補助金
(画像=Hyejin Kang/stock.adobe.com)

国が提供している補助金・助成金は、中小企業の課題を解決に導く頼れる制度といえよう。しかし、手続きが煩雑で有効活用できていない経営者の方もいるかもしれない。今回は全国的に国が打ち出している中小企業向けの補助金について解説したい。

目次

  1. 中小企業の役割と課題
    1. 日本社会を牽引する存在
    2. 中小企業を取り巻く課題
  2. 中小企業を支える国の補助金・助成金
  3. 中小企業が検討すべき補助金・助成金
    1. 制度1.IT導入補助金
    2. 制度2.小規模事業者持続化補助金
    3. 制度3.ものづくり・商業・サービス補助金(ものづくり補助金)
    4. 制度4.事業承継補助金
    5. 制度5.キャリアアップ助成金
  4. 企業間の連携を促す補助金
  5. 中小企業の課題を補助金で解決

中小企業の役割と課題

はじめに、日本社会で中小企業が果たす役割と課題について触れる。

日本社会を牽引する存在

2010年に閣議決定された中小企業憲章では「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」と述べられている。

中⼩企業庁経営支援部⼩規模企業振興課の「政策実⾏の実務者として必要な中⼩企業政策の知識」によると、日本企業全体数の99.7%が中小企業であり、従業者総数の68.8%が中小企業で働いている。

中小企業は、名実ともに日本社会を支える存在だといえるだろう。

中小企業を取り巻く課題

中小企業を取り巻く業況はあまり芳しいとはいえない。2019年の中小企業白書によれば、日本の景気は2012年末を境に拡大基調を維持している。

しかし、経常利益の推移に目を向けてみると、2009年のリーマンショック時から大企業が4倍近くにまで回復しているのに対し、中小企業は2倍程度までしか回復していない。

設備の老朽化を示す指数も大企業よりも上昇傾向で、研究開発費や設備投資額を見ても、中小企業は未来へ向けた投資を行う余裕がないとうかがえる。

さらに少子化による人手不足や高齢化にともなう後継者問題も中小企業を悩ます。2019年の人手不足倒産は4年連続の過去最高記録を更新。前年比約21%増の勢いで増加している。

帝国データバンクの調査では企業全体の約50%が正社員不足に悩み、情報関連企業に限れば70%以上が苦しんでいると回答。

IT技術の導入で生産性を向上できるとのデータがある一方、中小企業の約4割はITの導入で遅れをとる。収益に直結する調達や受注管理の分野では、約8割が未だに十分なIT化がなされていない。

中小企業の担う役割も、かつての大企業を頂点とした系列の下請け取引関係から、水平的な取引関係に変化する必要があると指摘されている。

※参考:

「中小企業憲章(2010年6月)」
(経済産業省)

「政策実⾏の実務者として必要な中⼩企業政策の知識」
(中⼩企業庁経営支援部⼩規模企業振興課)

「中小企業白書 2019」
(中小企業庁)

「人手不足に対する企業の動向調査(2020年1月)」
(帝国データバンク)

中小企業を支える国の補助金・助成金

市場原理に従えば、中小企業は大企業に淘汰されてしまってもおかしくはない。だが、社会の主役たる中小企業が消えてしまえば、地域の個性や活力も同時に失われる。

そこで、日本経済に活力を生み出す中小企業を支えるため、国や自治体がさまざまな施策を打ち出している。その一つが補助金・助成金であり、創業や知的財産の保護、販路開拓などに役立つ。

地域の事情を酌んだ個性的な施策も多数用意され、中小企業の誕生から競争力の創出、ビジネスの拡大にかけて支援してくれる。

国が用意する補助金・助成金は、中小企業全体に当てはまる課題を解決するようデザインされ、設備投資を補助したり、ITツールの導入をサポートしたりする。

中には企業間連携による改善を支援する制度もあるだろう。これらを通して生産性を向上させ、人手不足にも対応できる体制をつくる。

地方自治体とは異なり、国の施策は地域と各企業に合わせた細かい制度設計とケアができない。しかし、取り組みさえすれば確実に効果が期待できる。

中小企業が検討すべき補助金・助成金

ここからは中小企業が検討すべき具体的な補助金・助成金について紹介しよう。

制度1.IT導入補助金

生産性の向上につながるITツールの導入に最大で450万円が補助される。これまでの採択事業者平均で労働生産性が24%、利上げが16%増加した。勤務時間についても2%の減少という目に見える成果を上げている。

