事業承継
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古尾谷 裕昭
古尾谷 裕昭(ふるおや・ひろおき)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)代表税理士。昭和50年生まれ、東京浅草出身。税理士・司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍しているベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を率いている。相続税の申告のみならず、相続登記、相続争い、事業承継(M&A)、遺言書作成、民事信託、資料収集から不動産売却や財産コンサルティングまで様々な業務に対応している。年間の相続税申告1,000件超(令和1年度実績1,247件)であり、国内最大級の資産税チームを築き上げた。

事業承継には、親族や従業員への承継や第三者承継(M&A)の三つの方向性がある。事業承継の方法によって、承継者はもちろん後継者が負担する税金にも違いがある。ここでは、事業承継において負担すべき税金の中でも、特に親族承継に関係する税金について説明する。

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親族内承継のメリット・デメリットとは? 承継で注意したいポイントも解説

目次

  1. 事業承継のために負担すべき税金は?
    1. 事業承継のために課される税金は何か?
    2. 事業承継に伴う税金と自社株評価
    3. 株式の譲渡に伴う所得税
    4. 株式の贈与に伴う贈与税
    5. 株式の相続に伴う相続税
  2. 事業承継の税金問題が解決できる事業承継税制とは何か?
    1. 事業承継税制を適用できる会社の要件とは?
    2. 事業承継税制を適用できる先代経営者の要件とは?
    3. 事業承継税制を適用できる後継者の要件とは?
    4. 事業承継税制の特例措置
    5. 事業承継税制で提出すべき特例承継計画とは?
    6. 事業承継税制の取消事由とは?
  3. 事業承継税制の適用は専門家に相談しよう
  4. 事業承継に困っている方は専門家に相談を
  5. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

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事業承継のために負担すべき税金は?

親族内の事業承継を行う場合には、単に社長の交代の手続きを行なって終わりではない。株式や事業用資産の承継において、相応の税金が課されることになる。それでは、事業承継では、どのような税金が課されるのだろうか。

事業承継のために課される税金は何か?

親族内の事業承継では、親から子供への株式承継が必要となる。その方法は、大きく分けて、「贈与」「譲渡」「相続」の3つである。

「贈与」については、細分化すれば以下のいずれかを選択することになる。

・暦年贈与
・相続税精算課税制度による贈与
・事業承継税制(経営承継円滑化法の納税猶予制度)による贈与

承継の時期で分類すると、「贈与」と「譲渡」は、先代経営者である親の生前に自社株式を承継する方法である。経営者が亡くなった後に承継する場合は「相続」になる。

承継方法の選択については、会社の規模はもちろん、事業のライフサイクルや経営者の考えによっても異なるが、いずれの承継方法を選んでも、株式承継の際には税金が発生する。

贈与であれば、事業の後継者である子どもに対して贈与税が課される。相続を行うならば、後継者である子どもは相続税を負担することになる。譲渡であれば、後継者ではなく先代経営者である親に対して、譲渡所得税が課される。

事業承継に伴う税金と自社株評価

事業承継に伴う税金である「贈与税」「相続税」「譲渡所得税」のいずれもが、承継する自社株評価に応じて税金が計算される。優良な企業であるほど自社株式の評価額は高くなるため、優良企業の事業承継には重い税金が課せられることになる。

承継を行う立場の経営者が、事業を引き継ぐ前に何らかの税金対策を行わなければ、優良企業の高い利益水準に対して法人税等を支払った上に、後継者の将来の税負担も増加してしまうこととなるのだ。

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株式の譲渡に伴う所得税

株式の承継を行う際に「譲渡」を選択した場合は、先代経営者は譲渡所得という形で収入を得る。非上場株式を譲渡するときの譲渡所得の計算式は、下記のとおりである。

譲渡所得 = 譲渡収入 -(取得費 + 譲渡費用)

算出した譲渡所得に対して決められた税率を掛けることで、所得税の納税額を計算する。

所得税 = 課税譲渡所得×20%(所得税15%、住民税5%)

先代経営者には譲渡対価として現金が入ることになるが、後継者は報酬を支払うための現金を用意しなければならない。実際のスキームは、事業会社が資金調達することになるが、子どもに大金を用意させて、その返済を強いるのは酷な話かもしれない。

