矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

2018年の国内CRO市場を2,250億円規模、2018年度の国内SMO市場は420億円規模と推計

~製薬企業の研究開発の重点分野・領域は、がん、中枢神経系、免疫系に集中~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、製薬企業の研究開発戦略、国内のCROおよびSMO市場を調査し、参入企業動向、将来展望を明らかにした。

1.調査結果概要

2019年度における国内主要製薬企業の業績は、2019年10月の消費増税に伴う薬価改定、ジェネリック医薬品の使用促進などに伴い国内事業は苦戦を強いられているものの、大手企業についてはグローバル新薬の売上高拡大などを背景に、総じて堅調に推移している。一方、国内市場を中心に展開する中堅企業については、横ばいから減収減益を見込む企業も多く、厳しい状況が続いている。
製薬企業各社は高度な技術を応用し革新的新薬の開発を目指しており、研究開発費も総じて増加傾向にある。今後も研究開発費の増加は避けられないが、製薬企業にとっても大きな負担であるだけに、経営面でのさらなる効率化、研究開発の合理化推進などの必要性も高まっている。また、多額な研究開発費を捻出し続けるためには資本力の強化も欠かせないため、M&A等による事業規模の拡大も選択肢の一つとなっている。グローバル製薬企業は引き続きM&Aに積極的で、グローバル製薬企業の巨大化がさらに進展している。これに対し、グローバル化を最重要課題とする国内大手製薬企業も大規模なM&Aに乗り出している。

一般社団法人日本CRO協会(JCROA)によると、2018年の会員33社の合計総売上高は前年比1.2%減※1の1,901億円である。総売上高の減少は、同協会設立以来初めてのことであるが、これは一部企業によるCSO(Contract Sales Organization=販売業務受託機関)業務などの分社化が影響したものであるため、実質的には成長を継続したものと見られる。国内のCRO市場には、協会加盟企業以外にも多数の有力企業が存在しており、非会員企業は20社以上にもおよぶ。これらを含めた2018年の国内CRO市場(事業者売上高ベース)は2,250億円規模に達すると推計する。
※1.2017年は会員32社の合計値。

一方、日本SMO協会(JASMO)によると、2018年度の会員29社の合計売上高(SMO事業のみ)は前年度比7.2%減※2の366億57百万円と2年ぶりの減少を記録した。国内のSMO市場には、協会加盟企業以外にも一部有力企業が存在することや、業容拡大を目指さずに地域密着型や特定医療機関との連携で事業展開を図る小規模SMOなども存在する。これらを含めた2018年度の国内SMO市場(事業者売上高ベース)は410~420億円規模に達すると推計する。
※2.2017年度は会員31社の合計値。

2.注目トピック

製薬企業の研究開発動向と国内のCRO市場、SMO市場動向

製薬企業は自社の強みとする領域を核として、重点領域に集中的に資源を投入することで創薬研究の生産性向上を図ると同時に、アンメットメディカルニーズ(有効な治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)に応える画期的な新薬の開発を目指している。各社の重点分野・領域を見ると、殆どの企業ががんを重点分野に挙げている他、中枢神経系と免疫系が多く挙がっている。これは、循環器系疾患や代謝性疾患で新薬開発が進展し、既存薬を超える新薬の開発が難しくなっていることに加え、とくにアンメットメディカルニーズが高いのが、がん、中枢神経系疾患、免疫系疾患などであることも、これらの疾患を重点領域とする企業が多い要因となっている。
化合物の探索が進展したことで、新規に有効な作用を示す物質の発見が非常に困難になっている。そこで、製薬企業各社は自社の研究開発能力の向上を図ると同時に、外部の技術導入を図るため、国内外の製薬企業やバイオベンチャー、大学、その他の研究機関などとの共同研究を強化している。製薬企業の研究所から創出される新薬が減少する一方、バイオベンチャーが創出する新薬は増加している。

国内のCRO市場については、製薬企業の開発品目は、今後も一定の範囲で推移すると見込まれる。大型化が期待される品目が減少する一方、小規模な品目やオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)などが増加している。CROに対するニーズは、製薬企業の外注化率の上昇を含め増加するものと見込まれるが、IT化への対応を含め治験の効率化に向けた動きの進展もあり、モニタリング業務に対するニーズが大きく増加することはないと推測される。グローバル化への対応や新たなサービスの提供が市場成長の鍵を握ることになると考えられる。
CRO市場は今後も安定的な成長を継続する見通しだが、成長率についてはこれまでより鈍化するものと見込まれる。市場成長率の鈍化が見込まれる中、新たなサービス提供への対応、外資系企業の参入や日本市場での活動強化などもあり、参入企業間のさらなる競争激化が見込まれる。

一方、国内のSMO市場については、製薬企業において生活習慣病治療薬の開発が一段落したことで、開発の主体が、がんや中枢神経系疾患、希少疾患など難易度の高い疾患に移行し、受注から売上計上までに長時間を要する試験が増加している。また、プロトコール数(治験計画届出件数)は2016年度までは増加していたが2017年度以降は減少し、契約症例数も引き続き減少が続いている。試験の長期化に伴い売上原価が上昇し粗利益率が下降するなどSMO企業にとっては課題が増している。市場環境が変化する中で、大手のSMO企業を中心に提携病院の開拓や難疾患に対応可能な治験コーディネーターの育成強化など、病院市場の強化に重点を置く企業が増加している。