カンブリア宮殿,出前館社長
(画像=© テレビ東京)

外出自粛の強い味方~全国2万店の味を出前

出前館の創業は1999年、売上高約66億円。通常、個々の飲食店がやっている出前を、店に代わって行うビジネスを切り開いてきた。

出前館への注文は、パソコンかスマホで行う。まず、届け先の住所か郵便番号を入力。すると、その地域で出前をしてくれる店が、ズラッと出てくる。その中から好きな店の食べたいメニューを選ぶ。右に出る数字はおおよその待ち時間。店を選ぶ時の目安となる。

ファミリーレストランやファストフードなど大手チェーン店はもちろん、町の個人店も加盟している。

たとえば東京・赤坂で50年続く洋食の老舗「かおり」の一番人気は「オムライス」。「八べえ」は下町・亀戸のうなぎの名店。最高級の「青うなぎ」を使った「うな重」が絶品だ。

注文すると、出前館と飲食店に同時に連絡が入り、出前館が店から料理をピックアップして、お客に配達する。

ここ数年、出前の市場規模は拡大している。最近よく見る「ウーバーイーツ」も出前専門。さらに、楽天などの大手企業も続々と参入している。

そんな中で出前館最大の武器は加盟店の多さ。2万1000店と他社を圧倒している。

他にも出前館には人気の理由がある。その一つは出前でも熱い料理が届くこと。

例えば中華の「日高屋」。料金は、料理の価格に出前料として2割から3割程が上乗せされる。料理はどれもアツアツ。ラーメンは麺と具材がスープと別の容器に入っていて、食べる直前に合わせる。麺とスープが別々だから、麺が伸びにくい。

料理が冷めない理由は容器にある。大手容器メーカーの「エフピコ」と共同開発した。スープを入れるどんぶりは発砲スチロール製。その断面図を拡大してみると、およそ0.2ミリの気泡が無数にある。気体は固体より熱伝導率が低いため、保温性が高く、スープが冷めにくいという。

もう一つの人気の理由はスピーディーで時間通りの配達にある。

出前館は全国に290の配達拠点を展開している。神奈川・藤沢にある配達拠点の配達スタッフは15人。全員に配達や接客の研修が義務付けられている。ランチタイム間近の午前11時、配達スタッフが一斉に町へ。

スタッフに出前の指示を出す事務所は、いわば配達拠点の司令塔だ。藤沢駅に近いこの拠点の受け持ちエリアは半径4キロ。人口は25万人、加盟店は52店舗。

注文が入った。オペレーターが端末をタッチすると、お客と店のデータが表示される。画面には、店で商品を受け取る時間と、お客に届ける時間が表示される。お客の指定は15時ちょうど。これを確認したオペレーターは地図を開く。そこには配達スタッフ全員の現在位置が。それを見てオペレーターは適切なバイクに配達の指示を出す。

配達スタッフに連絡が入ると、必ずバイクを降りてからスマホをチェック。画面には配達先とお届けの希望時刻が表示されている。さらに店から届け先までのルートも表示される。すぐさま店に向かい、お客の希望通りの時間に正確に届ける。

カンブリア宮殿,出前館社長
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外食の危機を救う出前~加盟希望の問い合わせが殺到

カンブリア宮殿,出前館社長
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東京・中央区八丁堀の拠点から出てきたのは電動自転車の配達スタッフ。出前館社長、中村利江だ。中村は時々こうして自ら出前に出ている。加盟店とお客の状況を肌で感じているのだ。

「私自身も子育て中、すごく忙しい時に帰ってきて、スーパーに買い物に行くのも大変だったんですけど、そんなひいひい言ってふらふらになって作る料理よりも、近所のプロの飲食店さんに作っていただいたのを皆で笑って食べる方がよほど楽しいなと実感しましたので、できたら皆さんにもそういう時間を過ごして頂きたいと思っています」(中村)

いま飲食業界の大きな危機が新型コロナウイルス問題だ。緊急事態宣言が出されたことで多くの店が営業を自粛。あるアンケートでは、首都圏の飲食店のおよそ6割が「このままだと事業継続が困難」だと回答している。

