倒産
(画像=fotogestoeber/stock.adobe.com)
中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

中小企業などの開業率は、2000年代に入ってから増加傾向にあるが、同じように廃業率も高まっている。経営者の中には、事業承継が困難で廃業を決意する人もいるだろう。今回は、中小企業の廃業の状況についてデータを元に説明し、具体的な廃業手続きについても解説する。

目次

  1. 中小企業が廃業を考えるとき
    1. どんな企業が廃業を考えるのか
    2. 中小企業経営者が廃業を考える理由とは?
    3. 廃業の理想的なタイミングは?
  2. 具体的な廃業検討企業の内情
    1. 廃業の理由
    2. 廃業時の経営状態
  3. 廃業の流れ:会社を解散して清算する場合
    1. 会社の解散による廃業とは?
    2. 会社の解散による廃業の手続きの流れ
  4. その他の廃業の方法
    1. 破産
    2. 特別清算
  5. 廃業ではなく譲渡という選択肢もある
    1. 1.株式の譲渡
    2. 2.事業譲渡
    3. 3.合併
  6. 会社を上手に廃業させよう

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中小企業が廃業を考えるとき

中小企業が廃業を検討するのにはそれなりの理由がある。ここでは中小企業の廃業の検討について、データを交えながら説明する。

どんな企業が廃業を考えるのか

廃業を考える企業の特徴について確認してみよう。

・廃業を検討する企業の割合

中小企業庁の「中小企業白書 2017年版」によれば、廃業を検討する企業の状況は以下の通りとなっている。

廃業の意向あり未定
中規模法人2.1%30.2%
小規模法人7.9%34.1%
個人事業者26.0%30.8%

(出典:「2017年版 中小企業白書」この項目以下同じ)

ここで「廃業の意向あり」に該当するのは、事業を自分の代で廃業させたいと考えている経営者の割合である。

中小企業白書によると、事業規模が小さいほど、事業を自分の代で廃業させたいという意向が強いことがわかる。また、事業の将来についてまだ定まっていない経営者が、いずれの事業規模でも3割近く存在することを見ると、多くの企業は廃業について姿勢を定めていないことがわかる。

・廃業検討企業の財務状況

一般的に、廃業を検討する会社は、赤字であったり債務超過であったりするなど財政状態が悪いと考えがちである。

実際はどのような財政状態の会社が廃業検討するのか。中規模法人に限ってであるが、財政状態と廃業の意向についての調査もされている。

売上高経常利益率がマイナス債務超過
廃業の意向あり35.2%14.8%
廃業の意向なし13.5%8.1%

廃業の意向がある企業は、その意向がない企業に比べて財政状態が悪い企業が多いが、財政状態の悪さが、必ずしも廃業を決める理由と因果関係が深い訳ではないことが読み取れる。

中小企業経営者が廃業を考える理由とは?

財政状態のみが廃業の意向を決定する理由とは必ずしもならないのであれば、なぜ廃業を考えるのか。中規模企業を対象とした廃業の意向についての調査によると、主な理由は以下の通りであった。

業績が厳しい37.3%
後継者を確保できない33.3%
会社に将来性がない30.7%
もともと自分の代でやめるつもりであった30.7%
高齢のため22.7%

「業績が厳しい」という理由は最も多いものの、廃業検討理由全体の3分の1強にすぎない。

実際に廃業を考える理由は多種多様で、業績以外の理由で目立つのは、「後継者が確保できない」「会社に将来性がない」などの業績以外の内部事情によるものや、「自分の代でやめるつもりであった」「高齢のため」など自分自身の事情によるものである。

小規模企業や個人事業者の場合は、廃業を検討する理由で一番多いのは「後継者が確保できない」であり、廃業の意向のある小規模企業49.3%、同じく個人事業者53.4%であった。

すなわち、場合によっては続けられる要素はあるものの、それを捨てて廃業するケースが少なくないのである。

廃業の理想的なタイミングは?

では、経営者はどのような時に廃業するのが理想的と考えているのか。

廃業の意向のある中規模企業を対象とした調査によると、「何年後に廃業するか」という問に対する回答は以下の通りでなった。

1年以内7.8%
1年超から3年以内11.7%
3年超から5年以内13.0%
5年超22.1%
未定45.5%

結果を見る限り、事業を停止する具体的な時期について決めている経営者が少なくないことが読み取れる。

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具体的な廃業検討企業の内情

先程の項目では、廃業を考えている経営者への調査結果に基づいたデータであった。それでは、実際に廃業を決意して実行に至ったのはどのような会社だったのだろうか。

廃業の理由

やや古いデータではあるが、中小企業庁が2013年に行った「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」では、中小企業、小規模企業や個人事業主が廃業を決断した理由について、以下のような結果となっている。

経営者の高齢化・体力の問題48.3%
事業の先行きに対する不安12.5%
主要な販売先との取引終了7.8%

(出典:「2013年版 中小企業白書」この項目以下同じ)

経営状況ではなく、経営者自身の理由で廃業を決断することとなったことが伺える。

廃業時の経営状態

それでは、経営状態はどうであったのか。2019年度の東京商工リサーチの調査結果を参考に確認してみよう。

休廃業・解散する直前期の当期純利益が黒字61.4%
休廃業・解散する直前期の当期純利益が赤字38.6%

(出典:東京商工リサーチ『2019年「休廃業・解散企業」動向調査』)

廃業だけでなく休業のデータも含まれているが、赤字経営だからといって廃業になるとは限らないことが伺える。

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廃業の流れ:会社を解散して清算する場合

それでは廃業はどのような流れで行えばいいのだろうか。代表的な方法としては「会社の解散」がある。これは会社の営業を止めて、会社の法人格を消滅させる方法である。

ここでは、会社の解散による廃業の流れを説明する。

会社の解散による廃業とは?

