営業利益
(画像=Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com)

企業の業績を知る指標として営業利益がある。赤字の捉え方によっては経営の意思決定を誤る可能性もあるので、経営者は正しく理解すべきである。今回は、営業利益が赤字である意味をはじめ、赤字の解釈やメリット・デメリット、改善方法などを解説していく。

目次

  1. 営業利益の赤字が意味すること
    1. 営業利益とそのほかの利益
    2. 営業利益や経常利益の赤字が示す意味
    3. 営業利益の赤字が倒産に直結するわけではない
    4. 黒字でも倒産するケース
    5. 企業経営にとって本当に危険なのは?
  2. 営業利益の赤字がもたらすメリットとデメリットは?
    1. 営業利益の赤字がもたらすメリット
    2. 営業利益の赤字がもたらすデメリット
  3. 営業利益の赤字対策
    1. 短期的な対策
    2. 長期的な対策
    3. M&Aも視野に入れる
  4. 営業利益の赤字は必ずしも問題ではない

営業利益の赤字が意味すること

営業利益の赤字は何を意味するのだろうか?その答えを知るために、まずは利益の種類からおさらいしていこう。

営業利益とそのほかの利益

利益とは会計上の概念であり、企業の一般的な財務会計では全部で6種類ある。売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益、親会社株主に帰属する当期純利益などだ。株式を上場し、連結決算をしている場合を除いて、下記の利益を理解していればよい。

・売上総利益

売上総利益は、売上高から売上高を得るための売上原価を差し引いた利益をさす。粗利益や荒利益とも呼ばれる。

・営業利益

営業利益は、売上総利益から販売費や一般管理費を除いた利益をさす。本業による利益と考えられている。

・経常利益

経常利益は、営業利益に売上高以外の収益を足し、販売費や一般管理費以外の損失を引いたものをさす。たとえば、受取利息や受取配当金、支払利息、為替の損益、重要性の低い補助金、固定資産を売った損益などを加減する。

・税引前当期純利益

税引前当期純利益は、臨時かつ巨額である事象に関する利益と損失を経常利益に加減したものをさす。

・当期純利益

当期純利益は、税引前当期純利益から法人税や住民税、事業税などを差し引いたものをさす。

営業利益や経常利益の赤字が示す意味

営業利益の赤字は本業で稼ぐ力が弱いことを示し、具体的には下記の状態に陥っている可能性がある。

・売上高が少ない
・売上原価が多い
・販売費や管理費などをかけすぎている

一方、経常利益の赤字は下記の状態を示している。

・支払う利息が多い
・為替が自社を不利にしている

営業利益が順調でも経常利益が赤字であれば、資金調達やリスク管理がうまくいっていないと考えられる。

営業利益の赤字が倒産に直結するわけではない

1.倒産の定義

倒産は法律用語ではなく、手許資金の不足による支払不能状態をさす。大手信用調査企業による定義は下記のとおりだ。

帝国データバンク
→企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態

東京商工リサーチ
→企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態

2.赤字と倒産の関係

営業利益が赤字であり、本業で稼ぐ力が十分でない場合は、倒産のおそれがあるのだろうか。実は、営業利益の赤字は倒産に直結しない。利益と手許資金が異なる点に着目するとそのことがわかる。

たとえば、販売商品の仕入れでは資金が流出するが、売れるまでは売上原価とはならない。在庫として資産になり、利益には何の影響も与えない。売上原価がゼロのまま仕入れの金額が払えず倒産することもある。

逆に、長期間手元にある在庫を現金化するために、仕入れ値よりも安く売るとしよう。このとき、売上高よりも売上原価が高いので、赤字になるが資金は流入する。売るほど赤字になるが、資金の増加によって倒産の可能性が下がる。

設備投資も同様だ。購入時に資金は流出するが、費用は減価償却を通じて長期的に計上されるため、ずれが生じる。減価償却費の負担が重くて赤字になる場合でも、設備投資に関する支払いは済んでいるので、資金は流出しない。

もちろん、本業による赤字が長期間にわたる資金流出や資金調達できない状況などによれば、倒産の可能性は高いといえよう。

参考
法人が破産……どうすればいい?法人の破産手続きとその影響を解説

黒字でも倒産するケース

利益と手許資金が異なることは、黒字でも倒産することも意味する。取引条件の一種である「信用売り」について考えるとそのことがわかる。

信用売りでは、商品やサービスを納入した後、代金を受領する前に売上を計上する。このとき、売上に関する仕入れや経費の支払いが入金より早い場合は、売上高を増やすほど支払いが先行する。

売上高が増えて黒字になっても、事業に必要な運転資金を確保できなければ、支払不能によって倒産してもおかしくない。このように、黒字倒産は利益と資金のタイミングが異なると発生してしまう。

企業経営にとって本当に危険なのは?