こうした中、出前館には、加盟を希望する飲食店からの問い合わせが殺到している。

「普段だと1日20~30軒だったのが、最近は100軒を超えています。コロナの影響もあって来られないお客様が増えているので、売り上げを確保する一つの販促として、出前館のお問い合わせにつながっているということだと思います」(問い合わせ担当・吉村玲於)

千葉・松戸の「とんとん餃子」は昭和41年創業の町中華。以前は賑わった昼時も今はガラガラの日も多い。3月は送別会のシーズンで、宴会の予約が入っていたが、新型コロナの影響でキャンセルが相次いだ。

「影響は大きいですね。死活問題。3月の売り上げはざっくり50万円くらいなくなっている」(店主・大内康弘さん)

そんな状況を救ったのが出前館だ。もともと加盟しようと考えていたが、新型コロナの影響を受け、2月に加盟した。すると、出前の売り上げが月に50万円ほどになり、宴会のキャンセル分を何とか補填できたという。

「入ってなかったらと考えたら、ぞっとしますよね。救われた、救世主」(大内さん)

「飲食店さんは、売り上げが4割減、5割減というお店もたくさん出てきているそうです。私たちは作ることはできないんですけど、作ることはお店にやっていただいて、お届けすることで、お店のおいしい料理を少しでも味わっていただけるようにお手伝いできればなと思っています」(中村)

カンブリア宮殿,出前館社長
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月間売り上げ2万円からのスタート~今や全国290拠点

この日、出前館の本社で新しい加盟店の検討が行われていた。エリア開発グループ責任者の泉憲悟はこれまで400もの店を開拓してきたスゴ腕だ。泉が狙っているのは、埼玉県の京浜東北線・蕨駅エリアの強化。他の駅と比べて加盟店が少ない。

リストから選んだのは「るーぱん」というパスタ店。店のホームページを見てみるとバリエーション豊かなメニューが並んでいる。店のイチオシは魚介とトマトたっぷりの「ボンゴレ」で500円と格安。泉は「るーぱん」をターゲットにすることに決めた。

数日後、泉が向かったのは「るーぱん」。まずは客として店の中へ。「るーぱん」は1972年創業。埼玉県内で8店舗を展開している。多くのメディアで紹介され、「埼玉県民のソウルフード」と言われるほどファンも多い。

看板メニューのボンゴレを注文した泉。必ず自分の舌で味を確認する。そして店長の遠山喜郎さんを呼び、交渉を始めた。

「今までテークアウトだけで、こちらから運んでいくことはやってなかったので、興味はあります」(遠山さん)

出前館はこうした地道な営業で加盟店を開拓しているのだ。

出前が広まったのは江戸時代に入ってからと言われている。当時の浮世絵にも、出前する蕎麦屋の姿が描かれている。高度成長期に入ると出前は全盛期に。自転車に乗り、片手でいくつもの出前を運ぶ名人芸の腕を競う、「出前コンクール」なんていうものも行われていた。今やお馴染みとなったピザのデリバリーサービスが登場したのは1985年だ。

こうした中、1999年に誕生した出前館。当時はやり始めたインターネットビジネスのひとつだ。創業当時は、出前を行っている飲食店の紹介サイトを運営するだけ。自前での配達はせず、売り上げが伸び悩んでいた。

そこで社長就任を要請されたのが、飲食コンサルタントをしていた中村だった。

「その時、月間の売り上げが約2万円くらいで、負債が2億8000万円ございました。全員周囲は反対でした。ただこの事業は、世の中に認められて、しっかり成長していけば、今は2万かもしれないけど、2億円、200億円、もしかしたら2兆円のビジネスになる可能性があるなと思ったんです」(中村)

中村が来た頃は、お客がサイトを通じて注文すると、届け先や注文内容が店のパソコンにメールで届くというシステムだった。しかし、店は調理するのに忙しく、パソコンにメールが届いたことに気が付かないことも多かった。

そこで中村は、お客が注文すると店に自動的にファックスで注文を知らせるシステムを開発。ファックスなら注文が紙に残るので見落とすことも少ない。当時はパソコンのない店も多かったが、ファックスなら大抵の店にあったため、加盟しやすくなった。

こうした地道な努力で加盟店を増やし、売り上げは3億6000万円に増加。2005年、ついに黒字化を達成する。中村は新しいビジネスの開拓者として注目を集め、2006年には上場を果たす。

