住宅産業
(画像=Gorb Andrii/Shutterstock.com)

住宅産業に「地獄化」の懸念が出てきている。新型コロナウイルスの感染拡大によって住宅設備の供給に影響が出ており、竣工に遅れも生じ始めている。竣工が遅れるということは、施主(注文者)からの支払いも後倒しされることだ。このようなことは住宅産業の中小企業の資金ショート、そして倒産につながる。

住宅はさまざまなパーツの「集合体」

住宅というのは、いうなればさまざまなパーツの「集合体」だ。住宅設備や建築設備、建材・資材など多くのパーツを必要としており、どれか一つ欠けても住宅建設は基本的には竣工しない。

台所であれば表面に見えている部分だけでも流し台やコンロ台、レンジフード、食器洗い乾燥機がある。ほかにも、水道設備、ガス設備、電気設備なども必要になる。もちろん建材が無ければ家は建たない。家を建てる労働力も必要不可欠だ。

ただ新型コロナウイルスの感染拡大により、こうした必要不可欠な要素の一部が供給されない事態が始まりつつある。

住宅設備の納品に遅れ、工期の延長が深刻化

住宅大手の住友林業は3月上旬に記者会見を開いた。報道によれば、市川晃社長が住宅の引き渡しの遅れが出る可能性について言及した。その理由としては、住宅設備機器の配送に遅れが出ていることだと述べた。住宅設備機器が届くのが遅れれば、ハウスメーカー側は引き渡しを遅らせざるを得ない。

新型コロナウイルスの感染拡大は、1~2月に日本を含む世界で本格化し始めた。その時期は住宅産業にとっては忙しい時期だ。3月末からの新生活のスタートに合わせた住宅の引き渡しに向け、工事を急ピッチに行うシーズンだからだ。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大が、住宅設備機器の供給にダメージを与えた。住宅設備機器メーカーの中には中国に工場を持つ企業も多い。その中国では早くから工場での生産に影響が出て、設備自体の市場供給量が減った。生産はできても、物流が以前のように機能せず、日本への到着が遅れるケースも多くあった。

住宅会社向けシステムの開発・販売を手掛けるエニワンによるアンケート調査(4月2日発表)では、工務店経営者の53.6%が設備機器・建材の納期に遅れが出ていると回答している。また、工期延長や引き渡し延長などが起きていると答えた工務店経営者も24.7%に上っている。

引き渡しの遅れで支払いも遅延、キャッシュフローに打撃

冒頭でも述べたが、竣工・引き渡しが遅れるということは、施主からハウスメーカーや建設会社への支払いが遅れるということを意味する。

住宅購入の支払いは通常、工事請負契約時に10%前後、着工時に30%前後、上棟時に30%前後、引き渡し時に30%前後という形が多いが、この最後の30%の受け取りが遅れることで、特に中小企業のハウスメーカーや建設会社はキャッシュフローに深刻な打撃を受ける。

仮に総費用が2,000万円の住宅工事だったとすると、そのうち30%である600万円の受け取りが遅れることとなるが、もしこのようなケースが10件あれば6,000万円、20件あれば1億2,000万円となる。大きな金額になると、資金ショートする破綻も可能性として出てくる。

そしてハウスメーカーや建設会社が破綻すれば、これらの企業から仕事を受託していた下請け企業にも影響が出てくる。住宅産業において連鎖的な倒産が起きるまさに「地獄化」の可能性を含んでいるというわけだ。

状況改善に向けて国土交通省も対応に乗り出す

このような状況を受け、国土交通省も対応に乗り出している。

国交省は2月27日付で、一部の設備が揃っていないことなどを理由として工事完了という扱いをしないよう、柔軟な対応を求める通知を各自治体や関連団体などに出した。施主による理解ももちろん必要になってくるが、このように通知を出したことで、工事費用の支払いが円滑に行われるよう配慮したわけだ。

ただ、工事費用の支払いに遅れが出なかったとしても、まだまだ新型コロナウイルスが住宅産業に与えている影響はゼロにはできない。

先ほど紹介したアンケート調査の結果に戻るが、工務店経営者のうち「契約のキャンセル」があったと回答した人は48.5%、「契約の延期」があったと回答した人は38.5%に上っている。簡単に言えば、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で住宅関連も仕事が減っているわけだ。住宅関連のイベントや展示会などの多くが中止されていることも大きい。

予断を許さない状況はまだまだ続く

東京商工リサーチよれば、新型コロナウイルス関連の倒産は宿泊業や飲食業に比べて住宅産業では少ないと発表されている。しかし、新型コロナウイルスの終息時期は依然不透明な状態で、予断を許さない状況はまだまだ続く。自粛ムードが続き、消費マインドもさらに落ちれば、住宅関係の仕事は確実に減っていってしまう。

住宅産業で働く人の雇用への懸念も高まる。状況は厳しいが、雇用調整助成金などをうまく活用し、住宅産業の中小企業には何とか踏ん張ってもらいたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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