「後継者をどうやって見つけたらいいか」「会社を後継者に引き継ぐためにはどうすればいいか」と悩んでいる経営者は多いだろう。後継者問題を解決しなければ、事業は存続できない。この記事では、中小企業白書に見る後継者問題とその解決策、および事例について詳しく解説していこう。
目次
後継者問題とは?
後継者問題は、特に中小企業において大きな課題となっている。近年、中小企業経営者の年齢は高齢化の一途をたどっており、後継者問題を解決できなければ、事業は廃業せざるを得なくなるからだ。
企業には、長年にわたって培われてきた技術やノウハウ、人材などがある。廃業すれば、それらはすべて失われることになり、同時に従業員の雇用も失われる。これは、その企業の損失であるだけでなく、日本の産業全体における損失であると言える。
後継者問題を解決するためには、時間をかけて事業承継の準備をし、円滑に行う必要がある。後継者の選択肢は大きく分けて、子どもなどへの「親族内承継」とそれ以外の「第三者承継」がある。第三者承継は従業員が昇格する「内部昇格」と、外部から経営者を招聘する「外部招聘」に分けられる。
後継者は、どんなに優秀であったとしてもすぐに経営者になれるわけではない。時間をかけて教育・育成するとともに従業員や取引先、金融機関などの理解を得ていくことが必要だ。
中小企業白書に見る後継者問題の課題
後継者問題については、中小企業庁が積極的に取り組んでいる。中小企業庁が発行する「中小企業白書」から、後継者問題の課題を見てみよう。
中小企業経営者の高齢化
中小企業白書が後継者問題として第一に挙げているのは、「中小企業経営者の高齢化」だ。下のグラフは、中小企業経営者の年代別の分布である。
【中小企業経営者の年代別の分布】
グラフで見るとおり、中小企業経営者の年齢のピークは1995年には「47歳」だったが、2018年には「69歳」と大幅に上昇している。69歳と言えば、間もなく引退する年齢だ。事業承継ができなければ、近いうちに廃業に追い込まれてしまう。
事業承継の準備不足
経営者が高齢化し、事業承継を速やかに行わなければならない状況であるにもかかわらず、その準備が進んでいないことも後継者問題の一つとして挙げている。下のグラフは、経営者の年代別に見た事業承継の準備状況である。
【経営者の年代別に見た事業承継の準備状況】
グラフを見ると、一般の会社員なら定年退職をする60代であっても、事業承継の準備を「あまりしていない」「全くしていない」「準備の必要を感じない」を合計すると6割近い。80代ですら約4割だ。中小企業における事業承継の準備は、「遅々として進んでいない」と言わざるを得ない。
下のグラフを見ると、廃業を決断した経営者のうち6割以上は、事業承継を検討すらしていないことがわかる。
【廃業を決断する前の事業承継の検討状況】
下のグラフは、「事業承継を検討したにも関わらず進められなかった理由」だ。「将来の業績低迷が予測され、事業承継に消極的」が最も多かったが、「後継者を探したが、適当な人が見つからなかった」が2番目に多いことがわかる。
【事業承継を進められずに廃業した理由】
「事業承継に関して誰にも相談しなかった」と回答した人が、相談しなかった理由として挙げたものをまとめたのが下のグラフである。
【事業承継に関して誰にも相談しなかった理由】
第1位は「相談しても解決するとは思えなかった」で、7割を超えている。近年は、官民のさまざまな機関が事業承継の支援に乗り出している。後継者問題を検討する際は、まずは誰かに相談してみることが重要であることを、このデータは示しているのではないだろうか。
後継者問題の解決策5選
後継者問題の解決策を見てみよう。後継者問題の最大の課題は、「後継者をどのように見つけるか」である。後継者を見つける方法には、以下のようなものがある。
1.親族内で後継者を見つける
後継者を見つける方法として第一に挙げられるのは、親族内で探すことだ。子どもや配偶者、親戚などの中から相応しい人材を後継者にすることができれば、後継者問題は解決に向けて大きく前進する。
親族内で後継者を見つけることのメリットは、利害関係者の理解を比較的得やすいことだ。日本では、会社を子どもなどの親族に継ぐことが多いため、従業員や取引先、金融機関なども理解を示してくれるケースが多い。
また、親族内で後継者を見つければ、時間をかけて後継者教育をすることができる。後継者を教育・育成するためには、最低でも3年はかかると言われている。親族ならば、会社で一緒に働きながらじっくりと後継者教育を施すことができるだろう。
親族を後継者にしようと思っても、経営者として適した人材が親族内に見つからないこともある。経営者には、やはりそれ相応の資質や能力が求められるからだ。
親族内に適格者がいた場合でも、本人から後継者になることを断られることがある。日本には、「子どもが家業を継ぐのは当然」と思われていた時代もあった。しかし、近年は職業選択や働き方に関する考え方が多様化しており、経営者の子どもでも経営者になることを望まない人は少なくない。
