PayPay
(画像=slyellow/Shutterstock.com)

2019年10月からの消費税増税とともに注目を集めたのがキャッシュレス決済の推進だ。キャッシュレスで決済をすると「2%もしくは5%が還元される」という国をあげた事業もスタートしたことから多くの事業者がキャッシュレスの普及に向けてしのぎを削っている。その中でも特に目立つのは、QRコードPayPayを運営するPayPay株式会社の躍進だろう。

しかしPayPay株式会社の2019年3月期における売上収益は約5億9,500万円に過ぎず一方で約367億円の赤字を出すなど赤字を拡大させながらも業務拡大を進めている。そこで今回はPayPay株式会社が「なぜ赤字でも事業拡大するのか」「勝算はあるのか」について解説していく。

目次

  1. PayPay株式会社の売上収益は約5億9,500万円、赤字額はなんと約367億円
  2. そもそもPayPay株式会社とはどんな会社なのか
  3. 赤字でも積極的に投資を続ける理由とは?
    1. 1.全世界的にキャッシュレスがトレンドになっている
    2. 2.親会社の強い意向
    3. 3.決済ビジネス特有のビジネスモデル
    4. 4.勝者が総どりをする世界
  4. PayPay株式会社の今後の戦略は?勝算はある?
  5. PayPay株式会社の2020年の戦略に注目したい

PayPay株式会社の売上収益は約5億9,500万円、赤字額はなんと約367億円

キャッシュレス決済といえば何を思いつくだろうか。一昔前であればSuicaやクレジットカードを思い浮かべる人が多かったかもしれない。しかし近年はQRコード決済のPayPayやLINE Pay、楽天ペイなどを思い浮かべる人が多いだろう。マクロミルが2019年に行った「47都道府県キャッシュレス決済普及率ランキング2020」によるとキャッシュレス利用率のトップはクレジットカードで84.8%と圧倒的だった。

次いで2位にはQRコード決済のPayPayが37.2%で追随している。加盟店数は200万ヵ所(2020年3月時点)、登録者数は2,500万人(2020年2月19日)を突破。月間の決済回数も1億回を超えるなどキャッシュレス決済の主流になりつつある。しかしPayPay株式会社の財務面はどのようになっているのだろうか。

2019年3月期の有価証券報告書によると売上収益が約5億9,500万円に対し販管費は約372億円となっており最終利益は約367億円の赤字となっている。普通の会社であれば倒産してもおかしくない決算内容だ。しかしPayPayは2020年に入っても順調に会員数を伸ばしている。

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そもそもPayPay株式会社とはどんな会社なのか

PayPay株式会社はなぜここまで赤字を出しながらも成長を続けているのだろうか。それを理解するためにはそもそもPayPay株式会社がどういった会社なのかについて知る必要がある。PayPay株式会社に出資をしているのは「ソフトバンクグループ」「ソフトバンク」「ヤフー」の3社だ(2019年5月時点)。それぞれの出資割合は以下の通りである。

  • ソフトバンクグループ:50%
  • ソフトバンク:25%
  • ヤフー:25%

実質ソフトバンクグループの決済サービスをPayPayが担っているといえるだろう。しかもこのPayPayは、もともと日本ではじまったサービスではない。PayPayに技術提供をしているのがインドのキャッシュレス決済大手、Paytm(ペイティーエム)という会社だ。Paytmはインドで3億人以上のユーザーを獲得しておりさらに800万以上の店舗に決済サービスを提供しているインド隋一のキャッシュレスサービス事業者だ。(2018年時点)

そのPaytmに2017年ソフトバンクグループはビジョンファンドを通じて出資を行っている。やはりソフトバンクグループがグループを通じて推進している会社といっても過言ではない。

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赤字でも積極的に投資を続ける理由とは?

なぜQRコード決済サービスのPayPayが赤字でもPayPay株式会社は積極的に拡大を続けるのだろうか。ここでは4つの理由をあげてみよう。

  • 全世界的にキャッシュレスがトレンドになっている
  • 親会社の強い意向
  • 決済ビジネス特有のビジネスモデル
  • 勝者が総どりをする世界

1.全世界的にキャッシュレスがトレンドになっている

キャッシュレスは今後も世界的にトレンドになっていく可能性が高いことが理由の一つだ。そのためキャッシュレスが浸透していない日本には大きなチャンスがあるといえるだろう。2018年10月に経済産業省が公表した「キャッシュレス社会への取組み」によると2015年時点の世界各国におけるキャッシュレス利用比率のトップは韓国で89.1%と群を抜いている。

次いで中国が60%、カナダ55.4%、イギリス54.9%、アメリカ45%などその他の国でも40~60%程度のキャッシュレス比率と高い割合でキャッシュレス化が進んでいる傾向だ。一方日本のキャッシュレス決済比率は18.4%と世界各国に比べて大きく出遅れている。日本は偽札などの問題も少なく現金を保管するコストが小さい一方で高齢化が進んでおりキャッシュレスに心理的不安を感じる人も少なくない。

しかし世界のトレンドから見ると日本でも今後キャッシュレス比率自体は高まってくることが予想される。そのため日本でキャッシュレス事業を行うことは、非常に事業としてポテンシャルが高いといえるだろう。

2.親会社の強い意向

PayPayの拡大には、PayPay株式会社のみならず親会社であるソフトバンクグループの意向が強く働いていることが予想される。

  • ソフトバンクグループの経営理念:「情報革命で人々を幸せに」
  • ソフトバンクグループのビジョン:「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」

