
目次
- 1880年、全国で11番目の商工会議所として設立 企業の成長と高松の未来に貢献することをパーパスに掲げる
- 現場に足を運んで会員企業の課題解決に全力を尽くす
- 地元の瀬戸内国際芸術祭、大阪・関西万博に合わせて会員企業の商品販売支援を計画
- デジタル産業の振興に力を入れる行政の動きと連動して会員企業のDX支援に取り組む
- 職員の若返りが進み、20代と30代が4割を占める
- クラウド型の基幹業務システム、生成AIの有料サービスといったデジタル技術の活用を進めて商工会議所の事務局機能を強化
- デジタル技術の活用で新たに生み出した時間は、会員企業への巡回訪問の強化などサービスの充実に振り向ける
- 会員向けの広報誌とホームページでデジタル技術活用の先進事例を情報発信 取り組みやすい事例を紹介している
- 経営者層を対象にDX経営戦略の策定を実践する全10回の連続講座を開催
- 会員企業の海外販路の開拓を支援するために越境ECモールを運営する企業と提携
- 香川経済同友会と共催で四国新幹線の機運を高めるためのシンポジウムを企画するなど地域経済の活性化に取り組む
香川県の県庁所在地、高松市を管轄エリアにする高松商工会議所が、会員企業のDX支援と地域全体でDXを促進する機運の醸成に力を入れている。デジタル産業の振興に取り組む香川県、高松市の施策とも積極的に連動。先進事例の情報発信や実践を重視したDX経営塾の開催を通じた会員向けのサービスを充実すると同時に、会員企業のロールモデルになるために組織内でデジタル技術の活用を進めている。(TOP写真:2024年9月から2025年1月にかけて開催したDX経営塾の様子)
1880年、全国で11番目の商工会議所として設立 企業の成長と高松の未来に貢献することをパーパスに掲げる

香川県の県庁所在地、高松市は、国の出先機関や大企業の支店が集積する四国トップクラスの経済拠点だ。JR高松駅と高松港を中心とした再開発地区、サンポート高松では、2025年2月に香川県立アリーナ(あなぶきアリーナ香川)が開業、4月に徳島文理大学高松駅キャンパスが開校するといった新しい動きも生まれている。
同市を管轄エリアとする高松商工会議所は1880年、全国で11番目の商工会議所として設立された。企業の成長と高松の未来に貢献することをパーパスに掲げ、国、香川県、高松市と連携して中小企業、小規模事業者の伴走支援に取り組み、地域経済の振興に大きな役割を果たしている。

その事務所は、高松市街地の中心部に立地する地上6階建ての高松商工会議所会館内の1階にある。1991年に完成した同会館は東側の高層部と西側の低層部で構成され、玄関ホールには四層の吹き抜け空間が広がる。Wi-Fiを完備した大ホールや大小の会議室は、企業の商談や研修、様々な検定試験やイベントの会場として活用されている。
現場に足を運んで会員企業の課題解決に全力を尽くす

