木崎涼
木崎 涼(きざき・りょう)
FP・簿記・M&Aシニアエキスパート。大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。多数の資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

今は、個人向けM&Aの支援サービスがあるなど、個人でもM&Aを行える時代だ。しかし、個人向けM&Aにはリスクもあるため、優良案件を探す上でも十分吟味することが望ましい。この記事では、個人向けM&Aの案件を探す方法や事業を見極めるポイントについて解説する。

目次

  1. 個人が「M&Aで会社を買う」とは?
  2. 本当に個人がM&Aで会社を買えるのか?
  3. 個人向けM&AやスモールM&Aが増えている背景
  4. 個人向けM&A案件を探す方法
    1. M&A仲介会社に依頼する
    2. M&A仲介サイトを利用する
    3. 自分で経営者を探す
    4. 後継者人材バンクに登録する
  5. 個人向けM&Aで優良案件を見極める3つのポイント
    1. 1.経営者の人間性は信頼できるか
    2. 2.事業の将来性はあるか
    3. 3.法務・税務リスクはないか
  6. 個人でM&Aをする注意点3つ
    1. 1.顧客離れ・従業員離れが起こるリスク
    2. 2.税金の知識不足からトラブルに発展するリスク
    3. 3.簿外債務を引き継ぐリスク
  7. 個人がM&Aを成功に導く5つのコツ
    1. 1.夢物語ではなく「事業計画」を立てる
    2. 2.事業内容や法律・税金に関する知識を身につける
    3. 3.専門家の力を借りる
    4. 4.経営者としての「修業期間」を持つ
    5. 5.顧客だけでなく取引先や従業員に気を配る
  8. 売り手・買い手から見たM&Aのメリット
    1. 売り手のM&Aのメリット
    2. 買い手のM&Aのメリット
  9. 売り手・買い手から見たM&Aのデメリット
    1. 売り手のM&Aのデメリット
    2. 買い手のM&Aのデメリット
  10. マッチング後のM&Aの流れを簡単に解説
    1. 1.トップ面談
    2. 2.基本合意書の締結
    3. 3.デューデリジェンス(買収監査)
    4. 4.最終譲渡契約の締結
  11. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
M&A
(画像=Atstock Productions/Shutterstock.com)

個人が「M&Aで会社を買う」とは?

老後の収入を安定させるため、個人がM&Aで会社を買い、オーナー経営者になる。サラリーマンがM&Aで会社を買い、副業として事業をする。このように、個人がM&Aで会社を買うケースが話題になっている。

M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語に訳すと「合併と買収」だ。たとえば、2つの会社が合併して1つになったり、ある会社がほかの会社を買収して経営権を取得したりすることを指す。

個人が会社を買うことも、M&Aのひとつといえる。

本当に個人がM&Aで会社を買えるのか?

「個人がM&Aで会社を買う」というと、信ぴょう性のない怪しい話だと感じてしまう方も多いかもしれない。しかし、実際に個人がM&Aで会社を買うことは可能だ。

現在、日本の中小企業の後継者不足は深刻だ。親族内に後継者が見つからず、第三者に会社を売却したいと考えるオーナー経営者は多い。インターネットを検索すれば、売却を希望する会社の情報がたくさんヒットする。

中には破格の値段で買収できる会社も存在し、100万円、300万円、500万円など、サラリーマンでも十分に手が届く範ちゅうといえるだろう。このように売りに出された会社を購入すれば、個人もオーナー経営者になれる。

しかし、M&Aマッチングサイトなどに掲載されている案件はピンからキリまで多種多様である。赤字の会社なら安く買収できるかもしれないが、黒字化して経営を維持するにはスキルや相応の努力が必要だ。

また、M&Aにはリスクもある。例えばM&Aで事業を承継した後に会社が訴訟を起こされれば、現オーナーとして自ら対処しなければならない。個人でM&Aを行った後に後悔することがないように、事前にM&A案件を見極めることが大切だ。

個人向けM&Aに関しては、さまざまな意見がある。「個人は会社を買ってオーナー社長になるべき」という意見もあれば、「個人が会社を買っても成功しない」という意見もあり、どちらも正解だろう。大切なのは、自分なりの企業買収における見極めポイントを持って、粘り強く優良案件を探すことだ。