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事業承継にかかる税金は何がある?事業承継税制の活用法

株式の贈与に伴う贈与税

贈与には、「暦年課税」「相続時清算課税」「事業承継税制」の3つの制度があるが、事業承継において基本となるのは、暦年課税制度である。

暦年課税制度では、1年間(暦年)に贈与を受けた金額が110万円(基礎控除額)以下ならば非課税であるが、110万円を超える贈与を受けた場合には、累進税率によって課税される。

相続時精算課税制度では、60歳以上の親や祖父母から、20歳以上(民法改正予定)の子どもや孫への贈与に限り、2,500万円までは贈与税が非課税となる。2,500万円を超える贈与分については、20%の贈与税が課される。贈与を行う者が亡くなった場合には、その贈与財産の贈与時の価額を相続財産に合算した上で、「相続税」として精算(納付した贈与税額については相続税額から控除)される制度である。

さらに、一定の条件を満たせば、経営承継円滑化法に基づく贈与税の納税猶予制度である「事業承継税制」も適用可能である。これは、中小企業者の後継者が贈与により取得した株式に係る贈与税の100%相当額を、先代経営者である贈与者の死亡時まで猶予するものである。贈与者が死亡した際には、贈与時の株式の価額を相続財産に加算して、相続税を計算する。

株式の相続に伴う相続税

事業承継によって株式を相続した場合は、相続税が課される。

相続税は、被相続人(先代経営者)の相続財産を、相続や遺言によって受け継いだ場合に、その遺産に対して課される税金である。

相続税の計算では、遺された資産から基礎控除額などを差し引き、超過累進税率を乗じることで相続税の総額が計算される。各相続人が負担する相続税の金額は、相続税総額をそれぞれの相続割合で按分して算出するため、相続財産が大きいほど税負担も増加する。

後継者である子どもは自社株を相続することになるが、これが相続財産の大部分を占めることも多く、相続税の負担が他の相続人よりも重くなる傾向にある。

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事業承継の税金問題が解決できる事業承継税制とは何か?

事業承継に関連する「贈与税」「相続税」「所得税」の3つの税金の中でも、最も税負担が重くなるのは、超過累進課税の税率が高い「贈与税」だろう。ここでは、贈与税の負担をゼロにすることができる事業承継税制について解説したい。

事業承継税制を適用できる会社の要件とは?

贈与税の納税猶予制度を含め、経営承継円滑化法が適用される事業承継には、対象会社、先代経営者、後継者の3つの側面において適用要件が規定されている。

まず、中小企業基本法および経営承継円滑化法に規定される中小企業であることだ。資本金と従業員数のいずれかの要件を満たす中小企業が対象であり、大企業や個人事業主に対しては、事業承継税制は適用できないことになる。

また、中小企業であること以外にも、上場会社であることや、風俗営業会社や資産保有型会社等でないなどの要件が規定されている。

資産保有型会社とは、賃貸用や販売用といった自ら使用していない不動産や、有価証券・現金預金等(特定資産)が70%以上ある会社のことを指す。これに対し、資産運用型会社とは、上記の特定資産の運用収入が75%以上ある会社のことである。

事業承継税制を適用できる先代経営者の要件とは?

贈与税の納税猶予制度の適用対象となる先代経営者(贈与者)の要件は、主として以下の通りである。

・承継対象の会社において「代表者」であったこと
・贈与を行う時までに代表者を退任すること
・贈与を行う直前に、発行済議決権株式総数の50%超の株式を、先代の経営者と同族関係者(親族等)で保有しており、さらに後継者を除く同族内で筆頭株主であったこと
・株式を一括して贈与すること

事業承継税制を適用できる後継者の要件とは?

