事業承継税制
(画像=Gajus/stock.adobe.com)

中小企業庁は7月6日、「経営資源引継ぎ補助金」の実施を発表した。新型コロナウイルス問題の終息が見えない中、中小企業・小規模事業者の事業承継をはじめ、事業再編や事業統合などが円滑に行われるよう、国が支援に乗り出した形だ。

大山敬義
監修者
株式会社バトンズ 代表取締役 兼 CEO
大山敬義(おおやま・たかよし)
1967年神奈川県生まれ。91年日本M&Aセンターの設立に参画し、同社のM&Aコンサルタントとして活動。入社以来28年にわたって100件以上のM&Aを成約。2012年より同社常務取締役、15年より常務取締役総合企画本部長に就任。18年に小規模事業者向けのM&Aサービスを提供するアンドビズ株式会社(現・株式会社バトンズ)の代表取締役に就任。

経営資源引継ぎ補助金とは?

経営資源引き継ぎ補助金は、「新陳代謝を加速し、我が国経済の活性化を図ること」を目的に令和2年度(2020年度)の第1次補正予算で実施されるもの。

詳しくは後述するが、今回の補助金では「買い手支援型(Ⅰ型)」と「売り手支援型(Ⅱ型)」の2つの区分で実施され、対象となるM&Aにかかる経費(手数料等)の3分の2の金額が補助される。

また、今回の補助金は複数の業者から見積もりを取る「相見積」が必要となることも知っておきたい。国によれば相見積は「2者以上」である必要がある。

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経営資源引継ぎ補助金の4つのポイント

経営資源引き継ぎ補助金_2
(画像=経営資源引き継ぎ補助金公式サイト)

国は、経営資源引継ぎ補助金のポイントとして、以下の4点を挙げている。

支援内容別に補助上限額を設定

経営資源引継ぎ補助金による支援は

① 経営資源の引継ぎを促すための支援(M&Aによる事業承継の実行途上で支出した費用)
② 経営資源の引継ぎを実現させるための支援(第三者承継が成約に至った場合の費用)

に分類され、どちらの支援かによって補助の上限額が異なる。
後から申請を変えることはできないため、補助金の実施期間中(交付決定日~最長で2021年1月15日まで)に成約が可能だと考えれば②を、そうでなければ①を申請する形となる。

買い手・売り手双方の取り組みを支援

買い手・売り手の両方を支援するという点も、この経営資源引継ぎ補助金の特徴の一つとして挙げられる。

引継ぎ形態別に補助対象者が変わる

引継ぎの形態により、補助を受けられる対象者が変わることも念頭に置いておきたい。
買い手支援型では承継者である「法人」や「個人事業主」が対象者となり、売り手支援型では株式譲渡を行う「対象会社」のほか、個人・法人を問わず「対象会社と対象会社の支配株主」などが含まれ、より広い範囲が対象となる。

専門家活用に係る経費等を一部補助

事象承継を実施する際には、弁護士、会計士、M&A仲介業者やM&Aの助言を行うファイナンシャル・アドバイザー(FA)を活用することもあるが、経営資源引継ぎ補助金ではこうした専門家の活用に対しても経費の一部に補助が出る。
例えば、デューデリジェンスの費用、概要書作成費用、契約書作成費用はもちろん、相談の謝金、交通費なども補助されるため、経営者が気軽に相談できるようになっている。
ちなみに具体的な補助対象経費としては、買い手支援型と売り手支援型ともに「謝金」「旅費」「外注費」「委託費」「システム使用料」と規定されているが、売り手支援型ではそのほか、廃業費用として「廃業登記費」や「在庫処分費」なども含まれている。

4つのポイントまとめ

①経営資源の引き継ぎを促す支援②経営資源の引き継ぎを実現させるための支援
補助される費用M&Aによる事業承継の実行途上で支出した費用
(専門家の活用の際の経費、資料作成費用など)
M&Aによる事業承継が成約に至った場合の費用
(M&Aの成約手数料、成約にかかる専門家の費用など)
対象となる企業買い手・売り手ともに中小企業基本法で定められた中小企業者と小規模企業者買い手・売り手ともに中小企業基本法で定められた中小企業者と小規模企業者
補助対象者法人・個人事業主法人・個人事業主・支配株主

補助金はいくら受けられる?

既に説明したように、「買い手支援型」と「売り手支援型」の2つの分類があり、それぞれ補助の目的が「①経営資源の引継ぎを促すための支援」と「②経営資源の引継ぎを実現させるための支援」の2つに分けられる。
買い手支援型と売り手支援型で①と②の補助上限額が一部異なる。
詳しくは下記の表確認してほしい。売り手支援型では①が同じく100万円だが、②は650万円と上限額が高いのが特徴だ。

支援タイプ①経営資源の引き継ぎを促す支援②経営資源の引き継ぎを実現させるための支援
買い手支援型上限100万円上限200万円
売り手支援型上限100万円上限650万円

ちなみに具体的な補助対象経費としては、買い手支援型と売り手支援型ともに「謝金」「旅費」「外注費」「委託費」「システム使用料」と規定されているが、売り手支援型ではそのほか、廃業費用として「廃業登記費」や「在庫処分費」なども含まれている。

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【経営資源引継ぎ補助金公式サイト】

補助金の対象者や審査のポイントは?

経営資源引継ぎ補助金では、中小企業基本法で定められた中小企業者と小規模企業者が対象となる。例えば製造業や建設業の場合は、資本金また出資の総額が3億円以下で常時使用する従業員が300人以下、といった具合だ。
補助金申請における審査・選考においては、「買い手支援型」と「売り手支援型」で以下の着眼点があるとされている。

<買い手支援型(Ⅰ型)>
・M&A案件が具体化していること
・財務内容が健全であること
・買収の目的・必要性
・買収による効果・地域経済への影響

<売り手支援型(Ⅱ型)>
・M&A案件が具体化していること
・譲渡/廃業の目的・必要性
・譲渡/廃業による効果・地域経済への影響

この中で特に重視されるのが「案件が具体化していること」だ。そのため、事業売却の締結を検討していて既に他社から見積もりを取っているケースや、デューデリジェンス(資産査定)の実施直前のケースなどが、経営資源引継ぎ補助金の対象により当てはまりやすい。

補助金申請の際の注意点

経営資源引き継ぎ補助金
(画像=経営資源引き継ぎ補助金公式サイト)

補助金事業の交付申請はオンラインか郵送で行い、交付申請の受付期間はオンラインの場合は7月13日から8月22日まで、郵送の場合は8月21日まで(当日消印有効)とされている。補助金交付までのおおまかなステップとしては以下の通りだ。

・交付申請
・交付決定通知
・補助対象事業実施
・実績報告(事業完了から15日以内)
・補助金の交付

上記の通り、補助金は事業承継が完了したあと、最終的に銀行振込される。事前に費用の一部が振り込まれるわけではないことは知っておこう。

廃業ではなく「M&A」という選択肢

いま多くの中小企業の経営者や小規模事業者がコロナ禍における難しい舵取りを迫られており、廃業を考える企業も増えている。

新型コロナウイルスによる倒産件数(負債1,000万円以上)は、7月10日時点で324件に上っている。
今後も増えることが予想されるが、廃業ではなく事業承継という選択肢を選ぶ企業が増えれば、地域経済における雇用も守られる。だから国は支援に乗り出したわけだ。

M&Aによる事業統合や事業再編を成功させれば、経営者には売却による利益も残り、従業員の雇用も継続される可能性が出てくる。
経営状況が厳しい事業主は、新しくスタートした経営資源引継ぎ補助金の活用も検討したいところだ。

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文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)