「新型コロナウイルス」の終息がまだ見えない中、病院経営が苦しさを増している。健康への懸念が高まっていることを考えれば診療需要が伸びそうだと考える人も多いかもしれないが、状況はまったく逆だ。いま病院経営が陥っているリアルな苦境の現状をひもといていこう。
データからはまだ厳しい状況は見えてきにくいが…
民間調査会社の東京商工リサーチによれば、新型コロナウイルス関連の負債1,000万円以上の経営破綻は全国で147件(5月14日時点)に上っている。
宿泊業が最多の30件で、飲食業やアパレル関連の企業の倒産も多い。外出自粛やインバウンド客の急減が影響しているのだ。
東京商工リサーチの発表からは病院経営の厳しい状況はまだ見えてきにくいが、実際には病院経営者からは悲鳴に近い声が聞こえてくる状況となっている。なぜいま危機に陥りつつある病院が増えているのだろうか。
コロナ下における病院経営の現状は?
新型コロナウイルスの感染拡大が病院の経営悪化につながっている理由は、主に3つある。
1つ目は一般患者への感染を防ぐために外来診療を抑制せざるを得ない状況になっていること。2つ目は医療物資や労働力の不足もあり、入院診療や救急搬送の受け入れも抑え気味になっていること。
そして3つ目は新型コロナウイルスの感染リスクを考え、病院に足を運ぶ人がそもそも減っていることが挙げられる。
一般患者への感染リスクを抑えるための病院側の診療抑制
病院で院内感染が判明すると、メディアなどでもその情報が大きく報じられる。そのため、病院側としては院内感染だけは何としてでも避けたい。そのためには、外来診療などを抑制する必要が出てくる。
患者が増えて忙しくなれば、感染防止対策もおろそかになりかねない。また不特定多数の人が出入りすれば、それだけ病院内に新型コロナウイルスが持ち込まれる可能性も高まるからだ。
ただ、外来診療を抑制するということは、それだけ病院の収入源である診療報酬も減る。こうしたことは病院の経営悪化に直結する。
医療物資や人材不足による入院診療・救急搬送受け入れ抑制
医療物資や労働力の不足で、入院診療や救急搬送の受け入れを抑制せざるを得ない病院もある。
病院で働く医師や看護師、事務スタッフなどもほかの業界で働く人と同様、それぞれ家族がいる。非常事態宣言などで学校の休校などが続く中、本来であれば子供が学校に通う時間帯に自宅で子供の世話をしなければいけなくなっている人は多い。
こうした中、病院によっては十分なスタッフ数を確保できない状況に陥っている。スタッフが不足すれば当然、平時のペースで入院診療や救急搬送の受け入れは難しくなる。つまり、診療報酬も減る。
新型コロナウイルスへの感染を恐れて患者側が病院へ行かなくなっている
ここまで説明した2つの要因は病院側に起因するものだが、多くの人が病院での感染を恐れて病院に足を運ばなくなっていることも大きい。不特定多数の人が出入りする病院にいき、感染者と接触してしまう危険性を感じているというわけだ。
コロナ下の病院の経営者にできる対策とは?
こうした三重苦とも言える状況の中、病院の経営者にできる対策は何か。
キャッシュの確保
経営が悪化するとキャッシュフローが厳しい状況になっていく。そのため、病院経営を継続させていくためのキャッシュの確保が重要になってくる。
国は新型コロナウイルスの影響を受けた企業に対し、金融機関からの無金利融資などの公的支援を打ち出している。こうした支援策を積極的に利用したいところだ。
また、国が従業員向けの休業手当を助成する「雇用調整助成金」も活用し、人件費の負担もなるべく減らすことに努めることも、中期的なキャッシュフローを考えれば賢明な判断だと言える。
院内感染の防止
院内感染の防止に力を入れることも、当然ではあるが非常に重要なことだ。一度院内感染について報じられてしまうと、患者からの信頼性が低下する。こうしたことは、新型コロナウイルスが終息したあとも尾を引く可能性がある。
全日本病院協会は院内感染の対策として、「患者個人における感染症の発生防止」「患者から患者への病原体の伝播防止」「職業感染防止」という3つの視点で具体的な対応策を発表している。こうした取り組みを徹底していくことが必要となってくる。
厳しい状況が続く中、国の支援策にも注目
新型コロナウイルスの影響が長引けば、今後も病院経営の厳しい状況が続く。キャッシュフローの改善や公的支援を活用しながら、院内感染の防止にも引き続き力を入れていく必要があるが、現場の疲弊などは今後より大きな課題となる。
業界をあげて国に補助金や助成金を求める声も高まっている。それに対して国がどういった支援策を打ち出すのかにも注目が集まる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)