事業承継ガイドライン
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事業承継ガイドラインは、事業承継の概要を知るためには便利な資料だが、専門後も多く理解しにくいと感じる経営者もいるだろう。今回は、事業承継ガイドラインの中で、最低限押さえておきたい項目について分かりやすく解説する。事業承継ガイドラインを読む前に、参考にしてもらいたい。

目次

  1. 事業承継ガイドラインとは?
  2. 事業承継ガイドラインができた背景
  3. 事業承継ガイドラインのポイント1…事業承継の種類
    1. 親族内承継
    2. 役員・従業員承継
    3. 社外への引継ぎ(M&A等)
  4. 事業承継ガイドラインのポイント2…事業承継の構成要素
    1. 人(経営)の承継
    2. 資産の承継
    3. 知的資産の承継
  5. 事業承継ガイドラインのポイント3…事業承継の進め方
  6. 事業承継ガイドラインのポイント4…事業承継をサポートする仕組み
  7. 事業承継ガイドラインは手引書として活用できる
  8. 事業承継に悩んでいる方は専門家に相談を
  9. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
木崎涼
木崎 涼(きざき・りょう)
FP・簿記・M&Aシニアエキスパート。大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。多数の資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

事業承継ガイドラインとは?

事業承継ガイドラインとは、中小企業庁が定める事業承継に関するガイドラインだ。事業の世代交代を円滑に進め、経済の活性化を図ることを目的として、2016年12月に策定された。なお、2017年9月に内容が更新されている。

事業承継ガイドラインは、第一章から第六章まであり、96ページに渡って事業承継に関する情報が詳しく解説されている。事業承継の種類や進め方、サポート体制など、幅広い情報が網羅されている。

事業承継ガイドラインは、事業承継をサポートする民間企業や金融機関の職員が参照することも想定して作られているため、専門的な知識がなければ読むだけでは内容が理解し難いという声も少なくない。

今回は、事業承継について検討し始めたばかりの経営者にとってもわかりやすいよう、事業承継ガイドラインを要約した内容を解説するので、ぜひ参考にしてほしい。

事業承継ガイドラインができた背景

事業承継ガイドラインの内容の解説に入る前に、中小企業を取り巻く環境について簡単に説明する。

帝国データバンクによると、2019年の後継者不在率は65.2%だ。M&Aをはじめとした事業承継の選択肢についての知名度は少しずつ上昇しており、2年連続で後継者不在率は低下しているが、依然として高い割合であることに違いはない。後継者不足が深刻な今、事業承継のニーズは高まっている。

また、中小企業庁委託の「企業経営の継続に関するアンケート調査(2016年)」によると、小規模法人の後継者候補が見つからない理由には、「後継者候補を探すうえで適切な相談相手が見つからない」「探す時間が確保できない」などがあった。

事業承継の時期にさしかかっても後継者の探し方がわからずに悩んでいる、多くの経営者の姿が思い浮かぶ調査結果だ。こういった時代背景を踏まえ、事業承継ガイドラインが定められたのだ。

事業承継ガイドラインのポイント1…事業承継の種類

ここから、事業承継ガイドラインの内容を要約していく。まず、事業承継には「親族内承継」「役員や従業員への承継」「社外への引継ぎ(M&A等)」の3つの種類がある。それぞれについて詳しく説明する。

親族内承継

経営者の子どもといった、親族に事業を引き継ぐ方法が「親族内承継」だ。

親族内承継のメリットは、内外の関係者に気持ちの面で納得されやすいことや、長期間に渡って後継者教育が可能なことなどがある。デメリットは、親族内で後継者を見つけるのが難しいことだ。また、相続問題にも影響を及ぼすため、後継者以外の親族に不平等感が生まれないよう十分配慮しておきたい。

かつては、親族内承継が一般的だった。しかし、最近では職業選択の自由度が高まったことなどから、親族が承継を拒むケースも少なくない。そんな時は、次の選択肢を検討する必要がある。

役員・従業員承継

長年勤めてきた役員・従業員に承継する方法が「役員・従業員承継」だ。

メリットは、じっくりと経営者としての能力を見極められること、承継後も経営方針や事業の一貫性が保たれることなどだ。デメリットとして、後継者である役員・従業員に、株式を買い取るだけの資金力がない場合があるという課題もあった。しかし、持株会社や持株会などの活用スキームが浸透することで、資金面の問題は解消されつつある。

