アジアの金融センターといえば「香港」だ。その香港が中国政府の締め付けによって情勢が不安定になっており、早くも「ポスト香港」について関心が高まりつつある。日本の首都である東京も有力な候補の1つだが、大阪や福岡もあり得るという声も挙がっている。
国際金融センターインデックスの最新結果
イギリスのシンクタンクであるZ/Yenグループは、毎年3月と9月に「国際金融センターインデックス」(GFCI)を公表している。この調査においては、香港がアジアで首位である状況が続いていたが、27回目となる2020年3月の調査で、香港はアジア1位から陥落した。
<総合順位>国際金融センターインデックス 2020年3月データ
1位(1位):ニューヨーク(アメリカ)
2位(2位):ロンドン(イギリス)
3位(6位):東京(日本)
4位(5位):上海(中国)
5位(4位):シンガポール
6位(3位):香港
※()内は前回調査順位
前回アジア1位だった香港が、東京と上海、シンガポールに抜かれ、アジア4位にまで順位を下げている。世界3大金融センターの一角を担っていた香港の順位は、なぜここまで急落する結果となったのだろうか。
その理由は、香港で続いたデモの影響だとされている。中国政府は、反中デモや民主化運動の抑え込みを狙い、「香港国家安全維持法」の施行を目指した。これに反発する香港の人々が大規模なデモを続け、香港の治安や経済は安定性を欠く事態となった。
2020年6月に香港国家安全維持法が施行されて大規模なデモは減ったものの、現在も民主派議員や民主化運転に加わった人物が逮捕・拘束されるなど、きな臭い状況が続いている。そんな中、すでに拠点を香港から移すことを検討している金融機関や民間企業が増えている。
「ポスト香港」で考えられる都市は?
では、香港がアジアの金融センターでなくなったとすれば、どの国のどの都市が受け皿となるのだろうか。国際金融センターインデックスの結果を参考にするなら、東京と上海、シンガポールなどが有力な候補だと言える。
この3都市では、いずれも多くの国の金融機関や企業が拠点をすでに構えており、ポスト香港の受け皿には十分なり得る。東京はシンガポールに比べれば、外国人の生活インフラの整備などが必要になると考えられるが、大きな障害にはならないだろう。
東京都としても、ポスト香港として東京がアジアの金融センターになれば、経済のさらなる活性化とそれに伴う税収増などが期待できるため、外国企業の誘致に向けた制度の見直しなどに積極的に取り組むはずだ。
しかし、ポスト香港となる都市は、もしかすると東京でも上海でもシンガポールでもないかもしれない。にわかに注目度を高めているのが、大阪や福岡だ。
大阪・福岡はあり得るのか?
国際金融センターインデックスの最新調査では、大阪は総合順位で59位、アジア域内では16位に位置している。順位が良いとはお世辞にも言えないが、前回調査では総合順位が27位と好位置につけており、注目度は決して低くない。
大阪では「大阪都構想」の是非をめぐり、2015年に実施されてから2度目となる住民投票が実施されることが最近決まったばかりだ。二重行政の解消などを通じた財政の健全化は、確実に地元経済にも良い影響をもたらすと考えられ、大阪への評価はより高まるはずだ。
では、福岡はどうか。東京や大阪と比べると経済規模がかなり小さい一方で、次世代サービスの導入などに行政側が積極的なこともあり、スタートアップ企業やベンチャー企業の誕生が目立つ。そのため、将来を考えると福岡はさまざまな可能性を有している都市だと言える。
一部週刊紙の報道によれば、菅義偉官房長官が大阪や福岡に特区を作り、国際的な金融機能を持たせようとしている動きもあるという。週刊紙の報道は、優秀な人材もこの両都市に集め、将来的にはポスト香港とさせることを狙っているという論調だ。
菅官房長官の狙いについては確定的なことは分からないが、菅氏が安倍首相辞任後の次期首長の有力候補となっていることを考えると、週刊紙報道におけるこうした菅氏の意向が本当であるのなら、今後大阪と福岡の金融機能はかなり高まっていくことも考えられる。
コロナ終息後に「ポスト香港」争いが本格化?
前述の通り、アジアの金融センターになったときに、その都市にもたらされる恩恵は非常に大きい。香港の不安定化が続けば続くほど、各都市が他国の金融機関や企業を招致する動きが活発化していくと考えられる。香港には悪いが、ほかの都市にとってはチャンスなのだ。
ただ、少なくとも新型コロナウイルスが終息するまでは、金融機関も企業も拠点を移すなどの動きは難しい。そう考えると、ポスト香港を巡る動きは2021~2022年に本格化するとも考えられる。東京、上海、シンガポールが有力候補だが、大阪・福岡もこの「ポスト香港」争いに手を挙げるのか、今後の各都市の動向に引き続き注目していきたい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)