アナジー効果
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風間 啓哉
風間 啓哉(かざま・けいや)
監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けのサービスを得意とする会計事務所にて、各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証一部)へ参画。主に管理部門のマネジメント及び子会社マネジメントを中心に、ホールディングス化、M&Aなど幅広くグループ規模拡大に関与。同社取締役CFOを経て、会計事務所の本格的立ち上げに至る。公認会計士協会東京会中小企業支援対応委員、東京税理士会世田谷支部幹事、㈱デジタルハーツホールディングス監査役(非常勤)。

M&Aによって得られるプラスの相乗効果として「シナジー効果」が有名である。ただ、M&Aによって、逆にマイナスの相乗効果となる「アナジー効果」もある。ここでは、M&Aにおけるアナジー効果の詳細や、アナジー効果を防いで、M&Aを成功させる方法について説明する。

目次

  1. アナジー効果とは
  2. アナジー効果の主な具体例
    1. 経営の多角化によるアナジー効果
    2. 子会社支援によるアナジー効果
    3. 経営資源の分散によるアナジー効果
    4. コスト負担増によるアナジー効果
    5. 重要人物の離脱によるアナジー効果
    6. 重要な顧客を失うアナジー効果
    7. 経営者のモチベーション低下によるアナジー効果
    8. 距離がもたらすアナジー効果
  3. アナジー効果がもたらす悪影響
  4. アナジー効果を回避するには?
  5. M&Aを成功させるためには?

アナジー効果とは

M&Aを行う目的の一つとして、企業を買収することによってプラスの相乗効果を得られる「シナジー効果」が挙げられることが多い。

しかし、実際のM&Aにおいては、必ずしも当初見込んだシナジー効果を得られるとは限らない。逆に、M&Aをする前より収益性や従業員の士気が悪化するなど、マイナスの効果のみが現れることもある。

このような、M&Aにおいてマイナスの効果が発生することを「アナジー効果」と呼んでいる。

アナジー効果は、シナジー効果に比べてあまり聞きなれない言葉であるが、事業間におけるマイナス効果、またはそれぞれの事業の価値が合計よりも下回ることであり、「負のシナジー効果」ともいわれる。

アナジー効果の主な具体例

では、具体的にアナジー効果にはどのようなものがあるのだろうか?

経営の多角化によるアナジー効果

多角的M&Aなどを進めてきた結果、M&A先の事業と既存事業との方向性があまりに違いすぎることで発生するアナジー効果である。

M&Aによる多角化経営は、既存事業とは別の事業を行うことで、事業リスクを分散させる効果がある。ただし、新規事業へのノウハウがない既存事業との間にシナジー効果が生じにくいことがある。

そのため、相乗効果によるプラスの効果どころか、未知の業界に足を踏み入れてしまうことで、フォローアップやトラブル対応などの負担が親会社に重くのしかかるようになり、かえって本業の業績がM&A後に悪化してしまいかねない。

多角化を目的としたM&Aは、アナジー効果が発生しやすい状況を作り出してしまうこともあるのだ。

子会社支援によるアナジー効果

M&Aを通じて新たに加わった企業の管理機能が不十分である場合には、親会社の部署が管理機能を補完することがある。

例えば、情報システム管理の機能がない子会社のフォローアップのため、PCトラブルへの対応やインフラ整備などはもちろんIT投資に関する高度な相談まで、親会社のIT担当部署が対応するケースもある。

M&Aによる新しい子会社への細かい支援が必要になると、親会社に十分な人員がいない限り、親会社側の事案に費やすべき労力が失われてしまい、結果的に親会社自体の管理機能が低下してしまう恐れもある。

経営資源の分散によるアナジー効果

M&Aにより取得した子会社の業態や業績によっては、本来は親会社のために資金投下をするはずであった経営資源が、子会社の運転資金を補完するために利用されることもある。

逆に、子会社が金の生る木の事業を行っており、資金が潤沢にある場合は、資金が不足している親会社の運転資金などに利用されることがある。そのような場合には、子会社側が収益性の高い事業への投資機会を失ってしまうというアナジー効果が発生することになる。

コスト負担増によるアナジー効果

M&Aによって期待するシナジー効果として、両社で共通するコストを削減することを掲げる企業もある。

例えば、別々に存在する業務システムを将来的に統一させ、顧客利便性を向上させることをM&Aの目的としていたとしよう。もしも、M&Aを行う前のデューデリジェンスで想定できなかったトラブルが発生すれば、業務システムの統一にかかるコストが当初の想定を上回るほど莫大になることもあり得る。

想定外のコストの発生によって、グループ全体の収益性が低下する恐れがあることはもちろん、統合システムを利用する顧客が、以前よりも不便と感じて使用を辞めてしまうという新たなリスクが発生することもある。

コスト削減を目的としたM&Aのつもりが、逆に経営を圧迫する事態に陥ることも、アナジー効果の一つと考えられるであろう。

重要人物の離脱によるアナジー効果

M&Aによって、M&A先の子会社から、重要顧客の信頼が厚い敏腕営業マンや長年勤務している熟練の技術者など、経営を支えていた重要人物が離脱してしまうことがある。

その場合、売上が大幅に減少したり製品の安定供給が困難になるなど、事業継続ができなくなる可能性もある。また、組織内の重要人物の退職に伴い、同じ部署内での連鎖的な大量退職が発生するリスクもある。

