【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

「熱狂するコミュニティが、地域の未来を創る。」

前編では、株式会社あるやうむの事業内容や同社が推進する「地域おこし協力隊DAO」の仕組みと、北海道余市町での成功事例を伺いました。NFTと国の制度を組み合わせ、地方創生に新たな風を吹き込むその取り組みは、大きな可能性を秘めています。

後編では、和歌山県白浜町での新たな事例から話を始め、事業の裏側にあるビジネスモデルや行政連携のリアルな課題に迫ります。そして、地方創生におけるブロックチェーンの未来、畠中氏自身の展望まで、さらに話を深掘りしていきます。

畠中博晶(はたなか ひろあき)氏 株式会社あるやうむ 代表取締役
東京・渋谷での中高生活に疲れ、北大への進学を機に札幌移住を志すも、周囲の猛反対に遭い断念。失意のまま進学した、京都大学総合人間学部在学中の2017年に、仮想通貨の裁定取引を始める。それ以降ずっとブロックチェーン/仮想通貨の世界にのめり込み、裁定取引で稼いだ資金で2020年3月に念願の札幌移住を果たす。2020年11月に、株式会社あるやうむを創業。
小林 憲人(こばやし けんと)  株式会社NFTMedia 代表取締役
2006年より会社経営。エンジェル投資を行いながら新規事業開発を行う株式会社トレジャーコンテンツを創業。2021年にNFT Mediaを新規事業として立ち上げる。「NFTビジネス活用事例100連発」著者。ジュンク堂池袋本店社会・ビジネス書週間ランキング1位獲得。

【事例で学ぶ】Web3時代の地方創生のあり方とは?NFTの可能性と課題を解説

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目次

  1. 地域おこし協力隊の導入事例②:和歌山県白浜町
  2. DAOがもたらす「越境する繋がり」と行政連携のリアル
  3. 地方創生におけるNFTとブロックチェーンの可能性
  4. 日本でNFT事業を推進する上での2つの大きな課題
  5. 今後のビジョンとVCからの評価
  6. 札幌での起業と経営者の素顔
  7. 最後に

地域おこし協力隊の導入事例②:和歌山県白浜町

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望
引用:プレスリリース

小林: 前編では余市町の事例を伺いましたが、他に特徴的な事例はありますか?

畠中氏: 和歌山県白浜町の事例も面白いです。こちらのDAOでは、コミュニケーションツールにLINEオープンチャットを使っています。我々の先輩であるうどんさんもおっしゃっていましたが、コミュニティ運営はLINEオープンチャットのような手軽なツールを使い、情報が集積される部分だけDiscordなどを活用するのが一番いい、と。まさにそれを実践している形です。

小林: どのような方が運営をされているのですか?

畠中氏: 白浜町に移住した、ゆうとさんという方がマネージャーを務めています。彼は高校卒業後に工場勤めを経験した後、「フリーランスになりたい」といきなり工場を辞めてブロガーとして独立し、きちんと生活できていたという面白い経歴の持ち主です。

もともとフリーランスでどこでも行ける状態だった彼が、イケハヤさんの発信を見てNFTに興味を持ち、「これが天職だ」と岩手県の盛岡から和歌山県の白浜へ移住してくれたんです!

なかなかないダイナミックな移住で、先日、白浜町で盛岡ナンバーの彼の車を見つけて感動して写真を撮ってしまいました(笑)。(下記参照)

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

小林: LINEオープンチャットでは、具体的にどのような交流が生まれているのですか?

畠中氏: 例えば、観光に来た方が「今、ここの駐車場の状況はどうなっていますか?」と質問すると、協力隊のゆうとさんが「今は渋滞していませんよ!」とリアルタイムで回答したりします。こういった情報は、これまで観光客が手軽に知る手段がありませんでした。

オープンチャットができて3ヶ月ほど経った頃に、DAOの正式名称を決める投票を行ったのですが、「当選者には1500円」というささやかな企画に13件もの応募が集まりました。

地域のことを気にかけ、関わりたいと思っている人は世の中にたくさんいるんです。 DAOという“箱”を用意してコミュニケーションコストという堤防を少し下げてあげるだけで、そうした人々のエネルギーが地域に流入しやすくなっているのを感じます。

小林:地域にそういった良い変化が起きているのはかなり嬉しいことですね!

DAOがもたらす「越境する繋がり」と行政連携のリアル

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

小林: プロジェクトに関わった自治体や地域住民の方からは、どのような反響がありましたか?

