移動販売のスーパー──そんなありそうでなかったビジネスモデルで話題の、とくし丸(徳島市南内町)という会社をご存知だろうか。同社が展開する「移動スーパーとくし丸」は、買い物に行けない高齢者たちのもとに食材や生活雑貨を届けるべく、今日も地方や郊外を走り回っている。ビジネスの生みの親である住友達也社長に話を聞いた。
(※2020年10月号「注目チェーン・トップインタビュー」より)
──徳島県から始まった「移動スーパーとくし丸」が、社会の高齢化を追い風に、全国へと広がっています。7月末時点で130以上のスーパーと提携し、さらにスーパーから委託を受けて走る車の台数は575台を数えるまでに増えたそうですね。
住友 このビジネスを始めたきっかけは、私の母が「買い物難民」になってしまったことでした。以前は、少し離れた場所にあるスーパーまで自分で車を運転して買い物に行っていたのですが、あるときからそれが「辛い」というようになったんです。歳を取れば体力も落ちれば足腰も弱る。当然と言えば当然ですよね。近所を見回すと、同じような悩みを抱えた高齢者が多い。これは何とかしなければと思い、それで移動販売を始めたわけです。
──昔はわざわざ車で出かけなくても、近所の八百屋や魚屋などで何でも買うことができました。しかし、郊外に大型のスーパーや商業施設ができるのに伴い、そうした商店はみんな姿を消してしまいました。
住友 1ヵ所で何でも揃う大型スーパーは非常に便利な反面、車がないとどうにもなりません。近くにサポートしてくれる人がいれば良いですが、今は子供たちと離れて暮らしている高齢者がほとんど。だから買い物に行きたくてもなかなか行けないというのが、実情なんです。地方ほどこうした傾向は顕著です。
──移動販売でなくても、例えばネットショップのような、自宅まで食材や生活用品を届けてくれるサービスはたくさんあります。
住友 我々がターゲットにしている地方に住む70 歳から90歳代の方は、そもそもインターネットに馴れていません。だからネットショップでは問題の根本的な解決を図ることができないのです。食材配送サービスを使うという手もありますが、それだと、その日に見つけた食材を使って美味しいものを作る、そうした買い物の楽しみが薄れてしまいます。結局、こうした問題をまとめて解決できるのはもっともアナログな移動販売という方法しかないのです。
──「移動販売とくし丸」の本部は、地域のスーパーと提携する形をとっています。実際に地域を回って移動販売している方々との関係はどのようになっているのでしょうか。
住友 よく勘違いされるのですが、我々はフランチャイズではありません。本部はスーパーと契約し、移動販売ビジネスのノウハウを提供しています。実際に車に商品を乗せて地域を回っている方々は、「販売パートナー」と呼んでいて、スーパーに個別に契約してもらっている個人事業主です。「とくし丸」という看板を掲げてもらうので、教育は本部が担当しますが、本部と販売パートナーの間では契約関係は存在しません。また彼らは個人事業主なので、スーパーが労務管理する必要はありません。
──どんな方が販売パートナーになるのでしょうか。
住友 脱サラして始める方もいれば、定年退職後に始められる方もいます。最近ではコンビニを廃業して始められた方もいますよ。その方の場合、加盟してから10年間、ほとんど休みなく働いたにもかかわらず大した収入は得られず、相当苦労されたようです。「とくし丸」は個人事業として取り組んで頂くので、週にどれだけ働くかはその人の考え方次第です。週休2日という方もいれば、週休3日という方もいます。
──自分のライフスタイルに合わせて働き方を変えられる点は非常に魅力的だと思いますが、実際のところ、収入はどのくらいあるものなのでしょうか。
住友 販売パートナーは約1200のアイテムを乗せて、1日当たり約10万円を売り上げます。馴れた方だと14~15万円くらいを売り上げることもありますね。これはあくまでも売上ですので、ここから販売委託料を受け取ります。経費などを差し引いて、ひと月約40万円の手残りがあります。コンビニオーナーは月収が30万円台ということもよくあると聞きますから、それを考えれば十分な収入だと言えるのではないでしょうか。移動販売に使うトラックは個人で用意してもらうのですが、それにかかる約340万円も、数年で償却することができます。
──移動販売では、店頭よりも値段を10円高くして売るそうですね。これにはどんな意味があるのでしょうか。
住友 簡単に言うと、商品を家の近くまで届ける対価のようなものです。交通費を払って遠くまで買いに行くのに比べれば全然たいした金額ではありませんから、これで怒られたり、文句を言われたことはありません。一方で、スーパーと販売パートナーにとってはこの10円は非常に大きな収入になります。5円ずつ両者で折半する形になるのですが、売っているものが300円、400円の商品が中心ですから、粗利が大きく変わるんです。スーパーはこれで約3割の粗利を確保できます。
──商品が売れ残ることもあると思います。生鮮食品などはどうされるのでしょうか。
住友 それはスーパーの方で引き取って、店頭で値引きするなどして再販してもらいます。だから最終的にはほとんど廃棄が出ません。当然、販売パートナーには一切リスクがありません。
──超高齢化社会に突入した今、需要は今後ますます増えていくと思います。今後の事業戦略についてはどのように考えているのでしょうか。
住友 実はこのビジネスは、単なる移動販売では終わらないところに本当の面白さがあります。例えば何度か訪問して、その地域にどんな方が住んでいるかが分かるようになれば、「いつも買いに来る○○さんが今日は来ない。もしかしたら家で何かあったのかもしれない」という具合に、すぐに異変に気付くことができます。自治体などと連携して高齢者の見守り役になれるわけです。
実際、販売パートナーによる人助けは何回もあります。また、最近は、企業からのサンプリング調査の協力依頼が増えています。わざわざ街頭に立って高齢者を探さなくても、我々であれば直接声を掛けて、対面で色々な調査を行うことができます。健康関連の商材に関する調査依頼は、これからどんどん増えていくでしょうね。
──提携スーパー、販売パートナーについてどこまで増やそうと考えておられるのですか。
住友 全国には、「とくし丸」が商品を届けることができていない地域がまだまだたくさんあります。「買い物難民」になる方を一人でも少なくできるように、これからもネットワークを広げていきたいと考えています。具体的には、全国で1000台のトラックを走らせたいです