
目次
- 機械化や業務支援システムの導入で進む土木建設業界の働き方改革を自社の取り組みを通じて発信
- マシンガイダンスタイプのICT建設機械を2020年から順次導入 最新タイプの情報をきめ細かく収集するようにしている
- 公共土木専用の積算システムを40年以上前から導入 設計ではICT建設機械と親和性が高い3D-CADシステムを活用
- 画像からコンクリート構造物のひび割れを的確に抽出する専用システムを活用して橋脚の調査業務を効率的かつ安全に
- 地域のインフラを守る次世代の育成のため、従業員全員の資格取得に積極的に取り組む
- 副業を原則容認 自らの人生を考えていく上での多様な選択肢を従業員に提供している
- 事業継続計画(BCP)の優れた取り組みを行っている企業として香川県庁から認定を受けている
- 業界団体の活動を通じて県内の建設業界におけるデジタル技術導入の進捗状況にも目を配る
香川県東部のさぬき市に本社を構える株式会社富田組は、1953年の設立以来70年以上にわたって道路、水道といった土木分野の工事を通じて地域を支えてきた。情報通信機能を備えたマシンガイダンス(MG)タイプのICT建設機械を積極的に導入し、積算業務やインフラの耐久性を確認する調査業務でもデジタル技術を適材適所で活用。業界団体の活動を通じて地域のi-Constructionを推進する旗振り役も務めている。(TOP写真:株式会社富田組は、i-Constructionの推進に力を入れている)
機械化や業務支援システムの導入で進む土木建設業界の働き方改革を自社の取り組みを通じて発信

富田組は、地域と共に歩むことを経営理念に掲げ、香川県東部を中心に県内全域で公共インフラの新設や維持に取り組んでいる。数十年前に手掛けた公共インフラの補修に携わることも多いという。国土交通省四国地方整備局、一般社団法人香川県建設業協会、さぬき市などと防災協定を結び、災害発生時には応急対策活動や支援活動に取り組む。本社には国土交通省や香川県から贈られた数多くの感謝状や表彰状が並ぶ。2015年には環境マネジメントシステムに関する国際標準規格ISO14001と、品質マネジメントシステムに関する国際標準規格ISO9001を取得した。環境負荷軽減を考えて近く本社の空調システムを省エネ性能が高い最新タイプに更新する予定だ。
「土木建設業界の労働環境は、一昔前の3Kといわれていたころと比較すると大きく様変わりしています。現場作業は機械化が進み、重量物を持たなければならない作業は格段に減りました。事務作業も業務支援システムの進化でどんどん楽になっています。週休2日制の導入や残業時間の削減をはじめとする働き方改革も着実に進んでいます。自らの会社を通じて、変化している土木建設業界の現状を情報発信することも大切な役割と思って日々の業務に取り組んでいます」。取材の冒頭、富田組の富田隆弘代表取締役は、技術の進化や法制度の改革を通じて業界内に生まれている新しい動きを丁寧に説明した。
マシンガイダンスタイプのICT建設機械を2020年から順次導入 最新タイプの情報をきめ細かく収集するようにしている

富田組は、ICT活用工事への積極的な対応を心掛けている。3次元設計データとバケットの位置情報を比較して、その差をモニターで案内する機能を持ったマシンガイダンス(MG)タイプのICT建設機械を2020年から順次導入している。現在所有する二十数台の建設機械のうちICT建設機械は約30%を占める。ICT建設機械を活用することで、施工効率は20%から30%程度向上。円滑な土砂の搬出などICT建設機械の性能をフルに発揮できる条件を整えれば更なる向上も期待できるという。施工期間の短縮はもちろん、ベテランでなくても高いレベルの仕上がりを実現できるのは大きなメリットだ。それだけではない。建設機械周辺で丁張りを設けたり、合図を送ったりする作業が不要になることで、建設機械と人の接触事故の心配がなくなるといったさまざまな効果が生まれている。
今後、建設機械そのものの動きを自動制御するマシンコントロール(MC)タイプの建設機械や遠隔操作システムの導入も、費用対効果を考えながら進めていく方針。「ICT建設機械は高価なので購入だけでなくリースも活用しています。技術が進化するスピードが速く、現場の世代交代に伴ってICT建設機械のスタンダード化が今後進んでいくと考えられるので、情報はきめ細かく収集するようにしています」と富田社長。
公共土木専用の積算システムを40年以上前から導入 設計ではICT建設機械と親和性が高い3D-CADシステムを活用