個人向けM&AやスモールM&Aが増えている背景

M&A案件を探すなら、中小企業を取り巻く状況について知っておく必要がある。まず、個人向けM&AやスモールM&Aが増えている背景について解説する。

帝国データバンクの「全国・後継者不在企業動向調査(2021年)」によると、日本全国の後継者不在率は61.5%だ。6割を超える企業が、後継者不足にあえいでいる。たとえ事業が黒字であっても、後継者が見つからなければ事業を畳まざるをえない。

続いて、中小企業庁の「中小企業白書(2018年)」から、近年の中小企業のM&A動向を確認しよう。中小企業のM&A仲介を手掛ける大手3社の契約成立数をみると、2012年の157件に対し、2017年は526件に増加している。たったの5年で、約3.3倍もM&Aを選択する中小企業が増えているのだ。

理由としては、事業承継の世襲制の価値観が弱まったこと、後継者不足の解決策としてM&Aが広く認知され始めたことなどが考えられる。

一方、買収側の目的はどこにあるのか。終身雇用が保証され難くなった今、サラリーマンであることのメリットが薄れつつある。

2019年は、老後資金2,000万円問題が話題となった。実際、厚生労働省の「就労条件総合調査(2018)」によると、大学卒・大学院卒の1人あたり平均退職金は、1997年の2,871万円から1,788万円にまで減少している。その差はなんと約1,083万円だ。

このような社会的背景を踏まえ、サラリーマンとして勤め続けるより、自分で会社を買収して事業を営もうと考える人や、定年退職後に個人M&Aを行ってオーナーとしてお金を稼ごうと考える人が増えることは不思議ではない。

個人向けM&Aは、人生100年時代を生き抜くための方法として注目を集めているといえるだろう。

個人向けM&A案件を探す方法

個人向けM&Aが増えつつある社会背景については理解いただけたであろうか。ここからは、個人向けM&A案件を探すための具体的な方法を解説していく。

M&A仲介会社に依頼する

まず、M&A仲介会社に依頼するという方法がある。M&A仲介会社に事業買収の相談をすると、相談者の希望に沿った案件を提案してくれる。

M&A仲介会社はM&Aのプロだ。経営者との相性なども考慮しながら、最もスムーズにM&Aが進むと予想される会社を紹介し、成約まできめ細かくサポートしてくれる。インターネットなどを利用して自ら買収先企業を探す場合と比較して、優良案件を探しやすいことが、M&A仲介会社を利用するメリットだ。

また、税務・法務リスクについても対応してくれるため、買収する側としても安心感が大きい。
個人向けM&AやスモールM&Aに特化したM&A仲介会社も増えており、「スモールM&A.com」や「M&Aの窓口」などといった民間サービスがあるが、M&A仲介会社に依頼すると会社の買収価格に応じた手数料が発生する。

会社の評価額が高いほど仲介手数料も高くなるため、手数料だけで数百万円かかることもある。この先、数十年の企業経営における安心を買うと考えて必要経費と割り切ることも大事だが、手数料については覚悟した上で、事前に確認する必要があるだろう。

M&A会社は真剣に候補先の会社を探してくれるからこそ、企業買収を考えている個人側も、M&Aの目的を明確にして相談を行わなければならない。少なくとも、「なぜM&Aを考えているのか」「どのぐらいの予算を想定しているのか」「興味のある業種・業態」といったことは明らかにしておきたい。

M&A仲介サイトを利用する

情報収集もかねて、M&A仲介サイトに登録するのも一つだ。ここでは、参考として3つの仲介サイトを紹介する。

・Batonz(バトンズ)

充実した専門家によるサポート、業界最安値、圧倒的なスピード感を重視し、4万件以上の累計マッチング数を誇る国内最大級のM&A仲介サイトだ。従来M&Aの平均11ヵ月に対して、バトンズは平均5ヵ月での成約を実現しており、3ヵ月以内で成約する案件も多数ある。

バトンズへの手数料は、売り手は無料、買い手は成約時に2%(最低報酬なし)となっており、業界最安でのM&Aを実現している。従来のM&Aの1/10水準の手数料で、安心・安全1,600社超の支援専門家のサポートも提供しているため、コストとスピードを重視する方は相談してみてもいいのではないだろうか。

・TRANBI(トランビ)

累計マッチング数2万3,000件超え、ユーザー数5万名超え(2020年3月時点)の規模を持つM&A仲介サイトだ。会員登録をすれば、WEBサイト上で案件を検索してマッチングできる。常時国内外の1,000件以上の案件が登録されており、さまざまな地域・業種からニーズにマッチした案件を探せる。

