ニュースやドラマなどで「X社がつぶれた」「Y社が破産した」と耳にすることがある。これらはどういう状態で、どのような影響や手続きが発生するのだろうか。ここでは主に株式会社を対象に、つぶれる、つまり「倒産」するということと「破産」することの違いや概要をみていく。
なお、「自社はつぶれない」と認識されている方が大半であろうが、自社の取引先がつぶれる可能性はあるだろう。取引先が破産してしまったときの影響もみていく。有事に備えて知識を持っておくことは、「彼を知り己を知れば、百戦殆うからず」である。
目次
法人における破産とは?
破産とは「倒産」時の手続きの一つである。よってまずは、「倒産」とは何かについて知る必要がある。「倒産」はどういう状態か。「倒産」は法律用語ではないとされ、大手信用調査会社による定義は以下である。
【倒産の定義】
「企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」(帝国データバンク)
「企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態」(東京商工リサーチ)
要するに、資金不足により約束通りに費用の支払いや借入返済などができなくなった状態が「倒産」といえよう。
倒産した場合の手続きは5パターン
「倒産」した場合の手続きの選択肢は下記のいずれかとなる。
a. 私的整理
b. 法的整理
1. 破産
2. 特別清算
3. 民事再生
4. 会社更生
「倒産」した場合の、法律に基づく手続きの一つが破産だということがわかる。たとえば、振り出した手形が預金残高不足のため決済できない「不渡り」を半年以内に2回発生させてしまうと、東京手形交換所規則の「取引停止処分」に基づき銀行取引停止となる。
銀行取引停止となった場合、「取引停止処分日から起算して2年間、当座勘定および貸出の取引をすることはできない」ため、当座預金が使えなくなり手形が振り出せなくなる他、信用の低下により掛け仕入れなどの信用取引ができなくなる可能性も高く、即時の現金決済や取引に際して前払いを求められる可能性がある。
金融機関からの融資も受けられないうえ、既に借り入れがある場合は前倒しで返済が求められる場合もあり、資金繰りが相当厳しくなる結果、「倒産」の憂き目にあう可能性が高い。
「倒産」した場合のそれぞれの手続き
上述した通り、「倒産」後にはa.私的整理とb.公的整理(破産、特別清算、民事再生、会社更生)のいずれかの手続きに入る。ここではそれぞれの手続き内容を解説する。
a.私的整理
「倒産」状態に陥った場合に、法に定められた方法によらず、債権者との協議によって解決を探る方法をいう。
もっとも、ある債権者との協議の過程が他の債権者にとって不透明であったり、一部の債権者を優先するなど、債権回収について不公正であったりする可能性が残る。そこで、再建の可能性や債権者に対する経済合理性があることなどの一定の条件をもとに活用できる「私的整理ガイドライン」が策定されており、定められた手続きなどに基づいて円滑な再建を目指すことができる。
その他、金融機関などの金融債権を対象とした「事業再生ADR」という手続きもある。金融機関などのみを対象としているため、通常の商取引に影響がない。債務免除や債務の株式化、つなぎ融資を通じて、円滑な再建を目指すものである。
b.法的整理
次に法的整理の4つの手法をみていく。本記事のテーマである「破産」も法的整理の一つである。
・1. 破産
破産は、破産法に基づく「倒産」処理である。破産した場合、その法人は消滅する。裁判所が選定する破産管財人が、その法人が保有する資産を債権者などに分配したのち、法人を清算することになる。
法人の代表者や取締役個人の自己破産の必要性については、法人の形態により異なる。株式会社や有限会社の場合、出資した範囲のみ責任をとればよい「有限責任」となるため、法人の破産と個人の自己破産は切り分けて考えることになる。手続きは後述する。
・2. 特別清算
特別清算は株式会社のみが利用でき、会社法に基づく「倒産」処理である。特別清算を選んだ場合、法人は消滅する。
清算事務を行う清算人を選定し、選定された清算人は公平かつ誠実に清算事務を行う義務を負う。清算人の選定は、清算予定の企業が依頼でき、比較的スピード感をもって進めることができる。
債権者集会で定めた「協定」に基づいて債務を弁済する協定型と、債権者と個別に内容を決める和解型がある。協定型の場合は、金額ベースで債権総額の3分の2以上の債権者の合意が必要となる。
・3. 民事再生
民事再生は、民事再生法に基づく処理である。債務者である会社を存続させ、会社主導による再建を目的としている。破産や特別清算と異なり、会社は消滅しない。代表者を含む経営者が継続して経営にあたる点も特徴である(後述の会社更生では経営陣は交代する)。
裁判所に対して再生手続開始を申し立てることで、再生手続きが開始する。減額や免除、条件変更などの対象となる債務は、担保の付されていない債務のみである。
再生計画案の策定や財産の評価などを進め、再建計画について債権者の同意と裁判所の認可が得られたら、その計画に沿って再建を進めることになる。
東京地方裁判所における民事再生手続きの標準的スケジュールによれば、再生手続開始の申し立てから再建計画の認可までは5か月となっている(独立行政法人労働政策研究・研修機構『事業再生に関する参考資料』より)。後述する会社更生の半分以下で済むことになる。
・4. 会社更生
会社更生は株式会社のみが利用できる「倒産」処理であり、会社更生法に基づく。民事再生と同じく、会社を存続させて再建する方法であるが、民事再生とは異なり、代表者を含む経営者は退陣し、裁判所が選任する管財人が経営していくことになる。
裁判所に対し、会社更生手続開始を申し立てることで、会社更生手続きが開始する。このとき、減額や免除、条件変更などの対象となる債務は民事再生よりも広く、未納税金や担保付債務も含まれる。
