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相続手続きにおいて、相続財産を引き継ぐ権利があるのは原則的に法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)です。

そして法定相続人それぞれに民法で定められた法定の相続分というものがあります。

ただ、被相続人(亡くなった人)が遺言書により、これと異なる割合を定めていた場合はどうなるのでしょうか?

相続分を侵害された!遺留分とは?

被相続人は原則として、自分の遺産を遺言書を通じて自分の好きなように分配してよいことになっています。

しかし、被相続人が極端に相続人の権利を無視するような分配方法をしたらそれはそれで問題です。

たとえば、歳を取ってから若い愛人に入れあげてしまい、「愛人にすべての財産を遺贈する」などという遺言をしたら妻や子供の生活が脅かされることもありうるのです。

また、兄弟のうち長男だけを溺愛して「長男にすべての財産を相続させる」などと書いてしまうこともあります。

こういった不公平な事態を避けるために「被相続人との関係に応じて相続人に最低限の相続割合を保障する」というのが「遺留分」という制度です。

遺留分の割合

遺留分の基礎になる相続財産の計算方法は、被相続人が死亡時に持っていた財産に贈与した金額(相続開始時の時価で評価)を加え、負債を差し引きます。

遺留分の対象になる財産は、相続開始前1年間にまで広げて考えることができ、そこまでになされた贈与は無条件で対象財産に取り込まれます。

そして、1年より前の贈与であっても贈与者と受贈者の双方が遺留分を侵害していると承知の上で(悪意で)行ったものは遺留分侵害額請求権の対象となるということです。

また、相続人のうち誰かが被相続人から特別受益(マイホームの頭金や結婚の資金を出してもらうなど、他の相続人にはない特別の出資をしてもらうこと)にあたる贈与を受けていた場合は、贈与の時期や上記の「悪意」とは関係なく、その特別受益の分は遺留分侵害額請求の対象になります。

遺留分の原則的な考え方は「本来の法定相続分(民法で定められた相続の割合)の2分の1」です。

たとえば被相続人に妻と子供2人がいた場合、妻が2分の1、子供がそれぞれ4分の1ずつというのが本来の相続分になりますが、遺留分はその半分ですから、妻は4分の1、子供たちはそれぞれ8分の1の遺留分を持っていることになります。

ただこれには例外があり、「直系尊属(父母や祖父母、曽祖父母)」のみが相続人となっている場合は2分の1ではなく「3分の1」となります。

そして、もし第1順位の相続人である子供と第2順位の相続人である直系尊属がおらず、兄弟姉妹が相続人になるケースであっても、兄弟姉妹には遺留分がありません。

遺留分を請求するための遺留分侵害額請求権

遺留分を請求する権利のことを「遺留分侵害額請求権」と呼びます。

そもそも遺留分というのはその権利を持つ人自身が主張しなければ権利を行使することはできず、侵害されている遺留分が自動的に戻ってくるという性質のものではないということです。

遺留分侵害額請求権を行使する際には次のようなことを主張しなくてはなりません。

まず、自分が遺留分を侵害されていること、遺留分を侵害している贈与の内容、請求者の住所氏名(押印する)、日付、相手方の住所氏名です。

様式が特に決まっているわけではないため、必要事項がしっかり記載されていれば問題ありません。

遺留分侵害額請求は内容証明郵便で!

遺留分を請求しようと思ったら証拠が残らない口頭や電話などよりも、内容証明郵便で確実に遺留分を行使することがおすすめです。

証拠を残しておきたい理由としては、遺留分侵害額請求権には行使の時間的制限があるからです。

「遺留分の侵害(相続の開始および減殺すべき贈与等のあったこと)を知ってから1年、相続開始から10年」というものです。

10年はともかくとして、1年はあっという間に過ぎてしまいますからそれほどゆっくりしてはいられないのです。

話合いができない場合の遺留分侵害額の請求調停

もし上記のような遺留分侵害額請求権を行っても相手方が応じない場合はどうすればよいのでしょうか?
どうしても話し合いが無理だという場合は、家庭裁判所の調停を利用することができます。