重要な顧客を失うアナジー効果

M&Aを行う場合は、事前のデューデリジェンスや経営者ヒアリングなどを通じて、重要顧客へのマイナス効果がないかを十分に検証する。しかし、M&Aを行った後に、重要顧客が当初想定できなかったような反応を示すこともあり、結果的に顧客を失ってしまうこともあり得る。

例えば、伝統を重視してきた老舗企業が外資系企業に買収されるなど、既存顧客にとってイメージが悪くなるようなM&Aには注意が必要である。

経営者のモチベーション低下によるアナジー効果

株式を100%譲渡した後も、その買収先のグループ子会社の社長などとして、創業社長が残るケースがある。創業社長には多額の株式譲渡金額が支払われ、一時的に多額の現金を手にすることになるかもしれないが、M&A後の創業社長に対する役員報酬が、M&A以前と比較して著しく低い場合、モチベーションが低下する可能性もある。

また、今までは自分の創業した会社として思い入れも強かったが、M&A後は親会社の指示の下、自身の意思が反映される範囲も限定されてしまうこともあり、事業に対する前向きな姿勢を保てなくなることもある。

距離がもたらすアナジー効果

日本に拠点をおく企業が海外の現地企業に対してM&Aを行う場合、通常は日本と海外で別々のオフィスが存在することになる。これにより、グループのスタッフ間には物理的な距離が発生することとなり、顔を合わせて打ち合わせをする機会は限られる。

電話会議システムなどのツール活用により、物理的な距離を補完することも技術的には可能ではあるが、お互いをよく理解するための事前コミュニケーションが取れず、経営に関わる重要な意思決定に影響が出る恐れもある。

アナジー効果がもたらす悪影響

M&Aは、ただでさえ売却側と買収側にとって大きな変化をもたらすものであり、これにアナジー効果が加わると、既存社員やM&Aにより加入した新規メンバーの士気も低下する恐れがある。アナジー効果によって、大量退職や、売上減少、利益減といった業績不振などといった悪影響が発生することにもなりかねないのだ。

また、「アナジー効果」は、会計上にも悪い影響を及ぼすことになる。

通常、M&Aを行う場合には、DCF法などに基づいて株価算定を行った結果、帳簿価格よりも高い値段で売買されることが多く、買収した企業側で多額の「のれん」が発生するであろう。

ただ、アナジー効果によって新たにグループに加わった企業の収益力が思ったより伸びず、期待した利益が計上できない場合には、「のれん」の減損や子会社株式の評価減を行う必要が生じ、思いがけない損失を計上することにつながってしまうことがある。

アナジー効果を回避するには?

アナジー効果を回避し、M&Aの目的の一つであるシナジー効果を発揮するためには、どうすればよいのだろうか?

答えはシンプルで、徹底した組織改革と業務改革を実行することである。

PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)という言葉をご存じだろうか?M&A後の経営統合を実行するプロセスを指して使われることが多いが、一般的には次のようなプロセスをさす。

①人材や企業文化の統合
②業務統合
③ITインフラの統合

このようなPMIを徹底して実行することで、M&Aにおいて生じるアナジー効果を回避することが望まれる。

しかし、PMIをM&Aを行った後に実施するのは遅すぎる。M&Aの実施前に理解しておくべきことである、経営者の考え方や組織の風土、従業員のスキル、投資のバランスなど把握しないまま、M&Aの手続き実行に注力した結果、最終的に組織文化の違いなどを受け入れられずに仲違いに至ってしまうこともあるのだ。

そうならないためには、デューデリジェンスを活用したい。デューデリジェンスでは、財務、税務、法務、IT、人事などのリスクを調査するが、その中でも重要なものが「ビジネスデューデリジェンス」だ。

例えば、業務フローの統合によるコスト削減効果が大きいと見込んでM&Aを行う場合、業務フローの統合に関するスケジューリングや、費用削減効果などを事前に細かくシミュレーションしておくことが大切である。その上で、PMIを実行する責任者は、M&A後の事業責任をとれる担当者であることが重要である。

M&Aが目的達成のための手段であるはずが、いつのまにか目的になっていることもある。M&Aによるアナジー効果を回避するためには、M&A後も責任をもって事業をけん引する人物によって、M&Aを開始する前からPMIを実行していく必要があるのだ。

M&Aを成功させるためには?

M&Aは企業同士の「結婚」のようなものと表現されることがある。これまで別々に営んできた経営スタイルや組織風土など、それぞれの組織において当たり前であったことが、相手企業から見ると違和感を感じることもある。

M&Aが売却側と買収側の双方にとってプラスとなるためには、PMIを行って、双方の違いを理解した上でお互いに歩み寄り、残すべきは存続させ、変えるべきは変えて新たに想像していく作業が必要になる。

組織も人の集まりなので、M&Aを行う前後に、それぞれの経営者や重要なキーパーソンを交えながら、納得のいくまでお互いの考え方をすり合わせるといったコミュニケーションが大切になってくる。

自分の考えや意見を伝えることも大事だが、相手の意見をしっかりと受け止めて「聞く」ことも重要である。時には意見の対立もあるだろうが、腹に含んだままお互いに探り合うことがベストとはいえないだろう。

グループ内部からは言いにくいことであれば、外部の専門家を利用しながら意見交換を行うなど、しっかりと意見を交換し合うことによって、M&Aをきっかけとして組織がより良いものになるであろう。

「けんかするほど仲が良い」という言葉があるが、M&Aにおいても当てはまるであろう。M&Aを機会に、新しい仲間たちと沢山のけんかをしてみてはいかがだろうか。

文・風間啓哉(公認会計士・税理士)

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