M&A
(画像=Rustam Kholov/stock.adobe.com)

中小企業が「会社を存続させる手段」として注目されているM&A。特に担い手不足を懸念されている業界では、M&Aによる事業承継が増加傾向にある。本記事では、M&A業界の現状やこれから予想される動向、各業界におけるM&Aの状況について解説する。

目次

  1. M&Aは年々増加している!経営者が知っておきたい実情
  2. M&Aはなぜ増加傾向に?押さえておきたい3つの背景
    1. 1.後継者が見つからない
    2. 2.企業のグローバル化
    3. 3.働き手の不足
  3. M&A業界で活躍する企業の種類と動向
    1. 1.M&A仲介会社
    2. 2.事業コンサルティング会社
    3. 3.金融機関
    4. 4.法律事務所
  4. M&Aで今注目したい業界とは?
    1. 1.調剤薬局
    2. 2.医療介護業界
    3. 3.IT業界
    4. 4.旅館・ホテル業界
    5. 5.運送・物流業界
  5. 事業承継のひとつの選択肢として、M&Aを検討してみよう

M&Aは年々増加している!経営者が知っておきたい実情

日本国内のM&Aは、年々増加傾向にある。

1985年からM&Aのデータを構築し始めた「レコフデータ」によると、年によって多少の上下動は見られるものの、全体としてM&Aの案件数は増え続けている。リーマンショックの影響で2008年から3年ほどは案件数が落ち込んだが、その後は徐々に回復。2019年には、4,000件を超えるM&Aが行われている。これは過去最高の数値だ。

M&Aは「Mergers&Acquisitions」の略語であり、直訳すると「合併と買収」を意味する。M&Aにはさまざまな形があるものの、基本的には自社株を売却し、購入した企業と合併する経営手法を表す。

これまでのM&Aは、大企業同士が行うイメージが強かったが、現在では中小企業やベンチャー企業などで積極的に行われており、大企業同士のM&Aは減少傾向だ。この背景には、大企業同士がM&Aを繰り返すと独占禁止法に抵触することや、中小企業が直面する経営問題などがある。

M&Aはなぜ増加傾向に?押さえておきたい3つの背景

では、なぜ国内のM&Aは増加傾向にあるのだろうか。ここからは、M&Aが増加している背景を解説する。

1.後継者が見つからない

多くの中小企業が後継者不足に悩まされている点は、M&Aが増加している最も大きな要因だ。経済産業省・四国経済産業局が2017年に発表した「日本経済・地域経済を支える中小企業の円滑な事業承継に向けた集中支援」によると、後継者の決まっている中小企業は41.6%。半数以上の中小企業が「後継者が決まっていない」と回答している。

特に地方では、後継者不足が深刻だ。同資料では西陣織や益子焼などの現地産業が廃業に追い込まれた理由も調査しているが、廃業した理由の65.4%が「後継者不足」であった。また、地方では60歳以上の経営者の割合が70%近くに達するところもある。

日本の事業は家族経営で、自身の子どもに会社を継がせるケースが多かった。しかし、近年では子どもが「家業を継ぎたくない」と考えていたり、そもそも家業を継がせる子どもがいなかったりなどの理由から、親族内での承継は減少している。

このような状況に追い込まれている企業にとって、M&Aは事業を続けるための最適な手段だ。後継者が見つからない場合、上場や廃業などの選択肢もあるが、上場は現実的ではないし廃業すれば従業員が路頭に迷う羽目になる。

M&Aで事業を引き継いでもらえれば、こうした問題も解決する。そのため、後継者のいない中小企業がM&Aに臨むケースが増えている。

2.企業のグローバル化

企業のグローバル化も、M&Aが増加している理由のひとつだ。

レコフデータによると、2010年頃からは日本企業が海外企業を買収するM&Aが徐々に増加している。件数自体は少ないが、金額は日本企業同士のM&Aをはるかに上回る。

背景には、日本の人口減少がある。縮小する日本市場に限界を見出している企業が、新しい舞台を海外に求めているのだ。国内企業に関する制度や金融情勢の変化なども、企業のグローバル化を促している要因だろう。