手数料も成約時の成約価額の3%のみで、個人向けM&AやスモールM&Aに適した価格設定といえるだろう。必要に応じて公認会計士や弁護士などの専門家を紹介してくれるプランもある。

・BIZIGN(ビザイン)

スモールM&AをサポートするM&A仲介サイト。数多くの譲渡希望案件が掲載されているため、M&Aを希望する事業の実態を掴むには最適だ。ただし、創業の地が福岡ということもあり、現在は福岡の案件が多い。福岡以外の地域の事業買収案件のサポートについては要相談だろう。

自分で経営者を探す

知り合いのツテを頼ってみるなど、思い切って自分で経営者を探すのも一つの選択肢だ。経営者の知り合いがいれば、後継者を探している別の経営者を紹介してくれるかもしれない。

ただし、M&Aはデリケートな問題でもあるので、知り合いとの関係性がこじれてしまうリスクがある。後継者を探す経営者の紹介を受けた場合でも、相手方は気に入ってくれたものの、こちらからは断りたいといったことも起こり得るので、伝え方には十分配慮する必要があるだろう。

実際にM&Aを進めるにあたっては、税務リスクや法務リスクなどの経営に関わる問題点をクリアにする必要があるため、結局専門家の手を借りなければならないことも多い。

後継者人材バンクに登録する

中小企業庁は、2011年より事業引継ぎ支援センターを設置し、中小企業のM&A支援に乗り出した。その中のサービスの一つに、後継者人材バンクがある。後継者人材バンクには、起業を目指している個人も、事業承継の候補者として登録している。

条件が合えば、後継者を探している経営者との引き合わせがあり、両者が合意すればM&Aが成立する。事業引継ぎ支援センターのサポートも受けられる。ただし、公的な支援とはいえ、必要に応じて専門家を手配する際には、費用がかかることには注意したい。

とはいえ、民間のM&A仲介会社に頼むよりコストを下げられることが多いのはメリットだ。一方で、事業引継ぎ支援センターの支援実績は、民間のM&A仲介会社と比較すると、決して多いとはいえない。ノウハウの蓄積も、地域によって異なる。

十分なサポートが受けられるかどうかは、自分で確かめながら動いた方がいいだろう。

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個人向けM&Aで優良案件を見極める3つのポイント

続いて、個人が優良なM&A案件を見極めるためのポイントを3つ紹介する。

1.経営者の人間性は信頼できるか

個人向けM&Aにおいて、経営者の人間性が信頼できるかどうかは、他のどの項目より優先すべき重要なポイントだ。事業内容が魅力的とか、利益が出ているからといった理由を優先し、経営者との相性をおろそかにしてしまうと、M&Aに後悔してしまう可能性もある。

M&Aが終わった後に不正が発覚するといったリスクもあり得るので、経営者の人柄はもちろん、自分に不利なことも誠実に開示してくれるかなどを見極めるようにしたい。

2.事業の将来性はあるか

事業を見極める上で、利益ばかりを追いかけるのは危険だ。決算書は過去の努力の結果であり、同じ利益が未来永劫続くとは限らない。世の中の変化を敏感にとらえ、今後もニーズのある事業であるかはもちろん、時代に合った変革をしていけるかも見極める視点が大切だ。

M&A候補に当たる事業の、業界動向や競合についても調査しておく必要がある。業界が成長産業であれば、その分新規参入も増える傾向がある。

熾烈な競争を勝ち抜くのは、想像以上に困難も多いので、事前準備が必要だ。M&A前に行うべき市場調査や競合調査の結果は、買収後の会社経営にも活かせるだろう。

3.法務・税務リスクはないか

個人向けM&Aを行う際に絶対に注意すべきなのが、法務・税務リスクだ。買収した以上は、前経営者の時代に起因する問題が起きた場合、会社の現オーナーが対処しなくてはならない。

従業員への未払い残業代がないか、契約書に問題は見当たらないか、税金の未納はないかなど、公認会計士や弁護士などの専門家の力を借りてチェックすることが大切だ。個人でリスクを探そうとしても限界がある。多少費用がかかっても、初期投資と割り切ってしっかりリスクを抽出しておきたい。

個人でM&Aをする注意点3つ

続いて、個人でM&Aをする時に考えておくべき注意点を3つ解説する。

1.顧客離れ・従業員離れが起こるリスク

M&Aで会社を買ったものの、顧客が商品やサービスを購入しなくなってしまったり、従業員が転職して人手が足りなくなってしまったりするリスクがある。このようなリスクは、M&Aのリスクというより、経営のリスクといえるだろう。