畠中氏: 私たちが支援する地域には、余市町や白浜町のように地域資源に恵まれた場所もあれば、人口数千人規模で、連携できる事業者も極めて少ない場所もあります。そうした地域では特に、私たちが町の中だけでなく、その周辺地域で頑張っている方々をマッチングさせることで、「広域連携」を生み出すように意識しています。

そうすることで、「この地域を応援し続けたい」と思われ続けることがすごく大事だと考えています。そうしないと、私たちが送り出した協力隊員が地域での繋がりに困ったときに、マッチングできる存在になり得ません。

小林: 地域をまたいだマッチングをされているのですね。

畠中氏: はい。実際、当初は地域での繋がりに悩んでいた移住者がいたのですが、車で1時間ほどの隣の隣町で頑張っている方とマッチングしたところ、「近くに相談できる人がいるだけで心強い。最近、精神的に安定しています」という声をいただきました。

行政職員の方は、どうしてもご自身の自治体のこと、広くても県内のことしか見ていない傾向があります。例えば鳥取市の隣は岡山県に接しているのに、岡山のことはあまり詳しくない。住民からすれば隣の岡山の方が近い場合もあるわけです。 そうした行政の“垣根”を、私たちのような民間事業者が越境して繋いでいくことが重要な役割だと考えています。

小林: 地域おこし協力隊DAOのビジネスモデルについてお伺いします。どのように収益を上げているのでしょうか。

畠中氏: 地域おこし協力隊の制度には、移住者の募集や活動を支援するための費用として、国が定めた目安があります。私たちはその目安に基づいて見積もりを作成し、支援させていただいているという形ですね。

小林:プロジェクト自体は、1回の契約で3年間ほどでしょうか。

畠中氏: いくつかパターンがあります。一番の理想は、コミュニティが盛り上がって自走し、その人がいなくても存続する形です。ただ、そこまで行くには10年くらいかかるかもしれません。

なので、3年周期で2代目のコミュニティマネージャーに引き継いでいく形も考えています。もちろん、やってみた結果、コミュニティがそこまで盛り上がらなければ、無理に継続はしません。

小林: 行政とプロジェクトを進める上で、うまく進めるコツはありますか?

畠中氏: 正直、私たちも知りたいくらいですが(笑)、結局は「情熱を持った担当者に出会うまで、全ての地域と話す」ということしかないと思っています。この制度を使える自治体は全国に1,100ほどありますが、そのうちうまく使えていないのが800ほどなんです。

その800の自治体すべてと話して、やりたいと思ってくれる方と出会うまでやり続ける、それしかありません。導入する自治体側にも熱意がないと、どこかで頓挫してしまいますから。

小林: 逆に、想定通りに進まなかった点はありますか?

畠中氏: 行政の予算が決まるプロセスですね。担当者の方が「やりたい」と思ってくれても、そこから決裁までには下記のステップを踏む必要があります。

  1. 地域おこし協力隊をやりたい課
  2. 財政部門(財政査定)
  3. 町長
  4. 議会

特に②の財政査定は完全にブラックボックスで、担当職員さんにも分からない。役場全体の膨大な業務の中で、私たちの提案はほんの数分で判断されてしまうこともあります。職員さんは面白いと理解してくれても、その一瞬の壁を越えられるかどうかは、本当に分かりません。悲しいことに、そこが駄目だった、というケースがほとんどですね...。

小林: 地域おこし協力隊DAOと相性が良いのは、どのような自治体でしょうか。

畠中氏: 人口が数千人、特に5,000人を切る地域とは、非常に相性が良いと感じています。 そうした地域では、役場の職員さん自身が「地域の知恵やエネルギーを自分たちだけで完結させるのは難しい」という危機感を強く持っています。

そのため、私たちの「コミュニケーションコストを下げて、外から知恵やエネルギーを呼び込む」という提案が響きやすいのです。

人口5万人を超えてくると、街に大学などがあり知恵を内部で調達できるため、どうしても優先順位が下がる傾向にあります。

地方創生におけるNFTとブロックチェーンの可能性

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

小林: 畠中さん個人として、地方創生におけるブロックチェーンやNFTの可能性をどうお考えですか?

