遺産分割協議書の作成方法を解説!
ある人が亡くなると、その人が持っていたあらゆる財産的価値を持つものは原則として法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)に承継されます。
ただ、相続人が合意すれば民法で決められた基準と異なる分け方をすることもできます。その場合の具体的方法を見てみましょう。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議というのは、法定相続人全員で行う「民法と異なる割合での相続財産の分け方を決める話し合い」のことです。
これは法定相続人全員が漏れなく合意しなくては成立せず、合意の証明として「遺産分割協議書」という書類を作成して各人が実印で押印し、印鑑証明書を添付することになっています。
遺産分割協議書があれば各方面の相続手続をすることができるようになります。
2-1. どんな時に必要?
・不動産等の相続登記、銀行預貯金の払い戻し、名義変更
→法定相続分とは異なる割合で相続する場合、コレがないと手続きができない
・相続税の更生請求
→相続税の還付を受ける際の書類として使用
専門家からのアドバイス
特定の相続人だけが有利となる内容が書かれている遺産分割協議書などには、そう簡単に他の相続人が署名や押印などしないと思われる方は多いと思います。しかし、元々の親族間の信頼があるためか、「手続きを進めるために必要な書類」などと説明され、それが遺産分割協議書と認識しないまま署名、押印してしまうことは実際に多く見られるケースです。いったん作成された遺産分割協議書の効力を後から争うのは、とても困難な場合が多いため、遺産分割協議書の作成はもちろん、署名押印を求められた際にその内容が妥当かについても弁護士などの専門家に相談してみるのがよいでしょう。
遺産分割協議書を作成すべき理由
口頭での約束は、後々のトラブルに発展する原因になりやすいため、重要な事柄については書面にして確認します。
契約書が好例ですが、同様に、遺産をどう相続するかについての相続人間の話し合いの結果についても、書面化することが重要です。
トラブル防止や対外的な証明として利用できます。
遺産分割協議書の作成手順
書式は、特に指定されたものがありません。
手書きでも良いのですが、パソコンで作成するのが一般的です。
ただし、被相続人の氏名と死亡年月日、最後の住所地、相続人全員の住所と氏名、遺産の分け方についての内容を記載する必要があります。
氏名の後ろには、必ず届けてある実印を押し、実印であることを証明するために市区町村が発行する印鑑登録証明書を添付します。
住所と氏名は、この印鑑登録証明書と一致している必要があります。
まれにですが、住所の表記などが住民票と一致しないことがありますので、注意が必要です。
財産の分け方に関する内容については、具体的に記載します。
財産の種類が多い場合は、別の用紙に整理してもかまいませんが、その場合はホッチキス止めして、全員が契印を押します。
財産リストだけを自由に付け替えられる場合は、問題があります。
遺産分割協議書を作成するメリットと注意点
口約束で終わった場合を考えてみましょう。
財産の分け方についての思い違いや誤解、不満などが、あとになってからトラブルの原因として残ってしまいます。
財産をもらう人や内容について明確にして、全員で確認しておけば、紛争になることが避けられます。
このため、財産の分け方が、第三者から見ても明確に分かるように記載しておくことが、とても重要です。
また、戸籍調査を的確に行って相続人を特定しておくことが、財産をどう分けるかを明確化にすることとともに、非常に重要です。
あとから新たな相続人が出現した場合は、話し合いをやり直さなければなりません。
このように、有効な書類とするためには、明確な財産の分け方に関する内容の記述と相続人全員による署名押印が、最も注意したいポイントです。
正式に作成した協議書なら、たとえ不満などが残る場合でも、全員が同意したことが明確になり、対外的にも効力を発揮することになります。
なお、法定相続分で相続する場合は、対外的に証明する必要がない場合は、不要なケースもあります。
