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商業施設や病院、公共施設など多様なビルの電気設備工事が主業務の株式会社ワイ・エム・エーは設立30年を超えた今を「第2創世期」と位置づけ、多角的な事業展開への準備を進める。電気設備工事事業で基幹業務システムのクラウド化を進めるなどICT活用による業務効率化を推進する一方、エンジニアリングサービス事業に参入。培った技術を生かして建設業向けの業務一元管理システムを開発したほか、インドのIT企業とも協業し新たな事業の芽を着々と育てている。(TOP写真:自社製品「ONE Unit」拡販のため展示会にも出展した=2024年12月)
バブル崩壊後も誠実に事業展開し堅調だったが、酒井社長はリーマン・ショックによる需要低迷のなかで経営を担うことに
酒井康光代表取締役社長の父、明氏(現会長)が1991年3月に有限会社として設立したワイ・エム・エー。社名は、康光、美里(酒井社長の母)、明の頭文字から取った。ワイ・エム・エーはバブル経済崩壊後も底硬い建設需要に支えられて事業は堅調だった。とはいえ厳しい経済環境の中で「いたずらに利益のみを追わず、基本に忠実さと誠意をもって広く社会に貢献し積極的に創意と工夫と改善を積み重ねる」 という経営理念を形成した。
酒井社長は20歳で同社に入社したが、明氏からは特に「後を継いでほしい」と言われたことはなかったという。本人も「最初は会社を継ごうとは思っていなかった」。ゼネコンから設備関連工事を請け負うサブコン大手への出向など現場で技術を習得しながら、大企業のトップに接する機会もあり「学ぶことが多かった」と振り返る。
10年ほど経験を積んだ頃には「面白い仕事だと思うようになり、経営を意識するようになった」。株式会社化した2000年9月以降は、建築着工床面積の拡大とともに主力事業の電気設備工事は順調に伸びた。しかし、2008年のリーマン・ショック後の世界的不況や消費増税は建設業界を直撃。需要が低迷する中で経営を担うことになった。
経営を引き継ぎ事業の自由度の狭さに危機感 業界の弊害解消しようと新規事業を立ち上げ「make fulfilling」の気持ちで経営改革

酒井社長が明氏から経営を引き継いだのは建築需要が低空飛行を続ける2017年。中小規模の電気設備工事会社の経営は厳しく、淘汰が進んでいた。景気が悪くなると中小建設業は利益が薄い下請け仕事に忙殺されて残業が当たり前だった。経営者になってみると、昭和時代の景気の浮沈で翻弄された“下請け専業”からの脱却を最優先すべき経営課題と思えた。「昭和の時代を引っ張っているこの業界の弊害をなくしたい」と考え、事業の構造改革に着手したい」という強い意志を抱いて経営改革に着手した。
根底には、ゼネコンやサブコンから電気設備工事の仕事を受けているだけでは「元請けや顧客の意向もあるので自分でコントロールできる余地が少ない」という事業の自由度の狭さに危機感を募らせていたことがある。
電気設備工事事業は神奈川県内や東京都などを中心に展開。横浜営業所、東京営業所を相次ぎ開設した。設計施工や施工管理で幅広く実績を積む一方、電気設備工事にこだわらない「make fulfilling(事業領域をもっと充実させる)」気持ちで新規事業を立ち上げた。
2021年にエンジニアリングサービス事業を開始し製品開発や受託開発に参入 インド企業と協業して開発力強化 引き合いも次第に増加

