M&A
(画像=Atstock Productions/Shutterstock.com)

今は、個人向けM&Aの支援サービスがあるなど、個人でもM&Aを行える時代だ。しかし、個人向けM&Aにはリスクもあるため、優良案件を探す上でも十分吟味することが望ましい。この記事では、個人向けM&Aの案件を探す方法や事業を見極めるポイントについて解説する。

目次

  1. 個人向けM&Aによって100万円で会社は買えるか?
  2. 個人向けM&AやスモールM&Aが増えている背景
  3. 個人向けM&A案件を探す方法
    1. M&A仲介会社に依頼する
    2. M&A仲介サイトを利用する
    3. 自分で経営者を探す
    4. 後継者人材バンクに登録する
  4. 個人向けM&Aで優良案件を見極めるポイント
    1. 経営者の人間性は信頼できるか
    2. 事業の将来性はあるか
    3. 法務・税務リスクはないか
  5. マッチング後のM&Aの流れを簡単に解説

個人向けM&Aによって100万円で会社は買えるか?

個人でM&Aを行うことで、100万円で会社は買えるのか。答えはイエスだ。中小企業の後継者不足が深刻な日本では、破格の値段で買収できる会社も存在する。

しかし、M&Aマッチングサイトなどに掲載されている案件はピンキリであり、赤字の会社なら安く買収できるかもしれないが、黒字化して経営を維持するにはスキルや相応の努力が必要になる。

また、M&Aにはリスクもある。例えばM&Aで事業を承継した後に会社が訴訟を起こされれば、現オーナーとして自ら対処しなければならない。個人でM&Aを行った後に後悔することがないように、事前にM&A案件を見極めることが大切だ。

個人向けM&Aに関しては、さまざまな意見がある。「個人は会社を買ってオーナー社長になるべき」という意見もあれば、「個人が会社を買っても成功しない」という意見もあり、どちらも正解だろう。大切なのは、自分なりの企業買収における見極めポイントを持って、粘り強く優良案件を探すことだ。

個人向けM&AやスモールM&Aが増えている背景

M&A案件を探すなら、中小企業を取り巻く状況について知っておく必要がある。まず、個人向けM&AやスモールM&Aが増えている背景について解説する。

帝国データバンクの「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」によると、日本全国の後継者不在率は65.2%だ。6割を超える企業が、後継者不足にあえいでいる。たとえ事業が黒字であっても、後継者が見つからなければ事業を畳まざるをえない。

続いて、中小企業庁の「中小企業白書(2018年)」から、近年の中小企業のM&A動向を確認しよう。中小企業のM&A仲介を手掛ける大手3社の契約成立数をみると、2012年の157件に対し、2017年は526件に増加している。たったの5年で、約3.3倍もM&Aを選択する中小企業が増えているのだ。

理由としては、事業承継の世襲制の価値観が弱まったこと、後継者不足の解決策としてM&Aが広く認知され始めたことなどが考えられる。

一方、買収側の目的はどこにあるのか。終身雇用が保証され難くなった今、サラリーマンであることのメリットが薄れつつある。

2019年は老後資金2,000万円問題が話題となった。実際、厚生労働省の「就労条件総合調査(2018)」によると、大学卒・大学院卒の1人あたり平均退職金は、1997年の2,871万円から1,788万円にまで減少している。その差はなんと約1,083万円だ。

こういった社会的背景を踏まえ、サラリーマンとして勤め続けるより、自分で会社を買収して事業を営もうと考える人や、定年退職後に個人M&Aを行ってオーナーとしてお金を稼ごうと考える人が増えることは不思議ではない。

個人向けM&Aは、人生100年時代を生き抜くための方法として注目を集めているといえるだろう。

個人向けM&A案件を探す方法

個人向けM&Aが増えつつある社会背景については理解いただけたであろうか。ここからは、個人向けM&A案件を探すための具体的な方法を解説していく。

M&A仲介会社に依頼する

まず、M&A仲介会社に依頼するという方法がある。M&A仲介会社に事業買収の相談をすると、相談者の希望に沿った案件を提案してくれる。

M&A仲介会社はM&Aのプロだ。経営者との相性などもチェックし、最もスムーズにM&Aが進むと予想される会社を紹介し、成約まできめ細かくサポートしてくれる。インターネットなどを利用して自ら買収先企業を探す場合と比較して、有料案件を探しやすいことが、M&A仲介会社を利用するメリットだ。

また、税務・法務リスクについても対応してくれるため、買収する側としても安心感が大きい。

個人向けM&AやスモールM&Aに特化したM&A仲介会社も増えており、「スモールM&A.com」や「M&Aの窓口」などといった民間サービスがあるが、M&A仲介会社に依頼すると会社の買収価格に応じた手数料が発生する。会社の評価額が高いほど仲介手数料も高くなるため、手数料だけで数百万円かかることもある。

この先数十年の企業経営における安心を買うと考えて必要経費と割り切ることも大事だが、手数料については覚悟した上で、事前に確認する必要があるだろう。

M&A会社は真剣に候補先の会社を探してくれるからこそ、企業買収を考えている個人側も、M&Aの目的を明確にして相談を行わなければならない。少なくとも、「なぜM&Aを考えているのか」「どのぐらいの予算を想定しているのか」「興味のある業種・業態」といったことは明らかにしておきたい。

M&A仲介サイトを利用する

情報収集もかねて、M&A仲介サイトに登録するのも一つだ。ここでは、参考として2つの仲介サイトを紹介する。

TRANBI(トランビ)

