ハッピーカーズ物語
(画像=new-africa/stock.adobe.com)

(本記事は、新佛 千治氏の著書『クルマ買取り ハッピーカーズ物語』=サンライズパブリッシング、2020年8月7日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

経営者は常に利益を生むことを考える

中古車買取り店は、基本的に買取りした車をどこかへ販売することによって利益を得ます。

例えばオークションであったり、あるいは整備して直接顧客へ販売することもあるでしょう。車を買取って成約したら、契約後いよいよ引取りです。

さて、「オークションで高く売るために、ぴかぴかに磨くぞ!」と額に汗を流して洗車するオーナーをよく見かけます。

以前は私もやっていました。いや、実に気持ちがいいんです、これが。

何より、ぴかぴかになった車、それも苦労して買取った車を眺めながら飲むビールは格別で、頑張って働いたことを実感できるからたまりません。しかし、ビールがおいしく感じるのは単なる錯覚。

断言しますが、車買取り店のオーナーとして独立した経営者が、自分で洗車してはいけません。

近所のガソリンスタンドでは、手洗いで泡ムートン洗車を完璧にやってくれます。

金額はたったの2600円。カローラでもポルシェでも2600円です。

さらに、プロが専門の機材を用いて作業してくれるので効率も非常に良く、わずか30分足らずでタイヤハウスからアルミホイールのスポークの隅々までぴかぴかになります。

つまり、オーナーが半日かけて磨いたところで、わずか2600円程度の節約にしかならず、それどころかたった2600円の支出を惜しんで、本来自分が考えるべき経営戦略や、人と会う時間を奪われていては本末転倒です。

だから儲かっている買取り店オーナーは洗車をしないのです。

仮に、月に100万円の利益を出すと考えた場合、月20日稼働すると1日5万円を獲得しなければなりません。半日で25000円です。つまり、自分で洗車している時点でもはや目標を放棄しているといえるでしょう。

自分が生むべき利益の金額やそれに費やすべき時間を把握することは、経営者にとって最低限必要なこと。最初は何もしないことに抵抗を覚え、自分を安心させるために何から何までひとりで行おうとするかもしれません。しかし、オーナーの仕事はそれだけではありません。

どんな事業でも、経営者は自分で手を動かすことは極力せずにスタッフか外注に任せ、もっと大きな利益を生む方法を考える。あるいは人と会うことに専念すべきだと僕は考えています。

おもしろいことに加盟店を見渡してみると、月に100万円以上の利益を出しているオーナーで、自ら洗車している方はひとりもいません。理由を聞いてみると「そんな暇ありませんよ」と皆口を揃えて言います。

もちろん例外もあり、ある加盟店オーナーさんはあえて洗車をすることで利益を10倍にできると言います。彼は、納屋などで放置されて室内がカビだらけの車を、ほんの数万円くらいで引き取ってきます。

プロが見ても解体屋さん行きは確実で、引き取りの手間賃くらい利益が出ればいいかなと考えるような車です。

彼のすごいところは、それを隅々まで洗車し、徹底的に磨き込むことによってオークションで相場以上の価格で売ること。「普通やらないでしょ」と誰もが思うような車でも、自分の手で磨き上げることで、利益につなげる。

1日洗車して10万円以上も利益が出せるなら、洗車もありですよね。なぜそんなに磨き上げられるのか聞いてみたところ、「愛があるからこそできる」とのことでした。

"何もしない"ダメな人間が、なぜ成功できるのか?

僕は営業マン、広告デザインの仕事を経て、 "クルマ買取りハッピーカーズ®"をスタートしました。

今、ハッピーカーズは創業5年目にして70店舗以上の加盟店を抱えるフランチャイズ店となり、周囲からも「毎日、お仕事頑張ってらっしゃいますね」、「働きすぎじゃないの?」と言われることも少なくありません。

僕は決して勤勉でも、マジメでも、働きすぎでもありません。

実際はその逆で、面倒くさいことが大嫌いで、時間も労力も少しでも省略したいと思うタイプです。でも、むしろ僕が究極の"何もしない"人間だからこそ、今、こうしてフランチャイズを経営していられるのかもしれません。

根っからの"何もしない"ダメ人間である僕が、なぜ、ビジネスで成功することができたのか。仲の良い先輩経営者たちによると、「"何もしない"ってことは、周囲を巻き込むのが上手ってことなんだよ」と、ありがたいのかどうなのかよくわからないお言葉をいただきました。