2.従業員の中から後継者を見つける
従業員の中から後継者を見つけるのも、一つの方法だ。一緒に仕事をしてきた従業員なら、その人材が経営者に相応しいかどうかも判断しやすい。技術やノウハウをすでに身につけている従業員なら教育も容易であり、利害関係者からの同意も得やすいはずだ。
ただし、従業員の中に適格者が見当たらないこともある。また、会社の後継者となるためには、経営者の資産を引き継がなければならない。子どもなどの親族なら、贈与や相続などによって資産を引き継ぐことができるが、親族以外の人間に贈与や相続を行うことは難しい。
経営者の資産を買い取ることができるほどの財力を持った従業員は、そうそういないだろう。この資産の引き継ぎが、従業員に後継者を見つける際に大きなネックとなるのだ。
3.外部から人材を招聘する
後継者問題を解決するために、外部から人材を招聘するという方法もある。すでに経営者として実績がある人材ならば、会社を安心して任せることができるだろう。
ただし、招聘しようとする人間が優秀であればあるほど、会社がシビアに見られることになる。事業内容に不安要素がある場合などは、断られることもあるだろう。また、外部から経営者を招聘する場合は、利害関係者の理解を得ることが難しくなることもある。
4.M&Aを行う
後継者問題を解決するために、M&Aを行うという方法もある。M&Aによって会社を売却すれば、従業員の雇用や培ってきた技術・ノウハウは守られる。また、オーナー経営者であれば売却益を得られるため、その後の人生を余裕を持って送ることができる。
ただし、この場合も買い手が見つからないことがある。企業が会社を買収するのは、自社に対して何らかのメリットがあるからだ。黒字で事業内容が良い、あるいは保有している技術やノウハウに強みがあるといったメリットがないと、買収先はなかなか見つからないだろう。
M&Aで会社を売却すると、事業は存続するが別企業の傘下に入ることになる。売却先企業の社風が大きく異なる場合、従業員の理解が得られないケースもある。従業員が会社売却に感情的になり、M&Aの情報が流出してしまうことなどに対する対策が必要になるだろう。
5.マッチングサイトを利用する
マッチングサイトを利用することも、後継者問題を解決する方法の一つだ。マッチングサイトとは、後継者問題に悩む経営者と会社を買収したい企業とをマッチングするサイトのことだ。さまざまな企業がサイトに登録しているため、売却先企業が見つかる可能性は高くなる。
ただし、売却先企業との相性をよく検討することが重要だ。サイトの情報だけでは社風まではわからないため、売却先候補企業の社長と面談を重ねて、相互理解に努める必要があるだろう。
後継者問題の事例
ここからは、後継者問題の事例を見ていこう。
内部昇格によって後継者問題を解決した製畳業者
宮崎県遠田郡美里町にある渡辺製畳株式会社(従業員10名、資本金2,800万円)は、後継者を血縁関係のない従業員である小高浩幸氏に決めた。小高氏が新入社員として入社した生え抜きで、仕事に対して最も熱心だったからである。小高氏も、先代社長の事業に対する姿勢を高く評価していたため、社長就任を受諾した。
先代社長が会長としてサポートしながら、小高氏への人脈の引き継ぎなども進めている。小高氏は、顧客からの信頼向上のため、従業員教育に熱心に取り組んでいる。会長・社長の二人三脚の取り組みが実を結び、事業承継以降は2年連続で増収増益となっている。
参照元:中小企業白書2014
外部招聘により後継者問題を解決した製造業者
群馬県伊勢崎市にある板金加工や木材加工などの製造業者である株式会社サンオン(従業員15名、資本金1,500万円)は、親族内に後継者を見つけることができず、取引先企業に勤務していた千本木順一氏に打診をした。千本木氏の人柄や、仕事での実績を高く評価していたからだ。千本木氏は、前社長である大倉國威氏から長年にわたって受けてきた厚遇に対する感謝の意から、申し出を受け入れた。
取引先から信頼を得るのに多少の時間がかかったものの、千本木社長は工場移転や事業拡大、新技術開発などに積極的に取り組み、事業承継後は4年連続で増収増益を果たしている。
参照元:中小企業白書2014
後継者問題にはしっかりと取り組もう
多くの中小企業で課題となっている後継者問題。後継者問題を解決するためには、しっかりとした準備を、時間をかけて行う必要がある。
近年は、後継者問題を支援する官民の機関が増えている。取引先の金融機関に相談してみることも、後継者問題を解決するきっかけとなるだろう。
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文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)