会社は、株主総会を開くことによって会社を解散させることができる。

会社を解散させる方法としては、定款に定めている存続期間の満了などもあるが、株主総会によって解散させることによる廃業が一般的である。

また、合同会社であっても、総社員の合意などで解散、廃業することが可能であり、書面決議による解散も可能である。

会社の解散による廃業の手続きの流れ

株式会社の場合、会社の解散・廃業の手続きは、以下の手順で行うこととなる。

(1)株主総会による決議

まず、株主総会を開催して、発行済株式総数の過半数の議決権を有する株主が出席する必要がある。その上で、議決権の3分の2以上の決議が為されることで、株式会社は解散することとなる。

また、株主総会では、会社の清算を行うための清算人の選任を行うこともある。

(2)解散に関する法的手続き

株式会社が解散する場合、以下のような法的手続きが必要である。

1.登記

会社を清算すること、清算人が選任されたことを法務局で登記する。

2.公的機関への届け出

税務署、市町村役場、社会保険事務所、また、許認可のもと事業を行っている会社についてはその許認可を出した公的機関に対して解散・廃業する旨の届け出を出す。

3.財産目録と貸借対照表を作成する

解散時点での会社の財産の内訳を示す財産目録と、貸借対照表を作成する。作成後、株主総会の承認を経る。

4.債権者保護手続

会社の債務を把握するため、会社の債権者に対して官報を発行する。既に知られている場合は、個別に債権がある旨を申し出るように通知する。

5.解散確定申告書を提出する

会社の解散日から2ヵ月以内に、解散時の確定申告を行う。

6.残余財産の確定・分配

会社の資産の現金化や負債の返済を行い、最終的に余っている財産があれば分配を行う。

7.清算確定申告書を提出する

残余財産が確定したら、1ヵ月以内に清算確定申告書を提出し、納税すべき金額があれば納税する。

9.決算報告書の作成を行う

清算確定申告書を作成した後、決算報告書を作成して株主総会の承認を得る。これによって会社は正式に解散、廃業することとなる。

10.清算結了の届け出

会社の清算結了について、下記を行うことで、会社の解散手続きが終了する。

・法務局に対して清算結了の登記を行う
・税務署へ清算結了の届け出を行う

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その他の廃業の方法

中小企業が廃業させる方法としては、株主総会の決議によって解散させる方法が一般的であるが、その他にも方法はある。

ここでは、解散以外の廃業の方法として、破産と特別清算について説明する。

破産

「破産」とは、債務超過などで会社の存続が難しくなった企業に対して、すべての資産負債を清算することによって会社を解散させる手続きである。

通常、破産の手続きとしては、弁護士に依頼をして破産の申立や資産の保全などの手続きを経て、会社の資産と負債を清算する事で会社を解散させる。

特別清算

「特別清算」は、株主総会による会社の解散の過程で、債務超過の疑いがあるなどの理由により、通常の解散ができない場合に行われる特別な手続きである。

会社の解散の過程において裁判所に特別清算の申立を行い、債権者集会における決議を経て弁済を行った後に会社を解散させる。

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廃業ではなく譲渡という選択肢もある

ここまで、廃業という選択肢について書いたが、経営者が経営を止める場合には、廃業以外にも譲渡などの選択肢もあることを説明させていただきたい。

会社や事業を第三者に手放すには、以下の3つの方法がある。

  1. 株式や出資を他人に譲渡する
  2. 会社の事業用資産を他人に譲渡する
  3. 会社を他の会社に合併する

1.株式の譲渡

会社の株式を他人に譲渡することで、経営権を渡すという方法である。

一般的に、中小企業は株式を他人に譲渡するためには、株主総会または取締役会の承認を必要とするため、実際に譲渡する場合はこの手続を経て行うこととなる。

2.事業譲渡

会社の株式そのものではなく、会社の事業の一部または全部を外部に譲渡することによって、事業そのものを手放す方法もある。

事業を譲渡する側にとっては重要な資産の譲ることになるため、取締役会や株主総会の承認が必要となる。

3.合併

自社を他の会社に合併させることによって、事業を譲渡する方法もある。

株式の譲渡や事業譲渡に比べて、債務者保護の処理を行う必要があるなど手続きには手間がかかるが、場合によっては節税にもなるため、合併という選択肢も経営を止める方法の一つである。

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会社を上手に廃業させよう

今回は、会社の廃業について、どのような会社が廃業を検討して、実際に廃業に至るかを説明した。また、廃業をするための主な手続きを紹介し、廃業以外の選択肢もあることを示した。

会社は永遠に続くことが理想であるが、そうならないことが大半である。本稿を参考に、会社を無事に終わらせることができれば幸いである。

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文・中川崇(公認会計士・税理士)

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