累計マッチング数2.3万件超え、ユーザー数5万名超え(2020年3月時点)の規模を持つM&A仲介サイトだ。会員登録をすれば、WEBサイト上で案件を検索してマッチングできる。常時国内外の1,000件以上の案件が登録されており、さまざまな地域・業種からニーズにマッチした案件を探せる。

手数料も成約時の成約価額の3%のみで、個人向けM&AやスモールM&Aに適した価格設定といえるだろう。必要に応じて公認会計士や弁護士などの専門家を紹介してくれるプランもある。

BIZIGN(ビザイン)

スモールM&AをサポートするM&A仲介サイト。数多くの譲渡希望案件が掲載されているため、M&Aを希望する事業の実態を掴むにはもってこいだ。ただし、創業の地が福岡ということもあり、現在は福岡の案件が多い。福岡以外の地域の事業買収案件のサポートについては要相談だろう。

自分で経営者を探す

知り合いのツテを頼ってみるなど、思い切って自分で経営者を探すのも一つの選択肢だ。経営者の知り合いがいれば、後継者を探している別の経営者を紹介してくれるかもしれない。

ただし、M&Aはデリケートな問題でもあるので、知り合いとの関係性がこじれてしまう危険性がある。後継者を探す経営者の紹介を受けた場合でも、相手方は気に入ってくれたものの、こちらからは断りたいといったことも起こり得るので、伝え方には十分配慮する必要があるだろう。

実際にM&Aを進めるにあたっては、税務リスクや法務リスクなどの経営に関わる問題点をクリアにする必要があるため、結局専門家の手を借りなければならないことも多い。

後継者人材バンクに登録する

中小企業庁は、2011年より事業引継ぎ支援センターを設置し、中小企業のM&A支援に乗り出した。その中のサービスの一つに、後継者人材バンクがある。後継者人材バンクには、起業を目指している個人も、事業承継の候補者として登録している。

条件が合えば、後継者を探している経営者との引き合わせがあり、両者が合意すればM&Aが成立する。事業引継ぎ支援センターのサポートも受けられる。ただし、公的な支援とはいえ、必要に応じて専門家を手配する際には、費用がかかることには注意したい。

とはいえ、民間のM&A仲介会社に頼むよりコストを下げられることが多いのはメリットだ。一方で、事業引継ぎ支援センターの支援実績は、民間のM&A仲介会社と比較すると、決して多いとはいえない。ノウハウの蓄積も、地域によりけりだ。

十分なサポートが受けられるかどうかは、自分で確かめながら動く必要がある。

個人向けM&Aで優良案件を見極めるポイント

続いて、個人が優良なM&A案件を見極めるためのポイントを3つ紹介する。

経営者の人間性は信頼できるか

個人向けM&Aにおいて、経営者の人間性が信頼できるかどうかは、他のどの項目より優先すべき重要なポイントだ。事業内容が魅力的とか、利益が出ているからといった理由を優先し、経営者との相性をおろそかにしてしまうと、M&Aに後悔してしまう可能性もある。

M&Aが終わった後に不正が発覚するといったリスクもあり得るので、経営者の人柄はもちろん、自分に不利なことも誠実に開示してくれるかなどを見極めるようにしたい。

事業の将来性はあるか

事業を見極める上で、利益ばかりを追いかけるのは危険だ。決算書は過去の努力の結果であり、同じ利益が未来永劫続くとは限らない。世の中の変化を敏感にとらえ、今後もニーズのある事業であるかはもちろん、時代に合った変革をしていけるかも見極める視点が大切だ。

M&A候補に当たる事業の、業界動向や競合についても調査しておく必要がある。業界が成長産業であれば、その分新規参入も増える傾向がある。

熾烈な競争を勝ち抜くのは、想像以上に困難も多いので、事前準備が必要だ。M&A前に行うべき市場調査や競合調査の結果は、買収後の会社経営にも活かせるだろう。

法務・税務リスクはないか

個人向けM&Aを行う際に絶対に注意すべきなのが、法務・税務リスクだ。買収した以上は、前経営者の時代に起因する問題が起きた場合、会社の現オーナーが対処しなくてはならない。

従業員への未払い残業代がないか、契約書に問題は見当たらないか、税金の未納はないかなど、公認会計士や弁護士などの専門家の力を借りてチェックすることが大切だ。

個人でリスクを探そうとしても限界がある。多少費用がかかっても、初期投資と割り切ってしっかりリスクを抽出しておきたい。

マッチング後のM&Aの流れを簡単に解説

最後に、マッチング後のM&Aの流れを簡単に解説する。

売却側・買収側ともに合意が成立したら、まずはトップ会談を行う。トップ会談はいわば顔合わせの場であり、売却・買収を考えた経緯や詳しい事業内容、どのような想いで事業を立ち上げたかといったことを話す。

トップ会談の後には具体的な交渉が始まり、同意があれば意向表明書の提出や基本合意書の締結を行う。これ以降は、お互いに別の売却候補先・買収候補先は探さずに、譲渡価格など細かなすり合わせをする。

M&Aの最終契約前には、デューデリジェンス(買収監査)によって企業価値の最終確認を行う。デューデリジェンスでは、弁護士や税理士などの専門家に立ち会ってもらい、経営に関わる資料等をチェックする。デューデリジェンスは、買収後の法務リスク・税務リスクを取り除くための重要なステップだ。

デューデリジェンスを経て問題がなければ、最終譲渡契約を締結してM&Aの手続きは完了となる。その後は、従業員への説明や取引先への報告をしなければならない。

M&Aが終了した後も、一定期間は、前経営者に役員としての勤務を依頼したり、定期的にアドバイスをもらうことも可能だ。M&A後も順調に承継した事業を成長発展させるためには、M&Aの交渉段階から前経営者と良好な関係を築くことも重要だ。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)