ランディックス(東京都渋谷区)  岡田和也社長(50)
(画像=ビジネスチャンス 岡田和也社長(50))

不動産業界を大混乱へと陥れたリーマンショックをものともせず、富裕層に特化したビジネスモデルで業績を伸ばし、昨年度は売上高約64億4000万円、経常利益8億3000万円、当期純利益5億7000万円を達成した。さらなる成長を目指す岡田和也社長を直撃した。(※2020年6月号 巻頭特集「コロナ不況に負けるな! リーマンショックをチャンスに変えたり男たち」より)

和納 勉
岡田和也
おかだ・かずや
1969年生まれ、東京都出身。広告代理店を経て、不動産業界へ転身。2001年、ランディックスを創業し、経営者の道へ。城南エリアに特化した事業展開で業績を伸ばし、昨年12月に東証マザーズに上場。

リーマンショックでビジネスモデルに自信

──設立から19年目の昨年12月に東証マザーズへの上場を果たしました。ここまで来るのにはいくつかのターニングポイントがあったと思いますが、特に大きかったものをあえて挙げるとすれば何でしょうか。

岡田 色々ありましたが、やはりリーマンショックを経験したことが一番大きかったですね。不動産業界が我々も大きな危機感を抱きました。しかし、富裕層向けの営業に力を入れたことが功を奏し、うまく乗り切ることができました。自分達のビジネスモデルに自信が持てた瞬間でした。

──リーマンショックは大手、中小を問わず、多くの不動産会社を経営破綻へと追い込みました。御社の業績にも影響があったのでは。

岡田 これを言うとみなさん驚かれるのですが、売上は減るどころか、どんどん増えていきました。あれだけの不景気にもかかわらず、うちはずっと黒字だったんです。理由は明確で、富裕層相手の仕事をしていたからなんです。

普通は、景気が悪くなれば不動産は売れなくなると思いますよね。これは間違いではないのですが、富裕層の方に限っては発想が逆で、景気が悪くなったときこそチャンスだと捉え、投資に対してものすごく積極的になるんです。本業が大変でも、なけなしのお金をはたいて投資するという方もいます。だから、周りの不動産業者が仕事がなくて困窮しているときに、富裕層の顧客を抱えているうちだけは次から次に仕事が舞い込んできました。これを経験した時に、このまま富裕層顧客を増やしていけば、不況に負けない強い会社ができるなと確信しました。

──そもそも、なぜ城南エリアの富裕層を相手にビジネスをするようになったのでしょうか。

岡田 実家が目黒ということもあり、この地域には幼少の頃から慣れ親しんでいました。それもあって、以前勤めていた三井のリハウスで目黒店に配属され、独立もそのままこの地を選びました。富裕層向けというのは、最初から意識していたわけではありません。場所柄、そういう層の方が多かったので、自然と接点が増えていったというのが正直なところです。でも富裕層の方々とコミュニケーションするのはすごく勉強になるなと感じるようになっていきました。それで段々と、そういう方向性を強くしていきました。

── 富裕層相手にビジネスをしようと思っても、口で言うほど簡単なことではないと思います。そうした方々との接点はどのようにして増やしていったのでしょうか。

岡田 紹介が中心です。特にお世話になっているのが、「牛角」の創業者で、今はダイニングイノベーションの代表を務めておられる西山知義会長です。もう20年以上のお付き合いになりますが、出会ったときはまだ不動産会社をやっておられて、事務所がうちから20秒くらいのところにありました。それが突然、焼肉屋を始めたかと思ったら、大ヒットさせてあっという間に上場までいってしまったので、それは驚きましたよ。それで上場してすぐ、うちに寄られときに家探しのお手伝いをさせていただけることになりました。それだけでもものすごくありがたいことなんですが、その後も同年代で上場した経営者仲間の方をたくさんご紹介いただきました。西山さんの人脈で一気に富裕層顧客が増えましたね。絶対に足を向けては眠れません。

──株主構成欄を見ると、西山さんの名前の他に、USENグループの宇野康秀社長の名前もあります。

岡田 宇野社長にも大変お世話になっています。もともとのきっかけは西山会長からのご紹介だったのですが、知り合ってすぐ一緒にトライアスロンをやるようになり、それが今も続いています。経営に関する相談にも色々と乗ってもらっていて、我々が上場を目指すことになったときにも、たくさんのアドバイスをもらいました。

テクノロジーの力で他社の2倍の利益率を実現

──事業の柱の一つに、不動産テックの領域になる「SUMUZU(スムーズ)」というマッチングサービスがあります。不動産ビジネスをやりながらITに取り組んだのはなぜでしょうか。

岡田 4、5年くらい前からでしょうか、アメリカから不動産テックの波が少しずつ日本に押し寄せてきました。ところが日本の不動産業者のほとんどはITとは無縁。このままだと、海外のテクノロジーの力で国内の不動産ビジネスは崩壊してしまうのではないかという危機感を抱きました。それで自ら不動産テックITに取り組むことにしたのです。

──「スムーズ」のビジネスモデルはどこから着想を得たのでしょうか。

岡田 富裕層の方は建売の家は買わずに、自分の気に入った建築家やデザイナーを使って、自分好みの格好良い家を造ります。我々はずっと富裕層向けにこれをやってきたわけですが、これをIT化すればもっと多くの方に利用してもらえるんじゃないか、今よりもたくさんの人に喜んでもらえるんじゃないかと思ったんです。会社としては建売住宅を造って売った方が、簡単で儲かるかもしれません。でもこれからさらに富裕層の顧客を増やしていくためには、こちらの方が良いだろうと考えたわけです。

──「スムーズ」の収益構造はどうなっているのでしょうか。

岡田 マッチングが成立した時に、建築家や工務店など、家を造る側から建物本体価格の基本3%をフィーとして頂きます。建築士の立場からすれば、広告宣伝費をかけずに富裕層と直接、接点を持てるので、メリットは非常に大きいと思います。登録料もいりませんし、リスクは一切ありません。打ち合わせなどの進捗状況はWeb上で管理し、すべて“見える化”しています。土地については、約1万2800件(3月時点)の顧客データをもとに、我々の子会社の方で仕入れて販売しています。契約済のものも含めて約50億円ほどのストックがありますが、半分近くが口コミや紹介で成約します。口コミや紹介の成約率がこれだけ高い不動産会社は、おそらく他にないでしょうね。在庫回転率は平均4.7カ月、利益率も同業他社の倍くらいあります。自己資本比率も同業他社比の倍、さらに1株当たりが稼ぐ利益もマザーズに上場したばかりの会社としては高いと思います。

──一般的には「家は一生に一度の買い物」というイメージが強いので、顧客をストックするメリットはそれほど大きくないように感じます。

岡田 富裕層はそこも大きく違います。自宅を建てたら次は別荘、相続対策で収益不動産、娘の結婚のタイミングでマンションという具合に、何度も取引の機会がやってきます。さらに知人をご紹介いただけることもあるわけですから、ストックを増やすメリットは非常に大きいです。今はまだ1万2000件ですが、これが3万、5万と増えていけば、ものすごいことになるはずです。

──今後については。

岡田 マンション領域の不動産テックはすでに色々ありますが、戸建領域となると我々が先駆者だと自負しています。まずは世間にこれをもっと認知してもらわなければなりません。上場したことで会社の知名度や社会的な信用力が上がり、人材採用も以前と比べてだいぶやりやすくなりました。優秀なエンジニアもたくさん雇えるようになりましたので、ここからさらに事業を拡大させ、次のステップを目指したいと思います。