M&Aで会社を買えば、個人でもすぐにオーナー経営者になれる。しかし、それはあくまで立場上の話だ。経営者として事業を成長させるには、経営手腕が必要である。顧客を大切にし、従業員を率いる「覚悟」を持たなければ、経営は成功しない。

顧客や従業員のことを考え、M&Aを成功させることが大切だ。

2.税金の知識不足からトラブルに発展するリスク

経営者には、事業計画や税金など「数字」の知識が必要とされる。「面倒だ」「会社を買ってから勉強しよう」と知識の習得を後回しにしていると、思わぬところで経営につまずいてしまう恐れがある。

お金のトラブルは想像以上に深刻だ。税金でも借入でも、納付期限や返済期限があり、少しの遅れが信頼を失墜させることになりかねない。税理士や経理部門など、お金を扱う専門家がいたとしても、任せっきりでうまくいくほど経営は甘くない。細かいことは専門家に任せつつ、勘所は経営者自身が押さえておくことが重要だ。

3.簿外債務を引き継ぐリスク

簿外債務とは、帳簿には計上されていないが、会社が支払わなければならないお金のことだ。

たとえば、残業代をきちんと計算しておらず、未払い残業代が残っているケースなどがある。法令を遵守する企業が増えてきている一方で、いまだにサービス残業が当たり前に行われている中小企業も存在する。従業員に未払い残業代を請求されたら、過去にさかのぼって支払わなければならない。

また、M&A後に従業員に支払う賞与や退職金が、簿外債務として重くのしかかってくることもある。たとえば、M&A後に長年勤めたベテラン従業員が4名、退職を申し出てきたとしよう。就業規則に従って計算すると、退職金の総額が1,000万円を超えることもある。

個人が会社を買う時は、このような簿外債務の存在に気を配っておく必要がある。

個人がM&Aを成功に導く5つのコツ

個人がM&Aで会社を買って成功するために、具体的にどうすればいいのだろうか?続いては、M&Aを成功させるためのポイントを5つ解説していく。

1.夢物語ではなく「事業計画」を立てる

会社を買い、オーナー経営者になる。新しい挑戦に胸が躍り、つい「会社を買ったら毎月○円収入が入る。売上が上がれば、5年後に○円の資産を築ける」など、夢を描いてしまいがちだ。しかし、経営を担う立場になる以上、夢物語ではなく事業計画を立てる必要がある。

現状の売上・経費・利益を把握し、売上が上がった場合だけでなく、売上が下がった場合にも目を向け、問題なく支払いや返済を継続できるか確認しておこう。売上を上げたいと考えているなら、販売数を増やすのか、単価を上げるのか、人員や設備を拡充するのか、具体的な計画にまで落とし込むことが大切だ。

また、機械設備の故障や従業員の退職、顧客からのクレームなど、予期せぬ事態が発生することもあり得る。そのような経営リスクも想定し、さまざまな観点から事業計画をブラッシュアップし、万全の備えをして経営に取り組むようにしたい。

2.事業内容や法律・税金に関する知識を身につける

経営の舵取りをするなら、勉強が欠かせない。まずは会社の事業内容を深く理解し、業界のトレンドや消費者ニーズを把握した上で、ビジネスチャンスやリスクを整理しておこう。

また、法律や税金に関する基本的な知識を身につけることも重要だ。日々の経理処理や決算、トラブル発生時の対応などは専門家に依頼するとしても、最低限の知識がないと、経営判断ができない場面はたくさんある。

知識を吸収することで視野が広がれば、事業の先を見通すことができ、自分自身の成長にもつながるだろう。

3.専門家の力を借りる

M&Aでも、その後の経営でも、必要に応じてブレーンとなる専門家の力を借りることが大切だ。すべて自分でやろうとすると、必ずどこかでひずみが生じてしまう。経営者の仕事は、質の良い仕事をする専門家を見極め、専門家の力を経営に活かすことだ。

「餅は餅屋」ということわざの通り、専門家の知恵を上手に活用することが、M&Aや経営を成功させるポイントだ。

4.経営者としての「修業期間」を持つ

サラリーマンと経営者では、立場も必要とされる能力も、まったく異なるといっても過言ではない。可能なら、経営者としての「修業期間」を持つといいだろう。

M&Aの実行まで時間的なゆとりがあるなら、数ヵ月でも半年でも、オーナー経営者と行動をともにする時間を作り、教えを乞うようにしたい。経営者として必要な知識だけでなく、心構えや従業員との接し方など、多くの学びがあるだろう。

