オンライン接客
(画像=metamorworks/adobe.stock.com)

コロナ禍では、外出自粛が広がった。日常的な光景であった対面接客が減り、Zoomなどを使った「オンライン接客」が急速に普及している。そこで今回は、オンライン営業・接客のアイデアやコツを、実際の事例とともに紹介する。オンラインならではのメリット・デメリットも踏まえ、ポストコロナにおいて接客のかたちがどのように変化していくか考察したい。

Zoomなどを活用したオンライン接客が普及

Zoomなどのオンラインコミュニケーションツールを使った営業手法は以前から存在していたが、コロナ禍を経て、接客というシーンでも一気にオンラインの需要が高まった。企業側も、長引くコロナショックで営業活動が停滞しないよう、各業界ではオンラインを活用した顧客サービスが続々と始動している。

オンライン接客のメリット・デメリット

実際にオンラインで営業・接客をしてみると、以下のようなメリット・デメリットが出てくる。

オンライン接客のメリット

オンラインの大きなメリットとして、「場所を選ばない」という点が挙げられる。どこにいても接客ができるため、互いに移動手段などを気にする必要がない。

遠方の顧客へも営業が可能になるため、営業範囲の拡大も見込める。これまで近場の客や来店客に限られていた営業・接客も、全世界が営業可能範囲となり、リード獲得もしやすい。

時間的にも金銭的にも、移動のコストがかからないため、顧客の希望に沿いやすく、スピーディーに効率よく対応できるのもオンラインの魅力である。

オンライン接客のデメリット

筆者が感じたオンライン営業の最大のデメリットは、回線状況に影響されやすいことだ。ネットワーク回線が安定しないとスムーズに会話ができず、コミュニケーションに支障が生じる。途切れ途切れの会話にストレスが発生してしまえば、商品価値に関係なく、顧客の購買モチベーションは下がってしまう。回線状況はリアルタイムで変化が生じやすいため、事前に把握しにくいこともネックだ。

また、実際に対面できないことで、商品のリアリティな魅力を伝えにくい。実際に触ったり、使ったり、味わってみたりといった手法を使うためには、事前に商品を客の手元へ送っておくなどの準備が必要となる。扱う商品によってはオンラインのみではクロージングが難しい場合もあるだろう。

各業界の「オンライン接客」事例を紹介

一長一短あるオンライン接客だが、その需要は今後高まるだろうと多くの業界が注視しており、その証拠に続々と顧客サービスのデジタル化が進んでいる。各業界の事例をいくつか紹介しよう。

百貨店業界の挑戦、三越伊勢丹がZoomでランドセル販売

三越伊勢丹では、5月30日からZoomを使ったランドセルの販売を開始した。子どもに実際に背負わせて決めたいというニーズも強いランドセルだが、「店頭で並んで試着しても、結局ECで購入する」というところに注目し、オンライン接客を取り入れた。

「LINE・Zoom・来店予約」の3段階でのオンライン接客を実施し、ランドセルの売り上げは19年同期比で120%になった。さらに同社では婦人服においても最新デジタル技術を駆使したマッチングサービスを始めるなど、“オンラインでもオフラインでも「最高の顧客体験」の提供を目指す”としてECやアプリの機能も強化している。

アイデア絞る観光業界「お伊勢参り」がオンライン化

伊勢神宮・おはらい町通りにある「ゑびや商店」では、伊勢土産をリモート販売する「WEB来店」を5月よりスタートした。WEBを通じてスタッフが商品説明をし、近隣商店を含め、買い物代行も担うという。

住宅業界、ショールーム発信のオンライン接客を開始

サンワカンパニーでは、顧客との新しいコミュニケーションとしてインスタライブでの動画配信をスタートした。ショールームスタッフが商品の魅力や手入れの方法などを解説し、事前に集めた質問にも答えるなどツールの特性を生かした新しい接客を取り入れている。

製造業界でもオンライン接客で購入サポートを開始

ソニーストア直営店では、製品購入前の無料相談をオンラインで開始した。例えば、大型テレビの購入検討者に向けて、自宅の設置場所をカメラで確認しながら最適なサイズを提案するなど、メーカー直営店ならではの接客体験を提供している。自宅で過ごす時間が増えたコロナ禍のニーズに対応し、相談後のオンライン購入までサポートする。

ジュエリー業界「試着×オンライン」の併用サービス

ジュエリーブランド「ポンテヴェキオ」は、ブライダルリングの相談・注文を受け付ける完全予約制オンライン接客サービスを開始した。希望する客にはオンライン接客当日までにリングゲージを無料で貸し出し、実際にサイズを確認してもらいながらのリング選びを可能としている。

苦境の旅行業界「オンライン旅行相談」をスタート

日本旅行では、Zoom、Skypeを利用した「オンライン旅行相談」を新たに導入した。LINEやメールでの相談・予約も受け付け、非対面での接客を拡充。新たな生活様式に対応できるよう、体制を整えている。

化粧品業界「オンライン美容相談」が本格化

化粧品業界は、インバウンド需要の低迷・変調などにより大きく影響を受けている。日本ロレアルの化粧品ブランド「ランコム」では、4月より公式サイト上でオンライン専門スタッフ(eBA)によるデジタルカウンセリングを開始した。美容部員の中から選ばれたエキスパートが、特別トレーニングを積んだうえでオンラインで接客し、顧客満足度向上を図る。同社では、eBA業務を美容部員の新しい働き方として位置づけ、キャリアパスの可能性も広げていく姿勢だ。

オンライン接客で成約までつなげるコツ

オンライン接客は、リアルと同じ感覚ではうまくいかないこともある。オンライン接客で成功するためには、主目的を「顧客との関係性を築く」というところに置くのがコツだ。

Zoomを用いた接客手法の可能性を追求しているアパレル企業「オールユアーズ」の代表・木村昌史氏は、オンライン接客において「商品の情報を伝えるだけの話はしない」と語る。アイスブレイクなどを挟みながら、あくまでヒアリングを重視するというのだ。

また、アパレルを扱う同社では「自宅試着サービス」を併用し、気軽に試着をできる制度を併せて整えることで、オンラインにおける最終決済のハードルを低くしている。

オンライン接客は、1対1でプライベート感が強い。リアルよりも的確かつスピーディーに、客のニーズにこたえる必要があるため、客が「接客」に何を求めているかを見抜くことがカギとなる。

今後「接客」はどう変化していくか

コロナ禍でやむを得ずオンライン接客を始めた企業も、顧客からのニーズがある限り、今後サービスのデジタル化をやめるという選択肢はしにくい。また、新しいオンライン接客サービスなども出てきており、今後しばらく「オンライン接客」がトレンドとして続くことが見込まれる。

「オンライン接客」は、今回のコロナ禍のように店舗が開けられない状況においてもスタッフが働くことができるという利点も持つ。働き方改革の観点からも、経営者は時代の変化を見据えた事業設計を行う必要がある。

まずは手近に取り組めるオンライン接客を現状にプラスしてみることで、実店舗に来店する価値や意義を今以上に高めるような役割を果たす期待ももてるかもしれない。

文・木村茉衣

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