「周囲を巻き込むのが上手だから」というよりも、むしろ、「当たり前に自分より優れた能力をもつ人に仕事を任せていったら自分でやることがなくなっていく」といったほうが正確かもしれません。

広告デザイン会社を立ち上げたときなんて、まさにそのいい例です。リクルートの仕事が中心だった頃、最初はディレクターとしてプロジェクトを統括していましたが、そのうち、自分でコピーを書くようになりましたし、デザイナーもやりました。

しかしながら結局自分が企画して、自分で手を動かして制作したところで、自分が本当に納得するようなものはつくれませんでした。

本当はひとつの仕事からもっともっと仕掛けられることがあり、可能性を広げていけるはずなのに、ひとりでやっていると全然広がらない。

それを思いきって、ディレクションの役割だけに注力し、コピーやデザインは各々のプロに任せることでチーム全体の能力が高まっていきました。

自分自身も楽しみながら、周りの価値を最大化させること。それが僕のゴールでした。

やっぱり勘違い野郎ほどビッグになる

リクルートに務めていた時代、僕は上司をはじめに先輩や同僚、そしてときに後輩までもが、どんどんビッグな存在になっていく様子を見てきました。「あ、この人は将来ビッグになるな」というのは、何となく直感でわかるものです。

人並外れた才能があるとか、コミュニケーション能力が高いとか、他人より素晴らしい能力があるのはもちろんのこと、「ビッグになるな」と周囲に予感させる人は、多くの場合、大きな夢を堂々と口にしていることに気がつきました。

ビジネスなどでよく聞く言葉に「アファメーション」というものがあります。

アファメーションには断言、確言、肯定、(宣誓に代わる)確約という意味があるみたいです。一般的に"ある言葉を唱えることで自分を変える方法"という認識をされている方が多いのではないかと思います。

言葉、思考において「自分自身へ語りかけることで、理想の自分へ書き換えていく技術」ともいわれています。

「ビックマウス」ではありませんが、単純に「俺はビッグになる」「将来成功する」とアファメーションし、ビジュアライゼーションすることが重要といわれています。「ビジュアライゼーション」とは、理想的な未来の自分をイメージすることです。

逆にいえば、"理想的な未来の自分をリアルにイメージしたいからアファメーションという言葉を使っている"といえるわけです。

「人間は勘違いに比例してビッグになっていく」。これまで経験した様々な出来事を通して、僕はつくづく実感しました。

「俺はこういうことができる人間だ。だから、絶対に、成功しないはずがない」。

そういう勘違いが、「成功」という未来をひき寄せるのです。裏づけなんか、要りません。

世の中の素晴らしき勘違い野郎を僕はたくさん見てきました。不思議なことに彼らはみんな、普通の人ならまず無理だと思うようなことを、自らの手で実現して手に入れているのです。

僕自身も、立派な勘違い野郎のひとりです。

まったくの未経験から広告業界に入り込み、さらに中古車ビジネスという未知の世界に参入して、単身アフリカへ乗り込んだのはいいけれど、結局何をやってもうまくいかず、散々な思いで日本へ帰ってきたときでさえ、「もっとやれる。まだ大丈夫」と思っていました。

「うまくいかない、どうしよう」と立ち止まっている暇はなかったのですから。やるしかない状態です。当時は結婚して子どももふたりいましたし、仕事がうまくいかないからといっても、毎月、お金はどんどん出ていくわけです。

最低でも毎月100万円、生活費にかかっていたとしましょう。そうでしたら、どんなことをしてでも、僕がそのお金を稼がなければならないのです。

ハードルの高い目標でも、目的やステップを明確にすることで、「あとちょっとで100万円に届くかも?」、「案外、目標クリアできそうだな」、「お、今月クリアしちゃう」と徐々に実現されていくから不思議です。そこには、打算も損得もありません。

ただ、「目標をクリアしていく」という純粋な気持ちしかないのです。

僕にとってはこれが結構楽しい作業で、余計なことを考えず徹底してバカになりきり、「きっとできる」と勘違いして楽しんでいく。ときには周囲に大ボラを吹いていると思われながら、我が道をいくこともあるかもしれません。でも、それでいいのです。

