国税庁公表の統計資料「相続税の申告状況」によると、年間死亡者数130万人に対し相続税申告件数は約8%の10.6万人(1人当たり相続税評価額は1.4億円)です。
一方で最高裁事務総局が公表している司法統計によると、家庭裁判所に持ち込まれる調停申し立て件数は1.2万件に及びます。
申告件数の実に1割以上が、裁判所に持ち込まれているのです。
「自分のところは兄弟同士仲が良いから大丈夫」そう思っていても、お金が絡むと人間は変わるのです。
相続人間で分割協議が整えばそれに越したことはありませんが、こうした現状を踏まえると揉めた時の対策を考えておいた方が良さそうです。
今回の記事では、相続人間で分割協議がまとまらないときの税務申告、争議収集の司法手続きと揉めないための事前対策について紹介します。
遺産が少なくても「争族」は起きる
争族は、なにもお金持ちだけの話ではありません。
司法統計資料によると、調停・認容成立件数のうち実に8割が遺産額5,000万円以下のケースです。
1,000万円以下だけに限っても3割に達します。
1-1. 資産家は争族防止の対策を講じている
多額の遺産を抱える資産家なら、公正証書遺言を残したり、資産を複数に分散して遺産を分けやすくしておくなど、事前対策に余念がないケースも少なくありません。
遺産分割協議も、資産家一族の方が真剣です。
これには、相続税の節税優遇策も影響しています。
たとえば住宅や賃貸用アパートなどは一定の条件のもとに評価減の適用を受けることができますが、申告期限(相続開始から10か月以内)までに分割協議がまとまっていないと認められません(その後協議がまとまれば相続税の還付請求もできますが)。
だからといって、資産家に遺産トラブルが起きないわけではありませんが、争族=お金持ちだけの問題というのは先入観に過ぎないようです。
1-2. 遺産が少ないと「争族」対策が不充分
一方で遺産額が少なく、とくに基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下だと、そもそも申告期限までに何とか分割協議をまとめようとのインセンティブが働きません。
遺産分割協議は、相続人全員の印鑑証明書・戸籍謄本を用意したり、合意内容を協議書にまとめたりと、手間も時間もかかります。
何よりも、着地点を見出すのが思うほど簡単ではありません。
そのために、仕事の忙しさにかまけて誰もまとめ役を買って出ないので、挙句がもめ事につながってしまうようなケースも少なくないようです。
遺言はどうでしょう?例えば公正証書遺言は5万円前後の費用がかかる上に証人も用意して、公証人役場にわざわざ出向かなければなりません。
遺産額が少ないと、手間と時間をかけてまで遺言を残しておこうという気になかなかならないのです。
申告期限までに協議がまとまらない場合
被相続人の死亡後10か月以内に協議がまとまらなくても、税務署は待ってくれません。
相続税の申告書は期日までに提出しなければならず、その時点で未分割の場合は、法定相続分に応じて各相続人が財産を取得したとみなして、相続税額を計算します。
ただし、小規模宅地等の課税価格特例や配偶者の税額軽減などの優遇措置を受けることはできません。
揉め事が収束しなければ最後は司法の場に
協議がまとまらなければ、最後は司法の場で解決するしかありません。
ただしいきなり裁判の場に持ち込むのではなく、「調停前置主義」といって、まずは家裁に調停を申し立てます。
調停が不調な場合に初めて家裁審判が行われます。
調停が受理されると、家裁の調停委員会が開かれ、調停委員のもとでお互いの意見を主張する場が開かれます。
当事者が参加するケースもありますが、調停申し立ての8割で代理人(弁護士)を関与させています。
この場合、当然ですが相応の出費を覚悟しなければなりません。
弁護士への依頼の際は遺産相続に強い弁護士を選ぶには?チェックすべきポイントをご参考にしてください。
まとめ
遺産分割争いがまとまらなければ、最終手段として司法の場で解決することもできます。
ただしお金も時間もかかるし、未分割の状態で申告すれば一部の優遇措置を受けることもできません。
こうした事態を招かないためには、常日頃からコミュニケーションを心がけ、生前のうちに親子兄弟間で相続について話し合っておくことが大切です。
(提供:相続サポートセンター)