健康経営優良法人2020
(画像=Gajus/stock.adobe.com)
澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

従業員の健康管理に取り組む企業を認定する制度がある。2020年3月に「健康経営優良法人2020」が発表され、多くの企業が認定をされた。今回は健康経営優良法人認定制度の概要をはじめ、認定要件やメリットなどを説明する。従業員の健康を守るためにもぜひ活用してほしい。

目次

  1. 「健康経営優良法人2020」とは
    1. 法人の区分
  2. 健康経営優良法人に認定されるメリット
    1. メリット1.社会的に評価される
    2. メリット2.優遇措置を受けられる
  3. 健康経営優良法人の認定を受けるには?
    1. ステップ1.「健康宣言」事業に参加
    2. ステップ2.「健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定申請書」の作成・提出
  4. 健康経営に取り組む企業事例5選
    1. 健康経営に取り組む企業1.アスクル株式会社
    2. 健康経営に取り組む企業2.株式会社ジャパネットホールディングス
    3. 健康経営に取り組む企業3.社会福祉法人東京児童協会
    4. 健康経営に取り組む企業4.日清食品ホールディングス株式会社
    5. 健康経営に取り組む企業5.株式会社ファイブグループ
  5. 「健康経営優良法人2021」も申請受付予定

「健康経営優良法人2020」とは

健康経営優良法人認定制度とは、優良な健康経営を実践している大企業や中小企業などの法人を認定する制度である。特に、地域の健康課題や「日本健康会議」が進める健康増進の取り組みに則した企業を認定する。

2019年の8月から10月までに、大規模法人部門では健康経営度調査の実施、中小規模法人部門では申請の受付が行われた。認定された企業は2020年3月2日から2021年3月31日までの約1年間「健康経営優良法人2020」として扱われる。

「健康経営優良法人2020」の認定状況についても触れておく。大規模法人部門では1,480法人、中小規模法人部門では4,816法人が健康経営優良法人として認定された。

なお大規模法人部門では、健康経営度調査結果の上位500法人が「ホワイト500」として認定され、その500法人の中から各業種の原則上位1社が「健康経営銘柄」として認定された。

法人の区分

大規模法人・中小規模法人の区分は、従業員数や資本金の額などによって決まる。それぞれ申請部門が異なるため、申請を検討する場合は以下の区分表で自社の部門を確認していただきたい。

【会社法上の会社及び士業法人】

中小企業
基本法上の業種
ホワイト500・大規模法人部門中小規模法人部門
(いずれかに該当)
従業員数従業員数資本金又は出資金額
卸売業101人以上1人以上100人以下1億円以下
小売業51人以上1人以上50人以下5,000万円以下
サービス業101人以上1人以上100人以下5,000万円以下
製造業その他301人以上1人以上300人以下3億円以下

【上記以外の法人】

法人分類ホワイト500・大規模法人部門中小規模法人部門
従業員数従業員数
特定非営利活動法人101人以上1人以上100人以下
医療法人・社会福祉法人・健保組合等保険者101人以上1人以上100人以下
社団法人・財団法人・商工会議所・商工会101人以上1人以上100人以下
公法人・特殊法人
(地方公共団体・独立行政法人・公共組合・公団・公社・事業団 等)
301人以上1人以上300人以下
法人分類中小企業
基本法上の業種
ホワイト500・大規模法人部門中小規模法人部門
従業員数従業員数
その他国内法(保険業法・中小企業等協同組合法・信用金庫法・私立学校法・宗教法人法 等)に基づく法人卸売業101人以上1人以上100人以下
小売業51人以上1人以上50人以下
サービス業101人以上1人以上100人以下
製造業その他301人以上1人以上300人以下

健康経営優良法人に認定されるメリット

健康経営優良法人に認定されるメリットは主に2つある。

メリット1.社会的に評価される

従業員・求職者・関係企業・金融機関などのステークホルダーから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的評価を得られる。

また、健康経営優良法人のロゴマークを使用することで、従業員に対する健康への取り組みを対外的にアピールできる。

メリット2.優遇措置を受けられる

自治体や金融機関などで健康経営優良法人に対する優遇措置が受けられる。内容は各自治体や地域の金融機関によって異なるが、主な優遇措置は以下の通りだ。

優遇措置1.金融機関・民間保険などが提供するインセンティブ
金融機関による融資優遇や保証料の減額・免除が行われるほか、民間保険会社では保険料の割引制度を活用できる。

優遇措置2.自治体などによる認定表彰制度
自治体などが独自の健康経営企業を認定する。県知事が表彰する自治体もある。

優遇措置3.公共調達加点評価
自治体が行う公共工事や入札審査で入札加点を受けられる。工事の受注などで優位に立てるだろう。

優遇措置4.自治体が提供するインセンティブ
融資優遇や保証料の減額のほか、奨励金や補助金制度を導入している自治体も存在する。

優遇措置5.求人票への記入
ハローワークなどで求人資料にロゴやステッカーを使用できる。求職者に働きやすさをアピールできるだろう。

健康経営優良法人の認定を受けるには?

