会社経営や事業運営する上では、経営状態の把握が最も重要である。特に会社が赤字か黒字かといった事は、今後の企業活動にも大きく影響する。ここでは赤字に着目し、損益計算書などの決算書から判断する赤字の詳細や、赤字から企業活動をどのように分析するかについて説明する。
目次
赤字とは何か?
赤字と言ってもさまざまな意味がある。一般的にはどのように捉えられているのであろうか。赤字は、デジタル大辞林では以下のように記されている。
赤字【あか-じ】
(略)
2 《簿記で不足額を表す数字を赤色で記入するところから》支出が収入より多いこと。欠損。赤。⇔黒字。
(略)
デジタル大辞泉より
つまり、現金の支出のほうが収入より多いことが赤字とされている。
では、会計上での赤字はどうであろうか。会計上では、簡単に言えば、売上よりも費用のほうが多い状態とされており、実際の現金の出入りは考慮されない場合が多い。
ただ、現金の流れがわからないと資金繰りを把握できないため、キャッシュ・フロー計算書や資金繰り表で現金の流れを把握して、赤字であるか否かを判定することもある。
ここでは、損益計算書やキャッシュ・フロー計算書などの、会計処理上の赤字について説明する。
損益計算書の段階で赤字を読み解こう
損益計算書上の赤字は、売上などの収益よりも費用が多い状態を指している。つまり、経営上は、売上よりも経費が多い状態にあると認識いただければおよそ間違いはない。
ただし、損益計算書は「経営損益の部」や「特別損益の部」など、いくつかの項目が段階的に分かれており、それぞれの段階で以下のような利益を算出する。
赤字の意味合いは損益の部で異なる
ただし、損益計算書は「経営損益の部」や「特別損益の部」など、いくつかの項目に分かれており、それぞれの項目で以下のような利益を算出する。
- 売上と売上原価からなる売上総利益(粗利とも言う)
- 売上総利益から販売費や一般管理費を差し引いた営業利益
- 営業利益に営業外収益を足し、営業外費用を差し引いた経常利益
- すべてを加味した当期純利益
それぞれの項目によって赤字にはさまざまな意味合いがある。
売上総利益の段階での赤字
売上総利益は売上から売上原価を減算した数値であり、「粗利」とも呼ばれる。小売業や卸売業の場合は仕入れた品物の中で売れた分の費用を、建設業やソフトウェア業の場合は売上に対応する制作費等を差し引いて計算する。
理屈の上では、この時点で赤字になることはほとんどない。経営上は、赤字になることを見越してものを仕入れたり、業務を引き受けたりすることはほとんどないからである。
逆に言えば、この時点で赤字となっていれば、年間を通じて商品やサービスの値段の付け方が、経営上正しくないことになる。
営業利益の段階での赤字
営業利益は、売上総利益から販売費や一般管理費を差し引いて算出する。
事業運営においては、商品の仕入れ・販売や建設物やソフトウェアの作成・販売のみを行うばかりではない。商品やサービスを紹介するための広告宣伝活動や、総務や人事といった付随する活動も行わなければ、事業そのものを支えることはできない。
営業利益は、こうした付随する活動も考慮した上で、本業で実際にいくら経費がかかったかを示す数値でもあるのだ。
営業利益はその会社や事業の本業について、どれだけの成績が挙げられているかを示す。営業利益が赤字である場合は、事業経営が順調でないと判断されるため、注目されやすい項目である。
経常利益の段階での赤字
経常利益は、営業利益からほとんど毎年発生する経常的な収益(営業外収益)や経費(営業外費用)を加減算して算出する利益である。
経常利益の算定において考慮されるものとしては、例えば営業外収益には、預金利息や保有する株式の配当金、保有する有価証券の売却益が含まれる。営業外費用には、支払利息や保有する有価証券の売却損などが含まれる。
営業利益との組み合わせで、経常利益が赤字の場合には、さまざまな意味合いがある。
例えば、経常利益が赤字であっても営業利益が黒字の場合。借入金の利息が多い、保有していた有価証券を売却した事による損失が生じたなど、本業以外の部分の理由で経営が圧迫されているものと捉えられる。
逆に経常利益が黒字であっても営業利益が赤字となっている場合は、本業が不調で有価証券の売却益などで穴埋めしているなどの理由が考えられる。
いずれにしても、営業利益と経常利益のどちらかが赤字である場合には、その理由を明確にした上で、次年度の経営活動に活かす必要がある。
当期純利益の段階の赤字
当期純利益は、経常利益に特別利益を加算し、特別損失と法人税等の金額を差し引いて算出する。
特別利益や特別損失は、通常の事業活動以外で発生するものである。経常利益に含まれる営業外収益や営業外費用がほぼ毎年発生されるものに対し、特別利益や特別損失は、特別な要因で一時的に発生するものである。
