会社経営には好不調があり、新型コロナなどの外部要因による経営悪化も起こる。会社の経営状態立ち行かなくなる兆候があれば、事業再生についての検討を始めよう。今回は、事業再生の仕組みや種類に加え、事業再生に取り組むために会社が検討すべき4つのことを解説する。
目次
事業再生とは
事業再生とは、経営が悪化した会社の事業を立て直すための経営改善活動のことである。収益改善のための活動や、会社の債務整理、M&Aなどの さまざまな手法があり、経営者はどれが自社の事業再生にとって最良の手法かを見極めなければならない。
事業再生とよく比較される言葉に「企業再生」がある。企業再生という言葉に明確な定義はないが、会社単位で再生することに重きを置いているという点で、事業再生とは使い分けられている。
いずれも収益やキャッシュフローの改善が必要という部分は共通しているため、事業再生と企業再生の双方で共通する手法がある。
事業再生のために会社が検討すべき4つのこと
事業再生において会社が検討すべき事項は、主に次の4つである。
- 1.自社による事業再生
- 2.私的整理による事業再生
- 3.法的整理による事業再生
- 4.&Aによる事業再生
それぞれについて、次項から解説する。
1.自社による事業再生とは
事業再生を考えるときは、まず自社の経営資源のみで再生できるかどうかを判断しなければならず、何が経営悪化の原因となったかを徹底的に分析することが重要だ。
会社の機能は、「ヒト・モノ・カネ」の相互作用であり、原因が1つとは限らない。社員の能力によるかもしれないし、製品や流通部分に原因があったのかもしれない。そもそも予算が少なすぎた可能性もあり、原因を明らかにした上で事業再生の方法を検討しなければならない。
限られた資本を効率的に使うことは、会社の責務であるため、不採算事業があれば廃止するのもやむを得ないだろう。廃止することによって、経営資源をコアな事業部門に集中させることができれば、売上を改善できる可能性が生まれる。
そして事業再生を成功させるための経営計画を金融機関に示し、返済のリスケジュールを行うことができれば、自力での再生も可能となる。
2.私的整理による事業再生とは
私的整理とは、裁判所の関与を受けない債務整理のことで、「任意整理」とも呼ばれる。裁判所管理の下で行われる「法的整理」は、事実が公になるため企業価値を損ねる可能性があり、後の事業再生に支障をきたす可能性がある。まずは私的整理で解決できないかを検討した方がよい。
私的整理には、法的整理のような決まった手続きはないが、ガイドラインや支援機関を活用して進めることが多い。
私的整理に関するガイドライン
会社と金融機関等の債権者との間で、私的整理を行う際のガイドラインである。
2001年に発足した「私的整理に関するガイドライン研究会」によってまとめられたもので、会社の「再建計画案」について債権者の同意を得るまでの手順や、その留意点などが示されている。
事業再生ADR
事業再生実務家協会(JATP)による、事業再生手続きの支援である。ADRは、「裁判外紛争解決手続」の略称であり、専門家が公正な第三者として話し合いに関わり、債権者の意見をまとめて交渉を円滑に進めることを支援する。
中小企業再生支援スキーム
中小企業再生支援協議会からのサポートを受けながら、私的整理を行うスキームである。サポートを行うのは、中小企業診断士、弁護士、公認会計士、税理士等の専門家から構成される支援チームで、事業再生の計画案作成支援、債権者への説明などをサポートする。
私的整理は、会社と債権者の両方にメリットがなければ成立しないため、基本的には、法的整理による回収額よりも、私的整理による回収額の方が多く見込める経済的に合理性があるケースが対象となる。
3.法的整理による事業再生とは
法的整理とは、裁判所の関与を受けながら進める債務整理のことである。手続きの開始 の旨が公告されることから、倒産したことは関係者以外にも知られてしまうが、裁判所による手続きであるという点から、公平性があって債権者からの疑念を抱かれにくいというメリットもある。
手続きは長期にわたり、法的知識が不可欠であることから、通常は弁護士に依頼して進める。
法的整理は、「再建型」と「清算型」の手続きに分かれており、事業再生のために利用するのは「再建型」の手続きである。
再建型 | 清算型 |
・民事再生 ・会社更生 |
・破産 ・特別清算 |
事業再生のための法的整理には「民事再生」と「会社更生」がある。それぞれについて説明する。
民事再生手続きとは
民事再生法による手続きであり、法人だけでなく個人でも利用できる。裁判所に手続きの申し立てができるのは、「民事再生法第21条第1項」で以下のように定められている。
・破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき
