事業承継の一環として、後継者が自社株式を引き継ぐことが挙げられます。
親族内の承継を検討している場合、自社株式を多額の金銭負担及び税コストなしで後継者に承継することを多くの経営者が望んでいます。
経営者は自社株対策を検討すべき
後継者が引き継ぎたくなるような会社は、業歴が長く、利益が出ているような会社です。
後継者に自社株式を移転しようと考えた時、そのような会社の株価は高く、後継者に移転する際に多額の金銭負担及び税コストが発生すると考えられます。そのため、早くから「自社株対策」を行う必要があります。
自社株式の評価は、1株あたりの株価×株式数で計算されます。したがって、スムーズな事業承継を検討する上で、株価対策(株価の引下げ)及び株式数の対策(現経営者保有株式の移転)が必要です。
まず、株価対策を検討するべきでしょう。高株価になった原因を分析することから始めてみてはいかがでしょうか。
高株価の原因が特定の評価会社に該当していないか、又は一般の評価会社に該当している場合類似業種比準価額が高いのか、純資産価額が高いのか原因は様々です。
特定の評価会社から一般の評価会社へ変更されることにより株価を大幅に小さくすることができます。
今回は、特定の評価会社の内、株式保有特定会社に着目しました。株式保有特定会社から一般の評価会社への変更による株価対策と、そのリスクについてご説明します。
株式保有特定会社の定義
株式保有特定会社とは、会社の有する各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額のうちに占める株式等の合計額の割合が50%以上の会社をいいます。
原則的には純資産価額により評価されるため、一般の評価会社より株価は高くなることが多いです。
なぜ株式保有特定会社に該当するのか
事業会社が株式を買い集め、株式保有特定会社に該当してしまうケースはあまり考えられません。
株式保有特定会社に該当するのは、将来の事業承継及び相続を見据えて株価対策の一貫として持株会社化を行ったからではないでしょうか。 持株会社化により、純資産価額で株価を計算する際に事業会社株式の含み益の37%を負債に計上することができるため、経営者が直接株式を保有するより株価の引下げ効果があります。
持株会社が一般の評価会社に変更されることによりさらに大きな株価の引下げ効果が期待できます。
株式保有特定会社に該当しなくなる3つの方法とそのリスク
株式保有特定会社に該当しなくなる方法は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、自社が保有している株式の評価額を下げること2つ目は、自社の株式以外の資産の割合を増やすことです。
今回は、2つ目の方法である「自社の株式以外の資産の割合を増やすためにできること」をいくつかご紹介します。
収益不動産の購入等
収益不動産をフルローンで購入、事業会社が保有する自社ビルや工場を現物分配により持株会社に移すことにより、総資産に占める株式の割合を低くすることが可能です。
注意点としては、株価対策だけのために利回りの低い不動産を購入しては意味がないことと不動産を購入してから3年経過後は相続税評価額により評価することになるため、再び自社が株式保有特定会社に該当する可能性があることです。
事業会社から配当
持株会社が事業会社から配当を受けることにより現金預金が増加し、総資産に占める株式の割合を低くすることが可能です。
事業会社に資金需要が発生したときは、貸付を行うことにより、総資産に占める株式の割合を継続できます。
事業会社から借入
事業会社から借入れをすることにより、持株会社の総資産に占める株式の割合を低くすることが可能です。しかし、その借入に経済的合理性がない場合は、一般の評価会社に該当したとしても否認されるリスクがあります。
【財産評価基本通達189一部抜粋】
評価会社が、株式保有特定会社かどうかを判定する場合において、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式保有特定会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして当該判定を行うものとする。
つまり経営上の合理性がなくただ株式保有特定会社から外れるためだけに事業会社から借入をすることは税務上否認されます。
参照:国税庁「特定の評価会社の株式」
CMS(キャッシュマネジメントシステム)を活用
CMSとは、持株会社等がグループ内の資金を管理することにより、効率的な資金の集中、配分、調整をするシステムのことです。
具体的には、グループ会社がいくつかある場合各々で金融機関から借入れをするのではなく、まず持株会社が金融機関から借入れをします。そして、持株会社が資金需要のあるグループ会社に貸付けを行うシステムです。グループ会社は余剰資金ができると持株会社に返済することになります。
持株会社の下にグループ会社が何社もぶら下がっており、他に資産の保有がなければ当然持株会社は株式保有特定会社に該当します。
そのような状況の場合、CMSを導入することにより、持株会社に資金を集中させることができますので、総資産に占める株式の割合を低くすることが可能です。
当然のことですが、単なる借入れの付け替えと指摘されないためにもCMSが機能していることは言うまでもありません。
まとめ
株式保有特定会社に該当しない方法をご紹介しました。
自社株式の引下げだけを重視するような方法は、合理性がなく否認されるリスクが高いと考えられています。
重要なことは、自社のビジネスの拡大等により行うものであり、自社株式の引下げはその結果生じたものにすぎないという状況が望ましいです。
株価対策を実行する上で、経営上の合理的な理由を1つでも多く主張することができれば否認されるリスクを減らすことができます。
(提供:税理士法人M&Tグループ)