そうした勘違いは溢れ出る自信となって、他者に伝わります。

自信が体中からみなぎる人にこそ周囲は信頼と期待を寄せるもの。そして必ずやり切ること。

その結果、新しいビジネスが生まれたり、会いたい人と会えたり、将来につながる機会が激増するのです。バカで結構。勘違い野郎で上等です。

可能性は、無限です。大事なことは、「未来をできるだけクリアにイメージして、目標をロックする」こと。これを身をもって学びました。

無能さを認めることが可能性を広げる

事実、昨今は時代の変化が激しく、あっという間に培ってきた技術やスキルが無価値になるような時代です。ひとつのことにこだわることが最大のリスクであることも認識しておかなくてはなりません。

幸い僕の場合、最初から「自分は、無能である」ということに気がついていました。だから、「自分でひとつの仕事をこだわりながら続けていくよりも、自分よりも優秀な人がやったほうがクオリティが高いのであれば、遠慮せずにどんどんプロにお願いしよう」と、"何もしない"人間として人を巻き込んでいくほうが、自分には向いていると判断しました。そして結果的には、それが良かった。

「自分は無能である」ということを踏まえて行動したからこそできたこと。自分に能力がないからこそ、自分以外のその道のプロに仕事を頼むことができたのです。そして、みんなに良い仕事をしてもらって、クライアントに喜ばれ、結果的にみんなの収入を上げることもできたのです。

いわば、「無能とはスキル」であり、自分の無能さを認めることは、自分の可能性を広げることにつながるわけです。

スタートは「あったらいいな」を探すこと

時々、「何か新しいことをはじめたい」、「独立開業をしたい」というような相談を受けることがあります。

そのような人は大抵、「新しいことをやりたいけれど、自分ひとりでできるのか不安」、「このままの生活を続けるのは嫌。かといって、自分にはゼロからビジネスを起こすような能力はない」と悩んでいます。そのようなとき、僕は決まってこう思います。「なんで、自分ひとりでゼロからやろうとするのか?」。

僕も中古車の買取り事業をはじめたときはまったくの素人で、ゼロからのスタートでした。周りに同じビジネスをしていた人が何人かいたので、彼らのやり方を何となく真似してみたり、「こんな感じかな?」と当たりをつけて、自分なりにセオリーをつくってみたり……。毎日が試行錯誤の連続でした。

実際のところ、「自分に足りないもの」や「自分がわからないこと」すら、わからないのです。

でも少し仕事に慣れてくると、自分に必要なものが見えてきます。「こんなものがあったらいいな」という要望も浮かんできます。そのように世の中を見渡すと、大抵の場合、欲しかったもののほとんどがすでに存在することに気がつきます。

おもしろいエピソードがあります。

Varial社の創設者、エジソン・コナー氏とパーカー・ボーネマン氏は、カリフォルニア州サンタバーバラで一緒にサーフィンをして育ちました。

サーフボードに柔軟性と強さを求めたふたり。コナーは偶然にもこの難題を解決するための知識を備えていました。

合成エンジニアである彼は、Varial社を経営する傍ら、SpaceXでロケット用の「高強度のプラスチックのような素材」の開発にかかわっていたのです。

彼はこの素材を起用することで、サーフボードに変革を与えました。

つまり重要なのは、常に「あったらいいな」を探し続けること。常識を疑うことが、イノベーションを起こしていくのです。

僕も中古車ビジネスをはじめたときは、実際に動きながら自分に必要なものを身近なところから集めていきました。

例えば中古車買取り事業に必要な専門のシステムなど、ゼロから自力でつくろうとすれば、相当な時間とコストがかかります。でも、世の中にはすでに自分がイメージするものに近しいシステムがあったりする。それであれば、それを活かさない手はありません。

すでにあるものを上手に利用していく。

今のハッピーカーズ®も、このような僕の現場での経験、開業時にひとりで悩み歩んできた歴史がベースとなっています。ハッピーカーズ®がなぜ、多くの事業主にローコストで、車買取りビジネスへの参入の機会を提供できるようになったかというと、経験を踏まえたうえで、常に最善の方法を考えているから実現できる、ということがまず挙げられます。

僕たちハッピーカーズ®は、常に僕たち自身が考え、現場で最も活用できる最適なモジュールを組み合わせ、それらを常に新しいもので構成していくことで、加盟店にとっての価値の最大化を図っています。