高松商工会議所は、2023年度から3ヶ年の中期計画の重点施策として、約4,800の会員企業を対象に、海外市場の開拓、人材育成、DXとGXの推進、観光振興とまちづくりの推進、中心市街地や商店街の活性化といった様々な支援活動を展開している。「会員企業の皆さんに高松商工会議所に入会して良かったと実感していただけるように支援内容を充実させていきたい。現場に足を運んで耳を傾け、課題解決に貢献できるように全力を尽くさなければならないと肝に銘じています」。事業推進部企画推進課の尾崎良太さんは、商工会議所の職員として日々の仕事に取り組む思いを語った。
地元の瀬戸内国際芸術祭、大阪・関西万博に合わせて会員企業の商品販売支援を計画
中期計画の最終年度にあたる2025年度は、瀬戸内海の島々を会場に3年に1回、春、夏、秋の3シーズンに分けて開催される瀬戸内国際芸術祭に加え、四国からアクセスしやすい大阪府内で大阪・関西万博が開催される。二つの大型イベントの集客効果を活用するために、高松商工会議所は、高松市内の栗林公園と高松空港、瀬戸内国際芸術祭の会場になる男木島、女木島などで物販展示ブースを設け、会員企業の商品販売を支援する計画を打ち出している。産業観光を軸に会員企業の認知拡大にも取り組む。「国際規模のイベントは、国内のみならず海外の人にも高松を知ってもらう絶好の機会。高松に素晴らしいものがたくさんあることをPRして旅ナカ、旅アト消費の拡大を図っていきたい」と尾崎さんは意気込みを見せた。
デジタル産業の振興に力を入れる行政の動きと連動して会員企業のDX支援に取り組む
香川県は、サンポート高松にある高松シンボルタワー内で、5G通信環境と共にコワーキングスペースや3Dプリンターを備えたオープンイノベーション拠点、Setouchi-i-Base(セトウチ・アイ・ベース)を開設するなど情報通信産業の育成に取り組んでいる。また、高松市も観光、医療、防災の各分野でDXを推進するスマートシティ構想を推進している。
デジタル関連産業の育成に力を入れる香川県と高松市の動きに呼応して、高松商工会議所も、デジタル技術の導入やDXに関心を持つ会員企業の支援とDXの機運醸成に力を注いでいる。「会員企業の皆さんが、新分野への展開や業態転換などの事業再構築を進めていく上で、デジタル技術の活用は重要な鍵になると考えています」とITコーディネータの資格を持つ総務会員部総務課の岩部和真さんは話した。
職員の若返りが進み、20代と30代が4割を占める
高松商工会議所は、近年、定年退職した職員を補充するために、金融、流通など多様な分野で勤務経験を持つ若い人材の受け入れや新卒の採用を進めてきた。その結果、組織の若返りが進み、20代と30代が4割を占めるようになっている。デジタル分野に関心が強く、中小企業支援に熱い思いを持った若い人材がそろっていることが、デジタル化を重視した施策を立案、推進する上での大きな強みになっている。
クラウド型の基幹業務システム、生成AIの有料サービスといったデジタル技術の活用を進めて商工会議所の事務局機能を強化

商工会議所の事務局機能を強化するためのデジタル技術の活用を進めている。日本商工会議所のアクションプランなどを参考に、ペーパーレス化、基幹業務の効率化、会議の議事録作成の効率化、情報共有にデジタル技術を役立てている。
2023年4月に導入したのが、クラウド型の勤怠管理システムと給与計算システムだ。紙ベースで約40人の職員の勤怠時間を集計して手作業で給与計算システムに転記していた導入前と比べて、担当者の作業時間と確認に要する時間が、3分の1程度になったという。
2024年12月からは、生成AIの有料サービスの活用も始めている。セキュリティ機能や専門用語についての学習機能が無料版よりも優れており、精度を確認しながら商工会議所で開催される委員会や部会などの会議の議事録、定型的な挨拶文、返信メールの文例の作成に使っている。
デジタル技術の活用で新たに生み出した時間は、会員企業への巡回訪問の強化などサービスの充実に振り向ける

議事録の作成が必要な会議は年間約30件にのぼる。導入している生成AIは、会議に出席した出席者の発言内容を個別に認識し、要約して文章化する機能を備えている。議事録の作成に要していた時間は、会議の終了後に録音を聞きながら手作業で行っていた導入前と比べて6分の1程度になり、年間150時間程度の業務時間の削減が見込めるという。新たに生まれた時間は会員企業への巡回訪問の強化、地域内の企業との接点を増やすことによる新たな会員の勧誘、部会・委員会の活動強化に使っていくという。「商工会議所が、新しい技術を先行活用してノウハウを蓄積し、その成果を会員企業の皆さんに還元していきたい。具体的なアドバイスを通じてDXへの取り組みを後押ししていきたいと考えています」と岩部さんは話した。
会員向けの広報誌とホームページでデジタル技術活用の先進事例を情報発信 取り組みやすい事例を紹介している

地域にDXを浸透させていく取り組みとして注目を集めているのが、デジタル技術活用の先進事例の情報発信だ。月刊の会員向け広報誌で2022年からデジタル技術の導入に取り組む会員企業を記事で紹介し、掲載した記事はホームページでも公開している。2025年5月までに46社の事例を掲載した。
記事ではそれぞれの企業が、デジタル機器やICTツールを導入して経営上の課題をどのように解決したかを詳しくレポート。導入前と導入後の変化を、グラフィックを使ってわかりやすく説明している。予算とスタッフに制限がある小規模な企業でも取り組みやすい事例を紹介するようにしているという。
掲載件数が増えたことで、DXを効果的に推進する上での大事なポイントが浮かび上がる効果も生まれている。「DXを進めている企業は、いずれも経営者がデジタル技術を活用して会社を変えていくという強い姿勢を示しています。これからは、取材した企業の更なるデジタル化の進捗状況をフォローすることも考えています」と尾崎さんは話した。
経営者層を対象にDX経営戦略の策定を実践する全10回の連続講座を開催

