2018年度の次世代型養殖技術(スマート水産・陸上養殖システム・低魚粉飼料・昆虫タンパク質飼料)の国内市場規模は151億6,500万円
~市場の立ち上がり期を迎えた次世代型養殖技術、今後の普及拡大に期待~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内における次世代型養殖技術を調査し、市場規模、参入企業の動向、および将来展望を明らかにした。
次世代型養殖技術(スマート水産・陸上養殖システム・低魚粉飼料・昆虫タンパク質飼料)市場規模推移・予測
1.市場概況
国内の漁業就業者の減少と高齢化は加速化しており、農林水産省の統計によるとここ20年ほどで海面漁業の漁獲量は3割を越える減少、海面養殖業の収穫量も2割程度の減少傾向にある。その影響は、漁業生産力の低下を招くだけでなく、漁業就業者が担ってきた地域資源の監視や水産資源管理を支える活動にも支障が生じることが懸念される。
さらに、地球温暖化の進行に伴って、水産資源への影響が深刻化している。養殖業の生産コストの半分以上を占める飼料だが、魚用配合飼料の主原料である魚粉を国内では殆ど輸入しており、世界的な魚介類の需要増加を背景に、ここ数年魚粉の価格は高値で推移している。
このような国内の養殖事業者が抱えている課題を解決するためにも、ICT技術を活用した「スマート水産」や陸上で養殖する「陸上養殖システム」、魚粉量を少なくした「低魚粉飼料」、昆虫を原料とした「昆虫タンパク質飼料」などの次世代型養殖技術が注目を浴びている。2018年度の次世代型養殖技術の国内市場規模(事業者売上高ベース)を151億6,500万円と推計した。内訳をみると、低魚粉飼料市場が99億8,400万円、陸上養殖システム(掛け流し方式+閉鎖循環式)市場が50億8,800万円であった。なお実証実験を終えたスマート水産市場は市場の立ち上がり段階であるため8,000万円、商業生産が始まった昆虫タンパク質飼料市場は1,300万円となった。
2.注目トピック
水産改革関連法が成立
政府が、70年ぶりの抜本的改革と位置付ける水産改革関連法が2018年12月に成立した。
世界的な魚介類の消費量増大に伴い、漁獲枠の割当など資源管理の動きも高まり、今後漁船漁業による漁獲量の拡大は見込みえないものとみる。資源の枯渇などで水産業が低迷する中、国内においても水産資源管理を強化し、養殖業などへ民間企業の新規参入を促すなどして、漁業の成長産業化につなげるのが目的である。
農業に比べて漁業分野への企業進出は遅れており、企業の経営ノウハウや技術力を生かし、養殖規模の拡大を進められるかどうかが、将来の日本の水産業復活のカギを握ると考える。
3.将来展望
2023年度の次世代型養殖技術の国内市場規模(事業者売上高ベース)は、237億8,900万円まで拡大すると予測する。内訳は、低魚粉飼料が116億9,300万円、陸上養殖システム(掛け流し方式+閉鎖循環式)が87億6,000万円、スマート水産は23億1,100万円、昆虫タンパク質飼料が10億2,500万円に拡大する見通しである。
今後は、スマート水産のICT技術による作業の効率化・省人化が期待されるとともに、水産バリューチェーンが一体となったデータプラットフォームの構築・全国展開が目指されており、スマート水産市場の伸び率が最も高い。また、陸上養殖システムでは既存の養殖事業者の飼育規模の拡大に加えて、新たに参入する事業者の増加が市場を牽引する見込みである。また、低魚粉飼料では従来の植物性原料・動物性原料に加え、昆虫や単細胞タンパク質、微細藻類などの原料利用が期待されており、市場規模拡大に寄与すると考える。