データドリブンという言葉が近年注目されており、気になっている人も多いのではないだろうか。外資系やIT企業でよく使われるが、一般企業ではあまり馴染みがないかもしれない。
データドリブン経営とは、データを収集・分析して経営戦略などの意思決定を行い、業績の向上を図る経営手法のことである。データドリブンについて理解を深め、自社でもデータに基づいた経営手法の導入を検討してみよう。
目次
データドリブンとは
データドリブン(Data Driven)とは、業務上で取得できる各種データを使用し、経営やマーケティング、人員配置などに必要な意思決定を行うことをいう。もともと計算機で使われる用語であり、1つの計算から次々と別の計算を起動させるプロセスという意味だ。
データドリブンという手法が生まれる前から、多くの企業は業務で得られるデータをもとに経営戦略を策定したり、売上を予測したりして意思決定を行ってきた。しかし、ITの普及やデジタル化が急速に進む昨今では、扱うデータの種類や量が急増しており、より精度の高い情報収集が求められるようになった。
また、顧客の消費行動も複雑化しているため、顧客のニーズに的確に応えるための企画立案や意思決定の難易度も高まっている。多様化する情報の中から適切にデータを選択し、さらにそれらを正しく分析するための手法として、データドリブンが誕生したのである。
データドリブン経営とは
データドリブンの手法を用いてデータを収集・分析した結果をもとに企業経営を行うことを、データドリブン経営という。ビジネスプランに合ったデータの収集・分析・蓄積を意識し、かつ継続的に行うことで、データドリブンを経営に活用することができる。
データドリブン経営は、大きく分けて2種類ある。1つはデータ分析で得られた結果から企画を立案し、事業において成果を出す方法である。もう1つは、データの分析に加え蓄積も重視し、データベースが完成した段階で企画を立案する方法である。
蓄積を重視する後者は十分なデータ量があるため、問題に直面しても対応しやすいというメリットがある。ただし、プロジェクトの最終的なビジョンが明確でなければ、蓄積したデータの多くが無駄になってしまう。
データドリブン経営の3要素
データドリブン経営には「プラットフォーム」「分析ツール」「社内での推進」といった3つの要素がある。
プラットフォーム
データドリブンのためには、データを蓄積するプラットフォームが必要だ。プラットフォームは膨大なデータを蓄積したり分析したりするための基盤ともいえる。
分析ツール
後述するがデータ分析ツールには用途に応じたさまざまなツールがある。用途もデータ収集、データ加工、データ分析など多岐にわたる。
社内での推進
社員それぞれがデータを活用していくという意識を持つことも必要だ。社内でデータ活用の推進を行い、データ活用を進めていく組織文化の醸成が必須となる。
データドリブンの流れ
データドリブンは、データに基づいて判断し、アクションを起こすというシンプルな手法だが、実際に現場で実行し、成功に導くことは容易ではない。企業にとって無駄な導入にならないようにするためにも、以下に挙げるデータドリブンの実行フローを理解し、それぞれのステップにおいて注意すべきポイントを押さえておこう。
1.データ収集
データドリブンを実行するためには、まずデータを収集することから始めなければならない。しかし、データをやみくもに集めると膨大な時間がかかるだけでなく、無駄なデータも増えてしまう。業界によって必要なデータは異なるため、収集前に集めるべきデータを見極めることが重要だ。
またデータ収集においては、効率良くデータを収集できる環境づくりも必要だ。社内のデジタル化が進んでおらず、そもそもデータ自体が存在しない場合は、POSシステムや顧客管理システムなどを導入し、データを作成するところから始めなければならない。
企業のIT化が進んだ現代では、社内に多くのデータ作成システムが備わっている会社もあるだろう。多くの場合、このような企業ではデータが各端末に散在している。データドリブンを実行するためには、企業内に散在しているデータを一元管理するシステムの導入も欠かせない。
2.データの可視化
データドリブンでは、データを収集した後すぐに分析するわけではない。収集したばかりのデータには、分析に必要ないものも含まれているため、データ分析をより容易にする「データの可視化(見える化)」という作業が行われる。
データの可視化は人の手でも行えないことはないが、膨大な時間がかかってしまうため、可視化するためのシステム導入が求められる。BI・DMP・WEB解析ツールといったシステムが、データの可視化に利用される代表的なものだ。
3.データ分析