偉大なる発明は、すべて模倣から生まれる

今僕がやっていることも、「会社や組織」、世の中というフィールドで、「モジュール」というジグソーパズルのピースを拡げていくようなイメージです。そのようにピースを組み合わせることでパズルが無限に広がっていくプロセスこそ、会社の価値を生み出し、高めていくために必要な作業なのだろうと思っています。

今は世の中に必要なモジュールがたくさん存在しています。それらをどう組み合わせるか、というところでは、確かに知恵や経験がものをいうかも知れませんが、しかし、ゼロから自力でつくらなくてもいいのだと思えば、新しいビジネスをはじめることは、それほど難しいことではないと思えるでしょう。この時代だからこそ、新しいビジネスを生み出すのに絶好のチャンスなのですから。

頑張って起こしたビジネスがうまくいかず、資金がショートしてしまったら……。そう考えれば、会社を辞めて起業しようという気持ちが芽生えたとしても、「やっぱり自分には無理だな」と思い留まるのは当然かも知れません。

ローンや家族など守るものがあればたちまち怖くなって、「まあ、このまま会社に居続けて、そこそこの給料をもらって、安定していたほうがいいな」と、現状維持を選びたくなるのももっともです。安易な独立はお勧めしません。

それでも、独立開業を望むのであれば、まずは世の中を見渡して、すでにあるビジネスで、自分にできそうなことを見つけることからはじめてみるといいと思います。複数見つかれば、それらの組み合わせから大きなビジネスに発展するかも知れません。

「起業家」というと、アイディアに溢れていて、自分でゼロから組み立てる力をもっていて、能力も行動力もあり余っている人、というイメージをもつ方も多いのではないでしょうか。

確かに、世の中にはそうした起業家もいるでしょう。しかし、起業家の全員が溢れ出る能力をもち合わせているわけではありません。

「偉大なる発明は、すべて模倣から生まれる」という言葉がありますが、僕はまさに、これは真実だなと思います。

新しいビジネスを考えるときも、これと一緒だと思います。

確かに、会社をつくったり、ビジネスを起こしたりするには、お金がかかります。アイディアも必要ですし、自分ひとりでは賄い切れないかも知れません。

しかし、すべてのモジュールを自分でつくり上げる必要はなく、必要なものは都度必要なだけ入手していけばいいと考えたらどうでしょう?

そして、「すでにこんなサービスがあるけれど、これがもっとこうだったらいいのにな」というふうに、既存のものをベースに新しいものを考えていくことができたら?

「こんなものがあったらいいのに」というアイディアを起点にして、既存のものを組み合わせたり改良したりすることで新しいビジネスを生み出すのは、それほど難しいことではないと考えます。

「最低でも1000万円の資本がなければ、新しいビジネスを起こせない」といわれていたのは昔の話。現代なら、数万円程度でも、いやもっといえば、パソコンやスマホさえあれば、アイディア次第で利益を見込める会社をつくることができる時代。

未知の分野で独立開業に挑戦することも、案外難しいことではないのかも知れません。

クルマ買取り ハッピーカーズ物語
新佛 千治(しんぶつ ちはる)
株式会社ハッピーカーズ 代表取締役
営業職としてメーカーに入社落ちこぼれ営業マンから全国トップクラスの営業マンに成長するも、自分の可能性をもっと広げてみたいと、退社。大波に乗ることを目指してハワイへ。
帰国後、新たにデザインの勉強をはじめ、広告業界に飛び込む。出版社にデザイナーとして入社し、のちに大手情報サービス会社で広告制作ディレクター、コピーライターとして実績を積み、2005年にはクリエイティブディレクターとして広告制作会社を立ち上げる。
その後、外部要因に左右される経営環境を変えるべく、もうひとつ事業の柱をつくろうと中古車の輸出ビジネスを開始。海外への販売ルートの開拓を視野に、中古車の輸出先となるアフリカのタンザニアに現地法人を立ち上げる。
しかし、治安の問題もあり短期間で撤退を決断。中古車輸出業から手を引く。その際の経験を活かし、日本国内において一般のお客様から中古車を仕入れて、オークションで販売する車買取り業者、株式会社ハッピーカーズが誕生。
2015年の事業立ち上げからわずか4年で、全国に70以上の加盟店を展開する企業へと成長する 。

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