3.働き手の不足

働き手の不足も、中小企業がM&Aに踏み切るきっかけとなっている。厚生労働省が発表している2020年1月の有効求人倍率は1.49倍。ひとつの企業につき、およそ1.5人の人手不足となっている。

前述したが、日本は少子化の影響で人口自体が減少傾向にある。そのため、今では数少ない働き手を、さまざまな企業が取り合っている。その中でも優秀な人材は、当然のように待遇の良い大企業への入社を目指すだろう。福利厚生や労働環境で劣る中小企業が、優秀な人材を確保することは至難の業だ。

中小企業が人材を確保するためには、M&Aで大手企業の傘下に入る方法が効果的とされている。大手企業の名前があれば、優秀な人材が集まりやすくなるうえに、資金調達や組織再編などの問題も一気に解決できるだろう。

M&A業界で活躍する企業の種類と動向

「M&Aに挑戦したいが、何をすれば良いのかわからない…」という経営者も多いだろう。そういった場合に相談先として考えたい存在が、M&Aの専門家だ。

M&Aの専門家にはいくつかの種類があり、種類ごとに専門分野がやや異なる。自分が何に悩んでいるのかによって相談する専門家を変えると良いだろう。

1.M&A仲介会社

買い手と売り手をつなげるM&A仲介会社は、業界の中でも主流の相談先だ。相談先によっては単に仲介をするだけではなく、M&Aを行う上でのアドバイスをしてくれる業者もある。

M&A仲介会社に相談をする最大のメリットは、M&Aをスムーズに進めやすくなること。基本的には「買収の成立」を優先している会社で、早く自社を売りたい場合に適している。また、売り手と買い手の両方から手数料を徴収しているため、交渉を公平に進めてくれる点も魅力的だ。

一方で、両社の間で妥協案を探りながら交渉を行うため、場合によっては売り手側が不利になったり、希望する条件での交渉が進まなかったりする場合もある。近年では、中小企業向けの案件が得意な仲介会社も出てきている。

2.事業コンサルティング会社

事業コンサルティング会社は、コンサルティングで企業価値を高めるところからサポートしてくれる。M&Aを必ず行うのではなく、M&A以外に事業承継の方法はないか、経営者も気づいていない自社の強みは何かなど、「その会社にとって最も良い方法」を探ってくれる点が特徴的だ。

事業コンサルティング会社は、スピードよりも内容を重視するため、時間をかけてでも納得できるM&Aをしたい経営者に適している。ただし、毎月のコンサルティングに費用がかかるため、小さい企業の場合は負担が大きくなる。中規模以上の企業でなければ、時間をかけての相談は難しいだろう。

3.金融機関

銀行や証券会社にも、M&Aの相談に乗ってくれるところがある。金融機関が運営するM&A専門会社は、資金調達力の面で優れているため、多額の資金を必要とする大手企業のM&Aをメインに扱っている。

また、外資系の証券会社は、海外企業とのM&Aを経験していることが多い。海外進出を狙っている企業や、「資金の相談も一緒にしたい」という場合に適しているだろう。

一方で、金融機関系のM&A専門会社は、信用力の高い買い手側を積極的にサポートするケースが多い。そのため、自社を売却したい際には、不利になることも考えられる。

4.法律事務所

法律事務所も、M&Aについて相談できる専門家だ。M&Aには法律や税金など、多くの問題がのしかかってくる。これらは非常に複雑なため、確実に対処するには専門家の力を借りたほうが良いケースもある。

法律事務所に所属する弁護士なら、スキームの立案のほか、契約書の作成・確認、法務監査など、法的な部分のサポートを任せられる。特にさまざまな法律が絡みそうな場合は、弁護士に相談しながらM&Aを進めることが望ましい。

M&Aで今注目したい業界とは?