遺言書にどのような書かれ方をしているのかによって「遺産分割調停」や「遺留分侵害による物件返還請求調停」など種類は異なりますが、事案により適切な調停の申し立てを行います。

申立人は遺留分権利者などで、申し立て先としては相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。

かかる費用としては、被相続人1人につき、収入印紙1200円プラス各家庭裁判所が定める郵便切手代になります。

もし申し立てを法律家などに依頼する場合はその報酬もかかることになります。

遺留分は自分がそのことを知っていなければ1円ももらえないのです。

自分に本来保障されている遺留分がいくらなのかを正しく計算した上で上記の期間内に請求するためには、最初から法律家に頼んだ方がよい場合もあります。

調停とは、裁判ではありませんが、裁判の前段階として設けられる話し合いの場です。

争うというより、話し合いの場なので、落としどころを見つけようという感じに近い使われ方をします。

相手方が出てこないなど、何回か呼び出しても調停をできない場合は、調停不成立となります。

調停不成立となると、具体的に遺留分が返ってくるわけではないのですが、調停をしようとして不成立に終わってしまったという記録が、その後の裁判で有利に働くことがあります。

そのため、万が一成立しなくても調停を申し立ててみるという手段は有効と言えます。

制度上は、調停をせずにいきなり裁判を申し立てることも可能ではありませんが、こちらとしては歩み寄ろうとしたがダメだったという印象と記録を残すためにも、最初に調停をしてみることをおすすめします。

調停では、遺留分の返還について本当に返す義務があるのか、あるとしたらどのような方法で返還するのか、お金なのか不動産そのものなのかなどを細かく決めていきます。

合意ができれば、調停証書を作成し、相手から遺留分の返還を受けるという流れになります。

不成立であれば、裁判へ進めることができます。

その場合の管轄は、家庭裁判所ではなく地方裁判所になります。

遺留分侵害額請求をするには

まず、相手方の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意した家庭裁判所に必要書類と手数料を用意、郵送もしくは持参します。

必要書類は、ケースによって違いますが、大まかに以下の通りです。

 申立書とその写し
 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍、改正原戸籍)
 相続人全員の戸籍謄本(こちらは現在の戸籍なので、全部事項証明書という名前に変わっている)
 被相続人や代襲相続をしている人の中で死亡した人がいればその人の一生分の戸籍謄本(除籍、改正原戸籍)
 不動産登記事項証明書、遺言書の移し、遺言書の検認調書謄本の写し
 当事者目録(自分もしくは弁護士、司法書士などの代理人が作成)
 土地建物目録(自分もしくは弁護士、司法書士などの代理人が作成)
 費用1,200円の収入印紙
 連絡用の郵便切手代

調停の場合、費用だけであれば裁判に比較してかなりリーズナブルに抑えることが可能です。

家庭裁判所に問い合わせるなどして勉強すれば自分でも対応できるかもしれません。

ただし、わからないことを一から学ぶのは大変な時間がかかりますので、まずは詳しい専門家に相談してみることをおすすめします。

遺留分侵害額請求は誰に相談すれば良いか

遺留分侵害額請求の調停に関しては、司法書士もしくは弁護士の領域です。

争う金額が140万円を超える可能性があるならば、弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士が取り扱える金額に制限はありませんが、司法書士は140万円を超える価格のものについての代書をすることはできません。

司法書士のなかでも、認定司法書士の場合については、請求額が140万円までの民事に関する紛争に限り、弁護士と同様の権限が与えられていますので、依頼する際には注意しましょう。

