福利厚生
(画像=Witthaya/stock.adobe.com)

中小企業経営者として、福利厚生の充実を図れているだろうか。中小企業は大企業よりも資金力がなく、福利厚生の導入が困難かもしれないが、福利厚生は従業員満足度を高め、雇用確保のためにも重要な制度である。ここでは、中小企業が導入を検討すべき5つの福利厚生を紹介する。

目次

  1. 中小企業が福利厚生に注力するメリット
  2. 従業員に人気のある福利厚生とは?
  3. 中小企業が導入すべき福利厚生:住宅手当や家賃補助
  4. 中小企業が導入すべき福利厚生:食費補助や社員食堂
  5. 中小企業が導入すべき福利厚生:介護・育児休業
  6. 中小企業が導入すべき福利厚生:健康管理
  7. 中小企業が導入すべき福利厚生:自己啓発支援
  8. 中小企業の福利厚生は優秀な人材の獲得につながるかも

中小企業が福利厚生に注力するメリット

大企業は、就職を目指す学生はもちろん、転職希望者にとっても人気がある。大企業は、経営が安定しており、多少景気が悪化しても経営危機や倒産という事態に陥るリスクが、中小企業に比べると低いからであろう。

一方で、中小企業は大企業に比べて事業規模が小さいため、経営の安定という面では太刀打ちできない。そうなると、就職や転職の選択先が大企業だけになりかねないが、地元で働きたいといった理由や、規模が小さい故に経営者との距離が近いなどといった理由で中小企業を選択する人も少なくない。

中小企業は、求職者の採用活動において、大企業が持っていない独自の魅力をアピールしている。その魅力の一つとして、福利厚生の充実がある。大企業に比べて従業員が少ない分、働く労働者に対して独自の福利厚生を施すことができる強みもあるのだ。ここ数年は、人材不足が深刻な社会問題となっており、優秀な人材を確保するためには、福利厚生に力を入れることも重要視されているのだ。

内閣府の「子供・若者白書(2018年度)」に記載されている「就労等に関する若者の意識」によると、仕事を選択する際に「とても重要」「まあ重要」と考えている観点として、「福利厚生の充実」が、「安定して働けること」「収入が多いこと」「自分のやりたいことができること」に次いで、僅差で4位となっている。

会社で働く上で、収入の安定性などはもちろん、福利厚生がいかに注目されているかが分かる結果である。

従業員に人気のある福利厚生とは?

福利厚生には、いくつか種類があるが、従業員に人気のある福利厚生とはどのようなものだろうか?

各々の従業員の価値観や置かれた環境によって、求める福利厚生は異なるかもしれないが、本来従業員が金銭的負担をすべき事を、会社が代わりに負担してくれる福利厚生は人気があるだろう。このような福利厚生の制度は、実質的に給料の増額だと従業員が捉えるからだ。例えば、実家以外から通勤している従業員に対して支給される、「住宅手当」や「家賃補助」が該当する。

健康診断については、会社が費用を負担した上で従業員が受診することが労働安全衛生法で定められているが、人間ドックなどの法定外の健康診断について、会社が費用補助をする制度を設けている場合もある。

また、直接的な金銭手当ではないが、社員食堂があれば比較的安価で昼食を取ることができ、従業員の金銭的負担が軽減される。また、夕食や夜食を支給する会社もあり、従業員の実費負担の軽減になっている。

中小企業が導入すべき福利厚生:住宅手当や家賃補助

「住宅手当」などの、住居に関する費用補助などは、中小企業にとっても従業員に対してアピールできる福利厚生である。人事院が勧告している「職種別民間給与実態調査(2017年度)」によると、回答した企業の実に50%以上が、「住宅手当」を支給しているとのことであった。

特に都市部では、家賃が地方に比べて高額なため、生活費のかなりの部分を占めることになり、住宅手当がないと費用負担が大きくなるだろう。厚生労働省の「就労条件総合調査(2015年度)」では、「住宅調査」の項目で具体的な住宅手当の金額について言及されており、住宅手当の平均額は「1.7万円」となっている。

また、住宅に対する福利厚生には、給料に加算して支給される住宅手当や家賃補助の他に、社宅や独身寮を提供するといったものもある。家賃手当として現金が支給されるわけではないが、実質的に家賃が不要になるため、入居できる従業員にとっては生活費の負担を減らす効果がある。

ただ、住宅手当や家賃補助の支給、あるいは社宅や独身寮の提供といった福利厚生を、全社員に対して無条件に適用していては中小企業の経営に影響を与えかねない。そのため、住宅手当などの福利厚生が適用される従業員には、ある一定の条件を設けている企業が多い。

一方で、住宅手当は給料の一部とみなされるため、その増加部分に所得税がかかることになる。そこで、会社の中には、「借り上げ社宅制度」を導入するところもある。

「借り上げ社宅制度」は、一般賃貸物件を会社が不動産業者から借りて、社員に貸し出すという方法である。会社が所有する社宅よりも初期費用を抑えることができる上に、固定資産税の負担が無いなど、会社にとって大きなメリットがある。