たとえば、遺産が現金だけで、法定相続分によって相続することに相続人全員が一致している場合など、相続登記や名義変更が伴わない場合は、必ずしも作成する必要はないと言えます。
なお、相続人が一人しかいない場合なら、分け方の話し合いもあり得ないため、協議書も作成しません。
公正証書遺言があれば、遺産分割協議書が不要なケースも多い
有効な遺言書があれば、基本的には不要です。
亡くなった方の財産は、法定相続人に与えられる遺留分の侵害がない限り、遺言に沿って財産を分けます。
主に利用される遺言書には、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
公正証書遺言は、証人二人の立会いの下で公証人が確認して作成されるため、有効性についての問題はありません。
また、遺言は公証役場で保管されるため、偽造などの心配もありません。
一方、自筆証書遺言の場合、有効性について家庭裁判所の検認手続きを受ける必要があります。
この際、日付が漏れていたり、押印がなかったりなど、法律の要件を満たしていない場合は、遺言として無効になってしまいます。
この場合は、遺言がないことと同じになるため、話し合いの上で協議書を作成します。
自筆証書遺言を作成する場合は、専門家にアドバイスをもらうことなどの考慮が必要です。
また、遺言書が有効な場合でも、相続割合が指定されているものの財産についての記述がない場合や、特定の財産の分け方だけが指定されている場合など、話し合いが必要なケースもあります。
相続割合に従う財産の特定や、分割が指定されていない財産の分割方法を決める必要があります。
法定相続分で不動産を分割する場合、相続登記に遺産分割協議書は不要
不動産を相続登記する申請手続きでは、通常、遺産分割協議書も提出します。
しかしながら、法定相続分で不動産の相続をする場合には、基本的に不要です。
なお、法定相続人が複数の場合、持ち分の差はあるものの、不動産の名義が相続人全員となります。
このため、のちに売却や賃貸など権利を移動する場合は、全員の承認や実印が必要になるなど、手続きが複雑になることに注意が必要です。
相続税の申告やトラブル回避のため、遺産分割協議書は速やかに作成
相続税の軽減のために、基礎控除以外の控除を利用する場合は、相続税の申告が必要です。
この申告の際には、遺産分割協議書が作成されていないと、控除を受けることができません。
相続税の申告は、相続が発生した時から10カ月です。
亡くなった方の財産調査や、戸籍謄本などを集めて法定相続人を確認する相続人調査に、かなりの時間がかかるケースも珍しくありません。
このため、協議書の作成に手を付けないでいると、相続税の申告に間に合わず、無申告加算税や追徴税などを課される恐れもあります。
また、作成時期があとになるほど、相続人のうちでだれかが財産を売却したり、故人の預金口座から現金を引き出したりなどのトラブルが発生しやすくなります。
葬儀や四十九日の法要など、故人を偲ぶ心の痛みの中で、慌ただしい期間が続きます。
期限が定められた申告などの手続きや後のトラブル防止のためにも、速やかに作成することをお勧めします。
遺産分割協議書でできる相続手続き
では、遺産分割協議書をつける相続手続きとはどのようなものでしょうか。
代表的なものでは銀行預金の解約、不動産の名義変更、株式の名義変更などがあります(ただし銀行などは相続人代表1名を決めさせ、その人の口座にまとめて入金するという扱いが実務的には主流です)。
銀行は被相続人(亡くなった人)の死亡を知るとただちにその人の名義の口座を凍結させて預金をおろせないようにする仕組みになっています(銀行が死亡を知らなければ相続人がカードなどで出金できてしまうことがありますが、後で他の相続人とのトラブルになることがあります)。
そこで、口座からお金をおろすためには所定の相続手続を踏まなければならないのです。
気をつけなければならないのは、不動産の名義変更なら全国の法務局でほぼやり方に違いはないため、自分たちで作った遺産分割協議書に法的不備などがなければ大体どこでも通用します。
しかし銀行や証券会社などはその会社ごとに決まったフォーマットがありますので一般の人は戸惑うことも多いようです。