畠中氏: 基盤となるのは、あくまでコミュニティです。その上で、トークンは人々の関心(アテンション)を新しい形で、より深めることができると考えています。 もちろん、コミュニティが盛り上がった上で最後に乗ってくる「ケーキの苺」のようなものですが、トークンがあるかないかでは、コミュニティが到達できる熱量の最大値が全く違います。

小林: トークンが新しい動機付けになる、ということでしょうか。

畠中氏: はい。例えば、ふるさと納税の返礼品をNFTにする場合、NFTアートであれば「このNFTを持って、プロジェクトに貢献したい」という気持ちが生まれます。ウイスキーであれば「誰よりも早く引換券として手に入れたい」という欲求に応えることもできる。これらは、NFTが生み出す新しい価値であり、人々の動機付けなんです。

また、「NFTで地域を社会実装するから一緒に頑張りませんか」と呼びかけること自体も、一種のトークンインセンティブになり得ます。それによって新しい移住者が生まれるなど、今までになかった人の流れや気持ちを創出できる可能性があると感じています。

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

畠中氏:もう一つは、NFTによる「権利の流動性」の向上です。 例えば、「地域のためのいろんな引換券」や、極端な例ですが「お米を10年間もらえる権利」などをNFT化して、インフレヘッジとして売買できるようにするといった話も考えられます。コミュニケーションコストを下げると同時に、地域の様々な権利の流動性を上げていくというのは、Web3ならではのアプローチだと思っています。

小林: 必ずしも最初からトークンありきではなく、白浜町の事例のように、まずはコミュニケーションから始めることもあるのですね。

畠中氏: おっしゃる通りです。最終的には移住者であるマネージャーの方の気持ちが一番大事です。彼らが「このコミュニティが盛り上がってきたから、トークンを設計してみたい」と言い出せば、私たちは全力でサポートします。 また、余市町のhiroさんのように、先に色々な実装をされた方の知見を、他の地域の協力隊員に共有するなど、私たちが送り出した隊員同士の繋がりも支援していきたいと考えています。

この地域おこし協力隊の分野で、私たちのようにスタートアップがゴリゴリにやっているところは他にありません。現在16〜17の地域と契約していますが、たった2年でこのシェアを築けたのは大きいと感じています。そして今後は、30、40、50と仲間が増えれば、大きな相互協力のネットワークを作り出せると思っています。

日本でNFT事業を推進する上での2つの大きな課題

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小林: 日本でNFT関連事業に取り組む上で、課題や障壁に感じることはありますか?

畠中氏: 大きく二つあります。 一つは制度面で、NFT自体の法整備は相当良くなってきたと思いますが、イーサリアムやビットコインのような暗号資産が関わってくると、ハードルがドカンと上がります。

現状は「中間的な規制」がなく、1円でもユーザーから暗号資産を預かれば、暗号資産交換業のライセンスを取ってください、となってしまっています。これでは、地域の有志の方々がもっと自由なトークンの設計をすることが難しいんですよね。

小林: ここまでは許可制じゃなくても扱っていいよ、といったものがあれば良いということですね。

畠中氏: はい。例えば、元々JPYCの岡部さんがやられていた前払式支払手段の仕組みは、発行額1,000万円までは誰でも発行でき、発行額に応じて預ける供託金の額が変わるなど、金額によって規制レベルが分かれています。 暗号資産の規制も、慌てて作ったために一律的になっていますが、このような既存の法体系に準じれば、もっと柔軟な形に改善できる余地があるはずです。

小林: もう一つの課題は何でしょうか。

畠中氏: こちらの方が圧倒的に重たい課題なのですが、トークンエコノミーやNFTの利活用を企画できる事業者さんが少ないことですね。 NFTが「無形の権利を整理するのに向いている」ということは、みんな分かっているんです。でも、それをどういった無形の権利と組み合わせれば面白いエンタメが作れるのか、という成功事例が少ないんですよね。

企画に向き合って、マーケティングやコピーライティングまで整理してやり切るのはすごく大変ですが、誰かがそこを切り拓いていかないと、マーケット全体が縮小してしまうという危機感があります。

小林: みんなで好事例を作っていく必要がある、と。

畠中氏: まさにそうです。NOT A HOTELさんやピクトレさんのような実体経済と結びつく事例も出てきましたが、まだまだ足りません。私たちも含め、この業界で生き残っている事業者みんなで成功事例を作っていかないと、業界自体が消し飛んでしまう可能性だってあります。 4年前に私がJPYCさんのお手伝いを始めた頃から社内会議で言っていたようなことが、今ようやく少しずつ実現してきています。それくらい時間はかかりますが、もっとやらないとしぼんでしまう。業界全体で盛り上げていくことが本当に大事だと思っています。

