(本記事は、中山 亮氏の著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』2020年8月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
マニュアルは教育ツールそのもの!
では、実際にマニュアルを会社に導入すると、どんな効果があるか、お話ししていきましょう。
まずは「業務の標準化」です。
マニュアルがない現場では、業務は個人の判断、個人の裁量に頼った運用になります。
これでは、仕事をする人によって業務のクオリティに差が出てしまい、リソースのムリ・ムラ・ムダにつながります。マニュアルを導入することで、属人的なやり方を統一し、業務のクオリティを均一化することができます。このあたりについては第一章でも触れていますので、改めて多くは語りません。
さらに、マニュアルは、教育ツールそのものです。
実際に、教育を目的にマニュアルが作られるケースがとても多いんです。
教育をなおざりにすると、どんどんその人にしかわからないノウハウが増え、その人にしかできない仕事が増えていきます。
ノウハウを個人に残してしまっては、属人性が高まるばかりです。マニュアルは型であり、基本です。会社や業務の基準が詰まっています。基本・基礎を教えるための教科書として、ボトムアップの手段として、マニュアルは最適なツールなのです。
また、マニュアルがあることで、教える側のスキルや知識に左右されることがなく、教える内容に個人差がなくなるので、″ブレない″教育ができます。マニュアルによって、どこがわからないのか、どこをフォローしてあげればいいのかが明確になるので、学ぶ側も理解に個人差がなくなります。そして、仕事の流れが最初から把握できるので、「どうしたらいいかわからない」という不安や悩みがなくなり、結果として離職率の低下にもつながります。これは、実際にマニュアルを導入していただいたクライアントの実績からも明らかです。
ところが、中小企業で、教育を大切にしてマニュアルを整備しているところはまだまだ少ない。
教育にマニュアルは絶対にあるべきなんです!
ただし、教育にマニュアルを使う場合は、使い方も重要です。
新人等に仕事を教えるときには、必ずマニュアルを教材にして指導(トレーニング)を行います。教育の担当者が誰になっても、マニュアルを使うというやり方を変えてはいけません。
そして、たとえばマニュアルが100ページあったら、書かれている内容全部をそのとおりにさせます。
「ここは、この部分のやり方だけでいいから」などと言って、どこかを省いたりしてはダメです。
本来、マニュアルには不要な内容なんてありません。
やるべきことだから、マニュアルに書いてあるんです。
だから、100ページあるマニュアルなら、100ページ全部を実践する。
そうやって、型を徹底的に身につけさせることが大切です。
基本の型に立ち戻るから進化できる
プルデンシャル時代に、何千万も稼ぐトップ営業を何人も見てきましたが、彼らに共通しているのは、営業の基本・基礎が、早く正確にできることです。
たとえば、お客様に初めてお会いしたときの挨拶からして違います。新人なんか足下にも及ばないほど、明瞭明快。
出してくる書類にも、ミスはひとつもない。
マニュアルに書かれている基礎中の基礎がすべて身についているんです。
気持ちが悪いほど完璧です。
彼らは、型=基本が確実に身につき、しっかりした土台ができあがっているからこそ、センスや応用が生きてくる、ということを体現していました。
営業のみならず、人は仕事に慣れてくると、勝手に基本を曲げてしまい、気がつけば基本から離れたことをやるようになります。
そして、そのせいでスランプに陥ってしまう。世の常です。
僕がかつて″マニュアル人間″の後輩に負けたときも、やはり自分のやり方、アレンジを加えてしまったからでした。
型=基本を身につけ、常にその基本・基礎を確認し、初心に戻ることは、どれほどキャリアを積んでもやらなければならないことです。
プルデンシャルのトップ営業たちも、機会があるごとに必ずマニュアルを読んでいます。どんなにベテランでも、です。彼らに聞くと、マニュアルを読むたびに、前に読んだときと感覚が変わると言います。同じようにやってきたつもりでも、いつの間にか基本のとらえ方が変わってしまっていることに気づくそうです。
なんかうまく売れちゃうから、気がついたら言葉とかやり方を省略していた。でも、マニュアルを見ると、やっぱり必要な言葉だし、省いちゃいけない手順だと気づく。「しまった、変わっちゃってたよ、自分」と。
そうやって、トップ営業は常に自分の営業スタイルを振り返っています。
教育用に用意されたマニュアルですが、そこに書かれているのは″王道ルール″である営業ノウハウです。
営業の型=基本です。ムダなことはひとつもなく、省略できることは何もない。
ベテランやキャリアの営業も必ず戻ってくるマニュアル。
そんなマニュアルで教育をする価値、おわかりいただけますよね。
引き継ぎがうまくいかない?それはマニュアルがないからだ!