データを可視化できたら、それらを分析するステップに進む。データ分析では、データを丁寧に読み込み、さらに細分化し、目的に合わせて分析していくことになる。たとえば、売上を伸ばしたいなら売上データを解析し、売上が落ちる時間帯やタイミングを抽出する。WEBサイトのコンバージョン率を高めたいなら、ユーザーが離脱する原因を抽出する。
前述のツールを用いれば、初心者でもある程度の分析を行うことができる。しかし、より精度の高い分析を行うなら、データサイエンティストやアナリストと呼ばれる、専門知識を持つ人材が不可欠だ。IT化が進んだ現代でも、企業の目的に合わせて正確にデータ分析を行うことはAIであっても難しい。
4.アクションプランの策定
データ分析が完了したら、経営効率を向上させるためのアクションプランを計画するステップに移る。分析から得られた情報を正確にとらえ、経営規模に合ったアクションプランを策定することが重要だ。
組織に適さないアクションプランを作成してしまうと、逆に経営を圧迫してしまったり、実行に適した人材がいなかったりといった事態に陥るおそれがある。データドリブンで得られた結果をうまく経営に活かすためには、企業に適したアクションプランを策定する必要があるのだ。
5.アクションプランの実行
アクションプランの策定が完了したら、できるだけ速やかに実行へ移し、結果が出ているかどうかを確認する。結果が出ていないなら、アクションプランの修正・実行を繰り返すことになる。
アクションプランの評価においては、データ収集や分析のステップまでさかのぼり、問題がなかったかどうかを確認する必要もあるだろう。なぜなら、市場の状況が変化したなどの理由でデータの有効性が失われ、アクションプランの効果がなくなっている可能性も考えられるからだ。
なおアクションプランをチームで実行する場合は、適切な人員配置を行うなどの人材マネジメントも求められる。
データドリブンの主な支援メソッド
データドリブンにおいては、さまざまな支援ツールが開発されている。よく使用されている主なツールを紹介する。
DMP
データの収集や分析を行い、マーケティング施策につなげるためのツールである。ウェブを活用した集客などの領域で主に用いられ、WEB広告ツールと連携しやすいというメリットがある。
MA
マーケティング作業などを合理化・自動化してくれるツールである。集客後の見込み客化や顧客化のために利用されることが多く、近年注目を浴びている。
SFA
営業支援システムとも呼ばれ、営業活動全般を効率化できるツールである。営業領域の分析を行う機能も備わっており、営業分析に必要なデータの可視化に活用できる。
CRM
顧客の基本情報や購買・クレーム履歴など、顧客に紐づくあらゆる情報を管理できるツールである。購入単価や、ポイント使用率などの分析機能も備わっている。
データドリブン経営のメリット
データドリブン経営のメリットを見ていこう。
人間では把握しきれないことも理解できる
顧客の行動はなかなか予測しにくいものだ。経験や勘などによる予測もある程度は可能だが、そううまくいくものではない。しかし、データに基づき現状把握を行うことで、勘や経験では分からなかった顧客ニーズの予測が可能になる。顧客のニーズが分かれば、ニーズに応じた商品開発やサービスの改善も可能となるだろう。
データにもとづいたスピーディな判断が可能
従来の日本企業ではKKDによる意思決定を尊重していた。KKDとは勘(K)と経験(K)、度胸(D)のこと。長年の経験は確かに有用でもある。しかし経験を積むには途方もない時間がかかる。
データドリブン経営では、収集されたデータから論理的な判断を下すことが可能だ。スピーディな意思決定は事業の躍進につながるだろう。
人件費の削減
データドリブンにより、効率的に作業が進められるだけではなく、人件費の節約も期待できる。これまでアナログ作業を担っていた人件費のコストカットも可能となるのだ。
売上や収益率の改善
デジタル技術の活用により、地理的制約や時間的制約が大幅に減少する。これは生産性のアップや収益率の改善につながるだろう。BIツールを活用すれば、リアルタイムで自社の売上や財務状況を可視化することも容易となる。ちなみにBIツールとは大量のデータから必要な情報を集約、分析するツールだ。 さまざまなデータを即時に確認することで、改善案の策定や新たな戦略の構築がスピーディに行える。
・顧客ニーズの理解につながる
製品やサービスをより良くするためには顧客ニーズの理解が不可欠だ。データ活用を進めることで、さまざまなフィードバックを有効に活用し、エビデンスに基づいた製品やサービスの開発が可能となるだろう。またこれにより継続的に改善し続ける体制を構築できるだろう。
・意思決定に説得力が加わる