そこで、これらの手続きの前には一度電話などで必要書類を確認してから窓口に出向いた方がよいでしょう。
もし手続の案内やフォーマットを郵送してくれる金融機関であれば先にそれらを送ってもらうようにしましょう。
遺産分割協議書の本文の記載方法
遺産分割協議書に必ず書いておきたいのは、「被相続人の氏名、死亡日、最後の本籍」、「被相続人が死亡したので相続が発生し、法定相続人全員で話し合った旨」、「財産の内容と相続する人の氏名、続柄」、「協議の成立した日付」です。
そして最後に各相続人が署名と実印での押印を行います。
財産の特定方法ですが、なるべく疑義が生じないように明確に記載しなければなりません。
不動産であれば登記簿を見ながら書く方がよいでしょう。
土地の場合は「所在」「地番」「地目」「地積」を、建物の場合は「所在」「家屋番号」「種類」「構造」「床面積」を記載します。
預貯金の場合は「銀行名」「支店名」「口座の種類(普通、当座など)」「口座番号」を記載します。残高は記載しなくてもかまいません。
他の財産も同様に証券などに書いてある情報をなるべくしっかり記載して特定できるようにしましょう。
どの財産かはっきりわからないような書き方をしてしまうと、相続手続の関係先から作り直しを要求されるおそれもありますので、いったん作成したものをしっかりチェックしてから署名と押印に移りたいものです。
全員の署名押印が必要!
上記のように、遺産分割協議書には法定相続人全員の実印押印が必要となります。
たとえば兄弟の中で亡くなっている人がいればそのまた相続人が参加するということになりますし、行方不明の人がいる場合もその人を外してよいのではなく「不在者の財産管理人」という代理人を立てる手続きが用意されています。
遺産分割協議自体は全員が揃って話さなくてもよく、合意さえ取れていれば問題ないですし、書類自体が1枚である必要もありません。
要するに、別々の用紙であっても同じことを書いてある内容に各人が署名押印しており、それが全員分揃っていれば「遺産分割証明書」といって、遺産分割協議書と同じ効果を持つことになります。
再発行は不可能?大切に保管しよう!
遺産分割協議書は、相続人全員が実印を押し直してくれるのであれば何度でも作り直すことができます。
ただし「法的には作り直してかまわない」というだけであり、当事者が再度の押印を拒否したらもう作成はできないことになりますので、相続人同士の感情がこじれているようなケースでは特に最初に作成した原本を大切にしておかなければなりません。
ほとんどの手続先では「原本還付」といって、手続の際に使用した原本を手続先でコピーし、終了後に返却してもらうことができます。
原本還付を希望する場合、最初に手続先にその旨のお願いをしておくことが枚数を少なく抑えられるコツです。
遺産分割協議書は相続手続きにおいて非常に大切なもので、万一作成ミスがあるともう他の相続人に頼んで作り直すことができない場合もあります。
そこで、最初から相続の専門家に依頼して不備のないものを作り、確実に手続きが進むようにしておくことをおすすめします。
遺産分割協議書を公正証書にしてトラブル回避
相続人間で作成する遺産分割協議書は私文書です。
公的な証明力を持つ公正証書化することによって、より将来的なトラブルを避けることが可能になります。
公正証書は、公証人が作成する公文書のことを指します。
この公文書は、通常の私文書にはない公的な証明力があり、裁判によらずに強制執行が可能なケースもあるなど、特別な効力を持ちます。
文書を作成する公証人は、法律に基づいて法務大臣が任命します。
公証人になるのは法律の専門家で、元裁判官や検察官、法務省の幹部などが任命されることが多くなっています。
個人や会社などの法人から依頼を受けた場合、公証人は、与えられた権限に基づいて文書を作成します。
依頼の内容にかかわらず、法律や公序良俗に違反していなければ、有料で作成してもらうことができます。
ただし、認知症など判断能力に問題がある場合は依頼できません。
不動産の売買や賃貸借契約、お金の貸し借りを証明する金銭消費貸借契約などにおいて一般的に利用されていますが、公正証書として作成する遺言も増加しています。