良心的な司法書士であれば、調査をする中で自分の権限では対応が不可能だとわかれば、委任契約を解除して別の弁護士を紹介してくれるでしょう。

そうなると、委任契約を解除する時点までは司法書士に報酬が発生してしまいます。

依頼者側としてはもったいないことになるので、遺留分侵害額が総額でいくらになりそうなのかというところは把握し、それから弁護士や司法書士に相談すると良いでしょう。

弁護士や司法書士の報酬については、現在では一律の基準はありません。

報酬は事務所ごとに違います。

相談料にしても、初回相談無料の事務所もあれば、最初から相談料がかかる事務所もあります。

事務所のホームページなどをしっかり確認して、どこから費用がかかるのか調べておきましょう。

わかりにくければ、直接電話で確認してください。

調停の場合は、実際にかかる費用としては、裁判よりもリーズナブルですが弁護士や司法書士への報酬についてはそれなりにかかることがあります。

法テラスの民事法律扶助制度を使うと、1つの事案につき3回まで無料相談をすることができます。

ただし、月収や保有資産、勝訴の見込みなどについて一定の要件がありますので、誰でも民事法律扶助制度を使えるというわけではありません。

条件に当てはまるかどうか調べた上で、使えそうであれば民事法律扶助制度の利用を検討するのも良い選択です。

遺留分侵害額請求について

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2018年7月成立・公布の法律により、遺留分侵害額請求という名称が代わりました。

以前は遺留分減殺請求と呼ばれていて、そのままそのように呼んでいる人もいますが、2019年現在では遺留分侵害額請求というように名前を変えています。

名前が変わっただけではなく、どのような点が変わったのか、簡単にご紹介します。

8-1. 遺留分侵害額請求権の「額」という字に注目

これまで、遺留分侵害額請求とは、生前贈与や遺贈の対象となる財産について、遺留分を主張してきた人と、された人の共有になる仕組みでした。

どのようなことかというと、まず本来分割すべき遺産を一人で持っている人がいたとします。

一人で持っていれば、単独所有です。

しかし、遺留分侵害額請求をされたとしましょう。

遺留分侵害額請求をされてしまい、裁判でそれが認められると、目的の財産は共有状態になります。

もともと独占していた人と、遺留分侵害額請求をしたい人とで、共有状態になるのです。

確かに、遺留分は共有状態ではありますが、戻ってきたということになります。

現実には、遺留分侵害額請求をした方もされた方も、お互い仲が悪くいざ財産を処分しようとしても一筋縄では行かなかったり、円満な事業承継ができなくなってしまったりということがあるのではないでしょうか。

実際にそのようなトラブルがあり、今回の改正で遺留分についての請求は金銭債権に統一され、名称も遺留分侵害額請求になりました。

額というのは、金額のことなので、金銭債権として解決しようという方向であることがわかります。

遺留分を侵害された他の相続人が遺留分侵害額請求をしても、共有状態にはなりません。

その財産に相当する金銭を請求することができます。

事業継承の場合、会社の株式相当の金額をすぐに用意するのは難しいですので、裁判所は一定期間その支払いを猶予するという制度ができました。

8-2. 生前贈与があった場合

生前贈与があった場合の遺留分侵害額請求については、相続人以外の第三者に対する生前贈与については相続開始1年前からの生前贈与が対象になります。

これは旧法と同じ扱いです。

一方で、相続人に対する生前贈与については相続開始の10年前からの生前贈与に限定されますので、法的な安定性が増しました。

旧法では期間の限定がなく、過去に行われた生前贈与について全てが遺留分侵害額請求の対象でした。

そのため、事業承継として会社の株式を生前贈与していた場合、その全てについて対象になって試合、事業継承が阻害されたりすることがありました。

新法では、期間を10年と限定したので、10年以内のものについては対象になってしまうものの、それ以上前になると対象から外れますので、事業承継などの相続対策がしやすくなりました。

8-3. 遺留分侵害額請求の消滅時効

遺留分侵害額請求権は、相続の開始か、遺留分侵害額請求をするべき贈与や遺贈を知った時から1年間で消滅してしまいます。

もし、自分も遺留分侵害額請求をした方がいいかもしれないと思ったら、弁護士や司法書士にいち早く相談することをおすすめします。
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