役員・従業員承継では、自分以外の親族株主の了解を得ておくことも大切だ。早めに親族間での調整を行うなど、トラブルが生じないように十分配慮して承継を進めるようにしたい。

社外への引継ぎ(M&A等)

親族や社内に事業承継先の適任者がいなくても、候補者を外部から探すこともできる。M&Aをはじめとした「社外への引継ぎ」だ。

メリットは、会社の売却益としてまとまった資金を得られることだ。デメリットとしては、最適なM&Aのマッチング候補を見つけるまでに時間がかかることが挙げられる。候補者が見つかるまでの期間は、企業の特性や経営環境に大きく左右され、数ヵ月から長ければ数年かかる。

社外への引き継ぎを検討する場合は、十分な時間的余裕を持って候補者探しをすることが大切だ。

事業承継ガイドラインのポイント2…事業承継の構成要素

事業承継といっても、具体的にどのようなことをすればいいのだろうか。事業承継には、「人(経営)の承継」「資産の承継」「知的資産の承継」という3つの引き継ぐべき構成要素がある。

人(経営)の承継

「人(経営)の承継」とは、経営権を承継することだ。具体的には、代表取締役の交代を指す。

手続き自体は、登記をすれば簡単に終わるが、実務面ではそう簡単な話ではない。ノウハウなどの具体的な経営手法はもちろん経営者として必要な判断や振る舞いができるよう、現経営者として伝えられることを後継者に伝えていく必要がある。

資産の承継

「資産の承継」とは、事業経営に必要な設備・不動産・債務などの資産を承継することだ。株式会社の場合、資産の直接の所有者は会社なので、株式を売却して後継者に資産を引き継ぐことになる。個人事業の場合は、それぞれの資産毎に売買契約等で引き継がなければならない。

「資産の承継」においては、贈与税・相続税が発生することがある。また、後継者の資金力によっては、一括ではなく分散して承継した方がいい場合もある。資産の承継では、こうした税負担の影響によって事業の安定性を損なう可能性もあるため、専門家の知恵を借りながら慎重に検討していく必要がある。

知的資産の承継

「知的資産の承継」とは、目には見えない経営資源を承継することだ。例えば、企業の活動方針を示す経営理念や在籍している社員、また、取引先と築いた関係性であったり技術力やブランド力も知的資産に含まれる。代表取締役の変更や株式の売却を行ったとしても、「知的資産の承継」の承継をおろそかにしてしまえば、その後の経営はうまくいかない。

自社の強みや価値の源泉を深く理解し、後継者に伝えていく姿勢が大切だ。

事業承継ガイドラインのポイント3…事業承継の進め方

事業承継のガイドラインで説明されている事業承継の流れは、以下の5ステップである。

ステップ1:事業承継の準備の必要性認識
ステップ2:経営状況や経営課題の「見える化」
ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
ステップ4:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)
      マッチングの実施(社外への引継ぎの場合)
ステップ5:事業承継/M&Aの実行

この記事を読んでいる読者は、既にステップ1に差し掛かっているだろう。

ステップ2で、会社の経営状況や今後も含めた経営課題を見える化することは、後継者に正しく引き継ぐのと同時に、M&Aにおいて自社の魅力を十分にアピールする際にも重要だ。また、株式の売却価格の決定にも大きな影響を及ぼすだろう。

経営状況や経営課題を把握するためには、ベンチマークをもとに業界での自社の立ち位置を評価したり、不動産等の担保設定を見直したり、知的資産から事業価値を分析する必要がある。

続いてステップ3の「事業承継に向けた経営改善」では、後継者が円滑に事業を継続できるよう経営体制の総点検をしたり、財務状況をタイムリーに把握できるよう専門家と調整するなお、経営課題を一つずつ解消していく。

ステップ4の「事業承継計画の策定」では、未来の事業計画だけでなく、過去にさかのぼって「なぜ事業を始めたのか」「どのように事業が成長してきたか」といったことを、現経営者として振り返ることが大切だ。