社員にとっても、所得税がかからないだけでなく、借り上げ社宅であればいくつかの物件から選択できるといったメリットもある。

中小企業が導入すべき福利厚生:食費補助や社員食堂

食費の補助に関する福利厚生も、中小企業の経営者は導入を検討してほしい。食費などの金銭的補助だけでなく、社員食堂を導入することによって、従業員の生活費の負担が減ることはもちろん、従業員の健康に配慮した食事を提供したり、従業員間のコミュニケーションの場を設けることもできる。

食費の金銭的補助を福利厚生とするには、いくつかの基準がある。

まず昼食代だが、従業員が食費の金額の半分以上を負担し、「(食費の金額-従業員が負担する金額)=3,500円以下(税抜き、1ヵ月当たり)」という基準がある。ただし、食事補助を現金で支給した場合には給与手当となり、福利厚生に該当しないため、食事のみに使用できる金券などを支給することになる。

次に、夕食代や夜食代の基準だが、これは現物支給に限り福利厚生に計上できる。つまり、従業員が夕食や夜食を飲食店で食べた場合には、一度従業員が立て替えてから領収書を会社に提出し、精算することになる。ただし、午後10時から午前5時まで働く深夜勤務者の場合で、現物支給できない時には、1食あたり300円(税抜き)以下であれば、現金支給が認められている。

なお、社員食堂を完備すれば、社員は比較的安い値段で食事を取ることができる。ただ、社員食堂を設けるには、調理場や飲食スペースが必要になるのはもちろん、運営スタッフを雇うための人件費も必要となる。

中小企業にとって、社員食堂の設置はかなりの費用負担になるため、「食事補助」という方法を取っている会社もある。まず、近隣に調理場となる一室を借りて調理を実施し、会社に食事を届けるという方法がある。こうすることで、社員食堂ほどの広いスペースは必要なく、調理するだけなのでスタッフの人数も少なくて済む。また、宅配弁当のサービスを導入するという方法もある。

中小企業が導入すべき福利厚生:介護・育児休業

「育児休業」の制度は、20代、30代の従業員に人気がある福利厚生だ。

子どもが生まれた後に、育児のための一定期間の休業を取得できる制度であり、出産をした女性はもちろん、夫にも認められている制度である。以前から制度として存在していた「育児休業」だが、2017年10月に「育児・介護休業法」が改正されて、制度が大きく変わった。

まず、子どもを預けるための保育所などが見つからない場合には、休業期間がそれまでの「子どもが1歳6ヵ月になるまで」から「子どもが2歳になるまで」に延長された。また、会社は育児休業制度について、従業員に周知することが努力義務となり、従業員やその配偶者の妊娠が判明した時点で、個別に支援制度を周知するように改正された。

さらに、小学校入学前の子どもを持つ従業員が、育児をするために必要な休暇を申請できる制度を設けることも努力義務とされている。法改正前は、育児を目的とした休暇は、「1歳未満の子ども」「けがや病気の子ども」に限定されていたが、改正によって制約が撤廃された。

中小企業が導入すべき福利厚生:健康管理

従業員の健康支援を目的とした福利厚生として最も代表的なものは、従業員の心身の健康管理を行う「定期健康診断」の実施だ。健康診断で改善の必要があるという結果が出た従業員に対して、生活習慣病の改善指導を行うことで、健康支援の効果をさらに高められるであろう。民間の医療機関での人間ドック受診に対して補助金を支給する会社もある。

また、肉体的な健康だけでなく、メンタルヘルスケアに関する福利厚生を導入することも重要である。

スポーツイベントや健康ポイント付与を行うなど、運動習慣の改善に力を入れている会社もあり、従業員が病気やけがをした際に、援助を行うための傷病手当や傷病休暇を設けている会社もある。

このように、従業員の健康管理を行うための福利厚生は、従業員はもちろん会社が健全に機能していくためにも不可欠なものである。

中小企業が導入すべき福利厚生:自己啓発支援

従業員の「自己啓発」や「能力開発」に対する補助も、大切な福利厚生である。

日本国内企業を対象とした「能力開発基本調査(2018年度)」によると、従業員の教育には企業内での教育訓練であるOJTを活用している企業が7割以上を占めている。

企業外で職業能力を向上させるための「OFF-JT」や、自ら職業能力を向上させるために勉強する自己啓発を行なっている社員は、いずれも35%程度である。また、OFF-JTや自己啓発で学ぶ社員に対して何らかの補助金を支給している企業の割合は、56.1%であった。

同調査では、OFF-JTや自己啓発に対する補助金の平均額についても記載されている。調査結果によると、OFF-JTへの支援額は1.4万円、自己啓発への支援額は0.3万円となっており、福利厚生として導入しているとしても、補助額はまだまだ低額であるという印象を受ける。

従業員の自己啓発や能力開発に関連する福利厚生支援は、従業員のさらなる成長の機会を提供する意味でも不可欠である。中小企業であっても、能力開発に関係する福利厚生を充実させることを検討して欲しい。

中小企業の福利厚生は優秀な人材の獲得につながるかも

会社を選ぶ際の基準の一つとして、福利厚生に着目する求職者は少なくない。福利厚生が充実している会社は、会社が従業員を大切にしていると判断できるからだ。中小企業は、大企業に比べて給与や経営の安定面では不利だが、福利厚生を充実することで優秀な人材を集めることも可能となるであろう。

文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)

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