テレワーク
(画像=samuel/stock.adobe.com)

自粛期間は終わったとはいえ、予断は許さない状況だ。長引く新型コロナウイルスの感染拡大を受け、企業では急速にテレワークが導入されている。一方で、従来の慣習から脱却しにくい中小企業では、テレワークの導入に二の足を踏んでいるところも少なくない。働き方改革の時代を迎える今、テレワークはコロナ禍の応急処置にとどまらず、今後さらに普及するとみられる。この機にテレワークの環境を整えられるかどうかが勝負だ。

中小企業のテレワークの導入率

テレワークとは、ICTの活用によって、オフィスに出社せずとも仕事ができる、場所に縛られない働き方のことだ。働く場所や時間を自由に選べることで、社員のワークライフバランスを向上できるほか、転居を伴わず就業できることも大きなメリットといわれる。

さらに企業側にとっても、事業所の維持コスト軽減や離職率の減少につながるほか、遠隔地の優秀な人材を雇用できるなどの利点がある。実際に、日本経済新聞社がまとめた2019年の「スマートワーク経営調査」では、調査対象の上場企業と有力な非上場企業の708社のうち、在宅勤務を取り入れている企業は5割を超えているという。

一方で、同年にエン・ジャパンが実施した調査によると、従業員300名未満の中小企業においては、テレワークを導入できているのはたったの14%という結果が出ている。

なぜ中小企業でテレワークを導入しにくいのか?

中小企業にとって、テレワーク導入の課題となっているのはどのようなことだろうか。

業務的な課題

中小企業がテレワークを導入しない理由について、「テレワークに適した業務がない」などが挙げられる。たとえば工場勤務やサービス業、医療・福祉関係など、そもそもテレワークができない職種もあるだろう。

コストの課題

テレワークにはデジタルツールが必須だ。企業規模が小さければ、既存のシステムをデジタル化するために、追加費用や労力が発生するケースも多い。現状で仕事がまわっていれば「そこにお金をかける必要がない」と感じてしまうのも、これまでは無理もなかった。

しかし、コロナ禍で状況が一変した今は、必要性に迫られながらも「どこにどんなコストがかかるのかわからない」というのが実情だろう。

管理の課題

紙ベースでの作業や勤怠管理などをどうデジタル化するかなど、既存のアナログ管理をどうIT化すべきか悩む企業も多い。「在宅勤務で社員がサボるかもしれない」「目が行き届かない分、情報漏洩リスクがある」と心配している経営者もいる。

しかしそれは、そういったチームづくりをしてきた経営側にも責任があることも忘れてはならない。リスク管理は重要だが、テレワークによって生産性が向上する例もあることを知っておきたい。

中小企業がテレワークを導入するための3つの解決策

いろいろ事情はあっても、このコロナ禍でテレワークの導入を検討せざるを得ない状況だ。業務内容さえテレワーク可能なものであれば、以下の3つの解決策で案外すんなりテレワークを導入できる可能性がある。

1.ネットワーク環境の整備

まず目指すべきは「ペーパーレス」。紙ベースでの情報共有はテレワークの支障となるため、グループウェアを導入し、できる限りクラウドファイル管理に移行したい。たとえば、1ユーザーあたり月額540円から利用できるMicrosoftの「Teams」では、クラウドでファイルやスケジュールを共有でき、チャットや通話でコミュニケーションをとることができる。

同じくMicrosoftが運営する「Office 365」や、Googleが提供する「G Suite」なども手頃だ。このような「クラウド方式」は低コストで手軽に導入できるのが利点である。一方で、情報漏洩リスクへの対処を考えるならば、「リモートデスクトップ方式」のほうが良いこともある。

「リモートデスクトップ方式」は、テレワーク端末からネット経由で社内の端末に接続する方法のこと。この場合、別途テレワーク用の端末が必要となるので、コストを抑えるのであれば、情報管理に十分配慮しながら社内の端末をそのまま外部へ持ち出すのもシンプルな方法だ。

また、低コストで運用できるビジネスチャットツール「Slack」や「Chatwork」などをあわせて使えば、在席・稼働状況などをステータスで把握することもできる。

2.資金面の解決

テレワークの導入には、心配しているほどコストがかからないというケースも少なくない。運用コストの安いクラウドや、Skypeなどのフリーウェアを使い、あとは必要最小限の端末購入で済ませば、そもそも高額なシステム運用が必要な大企業に比べると、中小企業のテレワーク導入コストは安くあがることも多いのだ。

テレワークマネジメント社では、Web上でテレワーク導入に必要なコストや費用対効果を無料で算出できるサイトを公開しているので、まずは“何にいくらかかるのか”を把握してみるのもよいだろう。

また、今なら、新型コロナウイルスの影響を受けている中小企業に対するテレワーク導入の支援が手厚い。厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」や、東京しごと財団の「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」などを活用すれば、負担を最小限に抑えながらテレワークを導入できるだろう。

3.心理的な問題の解決

「社内にシステムの専門家がいない」など、テレワーク導入にあたって不安を抱えている場合は、本来なら、まずは国や自治体の窓口に相談したいところである。しかし現在、相談窓口が混雑していてなかなか繋がらないようだ。

こんなとき、不安や不満の当てどころがなく、心の余裕がなくなってしまうのが一番よくない。どこの企業も同様にテレワーク導入について悩んでいるということを前向きに受け止め、少し視野を広げてまわりの様子を見てみるだけでも、有効な策が見つかるかもしれない。

今がテレワーク導入の絶好のチャンスと捉えよ

中小企業では、1人が多くの仕事を兼務する状況も多い。どの業務でテレワークを導入すべきか、指針が立てづらい局面も多々ある。

しかし、テレワークの導入は、経営者が一人で行うものではない。まずは社員にテレワーク導入の意志を伝えることで、各社員が「どうすれば自分がテレワークできるようになるか」を考えるきっかけとなり、スムーズに業務効率化が進むはずだ。

たとえば電話応対なども、在宅社員の携帯電話に転送したり、Web対応に集約したりすることで案外簡単に解決する。これだけ慣習化した捺印文化さえ、テレワークのあおりで消えようとしている。

もはや「中小企業だから」という理由でIT化を拒むのはナンセンスだ。これをチャンスと捉え、IT化に舵を切れる中小企業が生き残っていくだろう。まずは、その第一歩となる「テレワーク」を導入することで、これまで見えなかった多くの可能性が広がるかもしれない。

文・木村茉衣

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