遺言書が見つかると、その内容通りに執行人によって手続きが勧められます。
執行人にはその遺言書の内容が公平か不公平かにかかわらず、執行人としての役目を全うすべく、手続きを進めていきます。
では、その内容に不利があると知った時にはどうすればよいのでしょうか。
その時は、相続人が自ら遺留分を請求しなければいけないことになります。
逆を言えば、遺留分を請求する権利があるということなのです。
遺留分の請求には相続や贈与をした日から1年間という期限が設けられており、この期間を過ぎれば「時効」となって消滅する権利となっています。
権利は本人が意思表示をしなければ活用することができません。
遺言で不利になった時に相続人である自分自身を守ることができる唯一の「遺留分」という権利。
この「遺留分」についてもう少し詳しく見ていきます。
そもそも「遺留分」とは
慰留分という言葉だけを聞いても聞きなれない人が多いのではないでしょうか。
遺留分とは相続人に与えられている最低限の権利といいかえることができ、その表現の方がわかりやすいかも知れません。
つまり、民法で決められている財産分与よりも明らかに不公平な遺産分割が行われた場合、これに対して「最低限これだけはもらうことができますよ」という相続人としての権利を主張することができます。
この時に請求する最低限の遺産を「遺留分」と表現することになります。
例えば、自分の父親が亡くなった時に遺産のすべてが内縁の妻にわたってしまい、子である自分に一円もなかったという場合、このような場合は民法の規定に則ると、著しく不公平であると判断することができます。
そしてこのような事態が発生した場合、子は最低限の遺産をもらう権利、つまり「遺留分」を請求することができるのです。
ここで疑問に感じるのは、遺言書は絶対的に強いといったようなイメージがありますが、この遺留分というものは遺言書があっても請求できるのかどうかという点です。
それについては次で詳しく見ていきます。
遺言書と遺留分、どちらが優先されるのでしょうか
遺留分は、自動的に誰かが判断して「不公平だ」といってもらえるものではなく、本来相続人として貰う権利があるにもかかわらずもらえないといった場合の相続人本人が、家庭裁判所へ申し立てをしなければいけません。
当然そのままにしておけば時効も発生し後から請求ができなくなります。
あくまでも「遺留分を請求する権利」なので自ら主張しなければいけないことになります。
さてここで気になるのが、遺言書がある場合についてです。
よくテレビドラマでは「遺言書があるから大丈夫」という不公平さをあたかも公平にするようなセリフがありますが、これは現実問題としてはなかなか認めがたい内容ということになります。
先にも述べたように、「遺留分」というものが存在し遺言書があってもその内容が不平等であれば、民法に定められている遺産を請求することができます。
つまり、遺言書があってもこの遺留分を請求されれば、本来受け取ることができる遺産ですから認めざるを得ないのです。
ですから「遺言書があれば大丈夫」というわけではないのです。
逆を言えば、遺言書の内容がいかに不平等なものであったとしてもその不利益を被るであろう相続人が遺留分の申し立てをしなければ、遺言書の内容は優先され遺産分割が完了してしまうことになります。
さてここで問題になってくるのが「そもそも遺言書はなくてもいいのではないか」という点です。
遺言書を作成しても遺留分を請求されればそれは正当な主張として認められ、遺産を渡さなければいけないということになります。
それであれば、そもそも遺言書を作成することに意味がないのではないか、ということになってしまいます。
しかし先にも触れたように遺留分はあくまでも権利であり、主張しなければ認められませんからそのケースを考えると、必ずしも遺言書は無駄ではないということになります。
また、例えば遺言書の内容として「AとBには生前、○○を贈与したがCには何も贈与をしなかった。
だからCには○○の遺産を渡す」といった内容の書き方をすることも可能です。
この場合、A、B、Cそれぞれの均衡を図るために、仮にAとBがCの相続する遺産の遺留分を請求したとしても、公平性から認められないことがほとんどのようです。
贈与と相続はワンセットのものとして考えられていますから、全体的に見て判断し結果的に不公平だと判断しない場合や、社会通念上で判断しても公平であると判断するのであれば遺留分を認めることはありません。
実は遺留分がはじめから認められない「相続欠格者」という人が存在する
「誰でも相続人であれば平等に」とはいっても、はじめからその遺留分を請求できない人もいます。
その代表的な人に「相続欠格者」という人が存在します。
ではこの相続欠格者とはどのような人たちなのでしょうか。
相続欠格者とは「相続人」が