制度2.小規模事業者持続化補助金

販路開拓に主眼を置いた補助金だが、宣伝広告以外にも店舗の改装や設備投資、ホームページの作成などに利用できる。

平成26年度補正予算採択事業者へのアンケートでは、96%が売上の増加を実感したと答えるなど、成果につながりやすい補助金だとうかがえる。

制度3.ものづくり・商業・サービス補助金(ものづくり補助金)

代表的な一般型では、新製品・新サービスの開発や生産プロセスの向上に必要な設備投資に対し、最大1,000万円が受け取れる。

海外事業の拡大を目的としたグローバル展開型だと最大3,000万円が補助される。

平成26年度補正予算で採択されたエクセレント株式会社の事例を見てみよう。製造におけるボトルネック工程に補助金を活用して新しい機械装置を導入。結果、生産性が5倍になったと報告されている。

さらに副次的な効果として歩留まり率も改善。より精密な加工が可能になったことで他社との差別化も実現した。

社長は「生産性の改善だけでなく、受注幅の増加に寄与するなど、経営として効果的な取り組みが実施でき、中長期の成長イメージが確立することができました」とコメントしている。

ものづくり補助金は、中小企業の経営を飛躍させる施策といえよう。

制度4.事業承継補助金

事業承継補助金は、事業承継で経営革新に取り組む場合、必要な経費に対して最大600万円を支給する。

個人で承継するケースだけでなく、M&Aによる事業再編・事業統合も補助金の対象となる。「事業再編・事業統合支援型」では最大1,200万円が受け取れる。後継者問題を一挙に解決したいケースに役立つに違いない。

制度5.キャリアアップ助成金

各補助金によって生産性が向上したならば、その利益を従業員に還元する仕組みもつくるべきだ。つまり、働き方改革である。

厚生労働省が推進する働き方改革に役立つのが、キャリアアップ助成金である。従業員の労働時間を減らしたり、待遇を改善したりすることで一定の助成金がもらえる仕組みだ。

少子高齢化による人手不足が深刻化する中、求人市場で労働者に選ばれるために、従業員の満足度を向上させたい。

企業間の連携を促す補助金

生産性の向上を目的とした補助金と並んで、企業間の連携を促す補助金もある。

中小企業組合等課題対応支援事業では、戦略的なブランド化や技能継承など、単独で実現しづらい施策に中小企業が連携して取り組む場合、最大で2,000万円の補助金を受給できる。

前述した「ものづくり補助金」の企業間連携型では、企業間が連携する取り組みに1社あたり最大2,000万円の補助が下りる。

サプライチェーン効率化型では、サプライチェーン全体を効率化する取り組みに1社あたり最大1,000万円の補助金が支給される。

中小企業の強みは、革新的な試みに向かって素早く舵を切れる点にある。しかし、現代はテクノロジーが高度化し、グローバルな生産・物流網が組織され、事業のスケールが小さいと競争力を保てない。

複数の中小企業が連携することが今後の生き残りに重要だ。

中小企業の課題を補助金で解決

中小企業は経済の根幹を担う存在だ。それゆえ、存続・発展を目指すにあたって、数々の困難が立ちはだかる。

当然、国も地域も見過ごすわけにいかず、統計的な調査に基づいた支援策を用意している。特に補助金・助成金は、会社を成長させる即効薬となりえるだろう。

補助金・助成金制度は全国に3,000以上あり、自社で使える制度にたどり着くまでが難しいうえに、利用するまでの手続きが面倒かもしれない。

だが、限られた予算のなかで地域の事情や時代の流れを鑑みて設計されている。

日本社会の主役である中小企業が、補助金・助成金の利用をきっかけに行政と良好な関係を築き、更なる飛躍を遂げることを真摯に期待したい。

文・奥平聡(株式会社ライトアップ)

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