2021年夏にはインドの大手IT企業テソルヴ(インドのシリコンバレーと呼ばれるバンガロールにある)と協業してエンジニアリングサービスの受託開発事業を立ち上げた。先端半導体チップ・プリント基板のハードウェア設計、機械設計、ソフトウェア開発およびターンキーサービスなど、あらゆる顧客のニーズに対応できるエンジニアリングサービス事業として育てていく方針で顧客の幅広い開発要求への対応力を強化している。工場のDX化や建機の機能強化などシステム開発の引き合いも増えてきた。
また、建設・電気設備工事で培った施工管理の経験を生かして建設関連業界向け業務一元管理システム「ONE Unit」を商品化し、自社や協力会社で活用している。現場から事務、協力会社の職員までカバーして業務・勤怠管理が可能で、原価の可視化機能も備えているのが特徴だ。
ホームページの制作・運用代行やDX化推進、国土交通省が推進するCCUS(建設キャリアアップシステム)の登録申請代行サービスなど、建設業への貢献を軸に新規事業の幅を広げている。
ワイ・エム・エーの2024年12月期の売上高のうち、ほとんどが電気設備工事で占められており、エンジニアリングサービスはまだ1%に満たない状況だ。「伸ばしていかなければならないが、目標を立てても人材が追いつかない」(同)のが悩みの種だ。
会計・給与システムをクラウド化 本社と横浜で分業が実現して残業時間は半減 年末調整の電子化も検討

「ONE Unit」は少ない従業員で効率的に業務をこなす必要から自社開発したシステムをベースに製品化したものだ。「ONE Unit」で作成した予算や原価計算のデータを既存の市販会計システムに移行して仕分け、支払伝票の発行業務につなげていたが、2022年にクラウド化して、給与システムも導入して本社と横浜営業所の間で分業を可能にした。
システム構築・運用を担当する総務部総務課の仁井田知哉部長は「2ヶ所で同じ作業が分担できるようになり、事務部門の業務効率は格段に向上した」と導入効果を実感している。本社だけで行っていた一連の業務管理、勤怠管理や給与計算の入力作業は、クラウド環境で横浜営業所が行い、並行して本社で確認作業を行う仕組みとしたことで、「1日3~4時間は当たり前だった残業時間が3年前の半分以下に減少した。午後7時まで残っている人はほとんどいなくなった」(酒井社長)という。
2024年には給与明細発行を電子化し、現在は年末調整の電子化も検討するなど建設事業のDX化を絶え間なく推進していく方針。その成果は同業者向け製品開発にも生かされることになりそうだ。
エンジニアリングサービス事業の収益増で複数の新規事業立ち上げ、中小建設業向けに『ONE Unit』導入推進しコングロマリット化

新規事業を統括するエンジニアリングサービス事業部は、酒井社長の長男でマネージャーの優輔氏が担当しており「収益増が第一目標だが、柱となる事業をいくつか立てていく」(優輔氏)計画だ。
主力商品の「ONE Unit」は「初期導入費用を無償にするなど、当社と同様の中小建設業向けに価格のハードルをできるだけ下げた。業界のDX化に役立てればいい」(同)という気概で営業している。引き合いも徐々に増えており、トライアル中の企業など間もなく成約できる見通しもあるという。
2025年12月期は売上高の大台も視野に入れており、2026年には設立35周年を迎える。酒井社長の経営ビジョンは、電気設備工事を柱にしつつも、異なる複数の事業を行う複合的企業への変革だ。「会社をコングロマリット化していきたい。私の世代では無理だが、次の世代の土台を作る」という考えで、事業承継を前提に新規事業の芽を育ててきた。
バトンを引き継ぐ優輔氏は「中小建設業のDX化を進めて底上げを図ることで建設業界を変えていきたい」と話し、「make fulfilling」の実践による業界、社会への貢献を見据えている。
企業概要
会社名 | 株式会社ワイ・エム・エー |
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住所 | 本社:神奈川県藤沢市鵠沼海岸2-14-11 横浜営業所:神奈川県横浜市神奈川区台町13-20 カーサブランカビル801 東京営業所:東京都港区新橋5-15-2 ル・グラシエルBLDG.56 2階 |
HP | https://yma.jp/ |
電話 | 0466-37-0246 |
設立 | 1991年3月 |
従業員数 | 23人 |
事業内容 | 電気設備工事、設計、施工、派遣事業、エンジニアリングサービスほか |