社員が異動したり、休職や退職するにあたって、後任の誰かに業務を引き継ぐ。会社なら必ず訪れるシーンですね。
よく、異動や休職・退職する本人が引き継ぎの資料を作るケースがありますが、たいていはあまり精度の高いものには仕上がりません。
だって自分はもういなくなるわけですから、そこまで気を遣って作ることはしない。
「わからないことがあったら連絡してね」
と言い残していく人もいますが、実際に連絡が来たら、正直迷惑ですよね(笑)。
マニュアルは、この「引き継ぎ」の場面でも威力を発揮します。
引き継ぎは教えることに等しいですよね。
前述の「教育」と同じ考えです。
ポイントは、異動や退職が決まってから、改めて引き継ぎマニュアルを作り始めるのではなく、日常的に使うマニュアルとして整備しておくこと。たとえばそれが営業マニュアルなら、取引先のリストも常に更新して最新の情報を保っていれば、急に引き継ぎすることになってもスムーズです。特に業務関係のマニュアルは内容の肉づけもしやすいので、一度整備すれば、その後の運用はそれほど大変ではありません。
ちなみに、お勧めしたいのは、新しい業務を始めるときに、マニュアルも一緒に作ること。そうすれば、業務を終えた時点でマニュアルもできあがるからです。
そして、次にその業務にあたる人は、前任者に教えてもらうのではなく、そのマニュアルを見ながら取りかかる。内容が違っていたり、手順を変える必要があれば修正する、という運用をしていけば、慌てて引き継ぎマニュアルを作ることはありません。
つまり、常に使っているマニュアル=引き継ぎマニュアルになる環境を整えておけばいいんです。
また、引き継ぎに対応できるマニュアルが整備されているということは、「リスク対策」にもつながります。
会社でその人だけしかやっていない業務があるとします。
全部を任せていて、ほかの人には、普段その人がその業務をどうやってこなしているのかわからない。
ある日、突然その人が来なくなったらどうしますか?
人が会社に来なくなるのは、何も会社を辞めるときだけじゃありません。病気や事故、あるいは休暇でどこかに行っていたら災害か何かがあって、交通手段が途絶えて戻ってくることができない、なんてこともあり得ます。
そうなったら大変です。業務が止まります。
もっとコワいことも考えられます。
たとえば経理担当者が横領していたとか、集金業務の担当者が集金した現金を着服した、なんてニュースもよくありますよね。これも、その人だけにしか業務の中身がわからない状態になっていることが大きな要因です。
業務を担当者一人に任せてしまったがために、属人的になり、ブラックボックス化して、いざというときに対応できずに慌ててしまう。
そんな状況に陥るリスクを回避するためにもマニュアルは役に立ちます。
事業承継のお供にもマニュアルを!
マニュアルは事業承継者の武器にもなります。
僕はプルデンシャル時代に、相続・事業承継という分野で生命保険の提案を行っていました。
相続・事業承継の対策は、跡継ぎに今の資産をできるだけ多く残すためにどうしたらいいかということを、親子二世代、もしくは三世代で話し合います。
前職でそんなことをしていたため、今でも親の会社を継ぐ息子さん、娘さん、つまり二代目、三代目社長さんたちと食事をすることが多いんですが、彼らから聞く話は社内での苦労話がとても多い。
そうした苦労をしている事業承継者というのは、そもそも責任感が強く、学びにも積極的だし、やる気があって優秀で、先代のやり方を今の時代に合うように変えていこう、もっとよくしていこう、と考える方ばかりです。
みなさん、引き継いだ会社の売上げ向上(新規事業の立案など)や業務改善(人員・業務の効率化、コストカットなど)を断行していらっしゃいます。
でも、痛みを伴う改革も含まれるわけで、既存の社員や役員の受けはよくないことが多い。
「孤軍奮闘とは、彼らのような方々にふさわしい言葉だな」と思いながら、僕は業務改善という切り口で、マニュアル整備の話をよくします。
マニュアルを整備するといろんなことが見えるんです。
マニュアルを作るために、業務内容の洗い出しをすれば、課題となっている業務がハッキリします。
また、実際にマニュアルを作る中で、現場からノウハウのヒアリングをすれば、業務の全容が見えて、結果的に非効率な業務や人材の配置ミスに気づくことができます。また、組織としての教育システムの成熟度も見えてきます。
マニュアルにはこんなに効果があるんですが、事業承継者の方々は、業務改善の意識が非常に高い割に、業務改善に直結する「マニュアル整備」という手法をご存じないことが多いんですよね。
ぜひ、マニュアルを事業承継のお供にしていただきたいと思います。
必ず役に立つ、心強い味方になりますよ。
中小企業やベンチャー企業こそマニュアルを持つべし!
