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【連載】With/Afterコロナにおいて上場会社グループがとるべきM&A戦略

「With/Afterコロナにおいて上場会社グループがとるべきM&A戦略~リスク分散できる事業構造への抜本的改革とM&Aの活用~」と題し、全5回で連載したします。
連載第2回の今回は、日本M&Aセンター 企業戦略部 部長 西川 大介より危機に強い会社になるための戦略について解説いたします。

不況をライバルに差をつける機会と捉える

新型コロナウイルス発生当初、企業は従業員や顧客の安全確保・危機回避の施策を急ピッチで講じた。現在は、多くの企業でオペレーション確保のステージにあり、リモート対応やその他様々な代替対応により、一時の混乱を既に収束させている。一方、一部の先進企業が次のステージに駒を進め、その投資活動が俊敏だ。With/Afterコロナを見据え、そこで勝ち残るために新たなイノベーション戦略を着々と準備している(図1)。図1で示す「With/Afterコロナを勝ち残るポイント」で列挙するように、不況を勝ち残る企業には特徴がある。イノベーション戦略への投資に加えて、他社への売却を視野に、ノンコア事業の整理はもとより、老朽コア事業へもメスを入れる。

他方、コロナの影響を半年、1年程度静観し、見極めるまで、コロナ前に温めてきたM&A案件などの重要な取り組みの一切を凍結する企業もあるが、果たして本当にそれで良いのか心配である。社会、仕事、生活がいつかは元通りになるという幻想を抱いているようならそれは大きな問題だ。

なお、M&Aが生みだす新たな企業価値は、不況期下のM&Aの方が、好況期下のM&Aより15%高い(総株主投資利回りベース)という先行研究の報告も見られる。実際に我が国においても、リーマンショック後に積極的にM&Aを実行し、ライバル企業との競争力の差をつけ、現在競争優位性を確保している企業が少なくない。

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日本M&AセンターによるWith/Afterコロナにおけるイノベーション支援

現在、各社からのWith/Afterコロナ戦略の検討/実行に関する相談が増えている。企業経営者は、現リセッション下、あるいは今後訪れるニューノーマル(既に訪れている産業もある)を踏まえ、中長期的な視野に立ち、リスク分散できる事業構造への抜本的な改革を進める必要がある。そこで、日本M&Aセンターから経営者へ、With/Afterコロナ戦略を早急に策定し、財務・業績の回復を短期間で実現することを目指し、レバレッジ戦略としてのM&A実行を徹底的に検討されることを提唱したい。自社だけは何とかしのげるといった感覚は直ちに捨てるべきだ。そうでなければ、運よく今を生きながらえたとしても、次は生き残ることはできない。

日本M&AセンターのWith/Afterコロナ戦略の実行支援サービス「プロアクティブ・サーチ」(図2)は、事業ポートフォリオの視点からWith/Afterコロナを踏まえたイノベーション戦略を立案し、これを実行手段としてのM&A戦略へ落とし込むことからスタートする。ここでのM&A戦略は買収のみならず、売却やカーブアウトの可能性を追求することが重要になる。M&A戦略やターゲット要件をもとに、相手先企業を抽出し、具体的M&A案件のオリジネーションと実現に向け、相手企業への打診を戦略的、能動的、そして継続的に行う。これがアクティブ型M&Aである。なお、日本M&AセンターではM&A正式交渉はもとよりPMI(Post Merger Integration)支援までをワンストップで対応させていただく。

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イノベーション戦略の成否を決める「M&Aケイパビリティ」

With/Afterコロナ戦略の実現には、図2に示す「M&Aケイパビリティ整備」がとても重要だ。M&A、特にコロナ禍においては、貴重な優良案件に有力ライバル企業が集中することが予想され、事前のM&A推進能力が成否を左右する。自社固有の「M&Aマニュアル」としてケイパビリティ確保に必要な事項を検討・整理されることを勧める。特に上場企業の多くでは、有能人材の頻繁な人事異動によりM&Aのノウハウや知見の定着が難しい事情があり、マニュアル整備の効果は大きいと言える。また、当該マニュアルを使った幹部向けM&A研修も有効だ。

M&A戦略オプションの総合的・網羅的な検討

限られた経営資源のもとに行われるM&Aを確実に成功に導くために、図2にある戦略立案フェーズにおいて、適切な対応施策を整備することが肝要だ。ここで最後に、日本M&Aセンターの考えるWith/Afterコロナにおける対応方針オプションの抽出/優先順位付けの考え方を図3「With/Afterコロナ対応方針とM&A戦略オプション」に紹介する。不況期において上場企業にとって重要な点は、財務を守ること、事業を強化すること、株価を上げる(最低限維持)ことの3点である。このことを踏まえ、図3の「対応方針オプション(チェックリスト)」にある各項目について、自社の現状を総合的に漏れなくチェックし、With/Afterコロナを見据えた戦略・対応方針を策定していく。その上で、各対応方針の具体的な実行方法として、M&Aの可能性を探っていくことになる。なお図3の「戦略・施策優先順の基準例」等により、多数あがってくる方針や施策に優先度を付けることも重要だ。各社、過去に例を見ない困難を目の前にしているのだから、M&A戦略の選択肢として、エージングした「コア事業」の売却やカーブアウトも聖域とせず、ゼロベースで検討する覚悟が必要だ。

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西川 大介(ニシカワ・ダイスケ)
日本M&Aセンター 企業戦略部 部長

米国ニューヨーク市出身。大手プラントエンジニアリング会社、外資系コンサルティング会社、大手金融機関(M&Aアドバイザリー部門)を経て日本M&Aセンター入社。M&A戦略立案からM&A成立後の統合に至るまで、15年以上に及ぶ豊富な実務経験を有し、多くの有力上場会社の案件に関与。
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