①被相続人や同順位以上の人を殺害し有罪となった
②被相続人の殺害を知っても刑事告訴しなかった
③被相続人に無理やり遺言書を書かせた、または訂正させた
④遺言書を隠した、もしくは処分した
これら4つの場合に1つでも当てはまればその人は「相続欠格者」となり遺留分を請求する権利はそもそもないことになります。
①から④までどれも一般常識としてはあり得ない話ではあります。
特に①と②については犯罪が絡んでいますので、欠格者として該当するのは当然と言えます。
となると、意外にありそうなのは③と④のケースということができます。
③の場合であれば、そもそも「遺留分」という存在に気付いており意図的にそれを阻むために事前に根回しをしているような行為になります。
あくまでも遺言書は被相続人の意思に基づき作成されるものでなくてはなりません。
ですから「無理やり書かせる」ことや遺言の内容を知ってから「訂正させる」というのは大問題です。
訂正が必要な場合であれば被相続人が生きている間であれば何度でも自身の意思により書き直すことができます。
④は遺言書の存在を知った相続人が意図的に被相続人の意思を無視して行う行為ということができます。
3-1. 「相続欠格者」と似ているものに「相続人廃除」がある
相続欠格者の定義をみると、概ね「犯罪者」のようないイメージがついています。
むしろ想像もしやすいですし、「相続できなくても当たり前だろう」という感覚的なもので判断も付きます。
しかし欠格者だけが相続できないということではありません。
「相続人廃除」というものも存在します。
相続欠格者の場合はその相続人の子どもが代襲相続をすることが可能であり、あくまでも欠格者本人のみに対して「相続の権利がない」と判断されていることになります。
しかしこの「相続人廃除」は、被相続人に対して虐待行為や重大な侮辱行為などがあった場合に、被相続人により「相続人としての権利」を奪われた相続人のことで、その定義がもしかするとあり得るかもしれない内容になっています。
また相続人廃除は代襲相続ができません。
イメージするなら、侮辱した末裔に財産は渡さないといったところではないでしょうか。
確かに被相続人の立場からすれば、そこまでのことを負わせられていながら、自分の財産を渡す必要性というのはないということができます。
なぜ相続人の権利を守ることが必要なのでしょうか
相続人の権利を守ると聞くと、被相続人である故人の意思よりも財産を受け継ぐ人たちの方が重要視されているようなイメージを持ちやすいですが、実は見方を変える必要があるのです。
個人にとっては「自分の死後、大切な人たちを揉めさせてはいけない」という意味で遺言書の重要性が着目され、不公平なものに対しては遺留分を請求できる、つまり「自分が亡くなったそのあとの生活に最愛の人たちが困るようなことがあるのであれば、その時は遺留分を請求してね」と言い換えることができるのです。
相続人が揉めることを被相続人が望んでいるわけはまずありません。
また自分の財産分割の方法で万が一生活に支障が出るようなことがあってもそれは望んでいることではないはずです。
そのように考えれば、相続人の権利を守ることができる最後の砦ともいうべき権利が「遺留分」ということになるのです。
この権利を主張することで、一般的な生活を守るための方法を確保できることになります。
4-1. 故人の意思表示は「遺言書」、しかし「遺留分」は無視できない
先述したように、故人の遺志を尊重するために残しておくのが「遺言書」です。
必ずしも相続人が平等に納得のいく遺産分割がなされるとは限りません。
悪い言い方をすれば相続人が誰も異論を言わなければ、もしくはこの「遺留分」の存在を知らずその権利を利用することがなければ、不公平な遺産相続でもそのまま完了してしまうことは十分に考えられます。
遺留分の時効は相続が発生した時から1年間です。
この1年間の間に行使しなければこの権利は消滅します。
もちろん初めから平等に遺産を分けるといったことは大切ですが、「知っているか知らないかの差が大きく出る」のが相続人の権利を守る「遺留分」という決まりなのです。
まとめ
被相続人の最終的な意思が尊重されるのが「遺留分」です。
もちろん、遺言書に問題がなければそのまま遺言書通りの遺産相続がなされればよいといえます。
しかし、必ずしも誰もが納得できるものではなく、親族間との争い事が発生しやすいのも相続です。
遺留分は権利であり時効がありますから、将来自分に相続が発生した時のためにこの相続人の権利を守る方法として知っておくことが良いと言えます。
遺産分割協議により「不利」だと感じた時には、まずはこの遺留分というものから算定し、果たして自分が受け取る遺産が適正なものなのかどうかを判断して、もし異論がある場合は家庭裁判所へ減殺請求を申し立てるのが通常の適正な方法です。
(提供:相続サポートセンター)