ディズニー
(画像=chrisdorney/Shutterstock.com)

新型コロナウィルスの感染拡大を機に、日本でも「フードバンク」が注目されている。米ウォルトディズニー社が未利用食品を寄付したことが報じられ、「食料品が余った時の緊急対策」と受けとめている人もいるようだ。実際は日本でも数年前から、食品ロス削減と貧困対策として、フードバンクの活動が活発化している。

日本でもフードバンクが100団体を突破

新型コロナウィルスの影響で休校やイベントの中止が相次ぎ、食品メーカーや卸会社で食品が余る事態が発生している。農林水産省は3月、こうした未利用の食品をフードバンクに寄付するという対策を発表した。

コロナ発生でフードバンクの存在が広く知られることとなったが、活動を推進する取り組みはそれ以前から始まっていた。2015年、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に食品ロスの削除が設定されたのを機に、日本では2019年に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が遂行された。さらに、関東農政局はフードバンクの活動を促進するための、「情報共有プラットフォーム」を立ち上げた。

また、2002年にはわずか2団体だったフードバンクが、2015年には55団体、2019年には100団体を超えたことが、全国フードバンク推進協議会の調査から明らかになっている。これらのフードバンクは、主に企業や農家といった寄付者から、過剰在庫や包装の破損などで販売できなくなったが、品質には問題のない食品・食材を回収し、福祉施設など受贈者に寄付する。

また、セカンドハーベスト・ジャパンは、一般消費者が食品・食材を学校や職場に持ち寄り、まとめて寄付できる、「フードドライブ」と呼ばれる回収システムも提供している。

ディズニー社やジェフ・ベゾス氏も支援

すでにフードバンクの概念が広く浸透している海外では、大手企業や富裕層によるフードバンク支援活動が盛んだ。

一例を挙げると、3月に世界中のテーマパークの臨時休園を決定した米ウォルトディズニー社は、フロリダ州の「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」とカリフォルニア州の「ディズニーランド・リゾート」の未利用食品を、セントラルフロリダのセカンドハーベストフードバンクに寄付すると発表した。両リゾートは継続的な食料寄付プログラムの一環として、毎年、同フードバンクに120万食以上の未利用食品を寄付している。つまり今回の寄付は、コロナによる追加的な支援活動ということだ。

また、AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏は、国内で200以上のフードバンクを運営する非営利団体Feeding Americaに、1億ドルを寄付した。

「包括的な支援」を促す欧米の例

世界初のフードバンクは、1967年に米アリゾナ州で設立されたMary’s Food Bankだ。創設者であるジョン・ファン・ヘンゲル氏が、商店などから食料品を集め、貧しい人々に配給したことがきっかけとなった。

ヘンゲル氏の例が示すように、フードバンクの本来の目的は、経済的に食料や日用品などを購入する余裕のない人々に、生きていく上で必要な物質を配給することだ。つまり、企業や農家から余った食料品を回収するだけではなく、個人にも支援金や食料品の寄付、ボランティア活動への参加を募ることで、より包括的に生活困窮世帯を支援している。

個人の積極的な参加を促す効果的な一例を挙げると、英国の大手スーパーは店内にフードバンク用のボックスを設置し、買い物客が買い物のついでに「ツナ缶1個」「パスタ一袋」など、気軽に食品を寄付できる環境を提供している。

日本でも6人に1人以上が貧困層

「フードバンクのような支援活動は、貧しい国でしか必要ない」と思い込むのは、大きな誤解である。日本でフードバンクが急増したことが示すように、経済大国においてもフードバンクの需要は年々拡大している。

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、米国は加盟35カ国中で最も貧困率が高く、2017年の時点でほぼ6人に1人以上(17.8%)が貧困に苦しんでいる。同開発機構の2015年のデータでは、日本の貧困率は10番目で、7人に1人以上(15.7%)という結果が報告されている。未成年者(0~17歳)の貧困率は1.39%、高齢者(66歳以上)は19.6%と非常に高い。

日本総研の副主任研究員星貴子氏は2017年の調査報告書の中で、生活困窮高齢者世帯が、2020年には350万世帯、2035年には394万世帯と全高齢者世帯の19.5%を占めるようになると予想している。日本の貧困は、「絶対的貧困(生命に関わるほど貧しい生活)より相対的貧困(水準を下回る生活)の方が多い」と言われている。

厚生省による2015年の国民生活基礎調査の結果を見ると、非正規雇用として働かざるを得ない母子・父子家庭の相対的貧困率は、両親がそろっている家庭よりほぼ5倍高い。国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した調査では、全体の13.6%が「過去1年間に食料の困窮経験がある」と回答している。母子・父子家庭では、35.9%だった。

親の経済的負担が、未来を担う子どものウェルネス(心と体の健康)や学力に、ネガティブな影響をあたえる可能性については、様々な調査で指摘されている。

だれもが日常的に参加できる環境作りが重要?

年齢や家庭環境に関わらず、人々が貧困から抜けだすための支援を行うことは、世界が直面している課題である。「食料を寄付するだけでは、根本的な問題の解決につながらない」という意見もあるが、十分な食事をとることは生きていく上で欠かせない基本的な営みだ。フードバンクは、生活困窮世帯が必要とする支援を提供する上で、重要な役割を果たしている。

日本においても、企業や政府による支援だけではなく、国民が慈善活動の一つとして日常的に参加できる環境作りを促進することで、持続可能な思いやり社会が築けるのではないだろうか。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)