矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

2018年のニューロモデュレーション装置市場は前年比104.7%の63億円、治療への理解・導入が進展

〜ニューロモデュレーション領域では、新規治療法の開発やバイオマーカーの特定など研究開発が進む〜

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、国内のニューロモデュレーション装置市場を調査し、市場規模、各治療法(装置)の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。

ニューロモデュレーション装置市場推移・予測

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1.市場概況

ニューロモデュレーションは、デバイスを用いた電気・磁気による刺激や薬物投与により、神経活動を調節する治療法で、装置を用いて微弱な電気刺激を行ったり、薬剤を持続的に投与することで中枢神経系の機能を修正・制御し、疾病や障害の治療を行う。ニューロモデュレーションを行う治療装置は、外科的手術が必要な(侵襲)装置と不要な(非侵襲)装置に大別される。

外科的処置が必要な治療としては、難治性てんかんに対する迷走神経刺激治療(VNS装置)や、難治性の慢性疼痛に対する脊髄刺激治療(SCS装置)、パーキンソン病や本態性振戦に対する脳深部刺激治療(DBS装置)などがあり、既に国内において保険適用下で実施されている。非侵襲の治療としては、電気けいれん刺激治療(ECT装置)が、国内で保険収載されており、日常臨床でもうつ病、双極性障害、統合失調症などの諸症状に対して行われている。また、反復経頭蓋磁気刺激治療を行うrTMS(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)装置は、新たに2017年9月に薬事承認され、2019年6月には保険収載となるなど、薬物療法では期待される治療効果が認められないうつ病などへの新しい治療法として注目されている。

2018年の国内ニューロモデュレーション装置市場(メーカー出荷金額ベース)を前年比104.7%の63億円と推計した。今後もニューロモデュレーション治療への理解が進み、装置の導入が進展することで、2021年の同市場規模を71億4,000万円と予測する。

2.注目トピック

保険診療の普及と諸条件

ニューロモデュレーションは、保険収載されたことでその治療法に広がりが見られるものの、治療に関する対象患者の設定や施設条件などの制約が普及を鈍化させている状況が一部で見受けられる。
ECT(電気けいれん刺激治療)に関しては、治療効果の高さなどから精神科領域における標準治療の一つとして普及している。一方、麻酔科医確保という条件から、治療を行えるのは総合病院や相応の設備を持つ精神科単科病院が中心であり、採用病院数が増加していない昨今の事情を見ると、新規導入があまり期待できない市場となってしまっているのが現状である。

新しく保険適用となったrTMS(反復経頭蓋磁気刺激治療)についても、同様の課題が見受けられる。rTMSにおける直近の課題としては、保険診療で施行可能となった後の国内での普及である。特に、適正使用を遵守し、安全かつ適切な施行が求められるが、現時点では保険診療における適応は非常に限定されていることに注意が必要である。

3.将来展望

国内のニューロモデュレーション装置市場は、今後も増加傾向で推移する見込みである。その理由としては、①保険適用下での治療の普及・一般化、②装置の新規適応に関する研究開発の進展、③ BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)をはじめとした脳神経領域に関する新たな知見の蓄積、活用などが挙げられる。

①に関しては、うつ病で新たにrTMS(反復経頭蓋磁気刺激治療)が保険適用になったことなどからも見られるように、薬剤や外科手術、認知行動療法(CBT)など既存の治療法に対し、規制当局から保険適用という承認を得たことで、新たな治療法が提案できることが大きな要素として挙げられる。各種エビデンスの蓄積や検証が進んでいけば、対象患者の設定条件の見直しや施設条件等の緩和などが行われる可能性もある。維持医療としての利用や在宅利用などのニーズも高いことから、今後もアカデミアの研究や企業の研究開発が期待される。
②、③については、ニューロモデュレーション領域では、新規治療法の開発やバイオマーカーの特定など研究開発が進んでおり、本格的なイノベーションはこれからと言われている。臨床研究に係るコストや、作用機序解明の難しさなど課題も多くあるが、有望でかつ研究開発が活発な領域であることから、さらなる新規治療法の開発について期待が集まっている。

ニューロモデュレーション領域は、医学的な見地からのアプローチがある一方で、安易な診断と装置の利用や商業ベースに基づいた治療の提供など、多くの課題も見られる市場である。国内のニューロモデュレーション装置市場での装置販売、事業展開で成功していくためには、まずはエビデンスに基くということを前提として、研究開発あるいは製品導入を進めていくことが、最も重要なポイントであると考える。