後継者は、承継する事業の過去について深く知らない。歴史を知らなければ、大切な場面で経営判断を誤ってしまう可能性もある。過去と未来をつなぐ事業計画という指針があれば、事業承継後も後継者は経営のかじ取りができるだろう。

社外への引継ぎでは、「M&A仲介業者の選定」「売却条件の検討」を経て、事業の買い手候補の探索を始める。その後、買い手候補が見つかったら「トップ面談」を実施し、「基本合意契約」「デューデリジェンス」などの段階を踏んでいく。

ステップ5では、実際に役員変更登記を行ったり、株式の譲渡契約を締結したりする。これによって、事業承継は実行されたことになる。その後、従業員への説明や取引先への告知等を行う。

事業承継が実行された後も、必要に応じて現経営者が後継者をサポートするケースも多い。

事業承継ガイドラインのポイント4…事業承継をサポートする仕組み

事業承継の相談先には、次のような選択肢がある。

商工会議所
税理士・公認会計士
金融機関
事業引継ぎ支援センター

相談相手として最もハードルが低いのが、顧問の税理士・公認会計士だろう。中小企業庁委託の「企業経営の継続に関するアンケート調査(2016年)」でも、親族を超えて相談相手のトップに躍り出ている。

事業引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継をサポートする公的な支援機関だ。北海道・宮城県・東京都・静岡県・愛知県・大阪府・福岡県の合計7ヵ所に設置されている。事業承継に関するセミナーなども行っているため、最初のステップとして活用してみるのもいいだろう。

「事業引継ぎ相談窓口」は全国47都道府県に設置されているので、事業引継ぎ支援センターがない地域でも事業承継の相談は可能だ。

事業承継では、相談先を一つに絞る必要はない。窓口がどこであるにしろ、税理士や弁護士など専門家の支援が必要になる事もある。一人で抱え込まずに、相談窓口を活用しながら、十分な余裕を持って事業承継を検討し始めることが大切だ。

事業承継ガイドラインは手引書として活用できる

事業承継ガイドラインには、事業承継に関する情報が詳しくまとめられている。事業承継を考え始めた時点ですべてに目を通す必要はないが、必要に応じて活用するようにしたい。まずは、事業承継ガイドラインの目次を確認して、気になる項目だけをピックアップして目を通すのもいいだろう。

事業承継は、どんな経営者もいずれは直面する。幅広い選択肢の中から最もいい選択ができるよう、事業承継ガイドラインを手引書とし、視野を広く持って早めの準備を心がけたい。

事業承継に悩んでいる方は専門家に相談を

事業承継を考え始めたら、まずはインターネットなどを活用して知識を仕入れよう。基本的な知識を最初に身につけておけば、具体的に事業承継を依頼する相手を探す際に、良い業者・悪い業者の判断もつきやすくなる。

スピード感や手厚いサポートを重視するなら、M&A仲介業者への相談がいいだろう。事業承継においては、専門家の力を借りることは不可欠だ。自学自習だけで、弁護士や税理士などの専門家を取りまとめ、M&Aを進めていくことは不可能に近い。契約書の雛形などを活用して形だけ実行しても、あとで訴訟トラブルに発展するケースもある。

M&A仲介業者に支払う報酬は決して安くはないので、出費を惜しむ気持ちが生まれるかもしれないが、会社の出口戦略である事業承継は、それだけ経営において重要な位置づけだといえる。今後数十年に渡って不安を抱えて暮らすリスクを考えたら、必要経費と割り切る精神も必要だ。

実績豊富なM&A業者は、最新の法律やスキームを熟知しているうえ、事業承継のノウハウの蓄積がある。M&Aでは、買い手候補先との条件交渉や、従業員への説明、取引先への説明など、法務的・税務的手続き以外の手続きも慎重に進めていく必要がある。

こういったすべてのプロセスで相談できるM&A業者の担当者は、力強い味方になるだろう。また、失敗事例などを聞くことで、自社の事業承継で想定されるリスクに早いうちから備えられる。

プロの力を借りることで、事業承継が成功すれば、自分にとっても社員にとっても望ましい結果を引き寄せられるはずだ。

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文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)

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