営業利益の赤字は、事業に潜む問題を示すことがある。計画的な先行投資など、赤字の理由がわかっている場合は良いが、赤字の対策がない場合は経営にダメージを与え続ける。

また、赤字でも十分な資金があれば倒産しないことから、資金繰りが非常に重要だ。

将来の損益に関する見通しと、それに紐づく入金計画、仕入れ、支払いのタイミング、設備投資などの資金繰りに着目したい。

営業利益の赤字がもたらすメリットとデメリットは?

ここからは営業利益の赤字が企業にもたらすメリットやデメリットについて解説する。

営業利益の赤字がもたらすメリット

結論から言えばメリットはない。営業利益が赤字なら税金を払わないで済むという論調も散見するが、厳密には営業利益が赤字でも税金を払うケースはある。

補助金を受領した場合や含み益のある株式を売却した場合など、営業利益が赤字でも当期純利益は黒字になるケースがあるからだ。

また、会計上は赤字でも、交際費・罰金・税金の一部・見積もりで計上した経費の一部などは税金の計算上経費にならないため、黒字となるケースもある。

節税目的に経費を集めて営業利益を赤字にした場合はどうか。事業の状況や問題を把握しづらくなるほか、従業員の給料を増やせない。そのほか、税務調査時のリスクが高くなり、対外的な信用も生まれない。

いずれにせよ営業利益の赤字については正しい情報にもとづいて良し悪しを判断すべきである。

営業利益の赤字がもたらすデメリット

営業利益が赤字の場合、金融機関からの借入が厳しくなる。金融機関は、資金が余っている者から資金が不足している者に資金を融通する役目を担っている。

企業に有意義なアイデアがあっても、資金がなければ事業は実現しない。そのようなケースに金融機関が資金を提供すれば事業を進められる。結果、経済活動の活発化や社会貢献の実現につながっていく。

金融機関は原則的として返済能力の高い取引先を融資の対象とする。よって、営業利益が赤字の場合は金融機関からの信用が得られず、融資を受けられなかったり、借入金を全額返済させられたりすることもある。

営業利益の赤字対策

営業利益の赤字は早急に対処すべき問題というわけでもない。たとえば、人材採用や広告費などの先行投資などで、営業利益の赤字が一時的に生じるケースがあるからだ。

まずは赤字となった原因を把握し、対処の必要性を判断する。その際、最悪のシナリオを想定しておくことも忘れてはならない。対策が必要な場合は、下記を参考に対策を考えてみてほしい。

短期的な対策

下記の指標にもとづく原因分析を行う。

・売上高
・売上原価
・販売費や管理費

売上高については、客単価と客数に分解して考える。客単価は消費者一人当たりが一度の購入で支払う平均額をさす。

さらに、客単価を商品メニューと単価、数量に、客数を新規顧客とリピート顧客に分けて課題を抽出する方法もある。以上を踏まえた具体的な対策は下記のとおりだ。

・値上げの余地を探る
・販売時にクロスセルを狙う
・新規顧客の獲得に力を入れる
・リピート提案をする

売上原価や費用については、過去の会計データなどを基にコスト削減を試みる。具体的には、不要なものや安価に代替できるもの、価格交渉の余地があるものなどを分析したい。

金額の重要性が高いものについても費用対効果を検証する。効果の薄いものは使用をやめたり、使い方を変えたりすると良い。

長期的な対策

短期的な対策で営業利益の赤字を改善できるケースもあるが、狙っている市場が小さい場合や、正しい方法を実施できる環境が整っていない場合は長期的な対策が必要となる。

新しい商品やサービスを開発して対象市場を広げたり、従業員の採用や教育、評価制度などを整備したりして、営業利益を長期的に黒字化してゆくことが大切だ。

M&Aも視野に入れる

自社で対策してもうまくいかない場合、他社の資源を活用することも選択肢となる。たとえば、他社の事業を企業ごと買収する方法や、他社に事業を譲渡する方法などだ。

買収による相乗効果は下記のとおりだ。

・自社がアプローチできていない市場で売上高を得られる
・管理業務の共通化によるコスト削減や利益率増加

自社の事業を譲渡すれば対価や人材などの経営資源を確保でき、それらを利益率の高い事業に投下することで全社的な営業黒字を目指せる。

営業利益の赤字は必ずしも問題ではない

営業利益の赤字が示す意味や、その対策方法などをご説明した。利益と手許資金が異なる点を踏まえると、営業利益の赤字は必ずしも問題ではない。

ただし、赤字が長期化する場合や本業の稼ぐ力が低い場合は問題となり、対策しなければならない。営業利益の赤字を理解し、自社や他社の分析に役立てたい。

文・新井良平(スタートアップ企業経理・内部監査責任者)

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