Q&Aみなし配当のすべて
(画像=denisismagilov/stock.adobe.com)

(本記事は、伊藤 俊一氏の著書『Q&Aみなし配当のすべて』=ロギカ書房、2020年7月31日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

Q1―1 みなし配当とは

みなし配当とは何か教えてください。

Answerーーーー

ここでは定義を説明します。

【解説】

法人が内部留保を利益剰余金の配当によって株主に還元すると、株主は受取配当金として認識します。

一方、利益剰余金の配当以外の事由によっても、内部留保を株主に還元することで取引として成立します。

ここで、株主は、配当金として受け取ったわけではないのに配当金を受け取ったのと同様の経済的効果を得ていることになります。これがみなし配当です。

Q1―2 みなし配当の取扱い

みなし配当の具体的な取扱いを教えてください。

Answerーーーー

ここでは、みなし配当の原則的取扱いと例外についてみていきます。

【解説】

租税法における実質主義から要請されますが、当該取引により、配当金を受け取ったのと同様の経済的効果があった場合、それをみなし配当と認識し、受取配当金として処理します。

法人では、次の2つの区分に応じて処理をします。

①みなし配当部分
…配当金の支払いと認識、利益積立金を減額処理

この部分は、通常の配当と同様、所得税及び復興特別所得税の源泉徴収及び納付が必要になります。

②資本の返還部分
…株主に対して拠出された部分は、資本金等の額を減額処理

一方、株主側では会社の処理に対応し、交付を受けた金銭等の額を、原則として下記の2つに区分して処理することになります。

1 )みなし配当部分
…受取配当金

2 )拠出資本の回収部分
…株式の譲渡損益

上記が原則的処理です。しかし、みなし配当を認識しないなど特例的な処理が適用される場合もあります。

Q1―3 会社法の配当との関係

会社法の配当との関係を教えてください。

Answerーーーー

下記です。

【解説】

会社法では、会社財産の払戻しを剰余金の配当として規定していました。剰余金の分配可能額は、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額から自己株式の帳簿価額など一定の額を減算した金額とされています(会社法461②)。

(会社法第461条)
【配当等の制限】
第461条 次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。
一 第138条第一号ハ又は第二号ハの請求に応じて行う当該株式会社の株式の買取り
二 第156条第1項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第163条に規定する場合又は第165条第1項に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。)
三 第157条第1項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得
四 第173条第1項の規定による当該株式会社の株式の取得
五 第176条第1項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り
六 第197条第3項の規定による当該株式会社の株式の買取り
七 第234条第4項(第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による当該株式会社の株式の買取り
八 剰余金の配当
2 前項に規定する「分配可能額」とは、第一号及び第二号に掲げる額の合計額から第三号から第六号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう(以下この節において同じ。)。
一 剰余金の額
二 臨時計算書類につき第441条第4項の承認(同項ただし書に規定する場合にあっては、同条第3項の承認)を受けた場合における次に掲げる額
イ 第441条第1項第二号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
ロ 第441条第1項第二号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
三 自己株式の帳簿価額
四 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
五 第二号に規定する場合における第441条第1項第二号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
六 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

これに対し租税法では、配当等の額について、従前は利益の配当又は剰余金の配当とされていました。しかし、会社法の施行に伴う、平成18年度税制改正で、剰余金の配当(株式又は出資に限るものとし、資本剰余金の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを除きます。)若しくは利益の配当(分割型分割によるものを除きます。)又は剰余金の配当(出資に係るものに限ります。)とされました。

この相違が原因で、
○従前、商法で認められていたその他資本剰余金の株主への分配が租税法では、利益の配当とされていた

○平成18年度税制改正により資本剰余金を原資とする分配は本来の配当から除外されたと取扱いが変わりました。

株主等に対する金銭等の分配のうち、利益剰余金を原資とするもの以外のもので資本金等の額に対応する部分の金額を超える金額は配当の額と「みなす」規定となりました(法法24)。

(法人税法第24条)
【配当等の額とみなす金額】
第24条 法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この条において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあっては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の資本金等の額又は連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、第23条第1 項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなす。
一 合併(適格合併を除く。)
二 分割型分割(適格分割型分割を除く。)
三 株式分配(適格株式分配を除く。)
四 資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち分割型分割によるもの及び株式分配以外のもの並びに出資等減少分配をいう。)又は解散による残余財産の分配
五 自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第2条第16項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第61条の2第14項第一号から第三号まで(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)
六 出資の消却(取得した出資について行うものを除く。)、出資の払戻し、社員その他法人の出資者の退社又は脱退による持分の払戻しその他株式又は出資をその発行した法人が取得することなく消滅させること。
七 組織変更(当該組織変更に際して当該組織変更をした法人の株式又は出資以外の資産を交付したものに限る。)
2 合併法人が抱合株式(当該合併法人が合併の直前に有していた被合併法人の株式(出資を含む。以下この項及び次項において同じ。)又は被合併法人が当該合併の直前に有していた他の被合併法人の株式をいう。)に対し当該合併による株式その他の資産の交付をしなかった場合においても、政令で定めるところにより当該合併法人が当該株式その他の資産の交付を受けたものとみなして、前項の規定を適用する。
3 合併法人又は分割法人が被合併法人の株主等又は当該分割法人の株主等に対し合併又は分割型分割により株式その他の資産の交付をしなかつた場合においても、当該合併又は分割型分割が合併法人又は分割承継法人の株式の交付が省略されたと認められる合併又は分割型分割として政令で定めるものに該当するときは、政令で定めるところによりこれらの株主等が当該合併法人又は分割承継法人の株式の交付を受けたものとみなして、第1 項の規定を適用する。
4 第1項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額の計算の方法その他前三項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