公正証書は証明力が高いことから、将来の紛争を防止するための非常に有効な手段となります。
遺産分割協議書を公正証書にするメリット
公正証書にするメリットとしては、遺産の分け方に関する私文書に、公的な証明力を持たせることや、公文書として保管されることが挙げられます。
14-1. 公的な証明力
専門家に依頼せずに作成した遺産分割協議書は、必ずしも正確とは言い切れず、対外的に十分な証明力を備えていない場合も考えられます。
たとえば、財産調査が不十分であとから遺産が発見されるケースや、あとになって新たに相続人が名乗り出るケースもあります。
これに対して、公正証書として作成する遺産分割協議であれば、内容の正確性が証明されます。
このため、相続登記や口座の名義変更など、対外的にスムーズな手続きを行うことができます。
14-2. 紛争の回避
正確な協議書を作成することができれば、対外的な面だけでなく、相続人同士の紛争を回避することができます。
というのも、協議書を作成する場合は、公証人は法律の専門的立場で、まず相続人全員の意思を確認します。
その上で作成するため、同意した内容について公的に証明され、将来的な紛争を避けることができます。
14-3. 安心できる保管方法
公証人が作成した遺産分割協議書は、原本が公証役場で20年間保管されます。
しまい忘れや紛失の心配もなく、将来に備え安心して保管できます。
遺産分割協議書を公正証書にするデメリット
良いこと尽くめと思われるかもしれませんが、公正証書にもデメリットがあります。
公正証書の作成には費用がかかるため、費用対効果を考えて利用することが大切です。
法務大臣に任命されるといっても、公証人は公務員ではありません。
弁護士や司法書士などと同じ、個人営業です。
作成する公文書の目的や内容に応じ、費用がかかります。
また、公証人は多忙であることに加え、相続人に介在して確認を行うことなど、作成に時間がかかります。
費用は、贈与など目的とする金額によって、公証人への手数料が計算されます。
公正証書に定める財産の総額が大きくなれば、費用が高くなる仕組みです。
書類上の合計額が100万円以下の場合は5,000円、100万円超~200万円以下なら7,000円、200万円超~500万円以下なら11,000円、500万円超~1,000万円以下なら17,000円、1,000万円超~ 3,000万円以下なら23,000円などとなっています。
ちなみに高額な財産がある場合の手数料を見ると、合計額が1億円で43,000円、3億円で95,000円、10億円で249,000円です。
あとは、5,000万円ごとに8,000円が加算されます。
なお、書類が5枚以上の場合は、1枚について250円が加算されます。
公正証書化の必要書類
公正証書化を依頼する際は、次のような書類を用意する必要があります。
まず、被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本を入手します。
ほとんどの場合、戸籍の改製が伴うため、転居していない場合でも改正原戸籍や除籍謄本などが必要になります。
相続人であることを証明するために、全員の印鑑証明書と戸籍謄本を用意します。
財産の状況に応じて、金融機関の預金通帳や残高証明書、証券会社の有価証券残高証明書、生命保険会社の生命保険解約返戻金証明書、借入先金融機関の借入残高証明書などを準備します。
不動産が対象になる場合は、法務局から不動産の登記簿謄本を、市町村役場から固定資産税評価証明書を入手します。
公正証書化が良いケース
必ずしも、遺産分割協議書を公文書化する必要はありませんが、次のようなケースでは、公正証書化の検討も必要と言えます。
法律に詳しくない相続人たちで作成したため有効性に自信がないケース、対外的な相続手続きや相続税の申告で手間取ることを避けたいケース、財産が高額で多種類あるなど遺産分割協議後にトラブルがないようにしたいケースなど、公的な効力を持たせたい場合に有益です。
また、遺産分割協議書を将来の証拠として残すために紛失を避けたいケース、費用よりも安心感を得たいケースなども、検討が望ましいと言えます。
(提供:相続サポートセンター)