事業承継者に限らず、世の中にはまだまだ、マニュアルの真価を知らない経営者がたくさんいます。
マニュアル整備は必ず会社にプラスになります。
マニュアル整備は、理論と手法を用いて、徹底してやれば、必ず業務改善がなされます。
実際、私がマニュアル整備について説明した後では、
「マニュアル整備なんてダメ、やらないよ」
なんて反対意見をもらったことはありません。
「でも、うちは会社の規模が小さいから、マニュアルを導入する必要はないかな」
「うちはベンチャーなんで、変化が激しくてマニュアル化はできないですよ」
中小企業やベンチャー企業の経営者からは、そんな言葉を聞くことがよくあります。
でも、マニュアルに会社の規模や業務内容は関係ありません。大企業にはマニュアルがあるもの、と思っている人も多いようですが、実はそんなことはないんです。
たとえば、ビジネスモデルが尖っていたり、珍しかったり、あるいは営業が強かったりすると、売上げが一気に伸びる会社があります。そうやって勢いに乗って大きくなるのはいいんですが、組織が大きくなったからマニュアルでも作ろうかと思っても、人が多くなればなるほどマニュアル化は大変になります。
社長や会長の鶴の一声で、トップダウンで社員に言うことを聞かせられる、というワンマン会社ならいいですが、そうでなければ、要は″脳みそ″がたくさんできてしまって、その状態で標準化して足並みを揃える、というのはキツイものです。だから、売上げはすごいけど、会社の内情はバラバラで非効率、という大企業も少なくありません。
「会社が小さいからマニュアルはいらない」
ではなく、
「会社が小さいうちにマニュアルを整備しておくべき」
なんです。
それに、今はなかなか優秀な人材が集まらない時代です。
そして、優秀な人材ほど辞めていってしまいます。
これは大企業でさえ悩んでいる現象ですから、中小企業やベンチャー企業ならなおさらです。
いい人材を採りたい。優れた人材を開発したい。
そう考えるなら、やっぱり役に立つのがマニュアルです。
マニュアルには、人を育てる、動かす仕組み、勝てる法則を浸透させる機能があります。
言ってみれば、マニュアルは教科書・引継書・役割定義書・基準書のすべてを兼ね備えた存在です。
適切なマニュアルがあれば、新人教育で仕事の型を身につけさせることができます。
マニュアルどおりに動くことで、普通の人材に優れた仕事をしてもらうことができます。
そして、その人は早期に戦力化します。
また、そのように「人材育成が整った会社」というイメージは人を惹きつけ、採用にもつながるようになります。
中小企業やベンチャー企業こそ、採用や人材育成につなげるためにも、マニュアル整備が効果を発揮します。
内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー
長崎大学大学院を修了後、株式会社アルファシステムズに入社。SEとして従事。その後、株式会社リクルート、プルデンシャル生命保険株式会社に勤務。住宅情報誌の提案営業でのMVP受賞、業界の上位1%の保険営業マンに贈られるMDRTの称号などを獲得後、部下のマネジメント業務を行いながら組織づくりにおけるマニュアルの重要性に気づく。しかし、多くの企業に戦略的なマニュアルが無く、そのことで生産性が妨げられ、人材の活躍までも妨げられている事実に気づき、2014年、企業の人材育成や業務の改善を、マニュアル導入によって実現するサービスを発案し、株式会社2.1を創業。代表取締役に就任。これまで500社以上の企業に対し、マニュアルによる業務改善を行い、2019年より、内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザーに就任。
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