会社において、みなし配当となる金額は、租税法では、原則として利益積立金額の減算処理となります。したがって、みなし配当となる金額の計算を誤ると、租税法上の資本金等の額及び利益積立金額の計算の両者に間違いが生じます。

Q1―4 みなし配当の類型の基本部分と改正変遷

みなし配当の類型について基本的部分における改正変遷を教えてください。

Answerーーーー

下記となります。

【解説】

みなし配当発生原因は条文において限定列挙されています。平成13年度税制改正により、みなし配当の発生要因について、株主等に対して金銭等の払戻しが行われた場合に限定されることとなり(ただし、抱合株式は除外されています。)、配当等とみなされた利益の資本組入れのように、株主等に対して金銭等の払戻しがない場合には、みなし配当は生じません。

会社法の施行に伴う、平成18年度税制改正でのみなし配当の発生事由について規定の見直しがなされたものの、先述と基本的な考え方は同じです。

Q1―5 みなし配当の類型

みなし配当の類型について教えてください。

Answerーーーー

下記となります。

【解説】

株主等が株式発行法人から次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(適格現物分配においては、交付直前の資産の帳簿価額)が株式発行法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分はみなし配当となります。

前掲、(法法24)(配当等の額とみなす金額)の限定列挙事由に該当した場合、認識します。

Q1―6 合併とみなし配当

合併とみなし配当について教えてください。

Answerーーーー

合併(適格合併を除く、所法25①一、法法24①一)については、下記の取扱いが原則です。

【解説】

適格合併は除かれています。適格合併の場合、被合併法人の利益積立金額が合併法人に引き継がれ、株主に分配されないからです。

一方で、非適格合併の場合、被合併法人の利益積立金額は引き継がれません。合併法人が被合併法人から取得した資産、負債の時価純資産価額は資本金等の額となります。

この場合、被合併法人の利益積立金額は合併時点において、株主等に対して、みなし配当されたと考えます。この被合併法人の利益積立金額とは移転資産の譲渡益相当額を含めた利益積立金額です。

なお、中小企業の実務では非適格合併になることは大変稀なため、あまり考慮する事項とはいえません。

Q1―7 分割型分割とみなし配当

分割型分割とみなし配当について教えてください。

Answerーーーー

分割型分割(適格分割型分割を除く、所法25①二、法法24①二)については、下記の取扱いが原則です。

【解説】

適格分割型分割は除かれています。これは、適格合併と同じ理由です。

適格分割型分割の場合には、分割法人の移転資産、負債の簿価純資産価額に対応する利益積立金額は分割承継法人に引き継がれるので、株主に分配されません。分割時点でみなし配当は生じません。

一方、非適格分割型分割の場合、非適格合併の場合と同様に、分割法人の利益積立金額は引き継がれず、分割承継法人が分割法人から取得した資産、負債の時価純資産価額は資本金等の額で構成されます。

しかし、非適格分割型分割により、株主等に対して交付される分割承継法人の株式及び株式以外の資産の価額の合計額のうち、分割資本金等の額を超える部分の金額は、分割法人の利益積立金額を減算することとされています(法令9 ①九)。

この分割法人の利益積立金額から減算される部分の金額は、分割時点で株主等に対するみなし配当として取り扱います。

なお、中小企業の実務では非適格分割型分割になることは大変稀なため、あまり考慮する事項とはいえません。

Q&Aみなし配当のすべて
伊藤 俊一
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、慶應義塾大学文学部入学。その後、身内の相続問題に直面し、一念奮起し税理士を志す。税理士試験5科目試験合格。一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻修士課程修了、現在、同博士課程在学中。慶應義塾大学「租税に関する訴訟の補佐人制度大学院特設講座」修了。都内コンサルティング会社にて某メガバンク本店案件に係る税分野を担当。厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定(国家資格)試験委員、認定経営革新等支援機関。税務会計研究学会、信託法学会所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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  2. 知らないと恥ずかしい「みなし配当の計算方法」
  3. 経営者が知っておくべき社員の退社・脱退とみなし配当にかかわる考え方
  4. みなし配当にかかわる裁判では何が焦点になる?判例の傾向を紹介
  5. 判例から学ぶみなし配当の事例6選 相続の参考になる?