会社更生手続きは民事再生手続きよりも時間を要することになる。理由としては、債務者による会社更生計画の承認や裁判所による会社更生計画の認可の他、裁判所による管財人の選任や、外部の人間による資産負債の評価、担保権者や株主による会社更生計画の承認も必要となるためである。
それゆえ、東京地方裁判所における会社更生手続きの標準的スケジュールは、会社更生手続開始の申し立てから再建計画の認可まで1年となっている(『事業再生に関する参考資料』より)。対象となる債務や利害関係者、手続きが多い分、民事再生より長期間を要することになる。
自社が「倒産」したときの手続き
残念ながら、債務超過のおそれが高い場合や、支払いが困難になった場合で、どうしても「倒産」状態を免れなくなってしまったときの話をしよう。
上記で整理した方法のうち、どの方式を選択するかを考える必要がある。正しく意思決定をするために、弁護士に相談することも多い。
「倒産」状態になったので、「後は野となれ山となれ」というわけにはいかない。今まで事業に協力してくれた債権者や株主、自社の商品やサービスを選択してくれていた顧客、社員や地域社会といった利害関係者への影響を最小限に抑えることが次の仕事だといえる。
どの方式を選択するかはここで一概にルール化できないが、たとえば存続を希望するのであれば、自社が保有する経営資源は何か、今後の事業の見通しはどうかなどといった点から、事業を続けることで利害関係者に報いることができるのかを精査することが、支援者の獲得や債務条件の変更の交渉をする端緒となろう。
債権者の数やリスクの取り方、関係性、「倒産」状態に至った経緯や規模などといった様々な要因によって、「倒産」状態をどのように処理するのかを決定する。
なお、民事再生手続きを進めたものの、支援先が見つからないことや業績見通しが良化しないなどの理由で頓挫し、会社更生手続きや破産へ変更する、といった場合もあるため、「倒産」処理の方式を選択するのは一度とは限らない。
「破産」手続きにおける6つの流れ
さて、これまでは「倒産」時の処理について体系的に見てきたが、以下では一例として株式会社が破産を選択した場合の流れをみていく。
1. 決議と事業の停止
破産手続きを意思決定した場合、すみやかに事業停止日を決めるとともに、取締役会などにおいて破産の決議をとることになる。
事業停止日に事業を止めるとともに、従業員は解雇する必要がある。事業停止や破産手続きの情報は厳重な管理が必要である。どこからか情報が漏れてしまった場合、不当な取り立てなどが発生するなどし、債権者全体の利益を損ねる可能性がある。よって、従業員への通知は直前にすることが望ましいといえる。
2. 財産の保全
破産となる場合、対象となる債権者に対して納得感のある分配をする必要がある。よって、破産手続きの事実を知る取締役などによる特定債権者への支払いや故意の資産流出などは行ってはならない。
仮に、事業停止の前に資産を相場よりも安く売り渡すことや、特定の事業者の債務を先にすべて支払うことなどがあると、債権者全体の利益を失ってしまうことになる。これらの行為が発見された場合、その行為を取り消すことがある。これを「否認」という。情報管理を含めて、財産を適切に保全することが必要である。
3. 債権者への連絡
弁護士に破産処理を依頼した場合は、弁護士から債権者に対して「受任通知」という、破産手続きの代理人に着任したことを知らせる通知が送られる。この時点で、債権者からの取り立てなどの窓口は弁護士になる。
4. 破産の申し立て
裁判所に破産手続開始の申立書を提出する。このとき必要になる資料としては、債権者一覧、登記簿謄本、税務申告書などがある。
裁判所により、その破産を認めるか、棄却するかが検討される。認められた場合、破産手続開始決定が裁判所より出される。この決定によって、会社側は会社財産を処分することができなくなる。
5. 破産管財人の選任と資産の現金化
裁判所は決定と同時に、破産管財人を選任する。法律関係の処理が必要となることから、弁護士が選任されることが多い。破産管財人は、債務者である会社が保有する財産について、順次現金化を進めていく。これをもって、債権者への弁済の財源とする。
6. 債権者への連絡と分配
債権者集会が開かれ、債権者に説明される。残余財産の分配が実施される。
「破産」した場合の代表者や社員などへの影響
会社が破産した場合、代表者や取締役、社員など、会社関係者にも様々な影響が出る。ここでは経営者に対してどのような責任が生じるのか、社員の処遇はどのようになるのかについてみていく。
連帯保証の有無
株式会社の場合、株主は有限責任である。つまり、「倒産」したとしても、自分が出資した持分が返還されない以上の責任を負うことはない。ただし、保証人や連帯保証人になっている場合は別である。
株主である代表者が、金融機関からの借り入れ時に個人の連帯保証をつけることがある。この場合は、株主としては有限責任であるが、個人としては債務を保証すべき立場にあるため、場合によっては自己破産をすることになる。
代表者や取締役の責任
破産という結果を招いてしまった場合、代表者や取締役といった経営者の責任はどうなるのであろうか。
結論からいえば、重大な故意や過失があった場合は、会社や破産管財人から損害賠償請求される可能性はある。一方で、「経営判断の原則」という、意思決定のプロセスが不合理でなければ取締役の責任は認めないという考えが浸透している。経営にはリスクがつきもので、不確実性の中で意思決定をする必要がある。その結果としてうまくいかなかった場合に責任をとらされるとなると、リスクをとらなくなったり、そもそも経営者になる人が減ってしまったりすることが想定できる。
よって、重大な故意や過失を除き、経営者が損害を賠償する可能性は少ないといえる。もちろん、破産したことによる社会的な制裁は受けることになる可能性はある。
社員は原則解雇
事業を停止し、会社が消滅してしまう以上、社員の解雇は避けられない。給与などの労働債権については、一般の債権よりも優先して弁済することが定められているが、会社に財産がどれだけ残っているかにより、全額の支払いがされない可能性がある。
破産したときも税は払う必要がある?