高松商工会議所は、地域でDXを浸透させていくために毎年、新しい企画を考えている。2024年9月から2025年1月にかけては、経営者と幹部を対象にDXの理論から実践までを全10回の連続講座で学ぶ「DX経営塾」を開催した。企画推進課が、浜松商工会議所などで開講され、大きな注目を集めた「DX経営塾」を企画した和歌山県のデジタル系コンサルティング企業、モノデジタル株式会社の存在を知り、和田正典代表取締役に開講を依頼したという。和田氏は、大手の事務機器・光学機器メーカー、半導体メーカーなどを経て、2022年7月にモノデジタルを起業。全国中小企業クラウド実践大賞で総理大臣賞を受賞した実績を持っている。
DX経営塾のプログラムは、「経営マインドチェンジ」、「テクニカル」、「組織再構築」の三つの領域、「データドリブン経営」、「DX経営戦略コンテスト準備」、「DX経営戦略発表会」で構成。座学による知識のインプット以上に、実践可能なDX経営戦略の策定というアウトプットを重視しているのが大きな特徴だ。DXに積極的に取り組む企業同士で交流を深め、情報交換を通じて社内DX人材の育成に役立ててもらうことも重視している。
今回(2024年度)のDX経営塾には10社が参加。和田社長の人脈で招請した専門人材による講義などを経て最終的に受講者一人ひとりが、自社のDX戦略を策定し、コンテスト形式でプレゼンテーションを行った。高いポイントを獲得した受講者には高松商工会議所、経営塾を協賛したリコージャパン香川支社、JDX京都府支部、一般社団法人ライトハウスDX支援協会が賞を贈呈した。受講者に好評だったことを受け、今後もDX経営塾は継続していく方針。また、2024年度は経営者層を対象にしたDX経営塾に加え、ITパスポート試験や情報セキュリティマネジメント試験の対策講座も実施した。
今後は、生成AIをはじめ、ICTを活用した次世代移動技術、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、ブロックチェーン技術を基盤にしたNFT(非代替性トークン)、メタバースといった注目を集めている最新テクノロジーについて知見を深め、活用につなげてもらうためのセミナーの開催を検討している。
会員企業の海外販路の開拓を支援するために越境ECモールを運営する企業と提携
2024年8月には、会員企業の海外販路の開拓を支援するために越境ECモール「ZenPlus」を運営する大阪府大阪市のZenGroup株式会社と提携した。「ZenPlus」は登録企業に、手間をかけることなく低コストで商品を海外に販売できるプラットフォームを提供している。高松商工会議所は、ホームページを通じて会員企業の「ZenPlus」への登録をサポートした上で、海外販売実績が伸びるようにきめ細かいフォローを行っている。
香川経済同友会と共催で四国新幹線の機運を高めるためのシンポジウムを企画するなど地域経済の活性化に取り組む

高松商工会議所は、経営相談をはじめとする会員企業の支援に加え、地域経済の活性化につながる様々な活動を行っている。2025年4月には香川経済同友会と共催で四国新幹線の実現に向けて地域の機運を高めるためのシンポジウムを企画した。高松ウォーターフロントエリアの再整備についての提言も引き続き行っていく。県外の大学生らのUJIターン就職を促進する活動、東南アジアの大学と連携した高度外国人材の採用機会を創出する活動にも香川県、高松市とともに引き続き取り組む。
エネルギー価格の高騰などによるコスト高、慢性的な人手不足など中小企業・小規模事業者を取り巻く環境が厳しくなる状況下、会員企業の成長を願ってDXをキーワードに多彩な支援活動に取り組む高松商工会議所。県外から人材を呼び寄せ、元気な地方経済を作る鍵になるデジタル産業を振興する上で、経済活動のキープレイヤーとしての役割はこれからますます大きくなるはずだ。更なる活動の強化に期待がかかる。

企業概要
法人名 | 高松商工会議所 |
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事務所 | 香川県高松市番町2-2-2 |
HP | https://www.takacci.or.jp |
電話 | 087-825-3500 |
設立 | 1880年2月 |
従業員数 | 43人 |
事業内容 | 中小・小規模企業の活力強化、地域の活性化、会員サービスの充実と組織の強化 |