新型コロナウイルスの影響で法的整理・事業停止に追い込まれる企業が後を絶たない。東京商工リサーチの調べによれば、旅館・ホテルなどの宿泊業や、飲食店経営や食品製造業などの飲食関連事業のほか、アパレル販売、インバウンド需要事業など、B2C事業を中心とする企業が主に打撃を受けている。
また、帝国データバンクの調べによると業績の下方修正を発表した上場企業は3月25日までに111件もあり、その川下である全国の中小・零細企業では、今後さらに影響が波及していくと予想される。この未曾有の事態を乗り越えるために中小企業や個人事業主ができる対応策や、知っておきたい支援について紹介したい。
新型コロナで倒産に追い込まれた企業に共通する点
新型コロナウイルスの影響で、旅館や飲食店、アパレルなど感染拡大からまもなくして倒産してしまった企業も多々ある。これらの企業には、ウイルスの発生前から売上げ減少や債務超過といった経営難の状態に置かれていたという共通点がある。
つまり、もともと経営が厳しかったところに、今回予約キャンセルや外出自粛が相次いだことによりトドメを刺されてしまったというわけだ。すでに限界を超えていたという見方もできるため、「ウイルスが主因ではなく、一因にすぎない」ともいえるだろう。
しかし、今後の倒産についてはそうとも言い切れないのである。特に中小企業においては、もともと好調だった会社が倒産したり、それに連鎖して関連企業が悪影響を受けたりすることが、いつ発生してもおかしくない。
今後、連鎖的な倒産を避けるためには、取引先の3月の単月売上げが前年比でどれほど減少しているかを早急にチェックし、対応を検討しておく必要があるだろう。
国や金融機関が緊急支援融資を次々に開始
未曾有の景況悪化を受け、国や金融機関では、中小企業向けや小規模事業者、個人事業主向けの相談窓口を設けている。
日本政策公庫で緊急窓口を設置
日本政策金融公庫では、新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業や小規模事業者を対象に、融資や返済に関する相談を受け付けている。同様に、商工組合中央金庫や信用保証協会、全国商店街振興組合連合会などでも相談窓口を設置しているので、利用してみるとよい。
しかし、窓口が混雑していてなかなかつながらないこともあるようだ。経済産業省からは、国の支援策などをまとめたパンフレットが出ており、ネット上でも確認できるので、相談前に知識を深めておくのもよいかもしれない。
会計基準の弾力的な運用策の検討を開始
この時期、2020年3月期決算の作業が本格化している企業も多い。新型コロナウイルスの影響を受け、すでに経団連からは「会計監査をスケジュール通り進めるのが難しい」といった声も出ている。金融庁では、会計処理においても柔軟な対応を促しており、会計ルールの弾力的な運用策について検討している。
各都道府県・市町村でも独自融資を開始
国や金融機関の支援に加えて、都道府県や自治体においても、独自支援の動きを見せている。地方の中小企業や小規模事業者の経営破綻をなんとか避けるべく、融資などの資金繰り支援に乗り出しているのだ。日本経済新聞の3月24日時点調査では、全体のおよそ9割にあたる44都道府県が、「独自の制度融資を実施している、または実施する予定がある」と回答しているという。
東京都は中小企業の支援を強化
東京都では、休業要請の公表とあわせて、中小企業向けの支援策を強化することを発表した。すでに、新型コロナウイルスの影響で、売上が5%以上減少した中小企業に信用保証料を補助する融資制度を設けているが、事業者からの問い合わせが殺到しているため、さらなる拡充を検討中だ。
さらに都では、上下水道料金の支払い猶予期間も最長4ヵ月までに延長するなど、具体的な支援策が徐々に見えてきている。
融資を受けるときに必要な保証料を県が全額負担
愛知県では「新型コロナウイルス感染症対策緊急つなぎ資金」を実施し、融資実行に必要な信用保証料を県が全額補助することで中小企業の負担を軽減している。また、貸し倒れ損失が生じた後の保証協会の最終的な負担も県が全額保証する。
同様に福岡県でも「緊急経済対策資金」として、融資の際に必要な信用保証料を県が全額負担するとのことだ。事業者の経費負担を抑えることで、財政基盤が不安定な中小企業でも融資を検討しやすいよう、ハードルを下げている。
キャンセル費用を補填する都道府県も
新型コロナウイルスの影響でイベントなどが中止となり、施設利用料のキャンセル費用に苦しむ事業者も多い。そこで熊本県や愛媛県、長野県などでは、県有施設の使用キャンセル料を免除する措置を行っている。
既存の融資制度を拡充して支援
宮城県では、既存の災害復旧向けの融資制度「災害復旧対策資金」などを拡充することで、中小企業や個人事業主の資金繰りを支援する。このほか、制度融資の適用要件を短縮した香川県の例や売上高の減少率に応じた支援策を用意する神奈川県の例など、それぞれの都道府県で中小企業の資金繰り支援の体制が早急に整えられている。
人材共有や融資を活用して破綻回避を
無情にも、新型コロナの感染拡大は一層勢いを増している。日本経済の土台でありながらも、経営基盤が脆弱な中小企業にとっては、その判断力と体力を試されることとなった。
しかし実情は、「お金を借りれば大丈夫」といったシンプルなものではないだろう。終息が見えず不確定な要素が多いなかで受ける融資は、その場しのぎの対策であり、先々、自分を苦しめる借金であることに変わりない。未来への投資といえば聞こえはよいが、不安を拭いきれない事業者も少なくないはずだ。
そのような状況下でも、事業継続が困難になるまでには追い込まれてはいない余力のある企業が、業績悪化企業の社員を受け入れる事例なども出始めている。融資以外の手段で、手を取り合って倒産を抑制しようとする動きは、今後さらに活発化する可能性もあるだろう。
実際に身を寄せ合うことはできなくても、事業者同士や消費者、自治体などが協力しあって、これ以上の倒産急増はなんとしてでも阻止していきたい。
文・木村茉衣(ビジネスライター)