破産をする際も、税務申告は必要となる。主に、国税である法人税と消費税、地方税の申告納税が対象となる。
法人税
法人税については、解散、清算、清算確定の3段階をとることになる。
事業年度開始の日から破産手続開始決定日までを「解散事業年度」、破産手続開始決定日の翌日から事業年度終了の日までを「清算事業年度」、事業年度開始の日から残余財産確定の日までを「清算確定事業年度」といい、それぞれについて法人税の確定申告が必要となる。
「倒産」状態にもかかわらず税金が発生することはありうる。「倒産」と利益は関係がなく、会計と税務の計算も異なるためである。たとえば、利益は出ているが、在庫を抱えていたり、設備投資や仕入代金の前払いが多かったり、売掛金が滞留したりする場合などが考えられる。
消費税
消費税も同様に、通常通り税金の計算が必要である。なお、売上がない場合に仕入や経費にかかる消費税が還付されるようにする方法や、税金を抑えるような方法がいくつかあるが、詳しくは専門家に譲る。気になる方は専門家に相談するか、検索サイトを使って「清算 消費税」などのキーワードで調べてみてほしい。
地方税
地方税は、所得(税金計算上の利益)による税金と、所得にかかわらず発生する税金がある。前者は当然に申告と納付が必要になるが、後者については、自治体によっては免除となることもあるので、所在地の役所に確認したうえで処理を進めることをお勧めする。
取引先が破産してしまったとき、どうすればいい?
自社が商品やサービスを販売し、代金を回収しようと思った矢先に、販売先が「倒産」状態になることがある。この場合の影響をみていく。
債権は貸し倒れる可能性が高い
「倒産」状態とは支払いが困難になった状態であることから、債権全額の回収は困難であると考えざるをえない。
債務者が破産を申し立てた時点で、金融商品に関する会計基準に基づき、売掛金を「破産更生債権等」に振り替えることになる。このとき、債権金額から担保や保証により回収できる見込みの額を差し引いた金額を貸倒引当金として計上する。表示方法は、対象債権全額を破産更生債権等とし、貸倒引当金を債権のマイナスとするか、破産更生債権等を直接減額する。
その後、破産決定などによって回収できない金額が確定した際は、その事実が発生した事業年度において、貸し倒れ処理をすることになる。
税務上の扱い
法人税法施行令96条によれば、債務者が破産の申し立てをした時点で、回収見込みなどを除いた債権額の100分の50を上限として損金(=税金計算上の費用)にすることができる。
その後、回収できない金額が確定した時点で、その事実が明らかになった事業年度において、残額を損金に算入することになる。事実を認識していたにも関わらず損金算入しなかった場合は、その損金は算入できなくなり、税金計算上不利な扱いを受ける可能性があるので注意が必要だ。
実際の回収まで
なんらかの事情で見込み額と実際の回収額に差異があった場合は、その事実が発生した事業年度において差額を会計上および税務上において、収益または費用として処理する。
再発の防止
「倒産」によって債権回収ができないことは、避けるべき事故である。よって、再発防止の策をとる必要がある。取引先にどの程度の金額の信用取引を認めるのか、どのように信用を見極めるのか、入金が遅延した場合の対応はどうするか、という仕組みを洗練させていくことが求められる。
倒産・破産は広範囲に影響がでるので専門家との連携が大切
「倒産」と、その対応における選択肢の一つである破産についての概要をみてきた。概要を理解していれば、適切なタイミングで対応をとったり、弁護士などの専門家に協力を求めたりすることが可能になり、自社にとってベストな方法を探ることができる。「倒産」がもたらす影響の範囲は広いため、専門家などと協議のうえ、慎重に判断されたい。
文・新井良平(スタートアップ企業経理・内部監査責任者)