・債権者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき
民事再生では、債務者(民事再生を申し立てた法人や個人)自身で事業再生のための計画案を作成し、債権者の多数の同意と裁判所の認可を受けることができれば、計画内で返済できない債務については免除してもらえる。
会社更生手続きとは
会社更生法による手続きで、「株式会社」のみの手続きとなる。裁判所に手続きの申し立てができるのは、民事再生と同じように「会社更生法第17条第1項」で以下のように定められている。
・破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合
・弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著しい支障を来すおそれがある場合
会社更正では、裁判所は必ず管財人を選任する。選任された後は、管財人が会社の財産管理や経営を行いながら更生計画を作成し、組織再編を含めた経営改善を行う。この時、経営陣は退任することとなる。
民事再生よりもさらに公正で厳格な手続きであり、期間やコストもかかるため、規模の大きい会社向けの手続きとされている。
4.M&Aによる事業再生とは
M&Aとは、企業の買収や合併のことであり、事業再生のためにM&Aを利用する場合は、買われる側(売り手)になることが一般的になる。「事業再生が必要な事業に、買い手はつかないのではないか?」と思うかもしれないが、自社にとっては不採算部門でも、他の企業にとっては魅力的な場合がある。
例えば、新しい事業を始めるにあたって少しでも早く収益化したい会社ならば、人材や設備が整った既存の事業を買い取る方が育成等にかかる時間とコストを削減できる。また、既存の事業を買い取り、自社のサービスと組み合わせることで新しい付加価値を生み出せれば、顧客やターゲット市場をさらに拡大できる可能性もある。
自社の買い手となる企業が現れて、ノンコア事業を買い取ってくれれば、残った事業により多くの経営資源や事業の売却代金を投下するでき、事業再生を進めることができる。
M&Aによる事業再生にはさまざまな手法があるが、ここでは代表的な「事業譲渡」「株式譲渡」「会社分割」について解説する。
事業譲渡
事業譲渡とは、特定の事業部門の資産や負債を売却することを指す。収益化できていないノンコア事業部門だけを売却することによって、コア事業への経営資源の集中化による事業再生が期待できる。
事業譲渡取引では、個別に事業用資産や負債の売買を行うため、交渉や売買手続きが長期化しやすい。また事業の買い手 は、新たに取引先と契約をし直さなければならず、許認可なども引き継がれないため、手続きに手間がかかるというデメリットがある。
株式譲渡
事業譲渡とよく比較されるM&A手法に「株式譲渡」がある。株式譲渡とは、経営者の株式を買い手企業に売却して事業の一部を承継する方法であり、売買の手続きが比較的簡単であることから、中小企業のM&Aにもよく用いられる。
株式の売買であることから、買い手は包括的な権利を受けることができるため、取引先の契約について相手の同意を個別に得る必要はなく、許認可も承継される。
会社分割
会社分割とは、会社の事業をいくつかに分けて、元の会社から切り離すことである。分割した事業については、新しい法人にするか既存の会社の一部とする。前者を新設分割、後者を吸収分割という。
会社分割は、会社法の組織再編に該当するため、同法の債権者保護などの手続きが必要になる。株式譲渡と同様に、買い手は分割された会社の包括的な権利を承継することから、取引先の契約について相手の同意を個別に得る必要はない。
ただし、許認可は新しい法人格で取得しなければならないため、注意が必要だ。
事業再生の税務上の注意点
事業再生では、さまざまな権利や資産が移動するため、制度の内容と関連税制の両方に注意が必要である。
債務整理は、債務免除益の計上に注意が必要である。一定の手続きに当てはまる場合は、期限切れの欠損金を損金に算入できるなど、通常とは異なる計算方法がある。M&Aでは事業譲渡、株式譲渡、会社分割のいずれにも譲渡益が生じる可能性があり、特に会社分割 は手続きが多岐に渡るため専門知識が必要だ。
事業再生を行ったときの税務申告は、制度に精通した税理士に相談することをおすすめする。
適切な事業再生方法について検討しよう
事業再生を成功させるために会社が検討すべき4つのこととして、自力再生、私的再生、法的再生、M&Aについて解説した。
事業再生が難しい場合は、最終的に廃業の検討をすることになる。この場合は、第三者への事業承継という道もあるため、売却できる可能性があれば専門家に相談するとよいだろう。
まずは自社の経営状況から、どの事業再生方法がもっともよいか検討していただきたい。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)