一例として、「健康経営優良法人2020」のうち中小規模法人部門における認定の流れをお伝えする。

ステップ1.「健康宣言」事業に参加

「協会けんぽ」が実施している「健康宣言」事業では、従業員の健康を守る取り組みについて健康宣言書で評価する。評価される内容は以下の通りだ。

・全従業員が健康診断を受診する取り組み
・従業員の健康課題の把握と必要な対策への検討
・健康経営の実践に向けての環境整備
・社員の心と身体の健康づくり

健康宣言事業に参加することが健康経営優良法人の認定を受けるための第一歩だ。

ステップ2.「健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定申請書」の作成・提出

健康宣言事業に参加したうえで、認定申請書を作成・提出する。認定基準は多岐にわたり、次の5項目を全て満たさなければならない。

大項目中項目小項目評価項目認定要件
1.経営理念・方針(経営者の自覚)健康宣言の社内外への発信・経営者自身の健診受診必須
2.組織体制健康づくり担当者の設置必須
3.制度・施策実行(1)従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討健康課題の把握①定期健診受診率(実質100%)4項目中
2項目以上
15項目中
7項目以上
②受診勧奨の取り組み
③50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施
対策の検討④健康増進・過重労働防止に向けた具体的目標(計画)の設定
※「健康経営優良法人2021」の認定基準では必須項目とする
(2)健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメントヘルスリテラシーの向上⑤管理職又は従業員に対する教育機会の設定4項目中
1項目以上
ワークライフバランスの推進⑥適切な働き方実現に向けた取り組み
職場の活性化⑦コミュニケ-ションの促進に向けた取り組み
病気の治療と仕事の両立支援⑧病気の治療と仕事の両立の促進に向けた取り組み(⑮以外)
(3)従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策保健指導⑨保健指導の実施又は特定保健指導実施機会の提供に関する取り組み7項目中
3項目以上
健康増進・生活習慣病予防対策⑩食生活の改善に向けた取り組み
⑪運動機会の増進に向けた取り組み
⑫女性の健康保持・増進に向けた取り組み
感染症予防対策⑬従業員の感染症予防に向けた取り組み
過重労働対策⑭長時間労働者への対応に関する取り組み
メンタルヘルス対策⑮メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み
受動喫煙対策受動喫煙対策に関する取り組み必須
4.評価・改善保険者へのデータ提供(保険者との連携)必要に応じて従業員(40歳以上)の健康診断データを提供必須
5.法令遵守・リスクマネジメント定期健診を実施していること(自主申告)必須
保険者による特定健康診査・特定保健指導の実施(自主申告)
50人以上の事業場におけるストレスチェックを実施していること(自主申告)
従業員の健康管理に関連する法令について重大な違反をしていないこと(自主申告)

申請書の提出後に健康経営優良法人認定委員会の審査を経て、日本健康会議によって認定される。

認定基準のうち、自社がすでにクリアしている項目や今後取り組むべき事項を確認したうえで、申請の判断をすべきだろう。

健康経営に取り組む企業事例5選

健康経営優良法人に認定された企業の取り組みを紹介する。従業員の労働環境を整える場面で参考になるだろう。

健康経営に取り組む企業1.アスクル株式会社

定期健診受診につながる啓発活動やセミナーの実施、未病に対する保健指導の実施などの取り組みが見られる。女性の就業比率向上に伴い、女性特有の健康課題に対する検査費も負担している。

そのほか、高齢化社会を見据えて時短勤務やテレワークも導入。病気や介護に悩む従業員に向けて支援している。

健康経営に取り組む企業2.株式会社ジャパネットホールディングス

ジャパネットホールディングスは以下の軸に基づいて健康経営に取り組んでいる。

・楽しみながら健康を意識できる環境を整える
・未然に防ぐ
・いざというときに守る

具体的な取り組みは、スポーツ大会の実施や特定保健指導の推進、保健師体制の強化などだ。

健康経営に取り組む企業3.社会福祉法人東京児童協会

ストレス関連疾患の予防に取り組むほか、健康診断後に高リスク者をフォローする体制も強化している。

そのほか、栄養士が栄養計算した給食を提供したり、運動習慣に向けた具体的な支援をしたりしている。

健康経営に取り組む企業4.日清食品ホールディングス株式会社

食を通じて顧客の健康づくりに貢献するためには、社員が健康でなければならないという理念を掲げている。社員が健康的に過ごせるよう、定期健康診断や精密検査の受診を徹底。

加えて、社員の家族も健康・医療・介護・育児・メンタルヘルスなどについて相談できる社外サービスを導入している。メールや電話で24時間受け付けているので、いつでも相談しやすい。

健康経営に取り組む企業5.株式会社ファイブグループ

定期健康診断の結果に基づくフォローアップの徹底や、インフルエンザ予防接種支援金制度の導入などに取り組んでいる。労働時間適正化・年休取得促進・家庭と仕事の両立などに関する取り組みも推進。

そのほか、会社補助によるダイエットプログラムや、休暇取得の奨励による健康増進を実施したりしている。

「健康経営優良法人2021」も申請受付予定

健康意識は大企業・中小企業を問わずに高まっている。事業の原動力となる従業員の健康に配慮すれば、企業がさらに発展するだろう。

なお、「健康経営優良法人2021」の認定手続きも、「健康経営優良法人2020」と同様のスケジュールで予定されている。

基準は7月頃に公開される予定だ。経済産業省のホームページなどで内容を確認していただきたい。

文・澤田朗(フィナンシャルプランナー・相続士)

無料会員登録はこちら