富田組は、現場でICT建機を活用する一方、積算や設計で業務支援システムを活用している。中でも公共土木専用の積算システムについては40年以上前から導入し、バージョンアップを繰り返しながら活用している。現在のシステムは、精度が高い積算に加え、電子形式や画像形式の設計書をデータに変換して積算する機能や、ベテラン従業員の積算に関する知識やノウハウをデータ化して共有できる機能を備えている。システムの性能が向上するたびに積算に必要な時間が短縮され、その分、現場の仕事に注力できるようになるという好循環が生まれている。
設計では、ICT建設機械と親和性が高い3D-CADを活用。今後、測量業務の効率化のためにレーザースキャナーの導入も検討している。「デジタル機器やICTの導入は、現場が必要とした上で使いこなすことができるか否かを基準に判断しています。デジタル機器やシステム同士の連携も今後、強化していきたい」と富田社長は話した。
画像からコンクリート構造物のひび割れを的確に抽出する専用システムを活用して橋脚の調査業務を効率的かつ安全に
富田組は、橋脚の補修、維持工事でもデジタル技術を活用している。橋脚に生じているひび割れの調査を効率的かつ安全に実施するために2020年から活用しているのが、画像からコンクリート構造物に生じたひび割れを的確に抽出する機能を持つ専用システムだ。
システムはデジタルカメラで撮影した画像からひび割れを自動で抽出し、その幅と長さを計測する機能を備えている。撮影解像度を的確に設定することで、人間の眼では見落とす可能性のある細かいひび割れも指定した色でわかりやすく表示できる。ひび割れは、高精細なデジタルカメラを使うことで遠距離からの撮影でもしっかり抽出できるので、安全への配慮が必要な高所部分の調査で特に効果を発揮している。目視で調査していたシステム導入以前と比較すると足場を設置したり、周辺の交通規制をかける必要がなくなったので、その分、少人数で手間をかけず、短期間かつ安全に調査を実施できるようになった。蓄積した画像データは、経年によって変化した部分の比較に役立てることもできる。
「高性能のパソコンやデジタルカメラを購入する必要がありましたが、従業員の安全確保に加え、撮影機材を用意するだけで調査に取り掛かれるようになりました。以前は必要だった大掛かりな準備が不要になり、業務効率化とコスト削減の両面で非常に大きな効果が生まれました」と富田社長は満足そうに話した。
地域のインフラを守る次世代の育成のため、従業員全員の資格取得に積極的に取り組む

富田組は25人の従業員に資格の取得を奨励している。一級土木施工管理技士、一級管工事施工管理技士、建設機械施工技士、一級建築施工管理技士、測量士、一級造園施工管理技士などの資格取得者は、延べ44人にのぼる。また、近年、地元出身者を中心に10代後半から20代の若手の採用を積極的に進めている。若手の人材は、デジタル機器を活用する調査業務や現場代理人として工程を管理する業務などで活躍し、会社の主力として順調に成長している。「若手が自主性を発揮して伸び伸びと仕事ができる環境づくりを大事にしています。地域のインフラを守る次世代の育成も企業としての大事な責任と考えています」と富田社長は話した。
副業を原則容認 自らの人生を考えていく上での多様な選択肢を従業員に提供している

デジタル技術の活用に伴う業務効率化で残業が大幅に減り、自宅に帰った後の時間の活用が従業員一人ひとりの課題として浮上する中で、富田組は従業員の副業を原則容認している。「企業が本業以外のサイドビジネスを展開して経営基盤を強化するのと同様に、これからの時代は個人もワーク・ライフ・バランスを考えた上で、収入を増やしたり人脈を拡大するための手段として、副業を考えるのもありではないかと思っています。自らの人生を考えていく上での多様な選択肢を従業員に提供していきたい」と富田社長は話した。
事業継続計画(BCP)の優れた取り組みを行っている企業として香川県庁から認定を受けている
富田組は、香川県内の事業継続計画(BCP)を策定した中小企業のうち、優れた取り組みを行っている事業所として同県庁から認定されている。本社の敷地に発電機を設置して停電時でも事業を継続できるよう備えているほか、会社で蓄積している設計図や工事資料などのデータをバックアップするためにハードディスクとクラウドストレージを併用している。クラウドストレージは社内での情報共有にも役立てている。
業界団体の活動を通じて県内の建設業界におけるデジタル技術導入の進捗状況にも目を配る

香川県建設業協会の副会長を務めている富田社長は、県内の建設業界におけるデジタル技術導入の進捗状況にも目を配っている。建設現場にICTを導入するi-Constructionを推進する国土交通省は、2025年度から国が直轄する土木や河川浚渫(しゅんせつ)の工事でICT活用を原則化する方針。時代の流れを受けて、県内の建設業界全体でICT活用の標準化に対応していかなければならないとの思いは強い。「それほど時間は残されていないので、目先の仕事に追われてICT化の対応が遅れるほど悪循環に陥ることを覚悟しなければなりません」と富田社長は話した。
「人口減少と地方経済の活力低下は、今後ますます日本の大きな課題になると考えています。若者に選んでもらえる持続可能な地域にしていくには新しい取り組みが欠かせません。DXの推進は、香川県の将来を左右する大きな鍵と思っています」。富田社長はそう語りながら表情を引き締めた。i-Constructionの有用性を認識し、幅広い視野でデジタル技術を活用している富田組。産官連携の要としてこれからも地域を支えていく。

企業概要
会社名 | 株式会社富田組 |
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本社 | 香川県さぬき市大川町富田西1266番地3 |
HP | https://tomidagumi.net |
電話 | 0879-43-2160 |
設立 | 1953年6月 |
従業員数 | 25人 |
事業内容 | 土木工事業、建築工事業、とび・土工工事業、管工事業、舗装工事業、造園工事業、水道施設工事業、解体工事業 |