特別利益に含まれるものとしては固定資産の売却益や補助金の受贈益があり、特別損失には固定資産の売却損、災害による損失やリストラに伴う費用などがある。
法人税等は、法人税や法人住民税、事業税など利益に関連する金額によって税額が決まる税金を示す。法人税以外の税金である印紙税や消費税などは、販売費及び一般管理費に分類される。
経常利益の段階では黒字であったのにも関わらず、当期純利益の段階で赤字になった場合は、要因は二通り考えられる。
まず、特別損失が発生した事による一時的な要因で赤字であり、次期以降では黒字になる可能性が大きいことがある。
次に、黒字であったが、黒字額が小さく、税金が原因で赤字に転落した事が挙げられる。この場合は、次期以降に本業で収益を回復させなければ、また赤字が続く可能性がある。
経常収益の段階では赤字であったのにも関わらず、当期純利益の段階で黒字になった場合、特別利益の発生により一時的な要因で黒字になったものと考えられるため、次期以降は収益を改善する必要がある。
キャッシュ・フロー計算書の赤字
会社の決算書の中にはキャッシュ・フロー計算書があり、会社の現金の流れを以下のように分類するという役割がある。
- 本業などの活動によって生じる営業活動によるキャッシュ・フロー
- 固定資産の購入など投資活動によって生じる、投資活動によるキャッシュ・フロー
- 融資や株式の発行など財務活動によって生じる、財務活動によるキャッシュ・フロー
に分けられる。
このキャッシュ・フロー計算書でも、赤字は算出される。
営業活動によるキャッシュ・フローが赤字だとまずい
キャッシュ・フローで特に注意すべきものは、営業活動によるキャッシュ・フローである。主に本業での活動でどれだけ現金の収入があったのかを表すものであり、赤字の場合は現金の支出が多く本業ではお金を稼げなかったことになる。
もっとも、一過性の理由により資金繰りに窮していることもあるが、何期も赤字が続くようであれば警戒が必要となる。
投資活動や財務活動によるキャッシュ・フローの赤字は気にしなくていい
他の二つについては、営業活動によるキャッシュ・フローほど気にする必要はない。これは、本業以外のところで投資活動や財務活動をどれだけ行っているかを表しているに過ぎないためである。
赤字になってしまう3つの理由
それでは経営が赤字になってしまうのには、どのような理由があるのか。いくつか要因を説明する。
1.事業が順調にいかないために赤字になる
ごく当たり前のことであるが、営業利益や経常利益が赤字になる場合は、事業がうまくいっていないことが理由に挙げられる。
事業が順調ではないと判断される場合は、決算書などを用いて、営業赤字や経常赤字になっている要因の分析をして、次年度以降に対応していく必要がある。
2.突発的な出来事で赤字になる
経常利益の段階では黒字であったものの、当期純利益を計算したときに赤字になった場合は、経常利益が小さすぎた事も考えられるが、突発的な事象で赤字になったケースが多い。
あくまで一時的な赤字であると考えられ、次期以降は黒字に転換する場合が多く見受けられる。
3.あえて赤字にする場合
リストラなどを行って不採算事業を売却することによって、あえて赤字を計上することもある。
不採算事業の売却などは、後に黒字化することによって将来の税金を減額するといった経営上の狙いがある事が多い。
赤字だと企業は倒産するのか?
会社が赤字だと倒産になるのかという疑問があろうが、赤字になれば即倒産するわけではない。
会社の倒産は資金の行き詰まりによって発生する。会社の倒産についての記事で「資金繰りが行き詰まった」という表現を見た事があるだろう。
しかし、赤字が続いていても存続している例は、上場企業でも見られる。その中には10年以上赤字が続いているのにも関わらず、倒産はおろか上場廃止にもなっていないケースもある。資金繰りに注意する事で、赤字であってもしばらくは経営を続ける事ができるのである。
ただし、赤字経営の会社の場合は、銀行から融資を受けようにも返済に問題があるものとされて、借り入れが難しくなるというデメリットもある。
赤字になった場合はどうすればいい?
赤字になった場合には、経営の改善を第一に考える必要がある。
損益計算書のどの段階で赤字になったかにもよるが、営業利益や経常利益の段階での赤字ならば、経営自体を見直すことが必須である。当期純利益で赤字になったならば、経営の改善とまではいかないまでも、次年度以降にも同じような損失が発生しないかといった見直しは必要である。
赤字対策として経営改善を行うには、まず決算書の数字を分析して経営上で非効率な点を確認しなければならない。会社の業績の結果は、決算書の数字に素直に現れるものであり、事業を行う上で何が起こっているのかを判断するために最も役立つのである。
粉飾決算などは論外であるが、会社を黒字にするには、赤字の原因を分析して小さな改善を積み上げる以外ないのである。