矢野経済研究所
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見込生産を最小限にとどめるために、マスカスタマイゼーションやファッションテック企業によるサービスが進展する見通し

~アパレル市場は在庫レスのビジネスモデルへの転換を迫られる~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の繊維産業・アパレル関連市場を調査し、各分野ごとの動向及び市場の展望を明らかにした。

1.市場概況

経済産業省「工業統計表」より、1994年と2017年の国内繊維工業の従業員数、製品出荷額、事業所数の推移を対比した。この23年間の間で、従業員数は1994年対比で27.5%に、製品出荷額は38%に、事業所数は22.7%に縮小しており、生産能力が23年前と比べるとおよそ3分の1レベルにまで落ち込んでいる。これはバブル崩壊後、国内のメーカーは中国を中心とした海外に生産拠点をシフトし、国内生産から離れたことによる。
国内の繊維産業の衰退は顕著ではあるが、近年、国内回帰が一部でみられる。それは量的な側面での期待ではもちろんなく、付加価値の高いハイクオリティ製品のモノづくりでの生き残りを図る動きである。これは製品単価を上げることで、製品出荷額が増加するだけでなく、事業継承に関わる人材の確保にもつながる。近年の繊維産業での“マスカスタマイゼーション”への取組みは、国内の生産拠点拡大にも一役買っている。

2.注目トピック

スマートテキスタイルの動向

スマートテキスタイルは、インテリジェントテキスタイル、e-テキスタイル、スマート衣料、ウェアラブルデバイス等と様々な呼び名があるが、ウェアラブルデバイスと呼ばれることが近年は多い。どれも導電性繊維等の素材を用い、着用するだけで心拍数、呼吸数、心電、筋電等の生体データの取得、繊維素材の伸縮を利用したモーションデータの測定ができる。
現代型のウェアラブルデバイスが技術的に実現可能になったのは2000年代中頃で、その関連技術はPCやフィーチャーフォン、スマートフォン、タブレットPC等に応用され、普及が進んだ。また新しいウェアラブルデバイスもAndroid系OSを採用したスマートフォンを中心に、2012~2013年頃から急増し現在に至っている。
ウェアラブルデバイスには、伸縮性を付与したウェア型、リスト・バストバンド型、テープ・パッチ型などがある。ウェア型、リスト・バストバンド型は繊維基材、テープ・パッチ型は樹脂・ゴム・TPE基材であるため、総称して「ストレッチャブルデバイス」と呼ばれる。
ストレッチャブルデバイスを、需要分野別(スポーツ、建設、運輸、ヘルスケア、エンターテイメント、介護、医療)に分けてみると、介護や医療、建設の分野が需要を牽引していく見通しである。

3.将来展望

アパレル産業は、海外生産のサプライチェーンでモノづくりを行い、結果的に大量の不良在庫を積み上げている。需給ギャップが値引き販売を常態化させ、価格の信頼性を貶めている。アパレル企業の中には値引きを前提にした価格設定を行っているケースもある。

アパレル企業が不良在庫を生み出す根源的な要因は、見込生産である。製品数やサイズ、色、柄、流行、シーズンサイクル、天候など多くの不確定要素が多いアパレル製品は需要予測が元来難しく、見込生産せざるを得ない。さらに、資本主義的生産様式においては、生産コストの削減を追求するために、海外での大量生産を進めていく。その結果、大量の不良在庫が年々積み重なる悪循環から抜け出ることができない。要するに過剰生産が現在のアパレル不況を招いているのである。とすれば、見込生産を最小限にとどめれば、不良在庫を最小化できることになる。需給ギャップの縮小はセール販売が常態化した価格の信頼性をも取り戻すことができるはずである。

見込生産を最小限にとどめるための最大の方法は受注生産の実現であり、そのための一つの手段として、“マスカスタマイゼーション”がある。
また、需要予測の精度を上げ、それに基づいて生産管理を行う、AIやテクノロジーを駆使する “ファッションテック” 企業が提供するサービスも、サプライヤーの需要予測の精度向上やエンドユーザーの需要喚起に役立つ。繊維産業、アパレル市場は見込生産からの脱却に向けて、在庫レスのビジネスモデルに転換することを迫られている。

調査要綱

1.調査期間: 2019年9月~12月
2.調査対象: 国内の繊維産業・アパレル企業
3.調査方法: 当社専門研究員による直接取材、郵送アンケート調査、ならびに文献調査併用
<繊維産業・アパレル市場とは>
本調査における繊維産業・アパレル市場とは、繊維全般(織物、編物、染色整理、紡績、合繊繊維、不織布、産業資材)および衣料全般(紳士服、婦人服、ベビー子供服、学生服・作業服、スポーツウェア)、小売業(百貨店、量販店、専門店、無店舗販売など)、問屋(生地問屋、製品問屋)、アパレルメーカー、商社、貿易、その他(寝装寝具、インテリア)などを対象とした。
<市場に含まれる商品・サービス>
紳士服・洋品(紳士服、下着類、シャツ、ネクタイ、靴下など)、婦人・子供服・洋品(婦人服、子供服、下着類、ブラウス、靴下など)、その他衣料品(スポーツウェア、作業服、呉服、反物、寝装具類、インテリア、和装小物など)、身の回り品(靴、履物、和・洋傘、かばん、トランク、ハンドバッグ、裁縫用品、装身具(宝石・貴金属製除く)など

出典資料について

資料名2020 繊維白書
発刊日2019年12月20日
体裁B5 822ページ
定価130,000円(税別)

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