経営理念やビジョンを見るとソフトバンクグループはテクノロジーを使ってあらゆる産業に新しい風を吹き込もうとしているのが分かる。その中の決済部門を担うのが日本ではPayPay株式会社になるのだ。決済については、これまで銀行など金融機関が大きな力を持っていた。しかしブロックチェーンなどが発達してきた時代において決済は銀行だけのものではなくなっている。

より安全で低コストで決済ができるようになりつつあるのだ。また決済は、経済における血液のようなもののため、経済活動を行ううえで必須である。実際、LINE Payや楽天Payなど他のテクノロジー会社も「血液」の部分を担うためにサービスを提供しているのだ。

3.決済ビジネス特有のビジネスモデル

決済ビジネスのビジネスモデルの特殊性も赤字が大きくなる要因の一つだ。通常ビジネスを始める場合、コストを「初期投資」「ランニングコスト」の2つに分けて考える。初期投資とは「顧客獲得のための投資」「サービスを提供するために必要な投資」などを指す。例えば製造業などの場合、工場を新しく作ったり製造機械を導入したりしたときのコストは、減価償却といって数年~十数年かけて徐々にコストに計上をしていく。

例えば100億円投資したとしても償却期間が20年であれば1年あたりの費用は約5億円になるのだ。つまりキャッシュアウトに比べて赤字は少なくなる計算になる。一方、こういったキャッシュレス決済ビジネスは、多くの場合、アプリの開発がメインでその他の初期投資をほとんど必要としない。一方、顧客を獲得するには、多大なコストがかかる。

「100億円還元キャンペーン」などは、そのまま使ったお金が費用として換算されてしまう。同じキャッシュアウトでも利益という観点で見ると大きく異なってくるのだ。どちらがいいかはさておき、こういった事業構造の違いを理解しておくと赤字幅の大きさにも納得できるかもしれない。

4.勝者が総どりをする世界

PayPay株式会社が一番を目指すのは、インターネット産業の構造の問題もある。なぜならインターネット産業は「ウィナー・テイクス・オール」、つまり「勝者がすべての利を得る」という世界だからだ。従来の産業であれば顧客が分散しそれぞれの会社が適切な利益をとることが可能だった。例えば自動車業界では、トヨタユーザーとホンダユーザーがいてそれぞれが適切な利益をとっている。

百貨店などでも同様だろう。しかしインターネット産業の場合は、少し構造が異なるのだ。インターネット産業で収益の柱となるのは「顧客のデータ」である。つまりより多くの顧客を集めることが、そのまま次の収益につながるのだ。実際、インターネット検索でいえば、かつてはヤフーやAOL、グーグルなどさまざまな検索エンジンがしのぎを削っていた。

しかしその結果検索エンジンはGoogle1強となっておりGoogleは大きな収益を上げている。SNSのFacebookやインターネットOSのMicrosoftも同様だろう。このような構造になり得るからこそPayPayは、ユーザー数を獲得しナンバーワン決済プラットフォームになることを目指しているのだ。この考え方については他社も同様である。

2019年には、LINE Payやメルペイなどもキャッシュレス事業拡大のために多額のコストをかけている。PayPay株式会社の経営陣は、多くのコストを払ってでも「まだ拡大を続けるフェーズである」という判断をしているのであろう。

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PayPay株式会社の今後の戦略は?勝算はある?

PayPay株式会社は今後どのような戦略をとっていくのだろうか。PayPayは、2019年3月まで「PayPayモールで100億円相当あげちゃうキャンペーン」を行うなど引き続き積極的に還元施策を行いユーザーの拡大に努めている。一方、メルペイやLINE Payは、使ったマーケティング費用から推測すると大型の還元施策を控え、着実に成長させていく方向に切り替えたようにも見える。

今後PayPayが以下のどちらの道を選択していくかは注目だ。

  • 着実な成長の方向に切り替えていくのか
  • 大型の施策を打つことでユーザー数をさらに伸ばす方向に進むのか

一方、さらに注目されるのがLINE Payとの関係である。もともとPayPayとLINE Payは、キャッシュレス決済の観点では、お互いに競合だった。しかし2019年末、LINEとヤフーが統合することが決まったことで少し様相が変わってくる可能性がある。なぜなら基本的に決済サービスも一つにまとめたほうが「ユーザー」「サービス」「資本」が一本化され、よりプロダクトとしての魅力度は高まるからだ。

しかしLINE Payの背景には、国内最多のユーザーを誇るSNSの「LINE」があり、どちらを残すとしても非常に難しい判断になるだろう。もしかすると「統合しない」という戦略もあるかもしれない。いずれにせよ統合には時間がかかる可能性が高い。今後両社がどういった判断をするか、そちらも大きな注目のポイントとなるだろう。

両社の動向によっては国内のキャッシュレス決済の業界地図が大きく塗り替わるかもしれない。

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PayPay株式会社の2020年の戦略に注目したい

PayPay株式会社は、ソフトバンクグループの後押しもあり2019年3月期に約367億円という大きな赤字を流しながらもユーザーの拡大を推進している。2020年2月時点で登録ユーザー数は2,500万人を突破しキャッシュレス決済の最前線をまい進中だ。特に初期投資を必要としないサービスにおいては、参入障壁も低いため、「いかに顧客の獲得についてスピード感を持って行うことができるか」が成功のポイントになる。

そういった意味でPayPay株式会社の投資は正しかったといえるのかもしれない。もし自分が新しいビジネスを起こす際、特に初期投資が少なく参入しやすいビジネスを始める場合には、規模感はともかくPayPay株式会社の戦略は参考になるのではないだろうか。今後、LINE Payとの関係も含めてPayPay株式会社の戦略には、注目したいところだ。

文・THE OWNER編集部