贈与税の納税猶予制度の適用対象となる後継者(受贈者)となるには、主として以下のような要件が必要である。

・承継対象の会社で「代表者」に就任すること
・20歳以上で、役員に就任して3年以上経過していること
・贈与後、発行済議決権株式総数の50%超の株式を、事業後継者と同族関係者(親族等)で保有し、さらに同族内で筆頭株主となること(特例措置では最大3名の後継者が可能)

事業承継税制の特例措置

事業承継税制には、「一般措置」だけでなく、適用対象となる株式数や納税猶予割合が拡大されている「特例措置」もある。特例措置では、雇用要件が見直されて実質的に撤廃され、廃業時の税負担が緩和されるなど、大幅に条件が緩和されている。また、複数人の株主から、最大3人までの複数人の後継者への事業承継でも適用することができる。

事業承継税制の特例措置が適用されるのは、2018年4月1日から2023年3月31日までの5年以内に「特例承継計画」の提出と確認を受けた会社であり、2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間が適用期限である。

事業承継税制で提出すべき特例承継計画とは?

特例承継計画とは、事業承認税制の利用許可を得るために、認定支援機関からの指導や助言を受けながら作成する計画書である。特例承継計画書には所定の書式があり、以下のような項目を記載し、最後に認定支援機関に所見を記載してもらった上で、税務署に提出する。

・会社名や先代経営者の氏名
・特例適用を受ける最大3名までの後継者の氏名
・事業承継の予定期間や承継までの経営計画
・事業承継した後から5年間の経営計画

事業承継税制の取消事由とは?

事業承継税制の適用が取り消される事由として、以下のようなものがある。

・後継者が代表者を退任したり死亡したとき
・報告基準日における5年平均従業員数が、承継時の従業員数の8割を下回ったとき
・後継者とその同族関係者の持つ議決権の総数が過半数を満たさなかったとき
・特例措置を受けている後継者以外の者が黄金株を有したとき
・継続届出書を提出しない、もしくは報告が虚偽であったとき

認定が取り消された場合には、猶予された税額の全額に利子税を付して納付しなければならない。一方、事業継続期間(5年)経過後も求められる要件としては、以下のようなものがある。

・後継者が納税猶予対象株式の全部又は一部を譲渡したとき
・会社が一定の会社分割(分割型会社分割)又は組織変更を行ったとき
・会社が資産保有型会社、若しくは資産運用型会社となったとき
・主たる事業活動による収入額がゼロとなったとき
・会社の資本金や準備金の額を減少したとき(欠損の補填目的などの場合を除く)
・会社が合併により消滅したとき
・会社が解散したとき

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事業承継税制の適用は専門家に相談しよう

事業承継のために株式を贈与する際に課される贈与税は、超過累進課税の税率が所得税や相続税に比べて高い。ただ、事業承継税制を適用すれば、贈与税をゼロにすることができる。暦年課税制度など、他の方法では税金がゼロにはならない。

よって、事業承継税制ぜひとも活用したいところだが、適用要件の判定が難しいため、事業承継税制の適用には、税理士に相談していただきたい。

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事業承継に困っている方は専門家に相談を

事業承継を考え始めたら、まずはインターネットなどを活用して知識を仕入れよう。基本的な知識を最初に身につけておけば、具体的に事業承継を依頼する相手を探す際に、良い業者・悪い業者の判断もつきやすくなる。

スピード感や手厚いサポートを重視するなら、M&A仲介業者への相談がいいだろう。事業承継においては、専門家の力を借りることは不可欠だ。自学自習だけで、弁護士や税理士などの専門家を取りまとめ、M&Aを進めていくことは不可能に近い。契約書の雛形などを活用して形だけ実行しても、あとで訴訟トラブルに発展するケースもある。

M&A仲介業者に支払う報酬は決して安くはないので、出費を惜しむ気持ちが生まれるかもしれないが、会社の出口戦略である事業承継は、それだけ経営において重要な位置づけだといえる。今後数十年に渡って不安を抱えて暮らすリスクを考えたら、必要経費と割り切る精神も必要だ。

実績豊富なM&A業者は、最新の法律やスキームを熟知しているうえ、事業承継のノウハウの蓄積がある。M&Aでは、買い手候補先との条件交渉や、従業員への説明、取引先への説明など、法務的・税務的手続き以外の手続きも慎重に進めていく必要がある。

こういったすべてのプロセスで相談できるM&A業者の担当者は、力強い味方になるだろう。また、失敗事例などを聞くことで、自社の事業承継で想定されるリスクに早いうちから備えられる。

プロの力を借りることで、事業承継が成功すれば、自分にとっても社員にとっても望ましい結果を引き寄せられるはずだ。

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文・古尾谷裕昭(税理士)

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