勘や経験による経営判断も重要な材料にはなるが、他者に伝えるという視点においては説得力に乏しい。勘や経験による判断だったものを、データや数値として示すことで、説得力が増すのは間違いないだろう。データの力は強力なエビデンスとなる。
データドリブン経営の注意点
データドリブン経営を成功に導くためには、いくつかのポイントを押さえておきたい。以下に挙げる注意点をチェックし、より効率的なデータドリブン経営を進められるような環境を整えておこう。
1.専門スキルを有する人材の確保
データドリブン経営で最も重要なことは、アクションプランを適切に策定し実行することだ。データの収集・分析がうまくいったとしても、それをアクションプランに落とし込んで実行できなければ、データドリブンを導入する意味がない。
データの分析やアクションプランの策定・実行を適切に行い、プロジェクトを成功に導くためには、それぞれのステップに適した人材を確保する必要がある。求められる人材は、以下に挙げる専門的な知識やスキルを有していることが望ましい。
・ビジネス全般への深い理解
・データ分析やデータ処理に関する知識
・統計学の知識
・マーケティングの知識
・論理的思考力
論理的な思考や説明ができ、データの分析や処理に関する能力が高い人材がいると安心だ。
2.組織としての理解や実行力の向上
データドリブン経営を成功させるために不可欠な要素として、組織全体がデータドリブン経営を理解することや、アクションプランの実行力を高めることが挙げられる。
日本企業は、規模が大きくなるほど組織が縦割りとなり、アクションプランを実行するまでに時間を要する傾向がある。また、リスクを嫌うマネジメント層の理解が得られなければ、そもそも実行が許可されない可能性もある。
組織としての理解や実行力を向上するためには、データドリブン経営に効果があることについて科学的な根拠を説明でき、上層部の理解を得られるような人材を確保しなければならない。
3.支援ツールの有効利用
データドリブンへの取り組みにおいて、人材を確保できず初心者しか参加できない場合は、前述の支援ツールを積極的に活用しよう。優秀な人材を適切なポジションに配置するのが理想だが、支援ツールをうまく活用できれば、手間をかけずにそれなりの効果が期待できる。
データドリブンの支援ツールを選ぶ際は、自社の事業領域に適したものを選ぶことが重要だ。目的に合ったツールを選択できれば、初心者だけで運用する場合でもデータドリブン経営を進めることができる。
4.データにこだわりすぎない
データドリブン経営は、収集・分析したデータをもとに、経営判断をしていく。データの収集は一番のベースであり、要ともいえるが、こだわり過ぎには注意したい。データをもとに経営判断していくことが最も重要なことであり、データ整理に膨大な時間を割いているようでは、本来の目的はいつまでも達成できないだろう。
データ分析が苦手な企業は、本来の目的を見失わない程度にデータ収集を実行していきたい。
今、なぜデータドリブン経営なのか
データドリブン経営が強く叫ばれている理由は何なのだろうか。理由を見ていこう。
・顧客行動が複雑化している
ネット環境の普及により、さまざまな購買行動において、インターネット上でのリサーチをする人が増えてきた。製品やサービスの購入・利用を考えたときに、インターネット検索で得た情報を精査するという人も多いだろう。
単純に品質が良ければ売れる、逆に安ければ売れるという時代ではないのだ。実際に購買行動を起こすには顧客もさまざまな視点でリサーチを行う。もちろん、口コミや評判のチェックもその一つだ。あらゆる視点で多くのデータを分析・活用することでこうした顧客行動の複雑化にも対応できるだろう。
・業務が複雑化している
顧客行動の複雑化・多様化に合わせて企業のサービスも変わっていかなければならない。しかしサービスの複雑化は、従業員の負荷、コスト増大を招いてしまう。そのような問題を解決するため、効率の良い経営が求められる。
・課題の早期解決が求められている
変動の激しい産業界で生き残るためにも、競合他社や業界の動向をいち早くつかみ、対応していかなければならない。企業には、顧客が感じている自社の商品やサービスへの不満、業界が抱えている課題を早期に解決できる能力が求められている。
これらの課題に対しても、データドリブン経営は有用だろう。
データの分析結果を意思決定に活用しよう!
データの収集・分析から得られた結果をもとに意思決定を行うデータドリブンは、経営に取り入れることでさまざまな効果が期待できる。
導入する企業が増えているデータドリブンを理解し、自社の業績を向上させるマーケティング手法や企業経営の手法として、組織として導入を検討してみてはいかがだろうか。
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