M&Aはさまざまな業界で行われているが、中でも注目したい業界が5つある。いずれの業界も、M&Aによって今後の状況が大きく変わると予測されている。

1.調剤薬局

調剤薬局は、M&A業界の中でも特に注目されている。その理由は、業界全体が深刻な「人材不足」に悩まされているためだ。

医薬分業の政策が採用された影響で、1980年代から薬局の数は爆発的に増えている。厚生労働省の調査によると、2017年の全国の薬局数は59,138店。これは、コンビニエンスストアの55,460店(※2020年2月 日本フランチャイズチェーン協会発表)を上回る。

このように調剤薬局の店舗は多いが、そこで働く薬剤師は不足している。なぜなら、薬剤師が対応できる処方箋は、「1日に40枚まで」と決められているためだ。複数の薬剤師を雇わなければ、多くの調剤を行えないため収益も上がらない。また、地方には調剤薬局がない地域もあり「地域のために薬局を閉めるわけにはいかない」という薬剤師もいる。

こうした現状を鑑みて、廃業せずに人材確保も可能なM&Aを選ぶ調剤薬局が増えている。中小企業はもちろんだが、大手企業のM&Aも珍しくない。

2.医療介護業界

医療介護業界でも、人材不足の影響でM&Aが注目されている。特に地方では医師不足が深刻であり、高齢になっても続けざるを得ないという医師が多く、簡単に廃業できないためにM&Aを選ぶケースが多い。

また、介護の現場においても、同じく人材不足からM&Aを選択するケースが増えている。高齢化が進む現代では、介護サービスの需要も今後増えていくと考えられている。しかし、厚生労働省の発表によると、2016年の介護職の有効求人倍率はおよそ3.02倍であり、圧倒的に働き手が足りていない。

また、離職率が高い影響で人材採用に費用を割かなければならないため、設備や施設の修復などに回せる資金を確保できない。こうした資金面での問題を解決しようと、M&Aに取り組むケースも見受けられる。

3.IT業界

IT業界でも、M&Aを活用する動きが見受けられる。

IT業界は多重下請け構造になっており、システムやアプリを作るために、非常に多くの人間が関わっている。さらに新しい技術も開発されるうえに、それを上回るニーズも出てくるなど、IT業界は現在期待が高まっている業界だ。

しかし、あまりの急成長ぶりに人材の確保が追いつかず、深刻な人手不足に陥っている。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、IT需要が高くなった場合、2030年には78.7 万人の需給ギャップが生じるとしている。

こうした人材不足を解消するため、IT業界でもM&Aが増えている。今後はITに特化したM&Aの専門家が期待されるところだ。

4.旅館・ホテル業界

旅館・ホテル業界でも、M&Aが注目されている。旅館やホテルは設備投資に多額の資金が必要になるうえ、24時間365日の営業で人件費もかさむ。加えて、現在はインバウンド需要が高まっており、その対応も必要だ。

東京や京都などの主要観光地では、前述したインバウンド需要もあって旅館やホテルの業績は回復の兆しを見せている。しかし、地方では未だ多くの旅館やホテルが、人材や資金の不足といった悩みを抱えている。

M&Aで大手企業の傘下に入ることが、問題解決の手段となるケースは多いだろう。

5.運送・物流業界

運送・物流業界も、M&Aでの問題解決を期待されている。通信販売の拡大により、運送・物流業界の需要は大きくなる一方、ドライバー不足のためにそれに追いつけないという問題を抱えている。

運送・物流業界では、大きなネットワークを大手企業が有し、中小企業はエリアやサービスに特化した事業を行うという形で成り立っている。しかし、中小企業のドライバーは過酷な労働環境というイメージが強く、なかなかドライバーを確保できない。結果、経営も上向きにならない。

M&Aには、経営を安定させるだけの資金力を補ったり、ドライバーを確保したりできるメリットがある。買い手側としても、有資格者であるドライバーをすぐに獲得できることが利点となるだろう。

事業承継のひとつの選択肢として、M&Aを検討してみよう

M&Aには、現在さまざまな業界が抱える問題を解決できる力がある。「買収」と考えると良いイメージはないかもしれないが、売り手側としては従業員を解雇しなくても良いし、買い手側としてもすでにノウハウのある人材を確保できる。

つまり、M&Aは買い手・売り手の双方に、さまざまなメリットが発生する経営手法と言えるのだ。事業承継を考えている中小経営者は、M&Aも選択肢として考えてみてはいかがだろうか。まずは専門家に相談してみるのがよいだろう。

文・THE OWNER編集部

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