5.顧客だけでなく取引先や従業員に気を配る

商品やサービスを購入してくれる顧客は会社に直接的な利益をもたらす存在だが、取引先や従業員なくして、商品やサービスを提供することはできない。経営者になるなら、取引先や従業員にも気を配り、意欲的に仕事に取り組んでもらえるよう働きかける必要がある。

M&Aにあたり、取引先や従業員にしっかり挨拶するとともに、その後も関係性構築に努めるようにしたい。

売り手・買い手から見たM&Aのメリット

続いて、売り手・買い手から見たM&Aのメリットを整理しておく。売り手のメリットを把握すれば、交渉を有利に進めやすくなるだろう。また、自分自身がM&Aで得られるメリットを知り、明確な目的を持って会社を買うことが大切だ。

個人でM&Aできる? 優良案件の探し方と見極めポイントを解説

売り手のM&Aのメリット

後継者不足で悩む売り手にとって、M&Aは有力な出口戦略といえる。M&Aで会社が存続することになれば、商品やサービスが世に残るだけでなく、従業員の雇用を守ることができる。また、売却益を得ることで、勇退後の生活にゆとりが生まれるのもメリットだ。

買い手のM&Aのメリット

ゼロから会社を立ち上げるとなると、市場調査を行い、商品やサービスを開発した上で、少しずつ認知度向上に努めていく必要がある。事業が軌道に乗るまでは赤字続きというケースも多く、精神的なプレッシャーも大きい。

一方、既存の会社を引き継ぐM&Aなら、ある程度見通しを持って事業に取り組むことができ、事業計画も立てやすい。事業拡大に成功すれば、大きな利益を得られる可能性もある。

売り手・買い手から見たM&Aのデメリット

続いては、売り手・買い手から見たM&Aのデメリットを紹介する。デメリットもしっかり把握した上で、会社を買うかどうかを慎重に決め、優良案件を見極めるようにしたい。

個人でM&Aできる? 優良案件の探し方と見極めポイントを解説

売り手のM&Aのデメリット

親族内に後継者がいない経営者にとって、M&Aは効果的な出口戦略だが、すぐに希望に見合う買い手が見つかるとは限らない。買い手が見つかったとしても、トラブルからM&Aに失敗し、結局は廃業にいたるケースもある。また、情報漏洩によって信頼を失ってしまう恐れがあるため、くれぐれも情報の取り扱いには注意したい。

買い手のM&Aのデメリット

ゼロから会社を立ち上げる場合と比べれば、先の見通しが立ちやすいのは事実だが、必ずしも事業計画通りに進むとは限らない。新型コロナウイルスの感染拡大など、自分ではどうにもできない環境変化に見舞われることもある。経営リスクを理解した上で、自分自身の経営者としての適性も考慮して、経営の舵取りをする必要がある。

マッチング後のM&Aの流れを簡単に解説

最後に、マッチング後のM&Aの流れを簡単に解説する。

1.トップ面談

売却側・買収側ともに合意が成立したら、まずはトップ会談を行う。トップ会談はいわば顔合わせの場であり、売却・買収を考えた経緯や詳しい事業内容、どのような想いで事業を立ち上げたかといったことを話す。

2.基本合意書の締結

トップ会談の後には具体的な交渉が始まり、同意があれば意向表明書の提出や基本合意書の締結を行う。これ以降は、お互いに別の売却候補先・買収候補先は探さずに、譲渡価格など細かなすり合わせをする。

3.デューデリジェンス(買収監査)

M&Aの最終契約前には、デューデリジェンス(買収監査)によって企業価値の最終確認を行う。デューデリジェンスでは、弁護士や税理士などの専門家に立ち会ってもらい、経営に関わる資料等をチェックする。デューデリジェンスは、買収後の法務リスク・税務リスクを取り除くための重要なステップだ。

4.最終譲渡契約の締結

デューデリジェンスを経て問題がなければ、最終譲渡契約を締結してM&Aの手続きは完了となる。その後は、従業員への説明や取引先への報告をしなければならない。

M&Aが終了した後も一定期間は、前経営者に役員としての勤務を依頼したり、定期的にアドバイスをもらったりすることも可能だ。M&A後も順調に承継した事業を成長発展させるためには、M&Aの交渉段階から前経営者と良好な関係を築くことも重要である。

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