今後のビジョンとVCからの評価

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

小林: あるやうむの今後のビジョンについて教えてください。

畠中氏: まずは、地域おこし協力隊DAOを導入する自治体を30に増やすことが目標です。また、ウイスキーの引換券をふるさと返礼品NFTとして提供する企画も、今年は5つ、来年は10と増やしていきたいです。

これらの事業を成功させ、外部資金がなくても会社が存続できる状態を確立することが、当面の目標です。 スタートアップとして投資家からお金をいただいている以上、公益性を損なわない範囲で、できる限り角度のある成長を目指していきます。

小林:すごく応援しています!資金調達について、VC(ベンチャーキャピタル)さんからはどのような点を評価されているとお考えですか?

畠中氏: NFTとふるさと納税という、マーケットとして大きい領域で事業をしている点を評価いただいたと思っています。また、自治体領域は、普通のスタートアップが参入するには勉強が必要な特殊なセクターです。私たちがその領域で事業をしている部分を、地方銀行のお金を運用されている方々にも評価いただいています。

札幌での起業と経営者の素顔

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

小林: 札幌で起業されて、気づきや発見はありましたか?

畠中氏: 東京の方が人・モノ・金が充実しているのは間違いありません。ただ、札幌で起業して良かったのは、「ものすごく応援していただけること」です。

当時、札幌で投資を受けているスタートアップは40社ほどしかありませんでした(今は150社ほどに増えましたが)。東京が1万社あることを考えると、圧倒的に少ないですよね。

北海道の優秀な学生も多くは道外に就職してしまう状況で、みんな悔しい思いをしています。その中で、地域に根付いて産業を起こそうとしている私を、多くの方が応援してくださっていると感じます。

小林: 畠中さんのオフの過ごし方も気になります。

畠中氏: クライアントである役所の方は土日祝がお休みなので、普通のスタートアップの代表よりは休みやすいかもしれません。 ここ1年くらい、メンズの地下アイドルにハマっています(笑)。ライブ映像を見たり、実際にライブに行ったり。かっこいいな、すごいな、と思いながら応援しています。

小林: 趣味からビジネスのヒントを得ることも?

畠中氏:いえ、これは本当にガチのプライベートです(笑)。彼らの主な収入源であるチェキも体験します。1枚1500円くらいですが、ガチの人は1回のライブでチェキを100枚、つまり15万円くらい使う人もいるんですよ。

私はそこまでではないですが。 彼らの評価経済や熱狂が生まれる空間は、見ていて非常に面白いなと感じます。良い意味で仕事と切り離された、純粋な趣味ですね。

最後に

【後編】あるやうむの畠中氏が語る!地方創生DAOのリアルな課題と未来への展望

小林: 最後に、これからWeb3で新規事業を考えている経営者の方へ、アドバイスがあればお願いします。

畠中氏: NFTは一発逆転のツールではなく、既存のビジネスをさらに良くしていく側面が強いのかなと思っています。SNSに近いですね!なので、元となるビジネスモデルや、扱っている商材そのものがどれだけ良いものかが大事だと思います。 もし私がゼロからやるなら、NFTで流動性を上げることで価値が高まるものは何か、という視点で探します。

例えばアイドルのように、需要と供給が釣り合っていないものは相性が良い。でも実際には、トップアイドルとの連携は相手にとってのメリットが少なく、実現が難しい。そうした垣根を、私たちの「地域」のように、NFTをやった方が良いのにやれていない領域で、スイッチングコストを下げながら越えていくことが重要だと考えています。

小林: 最後に、この記事を見ている方へメッセージをお願いします。

畠中氏: 移住してNFTやDAOを仕事にしてみたいと考えている方に、地域おこし協力隊DAOという仕組みは、この業界で最も門戸が開かれた存在だと思いますので、ぜひご応募いただけたらと思います。

そして、自治体の職員さんへ。人口が少ない、あるいは地域の力だけで課題を解決するのが難しいと感じていらっしゃるなら、私たちのソリューションが貢献できることは大いにあるはずです。ぜひお気軽にご相談ください。

小林: 本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!

畠中氏: ありがとうございました。

関連リンクはこちら

・株式会社あるやうむ 公式HP:https://alyawmu.com/
・株式会社あるやうむ  公式X :https://x.com/alyawmu
・畠中氏        公式X :https://x.com/2929ojisan
・地域おこし協力隊DAO概要/申し込み :https://jpyc.co.jp/contact