出前館を軌道に乗せた中村は提携先企業「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」の取締役となり、出前館から離れる。すると、増収増益を続けていた出前館の業績が伸び悩み、2012年には初の減益に転じる。危機感を抱いた中村は社長に復帰。出前館の立て直しを図る。

思い切って打ち出したのが出前代行サービス。しかし、人もバイクもノウハウもない。そこで「配送のプロの方と提携したらいいんじゃないかと思いまして、最初に組ませていただきましたのが、朝日新聞さんだったんですよ」(中村)。

2016年、出前館は朝日新聞と業務提携。新聞販売店が忙しいのは早朝と夕方。そこで、空いている時間に出前をしてもらうことにしたのだ。

これが当たり、注文数、売り上げともに右肩上がりに。その後、自前の配達拠点を作り、出前そのものもするようになった。今や全国に290もの配達拠点を展開している。

カンブリア宮殿,出前館社長
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地方の名店の味を東京で~新サービス開発の裏側

カンブリア宮殿,出前館社長
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東京・目黒区にある出前館の配達拠点で新たな挑戦が始まろうとしていた。

「地方の有名店のシェフの方と組んで、新しいデリバリー専門店を作ることが目的です」(シェアデリ企画グループ・菅貴美男)

出前代行だけでなく、地方の名店の味を自ら調理して出前で届ける新たなビジネスを展開しようというのだ。

そこで口説き落としたのは仙台「クロモリ」の料理人、黒森洋司さん。「クロモリ」はグルメサイトの評価で4.2という、人気の高級中華店。素材の味を存分に引き出した料理が評判で、仙台でも指折りの、予約が取りにくい店だとか。

料理は仙台の店で仕込み、ここでは仕上げだけ。だから黒森さんの味から外れる心配はない。

「ちゃんとしたものをご自宅に届けるということがこれから必要になってくると思うので、しっかりしたものをご自宅に届けたいです」(黒森さん)

自分の味を東京で、しかも出前で。それは黒森さんにとって大きなチャレンジだ。もちろん出前館にとっても、名店の味を損なわずに出前できるかの勝負となる。

黒森さんが腕を振るった料理が完成した。唐揚げは、「森林(しんりん)どり」という宮城のブランド鶏を使っている。黒森さん特製のタレで仕上げた豚の角煮も。

料理を袋に入れて車に積み込む。実際の出前の時と同じ状態にするため、車で30分かけて試食会場である丸の内の出前館・本社へ。

中村が手にしたのは担々麺。いつも麺類を真っ先に試食する。冷めたり、伸びたりしていると、せっかくの味が台無しになってしまうからだ。

「麺の食感、非常に弾力が残っていて、デリバリーの中では最高位にくるんじゃないか」(中村)

自ら料理作りに乗り出した狙いを、中村はスタジオでこう説明した。

「地方の名店さんは全国に名を広げにくい。しかもイートインはコストがかかる。デリバリーによって、全国に店を広げるお手伝いをするという考え方です」

今年3月、出前館はラインと資本業務提携し、300億円の出資を受けると発表した。将来を見据えて、巨大SNS企業と手を組んだのだ。

カンブリア宮殿,出前館社長
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~編集後記~

中村さんは、シックなスーツも、出前館の制服も、よく似合った。出前は新型コロナウイルスの影響もあり、今や外食で唯一、業績を伸ばしている。

LINEが300億円を出資し、新社長も送り込み中村さんは会長になるそうですが、出前館を離れたりしないですよねと聞くと、え? どういうこと、という表情になった。出前館を離れることなど考えていない。300億円は何に使いますか、という質問には「システムを整備するなどします」と、うれしそうに答えた。 ウーバーイーツとの闘いにも負けはしないだろう。出前の申し子なのだ。

<出演者略歴>
中村利江(なかむら・りえ)1964年、富山県生まれ。1988年、関西大学文学部卒業。リクルート、ハークスレイ(ほっかほっか亭)を経て、2001年、夢の街創造委員会(2019年、出前館に社名変更)取締役に就任、2002年より同社社長。2010年CCC取締役転出。2012年、出前館社長に復帰。

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